【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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Epilogue 日常

歌姫の騎士団との決戦から1週間後――

 

 

歌姫の騎士団襲撃により、倒壊した設備等は依然として修復中ではあるが、休校となっていたIS学園は授業を再開していた。

それに伴い帰国していた生徒達も学園に戻ってきており、真達は平穏な生活を続けている。

生徒の中には、迫る期末テスト対策に終始している者もいるがそれは一部分のみである。

 

 

そんな中、1年1組では新たに転校生が紹介されていた。

その転校生は真達が非常によく知った【女の子】

一部ではフランスからの貴公子などと呼ばれ、3人目の男性搭乗者として真や一夏とも親しい存在であった【彼女】は、女子用制服を身に纏っている。

 

 

「改めまして……【シャルロット・デュノア】です、皆、よろしくお願いします」

 

 

シャルロットが笑顔で頭を下げ、皆に告げる。

 

 

「シャルロットさんはとある事情により男性として入学していましたが、本日からようやく女性として入学が許可されました、皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 

副担任の真耶が真達に告げる。

真や一夏は真相を楯無とカナードより聞かされているため驚きはしなかったが、教室は一瞬で驚愕の声に包まれてしまった。

 

シャルルがシャルロットとして振る舞えるようになったのは、デュノア社のIS部門からの撤退と更識家からのフランス政府への圧力である。

 

デュノア社は歌姫の騎士団とつながりを持っていたのだ。

正確には現社長、ジョルジュ・デュノアの妻、アタリーがラクスと繋がっており、無人機GATシリーズの生産を承っていたのだ。

カナードによると隕石に偽装させて地上に送っていたPS装甲材の大部分はデュノア社に流れており、後々GATシリーズの技術を得てデュノア社を建て直す算段であったとの事だ。

またシャルロットが以前真と一夏に話したモルモットの件は全てアタリーの指示によるものであったとの事である。

 

女尊男卑の風潮と歌姫の騎士団と言う後援組織により、ジョルジュの社内での立場は傀儡そのものであった。

だがジョルジュは、愛人との子ではあるが大切な娘のシャルロットにこれ以上アタリーの手が伸びる事を嫌い、そして歌姫の騎士団から保護するためシャルルとしてIS学園へ送った、と言うのが真相だ。

 

ラクスが倒れたことで歌姫の騎士団は瓦解、それに伴いアタリーは精神を病んでしまった。

同時にデュノア社はIS部門からの撤退を表明している。

 

加えてデュノア社と共謀していたフランス政府も歌姫の騎士団からの接触を受けていたらしく、シャルロットの二重スパイ行為から得られた情報と合わせて証拠として更識家が秘密裏に突きつけたことにより、シャルロットは解放されたのだ。

またジョルジュは数日前にシャルロットと和解しているとの事である。

 

余談であるが、投降したアスランとスコール、捕虜になったオータムとマドカは束とカナードがその身柄を拘束している。

情報を引き出して何をするかは彼等しか知らないが、しばらくは彼等に安息はないだろう。

 

教室内では箒に一夏が女子と知っていたのかなどと詰め寄られている。

それを見てシャルロットが微笑んでいる。

 

 

「……よかったな、シャルロット」

 

 

大切な友人が心からの笑みを浮かべることができている事に、真も笑顔を浮かべていた。

 

――――――――――――――――――――

数日後

喫茶 竜宮

 

 

「飛鳥先輩、この雑誌見ました?」

 

 

短髪の少年がテーブル席で向かい側に座っている真に問いかける。

彼が手に持っている雑誌の表紙には自分がIS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】を展開した写真が使われている。

 

 

「やめろ、剣司、その雑誌は俺に効く」

 

「でもカッコいいじゃないですか、光の翼がバァーッとっ! いいなー、俺も乗れればなー」

 

 

剣司と呼ばれた少年が持つ雑誌はISの情報誌であり、第二形態移行した真のISについて特集が組まれているのだ。

その中にはいつ取ったのか、模擬戦中の写真もあり剣司はそれを指さしつつ真に見せている。

 

当の真は恥ずかしそうに雑誌を手で払いつつ、テーブル席に広げられている問題集に視線を移す。

 

 

「……剣司、3問目の公式間違ってる」

 

「えっ、マジですかっ!?」

 

 

雑誌を隣の席に放り投げるように置いて、剣司は自身の問題集に視線を移す。

そしてゲッと言う声をあげて剣司は肩を落とす。

 

