【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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Epilogue 未来

歌姫の騎士団との決戦から一ヵ月が経った。

IS学園の予定として行われる事となっていた外部研修――所謂臨海学校については、学園側の要請により中止される事となっている。

 

臨海学校を楽しみにしていた多くの生徒達からは落胆の声が上がった。

だがその原因は襲撃事件にあり、安全を期すためと言われてしまえば枕を濡らすしか選択肢はないのが現実であった。

 

せめてもの慰みは臨海学校が実施される予定であった数日間分の臨時休日が発生した点であろう。

もっとも間近に迫っていた期末試験への対策をほとんどの生徒は取っていた。

 

余談であるが、真達の中で赤点を取った者はいなかった。

一番危険であった一夏も皆に協力を求めたことで中々の結果を残せたと喜んでいた。

また、試験結果が配布された日の千冬は異様に上機嫌であったとか。

 

閑話休題。

 

 

某所 更識家前

 

季節は夏に移っており、日本は例年通り猛暑に包まれている。

IS学園はすでに夏季休暇――つまりは夏休みに入っており、多くの生徒達は帰省、帰国等を行っている。

 

真と簪はこの休暇期間を利用してある目的の為に、彼女の実家に訪問しているのだ。

 

【更識】と書かれた木製の表札に、SP付きの大きな門、数百mは続いている立派な塀、坪面積にすれば相当の数値をたたき出すであろう家の前に真と簪は私服姿で立っていた。

C.E.のプラントの中でもこれほどの豪邸は滅多に存在していないだろう。

もっともコロニーという限られた敷地の中でこれほどの豪邸を建てる意味は早々ないだろうが。

 

真は簪の実家のあまりの豪邸ぶりに目を見開いていた。

 

 

「……凄いんだな、簪の家って」

 

「たまに帰ってくると私もそう思う……こっちだよ、真」

 

 

苦笑する簪に手を取られつつ、門に向かう。

真が更識家に訪れた理由、それは簪の両親への【挨拶】である。

 

簪と恋仲になりしばらく経ち、真にはある目標ができていた。

それは彼女を【幸せ】にすること。

 

現在の真は高校生であるが将来について様々な事を考え始めていた。

戦うしかできなかった自分に簪を幸せにするために何ができるのか。何が必要なのか。

そのための第一段階として、簪の両親に報告することにしたのだ。

もちろん【正式な交際】についての許可をもらう為だ。

 

 

更識家 客間

 

簪の案内で客間に通された真は目の前に出されたお茶を飲みつつ、椅子に座りつつ待機していた。

客間には同じく隣で待機してくれている簪に加えて、虚と本音が後方の壁際で待機している。

 

 

「待たせてしまい申し訳ない」

 

 

男性の声――おそらくは簪の、楯無の父親で有ろう人物の【声】

だが真はその声に聞き覚えがあった、いや、聞き覚えどころではなく【よく知った人物】の声であった。

潔白とは言えないだろうが戦争が続くC.E.世界を何とか平定させようとナチュラル・コーディネーターの垣根を取り払おうとした人物、あと一歩まで迫り、歌姫の騎士団に討たれた最高評議会議長。

 

襖が開くと黒の長髪に和服姿の男性が客間に入ってくる。

ゆったりと和服を着ている為分かりにくいが長身細身の体つきだ。

しかし、歴戦の傭兵でもあった真から見れば限界まで鍛えられた体であるのがよく分かる。

その彼の後ろに続くのは楯無だ。

 

 

(デュッ、デュランダル議長っ!?)

