【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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FINAL PHASE 愛に溢れて

この世界での【戦乱】、その【全て】が終わって数年後――

 

某国 某所 地下施設

 

 

黒のISスーツを身につけた【長身の青年】が倒れた人間の生死を確認している。

倒れた女性の喉元に青年が背後から突き立てたナイフが深々と突き刺さっており、すでに事切れていた。

 

倒れた女性を一瞥し、青年【カナード・パルス】は近くの端末を起動し、展開された空間投影ディスプレイに目を通す。

そして目的のモノを見つける。

 

 

『見つけたぞ、束』

 

『さっすがカナ君! 潜入任務なんてもう慣れたもんだねっ!』

 

 

待機形態のドレッドノートを通じて、束にプライベートチャネルを開く。

 

 

『見つけた情報だが……どうやら【レクイエム】の基礎理論の一部だな』

 

『っ……カナ君、お願い、全部壊して』

 

『分かっている、サーバー室は破壊した……後はここの端末だけだ』

 

 

ふざけていた束の様子が一変し、真剣な声色と表情に変わる。

 

この数年、束達は【亡国機業】を含めたテロ組織をひたすら潰す、火消しの活動を行っている。

その理由として、捕虜となったスコールが洩らしたのだ。

 

ラクス一派は亡国機業以外のテロ組織にもC.E.の技術の一部を流していたと。

 

ミラージュコロイドや量子ウィルス等、亡国機業レベルの技術力、資金力がなければ運用できない代物の基礎理論の一部程度だが確かに流れていた。

万が一、実物が作られたら大事である。

そのため情報が流れていた痕跡のある組織は片っ端から潰しているのだ。

潰した組織の数はすでに両手の指では数えきれないほどに達していた。

 

 

『行くぞ、ドレッドノート』

 

 

カナードが【ドレッドノートH】を展開する。

 

この数年でドレッドノートは大きくアップデートされ続けている。

展開したドレッドノートHは以前と比べると少々表面装甲が減っていた。

また背部のHユニットも若干小型化されている。

Hユニットも消費エネルギーの効率化を行い、取り回しの悪さもサイズを小型にすることである程度解消されている。

 

唯一大きく変更されているのは両マニピュレータだ。

マニピュレータを覆うように流線型の手甲の様な武装が追加されており、ALハンディは手甲部分に組み込まれる形となっている。

 

この武装の名は【ALマニピュレータ】

ALを従来よりも効率よく扱う為に束が開発した武装である。

手甲部分がALハンディと連動、少量のエネルギー消費で球体状のAL展開を実施できるようになっている。

またカナードがよく使用するALランス等の技に必要な発生率の調整も簡易に行えるようになっている。

 

ALマニピュレータからALランスが出現する。

以前よりも少ないエネルギーで高密度に展開されたALランスは、たやすく端末を切り裂き破壊する。

 

 

『端末は全て破壊した、帰投する』

 

 

部屋に存在していた情報端末全てを破壊したカナードが呟くと同時に、チャンネルが繋がる。

 

 

『カナード様、脱出準備が完了しました。外で待機しています』

 

 

美しい銀髪を腰まで伸ばした美少女――以前よりも少し成長したクロエから通信が繋がった。

以前はスラッとスレンダーな体系であった彼女であるが、現在は【腹部】が少し膨らんでいた。

またクロエはプレアとの邂逅後、非常時以外は閉じていた目を常に開けるようにしていた。

 

 

『……あまり無理はするなと何度も言っているだろう、クロエ。ラキでも連れてくればいいんだ』

 

 

彼女の姿を見たカナードは苦笑しつつも告げる。

彼女に向けるカナードの笑みは、数年前よりも柔らかいものであった。

以前の彼を知っている人間が見れば、本当にカナードかと尋ねることは間違いないだろう。

 

 

『お前の命はすでにお前だけのものではないんだ。それは忘れるな』

 

『……はい』

 

 

彼の言葉に笑みを浮かべる。

 

 

『ヘイヘーイ、さっさと脱出してよー、ストロベリってないでさー!』

 

