【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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ANOTHER PHASE 私に光をくれた人①

銀髪の少女が男性に連れられ歩いている。

それを同じ少女が背後から眺めている。

 

場面は移り変わり、少女は手術台の様なベッドの上に乗せられ身体を拘束させられていく。

 

 

――当実験体の耐久実験を開始。

 

 

(……これは……夢、ですか)

 

 

途端に身体に奔る痛み。

これが夢であることは理解したがそれでも過去に体験した痛みが蘇ってきているのか、幻肢痛のように身体が反応している。

 

痛みが続いていた時間は数十秒程度であったが、数時間は浴びていたかのような錯覚を感じる。

 

 

――耐久値はやはり想定よりも下回っているな。

 

――これでは報告できんぞ。

 

――ああ、こいつは【失敗作】だな。

 

 

(……以前の私ならばこの夢の中でも恐怖していたのでしょうが……)

 

 

想い人の盟友と思わぬ形で邂逅し、激励を貰った。

その経験からすでに【失敗作】と言う言葉は彼女にとって何も意味をなさない言葉だ。

研究員達を動けぬ意識の中で冷たい目で見つめる。

 

すると状況は動いていた。

研究員たちの背後に黒い人影が現れたからだ。

マスクを装着しており、その手には消音機装着済みの自動拳銃。

 

研究員達はその人物の気配に全く気付いていない。

 

 

――しかたない、ラクス様に破棄を申請……がっ!?

 

――なっ、何が、ごぇっ!?

 

 

乾いた小さな発砲音と共に正確に2発、弾丸が研究員達の頭部に吸い込まれその命を奪う。

 

 

――対象を確認した。これから保護する。

 

 

鮮やかに研究員達を始末した人間は声からして男性の様だ。

倒れた研究員達が事切れたことを確認した男性はマスクを外す。

マスクから垂れていた黒の長髪に、整った端正な顔の青年。

 

 

――おい、生きているか?

 

 

彼の言葉に夢の中の少女はゆっくりと頷く。

 

 

――お前を保護してこの施設を破壊する。

 

 

青年が左腕に付けていた翡翠色の腕輪を軽く触るとその身体に【IS】が展開されていく。

1秒もかからずに青年はトリコロールカラーのISを身に纏っていた。

 

 

(この時は驚きましたね、何せ……ISを動かせるんですから)

 

 

装甲に覆われたマニピュレータで青年は少女の小さな身体を抱え上げる。

 

 

――掴まっていろ。

 

 

そう一言だけ告げた青年のISが【薄緑色の光の槍】を展開し、そのまま天井を突き破っていく。

次々に天井を突き破りそして目の前に青空が広がる。

彼に抱えられている少女はその光景に涙を浮かべていた。

 

 

――お前は自由だ、これからは1人の人間として生きるんだ。

 

 

少女を抱えた青年【カナード・パルス】の言葉と共に、急速に意識が覚醒していく――。

 

―――――――――――――

9月下旬 IS学園近海 ブレイク号 クロエ私室

 

 

「……あの時の夢、ですか」

 

 

ふふっと少しだけ笑みを浮かべてピンクの可愛らしいパジャマ姿のクロエはベッドから起き上がる。

時間は午前6時30分、この時間で起きているのは自分とトレーニングを行っている【数名】だけであろう。

 

 

「……カナード様」

 

 

名前を呟いて先ほど見た夢を思い出す。

カナードに救ってもらった時から自分の人間としての生活が始まった。

それは常に新鮮な刺激の連続であり、試験管ベビーの自分では決して手に入らなかったはずのもの。

 

 

「貴方がいてくれたからですよ……カナード様」

 

 

そしていつの間にか彼女はカナードに惹かれていた。

あの人の傍に居たいと、心の底から思うようになったのだ。

 

愛しい男性に思いを馳せている少女はふと日課の事を思い出した。

 

 

「……そろそろお食事を作らないとですね」

 

 

立ち上がりするするとパジャマを脱いで着替えを始める。

そして普段通りの服装になると、食事の用意に向かう。

 

―――――――――――――

ブレイク号 リビングキッチン

 

ブレイク号のキッチンは、艦自体がさほど大きくないためか小さめであるが、設備や器具はそれなりのモノがそろっている。

余談だがブレイク号での食事はカナード→ラキーナ→クロエ→カナードの順で交代制である。

ここに束が含まれていない理由だが、彼女の手料理を食べたカナードとラキーナがここだけは譲らないと束による調理を断固拒否しているからである。

本日はクロエの番であり、エプロン姿のクロエが熱したフライパンの上でジュウジュウと目玉焼きを蒸し焼きにしていた。

 

 

「おはよう、クロエちゃん」

 

「おはようございます、ラキーナ様」

 

 