 

 

真の目が驚きに見開く。

そう、簪と楯無の父親と思わしき人物はかつての恩師、【ギルバート・デュランダル】に瓜二つであったからだ。

 

その様子に彼が実に愉快そうに笑みを浮かべた。

まるでその展開を予想していたかのように。

 

 

「……初めまして、いや【久しぶり】が正しいかな、真?」

 

 

彼の表情と言葉に真は確信した、彼はデュランダルであると。

久しぶりと言うその言葉に隣の簪と楯無、彼女等を通して虚や本音が驚愕の表情を浮かべる。

布仏家にも【C.E.】の事については情報が渡っているのだ。

 

 

「お父様……!?」

 

「刀奈、あまりそう驚かないでくれ、私が君の父であることには変わりないよ」

 

 

さて、と彼が腰を下ろす。

 

 

「まずは自己紹介からさせて頂こう、先代 16代目更識楯無の【更識蔵人】だ」

 

 

口元に笑みを浮かべつつ蔵人が真に告げる。

 

 

「ちなみに刀奈と言うのは当代の楯無、彼女の本名さ」

 

 

楯無――いや、刀奈に向かって微笑みつつ告げる。

 

 

「……貴方はデュランダル議長なんですね」

 

 

蔵人が頷く。

 

 

「……さて、よければ教えてくれないかい? あの後C.E.がどうなったのか……そしてこの世界のラクス・クラインはどうなったのかを」

 

「……わかりました」

 

 

メサイア戦役後からネオ・ザフト戦役の集結までを、利香から聞いたC.E.が1つに纏まったことを、そして歌姫の騎士団との戦いについて、かいつまんで蔵人に説明する。

 

 

「……大変だったようだね、真」

 

 

自身が死亡した後にもやはり戦争が起こったかと少々疲れたような様子で蔵人は告げる。

 

 

「……まあ、色々と……」

 

「私が【ギルバート・デュランダル】の記憶を思い出したのはつい先日……故に君達を助けることができなかった……先に謝罪しておこう」

 

 

そういって蔵人は頭を軽く下げた。

 

 

「あ、いや、それについては仕方がないじゃないですか、そのお気持ちだけで充分ですよっ!」

 

 

まさかいきなり謝罪されるとは思ってもみなかった真が慌てて告げる。

 

 

「お父様が真の話してた……デュランダル議長だったなんて」

 

「確かに驚愕の事実ね」

 

 

いつの間にか簪の隣に移動していた楯無――刀奈が答える。

 

 

「ギルバート・デュランダルであると共に、更識蔵人でもあるのだがね……それに夢破れた男の無残な過去なんて聞くべきではないよ……いや、待てよ、その方が妻や娘に構ってもらえるからいいかもしれないかな……そんな父親はいやかね?」

 

 

彼の質問に刀奈と簪は苦笑いで答えているが、冗談だよと蔵人が返すと笑顔を見せた。

蔵人が一瞬遠い目をし、とんでもない事を口走り始めた。

 

 

「しかしだね、簪からボーイフレンドができたと話を聞いたときは大層驚いたよ。男性搭乗者と言ってもどこの馬の骨とも知れない男に大切な愛娘が奪われるかもしれないと思った途端、殺意が沸いたものだ」

 

 

笑みを浮かべているが目が据わっている。

 

 

「しかもその男と同室だという言葉にも度肝を抜かされた、記憶を思い出さなければIS学園の風紀はどういうんだと直談判をしようと働きかける寸前だったよ」

 

 

捲し立てる蔵人の様子を苦笑しながら真は見ていた。

真以外の4人も同じく苦笑しつつ見ている。

 

 

(なんか議長……明るくというか雰囲気がだいぶ変わってるなぁ……)

 

 

ネオ・ザフトが収集した資料の中にデュランダルの私的な面を含めた資料が残っていたことを真は思い出していた。

 

遺伝子工学者であった彼は、当時交際していたタリア・グラディスと遺伝子的な相性により子を残せないことが判明し結果的には破局していたらしい。

 

コーディネーターは第2世代から出生率が低下し、第3世代では第2世代に輪をかけて低下するという種としては欠陥ともいえる特徴を持っている。ゆえにプラントでは遺伝子相性のいい者同士による婚姻制が敷かれていたのだ。