 

束の言葉に我に返ったカナードはドレッドノートを浮遊させる。

 

 

『……俺も変わったな』

 

 

そう呟いて施設の天井をALランスでぶち抜きつつ、離脱にかかった。

 


 

某国 紛争地域

 

 

「へっくし」

 

 

髪を伸ばし、ポニーテールに髪型を変えたラキーナが可愛らしいクシャミをする。

アスランとの戦いで負った負傷は完治しており、腹部にも小さな火傷痕が残った程度であった。

 

現在彼女がいるのは砂漠地帯、紛争が絶えず起こっている地域だ。

一旦手に持っていた支援物資の入った段ボールを地面に下ろす。

 

 

「風邪か?」

 

 

目の前に同じように食糧などの物資を持った【アレックス・ディノ】――否、【アスラン・ザラ】がラキーナに尋ねる。

 

 

「ううん、誰か噂してるんだよ……多分、兄さんだろうけど」

 

 

苦笑しつつ、下ろしていた段ボールを拾い上げる。

 

 

「カナードか……彼は顔に似合わず家族を大切にする人間の様だし、噂位はするんじゃないか?」

 

「……アレックス、今度兄さんに言っておくよ?」

 

「まっ、待て、カナードにまた嫌味を言われるのは……勘弁してくれ、ラキ」

 

 

この歳で生え際が…などと言っているアレックスは無視して、段ボールを運んでいく。

 

ラキーナとアレックスは自身にできる事として紛争地域の平定/支援活動を行っている。

紛争によって発生する難民などの食糧支援、難民が戦闘に巻き込まれそうになった場合はISを用いての鎮圧活動等を行っている。

 

少しでも今ある命を守りたい、ラキーナから束に話を持ちかけこの活動を数年続けている。

紛争の根本的な解決にはこの活動は繋がらないだろう。

だがこの活動で少しでも対話への道が切り開けるはずだと、2人は信じている。

 

アスランについては、ラキーナが見ていれば問題ないだろうという判断だ。

今後はアスラン・ザラではなくアレックス・ディノとして生きていくと宣言していた。

 

もっともラキーナは数ヶ月に1度、とある用事からフランス国家代表からメカニックとして召集を受けることがあるのだが。

その理由は彼女が専属の整備士であることが1つで、もう1つは【野暮】というものだろう。

 

 

「さて、食事の準備しないとね」

 

「子供達を呼んでこよう」

 

「分かったよ、アレックス」

 

 

難民の子供達、人達の食事の準備を行う2人の顔には笑顔が浮かんでいた。

 


 

イギリス オルコット家 正門前

 

夜の闇中で1人の女性が誰かを待つように立っていた。

 

 

「……遅いですわっ!」

 

 

自身の実家の正門前で、蒼いドレスに白いストールを身に着けたセシリアが腕時計をチラリと見て叫ぶ。

IS学園卒業後、国家代表となり立派な美女に成長した彼女は、優雅であることを心がけているが今回ばかりは別である。

 

 

「本当に……いつもこうなんですもの」

 

 

ため息がもれ、苦笑が浮かぶ。

せっかくの食事の機会だというのにと心の中で愚痴を零す。

 

すると聞こえてくる、空気を振るわせるエンジンの排気音。

男性が乗った大型ネイキッドバイクがセシリアの前で止まる。

 

 

「よう、セッシー、遅れて悪かったよ」

 

 

身長2mに近く特徴的なバンダナをつけた筋肉質の男性が、バイクに乗ったままセシリアに謝る。

 

 

「全く……時間を守らないのは紳士ではないのですよ?」

 

「お、なら問題ないな。俺、紳士じゃあねーしよ」

 

 

男性が浮かべた陽気な笑みに、待たされていたというのにセシリアの苛立ちはいつの間にか消えていた。

男性が腕時計を見て笑みを消してやっちまったという顔になる。

 

 

「おっと、そろそろやばいな、乗れよ、セシリア」

 

「……もう、分かりましたわ」

 

 

