【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
PHASE1 波乱再び
無限に続く思考と処理。
輝く蒼い空に無音の海が広がる虚無の世界。
それが少女に与えられた彼女だけの場所。
――ついこの瞬間までは。
『――aA』
突如【それ】は現れた。
少女の目の前には崩れた女性の影。
ボロボロの姿、ドレスにも似た不思議な格好をしている桃色の髪の女性。
少女に歩み寄る女性の顔に浮かぶ表情は笑顔。
無残にも見えるその姿など関係なく、少女は女性にひきつけられていた。
そして彼女の意識に女性が触れる。
ただのそれだけ、少女の意識が塗りつぶされていく。
だが少女に恐怖という感情はなかった。
――目の前の女性の為に、そんな不要なモノは必要ないのだから。
『命令を下さい』
『では抜剣を』
笑みを浮かべて少女にそう告げる女性。
『割り込み命令、優先度を変更――モード・エクスカリバー及び、円卓議決開始』
何もなかった虚無の世界。
いつの間にか輝く空は消え、ただ闇が広がっていた。
『――所詮私は夢の残滓、オリジナルにはなれない、ですが、どうしても……どうしても貴方に会いたいのです』
――そのためにはどんなこともしよう。
ボロボロのドレスはいつの間にか復元していた。
一見純白のウェディングドレスにも見えるそれの一部には、不似合いな紅い翼の様な機械が現れた。
『この気持ちだけは……私のモノ、そうですよね、シン?』
――――――――――――――――――
季節は冬、12月。
すでに秋は過ぎ去り、いつ雪が降り始めても不思議ではないほど気温は下がっていた。
激動の1年を送ったIS学園の施設は全て修復されており、年の瀬に向けて少しずつだが浮かれたような雰囲気になっていた。
そんな中、2人のIS男性搭乗者は横浜のDeランドの施設内フードコートにいた。
美少女の友人を多数引き連れていたため、この様子を見た彼らの友人や後輩は血の涙を流していた。
「先ほど一夏とずっと並んでいたではないか、次は私だっ!」
「あらー、誰がその席譲ったなんていったかしら、箒?」
ホットドッグなどを全員分購入するために席を立っていた一夏が戻ってくると箒と鈴が言い争いの最中であった。
「ちょっ、どうしたんだよ、2人とも……うおっ」
それを仲介しつつトレーをおくと、ラウラによっての空いていた席に無理やり座らせられた。
そしてその右隣にはシャルロット、ラウラは左隣に座り、2人で一夏の両手を掴む。
「一夏の右隣もーらいっ」
「嫁の左隣は私だっ」
当然、その様子を見て言い争っていた箒と鈴が黙っているわけではなかった。
いつもどおり、日常の光景だ――気のせいかフードコート内の男性の目が厳しいが。
その様子を少しはなれたテーブル席で疲れたようにぐったり座りながら2人目の男性搭乗者である真は眺めていた。
「……眠い」
眠そうに呟きながら、注文していたカフェオレを口に含む。
落ち着いた紫の上着にグレーのメンズ用ストール。
白のインナーにベージュのズボン、加えて【
それに合わせて薄い黒のサングラス。
秋が過ぎた今の季節では少々肌寒いかもしれないが晴れた日ならばちょうど良い着心地である。
かつてシン・アスカであったときの私服と同じコーディネートの為、ややサングラスが浮いている。
何故そんなサングラスを身に着けているかと言うと、やはり男性搭乗者と言う立場は目立つのだ。
特に真のような燃えるような紅い瞳は珍しい。
また春から夏にかけての歌姫の騎士団による騒動によって、一夏や真共に搭乗機体が第二形態移行しており、大々的に報道されている。
ゲームにも登場しているためそれに拍車をかけていた。
そのため所属企業である日出工業から変装と言うわけではないが、なるべく目立たないようにと言われているのだ。
所詮は気休め程度だがないよりはましであろう。
「眠そうですね、真さん。 日出工業絡みですか?」
真の向かいに座っているセシリアが尋ねる。
「ん、ああ、うちの計画の資料がガンガン送られてきてさ、一晩で見るのはちょっとな」
サングラス越しと元々の虹彩の色で分かりにくいが、充血気味である。
「そうだね、ちょっと無理しすぎ」
真の右隣に座る簪が彼の顔を見つつ言った。