デュランダルは自分の様な存在を無くすためにデスティニープランを推し進めていった経緯があったのだ。

 

だがこの世界での彼は違う。

C.E.でいうナチュラルであり、種としての欠陥はない。

刀奈と簪の態度を見る限り、良好な家族関係を気づけているのだろう。

だからと言って親バカになっているとは想像つかなかったが。

 

 

「さて……私の愚痴を聞きに来たわけではないだろう?」

 

 

ようやく愚痴を言い終えた蔵人が笑みを浮かべて真に問いかける。

 

 

「蔵人さん、今日はご挨拶に伺いました」

 

 

真は蔵人から視線を外さず彼の目を見ていう。

 

 

「俺は……簪さんとお付き合いをさせて頂いてます」

 

「……」

 

 

真の言葉を蔵人は黙って聞いている。

 

 

「俺には戦う事しかできなかった……けどそんな俺を変えてくれたのが、簪なんです、彼女は必ず幸せにします、だから簪とのお付き合いについて許可を頂きたいんです」

 

「お父様、私からもお願いします……真は私を変えてくれました、折れていた私の翼を支えてくれた人なんです、ずっと彼と一緒に……一緒に歩いて行きたいんです」

 

 

真と簪が共に立ち上がって深く頭を下げる。

背後で目をキラキラ輝かせつつ、本音が「わぁ」と声を洩らし、姉である虚に注意されていた。

 

 

「……」

 

 

蔵人は数秒思案を行ってから、彼も立ち上がる。

 

 

「2人の気持ちは分かった……簪、君の選択に後悔はないのだね?」

 

 

彼の視線を向けられている簪は、視線に優しさを感じていた。

 

 

「はい」

 

 

簪が即答する。

蔵人は次に真に視線を移す。

 

 

「真、君は娘を……簪を幸せにすると私の前で誓えるかね?」

 

「はい、誓えます」

 

 

真の紅い瞳と蔵人の黒い瞳が交差する。

 

 

「……いいだろう、2人の交際を認めよう」

 

 

蔵人が笑みを浮かべつつ答える。

その言葉に真と簪が顔を上げて、互いの顔を見合わせる。

 

 

「愛した者と添い遂げる事が出来なかった苦しみは骨身に染みている、そんな苦痛を愛しい娘に味わってほしくないのでね……それに」

 

 

真の肩にポンと手を置く。

 

 

「真、今の君は私が知っている君よりも大きく成長している……娘を頼むよ」

 

「はいっ!」

 

 

笑みを浮かべる蔵人に真が力強く答える。

その後、真は更識家の人間に食事に誘われる事となった。

その際に簪と刀奈の母親にも挨拶をし、許可を貰うこととなった。

 

余談であるが、食事の席で真が話した男性搭乗者の条件に蔵人が食いつき、

赤いISならば乗りたいと話していたとかいなかったとか。

(無論、男性搭乗者の条件については口外しない様約束してもらったが)

 

ちなみに更識家と同様に飛鳥家にも交際については報告を行っている。

その際、妹である真由が異様に簪に懐いてしまうと言う微笑ましい場面があった。

真由は仮面ライダーが大好き、簪も特撮が大好き、似たもの同士で話があったので真としてはほっとしていたが。

 

――――――――――――――

 

正式な交際許可をもらった夏休みも過ぎ去った休日――

 

9月 IS学園 真の自室

 

自室の為ラフなタンクトップ半ズボン姿の真に、まだまだ暑いため薄着のワンピースを着た簪。

冷房を適温まで利かせた室内で真と簪は休日をのんびり過ごしていた。

 

 

「……うーん」

 

 

先日誕生日を迎え、晴れて16歳となった真が自身の机の上に広げられた資料に目を通しつつ唸っている。

 

 

「どうしたの?」

 

 