男性から受け取ったヘルメットをかぶり、バイクに身体を預ける。

逞しいその背中にそっと手を回す。

彼の首筋には特徴的な星型の痣があった。

 

 

「しっかりつかまってろよ」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

 

回した手に力を込める。

そして2人を乗せたバイクは夜の闇に消えていく。

 


 

漆黒の宇宙空間に浮かぶ、円筒状の物体。

明らかに人工的な建造物であり、備え付けられたミラーによって太陽光を取り込みつつと回転している。

 

これがコロニー計画で建造中のコロニー【ヘリオポリス】である。

ヘリオポリスの完成度は約8割といった段階であり、すでに内部には植物などが植えられ、居住に必要な設備も建てられはじめている。

 

そのコロニーの周辺を紅く染める存在があった。

紅い光の翼を広げるIS――【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】を身に纏った真だ。

身に着けたISスーツのデザインはネオ・ザフト戦役時に身に着けていたパイロットスーツと同じものに変わっている。

また身長も同じく180cmを超える程までになっていた。

 

デスティニーを通してチャンネルを開く。

通信先は現在の母艦であるイズモであり、イズモはヘリオポリス内の艦船用ドッグに泊められていた。

 

チャンネルを開くと、栗毛に長髪の女性がディスプレイに移る。

現在の上司である【小原節子】と言う女性だ。

 

真はIS学園卒業後は大学に進学、卒業後は日出工業に正式に入社し、現在はコロニー計画に関わる技術者兼男性搭乗者と言う立場にある。

コロニー計画については初期段階から関わることができていた。

 

 

『節子さん、飛鳥です、デブリの除去完了しました』

 

『ありがとう、真君、イズモに戻ってきてもらえるかな?』

 

『了解しました、戻りますね』

 

 

紅い翼を翻し、デスティニーがヘリオポリスのドッグに向かう。

真がISを用いて出撃していたのはヘリオポリス周辺のデブリ除去の為であったのだ。

 

 

イズモ 艦橋

 

 

「お疲れ様、真君」

 

「ありがとうございます、節子さん」

 

 

イズモはヘリオポリスから出航し、現在アメノミハシラまで向かっている。

節子がドリンクを手渡し、ISスーツ姿の真はそれを受け取る。

 

 

「もうすぐ……コロニーも完成だね」

 

「ですね……長かったはずなのにあっという間って感じです」

 

「ふふ、そうだね」

 

 

他愛のない雑談をした後、節子が切り出す。

 

 

「あ、そうだ。真君、有休全く使ってないでしょ?」

 

 

節子からの指摘に、あっと言葉を洩らす。

 

 

「いや、まぁ……ヘリオポリスの建造が落ち着くまではって思ってたんですが……」

 

「もう……地球には簪ちゃん達がいるんでしょ?」

 

「……いいんですか。節子さんまで?」

 

「……私も殆ど使えてなかったから、ね?」

 

 

可愛らしく舌を出しつつ、自身に告げる上司に苦笑しつつも高揚していた。

実際、2週間程度宇宙にいるのだ。

もちろん地球にいる【家族】には許可を貰っているが、久しぶりに会える事に高揚するのは無理もない。

 

 

「分かりました、アメノミハシラに着いたら準備します」

 

「うん、それがいいよ」

 

 

節子の頷きに笑みで返す。

 

それから1日経って――

 

宇宙から帰還した真は引継ぎと有休の申請を行ってから自宅に向かっていた。

余談であるが、IS学園在籍時よりも宇宙開発は進んでおり、今では少々高価であるが一般人でも宇宙旅行を楽しめる段階にきている。

 

スーツ姿の真が自宅に向け、足早に住宅地を歩いていると懐の携帯に着信があった。

表示されている連絡先の名は【織斑一夏】と表示されている。

 

 

「……アイツ、また何かしやがったのか?」

 

 

前科がありすぎるため、特定はできなかったが苦笑を浮かべつつ電話を取る。

 

 

『何だよ、一夏』

 

『おっ、真久しぶり……じゃなかった、助けてくれ!』

 

『待て、一夏、話は終わってないぞっ!』

 