少しだけふらつき、目元にはっきりと隈を作ったラキーナがキッチンに入ってくる。

すでにアスランとの戦いで負った火傷は完治し、9月の上旬には医療施設からも退院していた。

そんな彼女は眠そうな顔で椅子に座って欠伸をしていた。

 

丁度用意していた淹れたてのコーヒーを彼女の前に差し出す。

 

 

「ラキーナ様、徹夜の様ですが……大丈夫ですか?」

 

「うーん、流石にまだ2徹はキツイかなぁ……ちょっとクラクラする」

 

 

たははと笑いながらラキーナはコーヒーを口に含む。

そして苦みからかすぐさま砂糖瓶に手を伸ばし、砂糖を入れ始めた。

 

 

「駄目ですよ、ちゃんと睡眠はとりませんと」

 

「うん、まあ、そうなんだけどね、Xアストレイのドラグーンの最終調整とか、ドレッドノートのALマニピュレータの試作品開発に、男性搭乗用ISの試作機開発とかキリのいいところまでって感じでついね」

 

 

自身の搭乗機である【Xアストレイ】の名前が出た為、クロエは申し訳なさそうな表情になる。

スプーンでたっぷりと5杯目の砂糖を入れ、甘ったるくなったコーヒーを口に含んで笑みを浮かべる。

 

 

「あっ、いいんだよ、私が好きでやってることだからさ」

 

「ですが……」

 

「おっはよー、あー、お腹減った―!」

 

 

ラキーナと同じように隈を作った天災、篠ノ之束が食堂に入ってくる。

ラキーナよりもはっきりと深い隈に普段以上のハイテンション、おそらく2徹以上は確定であることが予想できる。

 

 

「おはようございます、束さん」

 

「ラキちゃんおはよー、くーちゃんもおはよー」

 

「おはようございます、束様」

 

 

ラキーナの隣の椅子に座った束が途端にぐでーとテーブルに突っ伏す。

クロエがすぐさまマグカップにコーヒーを注ぎ、束のそばに置いた。

 

 

「はぁー、やっと目途がついたね、ラキちゃん」

 

「ドラグーンの調整もようやく終わりましたし、ALマニピュレータの方もようやくって感じですね」

 

「ううん、ラキちゃんが手伝ってくれたおかげで想定よりも全然速いからね、けど名前に面白みがないよね、【ALマニピュレータ】ってそのままだし」

 

 

ズズッとコーヒーに口をつけてにがーいと顔をしかめる。

それを見たラキーナが砂糖瓶を手渡した。

 

 

「あはは、兄さんらしいというか……」

 

「いっそのこと【シェルブリット】とか【アガートラム】とか見栄えのいい名前にすればいいのに」

 

「兄さんが絶対に使いそうにない名前ですね、前者はともかくとして後者は絶対に……」

 

「俺がどうかしたか?」

 

 

ラキーナの言葉を遮るようにリビングにカナードが現れる。

トレーニングウェアの上半身を脱いでタンクトップ状態だ。

 

早朝の日課であるトレーニングをこなしてきたからだ。

前世とは違いナチュラルの身体である為、より専念して身体を鍛える必要があったためすでに日課となっているのだ。

 

彼の右手にはタオルが握られており、シャワー後の為か特徴的な黒の長髪もしっとりとまだ湿っていた。

 

 

「おはようございます、カナード様」

 

「おはようー、カナ君」

 

「お疲れ、兄さん」

 

「ん」

 

 

テーブルを挟んでラキーナの前に座りつつ、タオルで再度髪の毛を拭き始める。

女性から見ても長い部類に入る兄の髪の長さにラキーナが口を開いた。

 

 

「兄さん、そろそろ髪の毛切ったら? 流石にそこまで長いと邪魔になると思うよ」

 

「……まあ、確かにそうだな、考えておく」

 

「アスランは?」

 

「奴はまだシャワー中だ」

 

 

ゴシゴシと髪をタオルで拭き終わったカナードがラキーナに告げる。

 

歌姫の騎士団崩壊後、その残党であるスコール・オータム・マドカ・アスランはこのブレイク号で拘束している。

その中でも協力的であり、ラキーナがいれば何かあった際に抑えやすいアスラン、とある人物のクローンであると判明し、記憶操作がされていたことが判明したマドカについては、艦内ではある程度の自由が許されていた。

 

主にアスランはラキーナが、マドカは出自が近いクロエとカナードが監視を担当している。

 

スコールとオータムについては所持していたISを剥奪し、必要になる情報を引き出すまでは完全に監禁状態で拘束している。

2人から情報を引き出した後は、国際警察機構等に引き渡す予定だ。

 

マドカは朝に弱いようでまだ起きてきていなかった。

 

 

「どうぞ、カナード様」

 

「ん、すまないな」

 

 