ソファーに腰かけて漫画を読んでいた簪がその様子を見て歩み寄る。

簪が真の机の上に置かれている資料にざっと目を通す。

 

置かれている資料は、2人の所属企業である日出工業が建築した宇宙ステーション【アメノミハシラ】の資料ともう1つ。

 

机の上に置かれている共有のタブレットには、円筒型の巨大建造物のイメージ図が表示されている。

 

 

「コロニー……【ヘリオポリス】?」

 

 

【ヘリオポリス】

かつてC.E.の中立国【オーブ首長連合国】が建設した中立コロニーだ。

中立と言っても内部では、当時の連合が戦況の膠着を打ち破るために開発した新兵器【MS】――【GATシリーズ】を開発していた。

C.E.のヘリオポリスは、GATシリーズをザフトが奪取しようとした際の戦闘により崩壊してしまったが。

 

 

「ああ、優菜さんから資料もらったんだ」

 

「どうして?」

 

「優菜さんから【コロニー計画】ってのに協力してほしいって言われててさ」

 

 

コロニー計画。

それは世界中の企業が一丸となって停滞している宇宙開発を再度推し進める為の計画である。

IS本来の使用目的に合致し、人口増加や女尊男卑思想蔓延による失業などの社会問題についての対応策でもある。

日出はすでに秘密裏とはいえ軍事用宇宙ステーションである【アメノミハシラ】を建設している為、その主導を担っているとのことだ。

 

 

「どうして真が?」

 

「C.E.はこの世界よりもコロニーが身近な場所だった……俺にはその記憶があるし、宇宙にも長い間いたからその時の経験を活かしてほしいってお願いされたんだ」

 

 

成程と簪が頷く。

確かに日出には真や利香、ジェーンや優菜などC.E.の経験を持った人間がいる。

全くの手探り状態から計画が始まるより、実際に体験した人間がいれば飛躍的な速度で計画は進むだろう。

 

特にコロニーで日常生活を行っていた経験などは、コロニー内部の構造をどうすればいいかなどに活かすことができる。

技術者からしてみれば喉から手が出るほど欲しい経験だろう。

 

 

「それに、俺にも【メリット】のある話なんだ」

 

「【メリット】?」

 

 

ああ、と真が頷く。

 

 

「今の俺の立場は日出所属のテストパイロット、形式としてはアルバイトに近いけど、この話を受ければ正社員として、卒業後は日出に就職できるんだ」

 

 

そう、真がこの話を受けた理由はIS学園を卒業した後の事を考えてのことだ。

 

 

「奴等との戦いは終わった、なら今の俺に何ができるのかってよく考えたんだ……戦うだけじゃなく俺じゃなきゃできないこと」

 

 

IS学園に入学することとなった真は今後の目標と言う進路を見出せずにいた。

しかし今は違う、明確な目的を持って自身の進む道を見ることができる。

 

 

「それがこのコロニー計画に加わる事、ISも本来の用途で使えるし……まあ、いくら経験があっても専門的な知識はほとんどないから、勉強しないといけないんだけどさ」

 

 

そのための資料さと真は補足して、手に持っていた用紙を机の上に置く。

 

 

「色々考えてるんだね、真」

 

「まあ、一時期傭兵もしてたしな……仲間達から俺のプランはハイリスクノーリターンがどうとか色々といわれたよ」

 

 

苦笑しつつ真が返す。

そして簪の瞳を見つめつつ、真は告げる。

 

 

「……こんな俺だけどさ……ずっと傍にいてくれ」

 

「……うん、大丈夫だよ、真」

 

 

互いに微笑みあって、手を握る。

そして簪が告げる。

 

 

「真が私を幸せにしてくれるなら……私1人だけじゃなくて……私も真を幸せにするから」

 

「……ああ、ありがとう」

 

 

 

そっと顔が近づき――触れ合った。

 

 

 






次回予告

FINAL PHASE「愛に溢れて」

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