『ちょっと箒、アンタちゃんと捕まえてなさいよっ!』

 

『あ、誰かに電話かけてるよ、ラウラっ!』

 

『嫁よ、諦めて降伏しろっ!』

 

 

一夏の慌てた声と背後から聞こえる女性4人の声。

箒、鈴、シャルロット、ラウラの声だ。

 

 

『お前、何した?』

 

『何もしてねぇよっ! ただ4人に飯でもどうだって誘っただけだよっ!』

 

『お前の箒達に対する何もしてない程信用できない言葉があるかよっ! その4人を一度に誘ったら面倒になることくらいいい加減に学習しろって!』

 

 

叫びつつも友人達が相変わらずなのに笑みが浮かぶ。

 

現在の一夏は倉持技研所属のIS搭乗者として、織斑千冬の再来と呼ばれる程のIS搭乗者となっている。

そして箒や鈴、シャルロットにラウラはそのサポートとして倉持技研に所属している。

恋する人の為に国すら超える彼女達の行動力に真は脱帽したのを覚えている。

 

 

『……いい加減誰か選べよ』

 

『え、何か言ったかし……ぐわーっ!?』

 

 

一夏の叫び声と共に通話が切れる。

おそらくISを使った奪い合いに発展したのだろう。

今の一夏の実力なら怪我はしないだろうが。

 

 

「……俺は何も聞かなかった」

 

 

念のため携帯の電源を切って懐にしまってから真が呟き、自宅に向かう。

 


 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい、真」

 

 

扉を開くとすぐに返事があった。

自身と同じ紅い瞳であり、最愛の妻――簪だ。

 

簪は真と同じ大学を卒業後、日出に就職。

日本代表として数度モンド・グロッソに出場しており、織斑千冬以来の日本の国家代表としては2度目となる【ブリュンヒルデ】の称号を得るという考えられる限り最優秀な結果を残す事に成功していた。

現在は現役を引退して、真の妻として励んでいる。

 

エプロン姿の簪が微笑む。

それだけで仕事の疲れなんて吹っ飛んでしまった。

 

 

「ご飯、できてるよ」

 

「あぁ、久しぶりの手料理だからもう楽しみで楽しみでさ」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 

真が玄関から居間に入る、すると彼に接近する2人の人影があった。

 

 

「あー、お父さんだー!」

 

「おとうさーん、おかえりー!」

 

 

水色の髪を持つ少年と、黒髪の少女が真の足に抱きつく。

両者共に両親と同じく紅い瞳を持っている。

 

 

「大地、美羽。ただいま」

 

 

少年の名は【飛鳥大地】

少女の名は【飛鳥美羽】

 

真と簪の子であり双子の兄妹である。

 

 

「やったぁ、お父さんとご飯だー!」

 

「お父さん、ご飯終わったら撮ってた仮面ライダー見よ! 真由おばちゃんが新しいベルト買ってくれたのー!」

 

「分かった分かった」

 

 

2人に囲まれる真の顔には笑顔が浮かんでいた。

その様子を見つつ、食事の準備を進めている簪の顔にも笑顔が浮かんでいる。

 

 

(……ああ、幸せだ)

 

 

戦うことしかできなかった自分が今こうして家族と共に過ごせている。

真にとっては何ものにも代え難い幸せだ。

 

 

(この幸せは……絶対に失わせない、俺が守ってみせる)

 

 

本当の悲しみを知った戦士であった真の瞳は

 

 

――愛に溢れていた。

 

 




本編完結です。
シンは本当に幸せになるべき存在だと思います。
ここのシンには簪と言う支えあう大切な花=愛しい人がいるので大丈夫ですが。

余談ですが最終話を書きながらLife Goes Onを聞くとやはり作業が捗りました。

処女作?と言うんですかね、つたない文章でしたが何とか完結まで持っていけました。
後は何個かある番外編と逆襲のシンまで過去編を更新してまいります。

本当にここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


追記:鈴ちゃんが完璧に抜けていましたので微修正しました。
すまない…本当にすまない…。


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