目の前に出された香ばしく焼けたトーストの上に目玉焼きが乗った目玉焼きトーストとコーヒーが出されていた。

料理は苦手なクロエだったが現在では調理できるレパートリーが増えている。

コーヒーに口をつけふぅと一息をついたカナードは何かを思い出した様な表情に変わった。

 

 

「……ちっ、忘れていたな」

 

「どうかしたの?」

 

 

ラキーナが彼に質問を飛ばすと苦笑しつつ答えた。

 

 

「テスト……だったか。その採点を依頼されていたんだ、山田教諭にな」

 

 

非常勤教師としての立場であるため、カナードは色々とIS学園教師陣から頼まれごとをされることが多い。

特に真耶はその頻度が高くテストの採点の他には、設備申請やISの整備などを頼まれていたりしていた。

 

カナードの口から摩耶の名前が出ると、キッチンで自分の分の朝食を用意していたクロエの表情が曇る。

それをちらり横目で見たラキーナは苦笑いを浮かべる。

 

 

「後回しにしていたからまだやっていないんだ」

 

「カナ君いいように使われてるね……非常勤って立場を完全に利用されてるよ」

 

「あはは……やっぱりIS学園の教師となると忙しいんですね」

 

 

ラキーナの言うとおり千冬や摩耶を筆頭にしたIS学園教師陣の毎日は多忙を極めている。

学外施設や各種団体との調整、代表候補生祖国との調整や要望についての回答/対応etcetc…。

この他にも通常の教師としての業務もある為休む暇さえないという状況だ。

 

 

「気晴らしにはちょうどいい。報酬も少しだが出るからな」

 

 

そう言ってカナードは目の前に出されていたトーストを齧りつつ立ち上がる。

自身の部屋で作業を行うのだろう。

 

彼が部屋に戻ろうとした時であった。

何かに閃いた様に束の表情が変化し、ニヤッと笑った後口を開いた。

 

 

「くーちゃん、そう言えば食糧とか日用品とかってそろそろ足りないんじゃなーい?」

 

 

束がクロエに尋ねる。

若干どころかあらか様にわざとらしい棒読みでだ。

 

しかし食料や日用品はまだ十分な貯蓄がある。

それを束が把握していない訳がない。

 

束の発言の意図に気付いたラキーナが続ける。

 

 

「なら兄さんと調達してきてくれないかな?」

 

「……別に構わんが、何故クロエと?」

 

 

齧ったトーストを一気に食べ終えたカナードがラキーナに返す。

 

 

「そりゃ日用品買うんだから結構な量になるでしょ、兄さんみたいに馬鹿力があるわけじゃないんだから男手はいるでしょ?」

 

「……分かった、クロエは構わないか?」

 

「はっ、はいっ!」

 

 

笑顔で彼の言葉に答える。

 

 

「採点を午前中に終わらせて山田教諭に返すとなると午後だな、構わないか?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「わっ、分かった」

 

 

クロエの迫力に面食らったカナードが珍しくたじろぎながら答え、テストの採点を行うため自室に戻っていく。

その入れ違いでシャワーを浴び終わったアスランが入室してくる。

 

 

「おはよう、アスラン」

 

「おはよう、ラキーナ、それに皆さん」

 

「おはようございます、アスラン・ザラ」

 

 

クロエとラキーナはアスランの挨拶に返すが束は無視してニヤニヤと笑いながらコーヒーを飲んでいる。

それに気づいたアスランはラキーナに質問を投げる。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「いやー、うん、まあ、女の子の笑顔を見るのは楽しいねって」

 

 

クロエには聞こえないようにラキーナが笑いながらアスランに答える。

 

 

「そっ、そうか」

 

 

空いていたラキーナの隣に座りアスランが困ったように返す。

 

 

「すいません、私、ちょっと準備してきますっ!」

 

 

束、ラキーナ、アスランの分に加えて、マドカの分の食事をテーブルの上に置いた後、エプロンを放り投げてクロエは自室へと駆けて行く。

 

 

「あらー、くーちゃんはりきっちゃって……束さんは嬉しいぞぉ」

 

「……ストライクフリーダムの調整、そーいえばまだ完全には終わってなかったなぁー」

 

「なんだって、それは本当かい、ラキちゃんっ!」

 

「ええ、なので束さん、飛行時の姿勢制御調整に付き合ってください、午後から」

 

 

束とラキーナがニヤニヤと笑いつつ食事を食べ進めていく。

 

 

「……2人して何をしているんだろう」

 

 

C.E.から鈍感な気が強いアスランは、2人の計画に全く気づかずに朝食を食べ始めた。

 




カナードの周りにアスランくらいしか男がいない件について。


次回予告

「ANOTHER PHASE 私に光をくれた人②」

「俺の答え……か……」


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