真が何故この喫茶 竜宮にいるかと言うと、簪を待っているのだ。

正確には日出支社から呼び出され、要件を済ませて帰ろうとした際に、簪が別件で呼ばれてしまったため手持無沙汰になってしまったのだ。

 

ちょうど後輩達がバイトをしている喫茶店が近くにあったため、簪が来るまではここで時間をつぶそうとしているのだ。

簪に場所を伝えた後は適当にコーヒーを飲んで時間をつぶしていたところ、後輩の1人である剣司に勉強を見てくれと言われたのは予定外であったが。

 

 

「剣司、あまり飛鳥さんに迷惑をかけるなよ」

 

 

左目に傷がある少年がウェイター姿で現れ、突っ伏している剣司に言葉を投げる

 

 

「総士、久しぶり……あ、【皆城コーヒー】おかわり」

 

「お久しぶりです、飛鳥さん……それと【普通】のコーヒーですね」

 

 

少々語気を荒くしつつ、総士は真に確認する。

この喫茶店では調理した人間の名前を品につける習慣の様なものがある。

総士としてはこの習慣は恥ずかしいものであるため、中々つけようとはしないが。

 

 

「ならそれでいいよ」

 

「分かりました……しかし飛鳥さんも大変ですね、日出工業のテストパイロット……高校生が二足の草鞋とは」

 

「もう馴れてるからそこまで大変じゃないさ、それにお前等にも顔見せようかなって思ってたんだ」

 

「成程……僕としても男性搭乗者の飛鳥さんの話には興味があります」

 

「お、意外、総士がメカに興味持つなんて」

 

「別にいいじゃないか……ISは現代では最先端の科学技術の結晶……実にテクニカルだ」

 

 

剣司の言葉に少々拗ねたように総士が返す。

それに真と剣司が苦笑していると、総士の背後から黒髪の少年が手にコーヒーを持って現れた。

紺のエプロンが異様に様になっている、優しい雰囲気を持つ少年だ。

 

 

「総士、注文」

 

「っ、すまん、一騎……飛鳥さん、注文は……?」

 

 

話に夢中で仕事の途中であったことを忘れていた総士は慌てて注文票を取り出す。

しかし簡単な注文であったため、注文票に記載していないのがまずかった。

その様子に一騎と呼ばれた少年がため息を出しつつ、苦笑して真にコーヒーを渡す。

 

 

「……ほんと不器用だな、総士……はい、コーヒーです、飛鳥さん」

 

「ありがとう、まあ引き留めてた俺も悪いさ、一騎」

 

 

一見兄弟ではないかと言うくらい、真と一騎は外見が似ている。

真の方がより髪の毛の色が濃いのと、目の色が異なっているので判別は可能であるが。

一騎が総士の手に持っていた注文票を見て何かに気づいたように告げる。

 

 

「あれ、今日はカレーとか食べないんですか?」

 

「俺も食べたいんだけど、この後約束してるんだ……一騎カレー、また今度にするよ」

 

「おっ、そういえば飛鳥さん、彼女できたんですよねっ!? その人と食べに行くってことですかっ!?」

 

 

一騎にそう返した真に剣司が食いつく。

 

 

「以前相談してもらいましたね、どうなんですか? どんな女性なんですか?」

 

 

総士も剣司の言葉に便乗して真に食いついてくる。

真の記憶では、総士は男女関係についてここまで積極的になる男ではなかった気がするが年頃なら仕方ないだろうと納得する。

 

 

「まあ、簪は……大切な人だよ」

 

「おお……それにしても簪って名前凄いですね、珍しいというか」

 

「確かに、女性の名前としてはあまり聞かないが……」

 

 

剣司と総士の言葉にまあ、確かにと相槌を打ってコーヒーを一口飲んで一息つける。

 

 

「じゃあ、どこまでいったんですか? デートしたんですよね?」

 

 

剣司の言葉に危うく口に含んでいたコーヒーを噴き出しそうになったが、何とか飲み込む。

一瞬脳裏に【真しか知らない彼女の顔】が浮かんでしまった為に軽く頭を振った後、

ジト目で剣司に視線を送る。

 

 

「……ノーコメントで」

 

「流石に根掘り葉掘り聞きすぎだ、剣司」

 

「あはは……すいませんでした」

 

 

剣司が頭を軽く下げて謝罪する。

同時に喫茶店の扉が開いて件の少女、簪が店内に入ってきた。

 

そして真と目があう。

簪が真のいる席に向かう。

 

 

「お疲れ」

 

「うん、ごめんね、待たせた?」

 

「いや、こいつらと話してたから」

 

 