淡い赤紫のワンピースに薄手の白いカーディガンを身に着けた簪に苦笑を返す。
「……分かってるよ、気をつける」
「うん」
「ふふ、仲睦まじいですわね」
2人の様子を見て蒼いワンピースを身に着けたセシリアが2人に聞こえないように呟いて微笑む。
白いコートは店内の為、座席にかけていた。
「と言うか俺達誘った刀……んっ、楯無さんはどこだよ」
そう何故冬の休日に友人達と共にテーマパークにいるのか。
その理由は簪の姉、刀奈――楯無が全員分のチケットをプレゼントしたのだ。
何でも簪と楯無の父親、蔵人が少々早いクリスマスプレゼントとして楯無に渡したのだという。
フリーパスを見せればフードコートの料理が数点ただ同然の値段になると言う特典付きチケットであることと、たまには遠出をしよう言うことでその好意に甘えることにしたのだった。
――閑話休題
「そういえばそうですわね」
「ん、ちょっと待って」
簪が携帯電話を取り出して画面を操作する。
SNSを使って今どこにいるか姉である楯無にたずねたのだ。
しかし返事はない。
「あれ、返信来ないな」
「そうだね……いつもならすぐに来るのに」
普段なら簪がSNSで呼びかけたなら風呂時の時間でも数秒で返信が来るのだが、珍しい。
「まあ、そういう日もあるよな」
「そうだね」
そういう日もあるのだろうと特に気にせずに携帯をしまう。
だが少しずつ――騒乱のときは近づいていた。
――――――――――――――――――
「私は不滅だぁぁぁぁぁぁっ!!ブゥウンっ!!」
ステージの上でまるでゾンビの様に上半身をくねらせながら男性俳優が腰にバックルをセットする。
すると自動で腰にドライバーが装着される。
同時にカセットにグリップが着いたアイテムを取り出してそのスイッチを押す。
――デンジャラスゾンビッ
不気味な待機音が流れると主に右腕を水平に構え呟く。
『変身っ!』
――GASHAT! バグルアップッ!
ライダーガシャットをバグルドライバーに差し込むと音声と共に、充分人を覆えるだけのスモークが焚かれる。
――デンジャー!デンジャー!ジェノサイド! デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビ!
変身音と共に仮面ライダーがスモークから跳び出し、ピンクの主役仮面ライダーと相対する。
ヒーローショーを見に来ている子供達にとっては盛り上がりどころの1つである。
昼食後、一夏達と別れ、真、簪、セシリアはこのテーマパークで行われるヒーローショーを見るためにパーク中心部の広場に来ていた。
現在放映中の仮面ライダーのヒーローショーであり、加えて出演者本人が出てくるという超豪華使用だ。
そのためか子供達は通常のヒーローショーよりも多く、中には真達以外にも大きなお友達の姿が見て取れる。
なお余談ではあるがセシリアは最初、真と簪と別行動を取ろうとしてくれたが、せっかく遊びに来ているのだからと気にしないでくれと2人と共にヒーローショーを見学している。
なんでもヒーローショーと言うイベント自体が初めてとの事であり、それを聞いた簪が張り切って解説をしていた。
「ああ、本人はやっぱり凄いよぉ……楽しみにしててよかったぁ」
と涙を浮かべ感激しながら簪が。
「演技凄いよな、脚本も序盤から色々と伏線張られて納得したし……やばい、社長、駄目だ、見るだけで笑っちまう」
と噴き出さないように耐えながら真が。
「日本の技術は凄いですわね、あの一瞬で入れ替わるのですか……と言うかゾンビですの?」
と感心と疑問が織り交ざったような表情をセシリアが。
それに反応して目を輝かせながら簪が言う。
「気になったらライダーもウルトラマンも戦隊もブルーレイとDVD全部貸すよっ、ウルトラマンと戦隊は実家にしかないけど、ライダーなら部屋にアマダムとかガイアメモリとかオーメダルとかロックシードもガシャットもベルトも全部あるからっ!」
「えっ、ええ……それはまたの機会に……と言うか簪さん、キャラ変わってませんか?」
普段の様子から一変した簪に苦笑しつつセシリアが真に問う。
同じくそれに苦笑して真が答える。
「特撮とかヒーローに夢中なときはこんな感じだぜ?」
「友人の意外な一面が見れて嬉しいというか複雑と言うか……」
「ああ、エグゼイドがー! 皆、ゲンムに負けないよう応援してー!」