真が視線で一騎、総士、剣司を紹介する。

3人は軽く会釈を簪に送る。

 

 

「初めまして、皆城総士です」

 

「近藤剣司です」

 

「真壁一騎です」

 

 

俺の後輩達、1つ下だよと真が補足する。

 

 

「初めまして……更識簪……です」

 

 

少々恥ずかしそうに簪も自己紹介を行う。

それを確認して真が切り出す。

 

 

「んで、要件は何だったんだ?」

 

「実はね……【飛燕】もあのゲームに追加したいからその確認だって……今度ボイス取るからとか」

 

「……あれか」

 

 

苦笑して真が返す。

真のデスティニーもまた、同じように【IS EXVSFB】に追加されているのだ。

しかもボイスは優奈が真に強制的にアフレコをさせたものが使用されているというおまけつきだ。

 

 

「……さて、そろそろ出るか、どこで飯食べる?」

 

「……なら、此処じゃダメかな? ほら、カレーとかもあるみたいだから」

 

 

店の壁にはメニュー表が張られており、確かにちゃんとした料理もここで食べられる。

その提案に真は軽く驚く。

 

 

「別にいいけど……」

 

「それに真の昔の話とか聞いてみたい……ダメかな?」

 

「……よし、一騎、カレー2つ頼む」

 

 

簪のお願いを断る理由は真にはない。

そういって一騎にカレーの注文を行う。

 

 

「分かりました、カレー2つですね」

 

「なら俺も、カレー頼む」

 

「俺もだ、それに一騎、俺達はそろそろ休憩時間だ」

 

「……はあ、分かったよ、俺も食べるかな、溝口さんに聞いてみる」

 

 

苦笑しつつ一騎が厨房に戻る。

その後真の中学時代や思い出などを話しながら5人は食事を進めたのであった。

 

 

――――――――――――――――――――

数日後の放課後

自室

 

 

「部屋替え……?」

 

 

ゲームを途中で停止させた簪の言葉に真が頷く。

 

シャルルがシャルロットになってから、彼女は一夏の部屋から別の部屋に移っていた。

そのため一夏は現在1人部屋、男女共有の部屋を使っているのは真だけと言う状況であった。

 

そしてようやく1人部屋を用意することができたため、真にも週末にかけて引っ越し準備を行ってほしいと真耶から連絡があったのだ。

 

 

「……そっか」

 

 

明らかに簪の表情が暗くなる。

その気持ちは真も同じであったからだ。

 

 

「……本当は男女同室なんておかしいのにね」

 

「ああ、いつの間にか……簪と一緒に生活するのが当たり前になってた」

 

「……うん、私も」

 

 

すぐ傍に想い人がいる、そして同じ部屋で過ごす。

学生では絶対にすることのない、いわゆる【同棲】の状態。

本来はそれがおかしいことのはずであった、だが2人の中ではすでにそれが自然となっていたのだ。

 

 

「……部屋は近い?」

 

「ああ、すぐそこだけど……今よりは不便になるかな、今度合鍵渡すよ」

 

「……うん」

 

「準備、するよ」

 

「……うん、手伝う」

 

 

真が自分の机の上にある荷物を片付け始める。

それに簪も手を貸す。

 

そのまま2人とも黙って5分ほど荷物を片付け、彼の机の上の荷物片付け終わった時であった。

簪が真の背中に抱き着いてきたのだ。

 

 

「……やっぱり嫌……」

 

「……そりゃ俺も嫌だけど、流石に指示に従わないのはまずいって」

 

「……」

 

 

分かってはいるのか、コクリと彼女が頷くのを感じる。

そして言葉を続ける。

 

 

「……真を感じたい」

 

「っ……簪」

 

 

簪の言葉――

 

 

「……離れたくない」

 

 

簪は真に依存していると言ってもいい。

だが真はそれを受け入れている、そこを含めて彼女を【自分だけの花】と感じているのだ。

少しだけ力を入れて彼女の抱擁を解き、逆に優しく抱きしめる。

 

 

「……ごめんね、私、めんどくさくて」

 

「いいさ、俺はそこ含めて簪が好きだから」

 

「……ありがとう、真」

 

 

微笑む彼女をひょいと抱え上げる。

向かう先は――

 

 

この日、2人は夕食を食べ損ね、本音にお菓子を恵んでもらったとか。

 

 




竜宮陣営は同姓同名な別人です。
決して存在や否定のパイロットじゃあないです……多分。


次回予告
「Epilogue 未来」

①挨拶
②進路

の2本です。

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