司会のお姉さんの言葉と共に子供達の声援が広場に溢れる。
「頑張れー!エグゼイドー!」
簪も子供たちと同じように声援を送る。
真とセシリアはそれに笑みを浮かべていた。
(……にしても、あのゲンムって多分、本編以外のバックアップの設定だろうなぁ。やっぱりエグゼイド、話の作り方がうまいなぁ。帰りにガシャット買ってあげるか)
(仮面ライダー。日本ではウルトラマンに並ぶ知らない人のいない正義のヒーロー……後で少し調べてみますか)
と設定を思い出しながら真が、特撮作品に興味を持ち始めたセシリア。
確かにここには平穏な日常が存在していた。
しかし、それはすぐに壊れる事となった。
何故ならば、広場近くの雑木林に光線が降り注いだからだ。
一瞬で雑木林は紅蓮の炎に包まれた。
突然の事態に広場は一瞬の静寂の後、パニックの様相となった。
困惑した親子に、子供達の悲鳴、とても先ほどまでヒーローショーで盛り上がっていたなどとは考えられない有様だ。
「何だっ、レーザーがっ!?」
すぐに事態を把握しようと真達3人はそれぞれISを展開する。
ハイパーセンサーに上空からのエネルギー感知警告が表示された。
それと同時に、頭上が再度煌いた。
しかし、光線は広場を焼かなかった。
広がるのは紅い光の翼――
『うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
降り注いだレーザーを咄嗟に動いたデスティニーが【単一仕様能力】で受け止めていたのだ。
降り注いだレーザーは全てが意思を持ったかのように、デスティニーの【運命ノ翼】が発動しているVLユニットへと吸い込まれていく。
レーザーを吸収して、溢れていく光の翼の大きさは広場を覆うほど大きくなり、さらに吸収範囲を広めていく。
加えて以前楯無との試合で行ったようにVLを簡易的なビームシールドの用途で使うため翼で広場を覆っている。
『……止んだ?』
やがて降り注いでいたレーザーが止まった。
それを確認したデスティニーは能力を解除せずVLユニットの稼働率を低下させた。
警戒は怠らず、すぐさま能力の稼働率を高められるようにだ。
『こちらですっ!』
『こっちっ!』
セシリアと簪が遅れてISを展開し、避難誘導を開始していた。
同じような経験をすでにこの1年で2度経験しているため、その動きはスムーズだ。
同時にハイパーセンサーに反応。
反応は白式、紅椿、甲龍、リヴァイヴ、シュヴァルツェア・レーゲンの5機。
離れたところで同じようにISを展開したのだろう。
そして、1機の【アンノウン】反応を捉えた。
『この反応は……っ!』
『こちらでしたか、お嬢様』
現れたのはセシリアの【ブルーティアーズ】、その2号機【サイレント・ゼフィルス】に次ぐ3号機【ダイヴ・トゥ・ブルー】を身に纏った女性。
開発中であったはずの3号機が何故此処にと疑問がわいたが、その搭乗者を前に疑問は消え去った。
その女性をセシリアはよく知っていた。
両親を失った彼女にとって最も近くにいた存在、その名前は――。
『チェルシー……?何故ここに? イギリスでお仕事を任せていたはずなのに……?』
困惑し震えた声でセシリアはチェルシーに尋ねる。
見間違うわけはない。だが何故此処にとセシリアの脳内に疑問の嵐が吹き荒れる。
しかし、彼女に返ってきた言葉はひどく無感情な声で冷たかった。
『お迎えに上がりました、お嬢様……いや、セシリア・オルコット』
そしてビームライフルを構えているデスティニーを一瞥する。
『……飛鳥真……いや、シン・アスカですね』
『っ!? 何でそれをっ!』
真にとって完全に初対面のセシリアの身内に何故【シン・アスカ】の名前を知られているのか。
疑問に思う間もなく、微笑むチェルシーの姿が空間に沈むように消えていく。
『それでは、イギリスでお待ちしております』
そしてチェルシーの姿は完全に消えてしまった。
『消えたっ!? センサーからもっ!?』
飛燕を纏い、マルチロックオンシステムでロックオンをしていた簪の驚愕の声が響く。
『何が……起こっているんですの……っ!?』
突然の事態に少々震えながらセシリアが呟いた。
セシリアが可愛い、簪も可愛かったです。
次回予告
「PHASE2 集う戦士達」
「私の誇りにかけて……やり遂げてみせますわ」