【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE3 迸る雫

オルコット家 自家用ジェット機内 

 

 

オルコット家所有のジェット機で英国へ向けて出発していた。

学園側でジェット機を用意することもできたが、出国と入国手続きに時間がかかる等の理由があり、手続きが容易で時間がかからないのでどうぞと言う、セシリアの好意に甘える事となったのだ。

 

移動時の大気圏外からのレーザー攻撃については、束がミラージュコロイド技術を応用したジャミング装置を簡易的に搭載することによって隠蔽することでリスクを減らしている。

 

宇宙戦艦を持つ日出工業の優菜はアマノイワトへ移動して、そこで何かあった際の対処を行う事となった。

シャトルも秘密裏に5日ほどで用意できるとの事だ。

 

またイギリス本国では日出工業現地支社のメンバーがサポートに回るとの事だ。

真にとってもその人物は顔見知りであると優菜は出立前に伝えていた。

 

 

「凄いよなぁ、これで自家用機ってのがさ……ご馳走様でした」

 

 

簡単な機内食を食べ終わった一夏はトレーを片付けながら呟く。

乗ったことはないがファーストクラスってこういう感じかと内心一夏は考えていた。

 

 

「自家用ジェット機持ってるなんてね、流石お嬢様ね」

 

「しかもこの人数充分乗れるくらいでかいしな」

 

 

鈴の隣のシートに座る一夏が機内を見渡す。

余談だが、一夏の隣を勝ち取るための血で血を洗うジャンケン勝負が行われており、見事勝利した鈴が彼の隣の席に座る権利を得たのだ。

そのためか少々離れた別の席で恨めしそうに箒、シャルロット、ラウラの3人は眺めていた。

 

 

「んで、寝てていいのかよ、真」

 

 

背後のシートで目を閉じている真に一夏が尋ねる。

彼の隣の簪もうつらうつらとしていた。

 

ん、と目を開いた真が隣でうつらうつらしている簪に苦笑した後、一夏に答える。

彼女を起こさないように声量は小さめだ。

 

 

「……到着まで気を張ってても仕方ないだろ、ミラージュコロイド使ったジャミングもあるんだしさ」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

「それに作戦中は休みなしかもしれないんだ、なら寝れるときに寝ておくべきだって。機内食食べただろ? だったら寝とけ、時差ボケも怖いしな」

 

 

そう言って真は再び目を閉じる。

客室を見渡してみると、同じくカナード、クロエ、ラキーナ、アスランは目を閉じて仮眠を取っている様だった。

 

 

「……ほんと、プロフェッショナルな雰囲気だな……」

 

「……なーんかこの空気、私達も寝たほうがいいのかしら?」

 

「そうですね、到着までまだ数時間かかりますのでお休みになってください」

 

 

そう言って話しかけてきたのはこの自家用ジェットの所有者であるセシリアだ。

客室は2つ、主に1年1組と教員とで別けられている。

隣の客室にいるのは千冬や真耶、束に楯無と年上組だ。

 

 

「出発して1時間くらいかしら……イギリスまでどのくらいだったっけ?」

 

「そうですわね……このジェット機ならば通常のものよりも早く着きますから、後5時間くらいですわね」

 

「……寝たほうがいいな」

 

 

鈴の質問に答えたセシリアの言葉を聞いた一夏が苦笑する。

 

 

「ええ、私ももう少ししたら仮眠をとりますので、隣の客室にいる織斑先生方には私から伝えておきますわ」

 

「りょーかい、判ったわ」

 

 

そう言ってぼすっとシートに鈴は身体を預けた。

 

 

そしてしばらく時間が経過し、現在ジェットは東ヨーロッパ境界線上に位置していた。

目的地であるイギリス、ロンドンの空港までは後数時間ほど。

機内では真達全員が静かに寝息を立てている。

 

――その時であった。

 

機内に緊急警報が流れたのだ。

 

 

「なんだっ!?」

 

「何事ですっ!?」

 

 

それに飛び起きたセシリアはすぐさま機内電話を使って機長につなぐ。

 

 

『当機後方より高速で接近する熱源を確認しました! そしてISの反応も……っ、これはミサイルです、お嬢様っ!』

 

 

オルコット家専属の機長の声に焦りの感情がこもる。

 

 

「なっ、ミサイルですって!?」

 

 

セシリアの驚きの声の数瞬後、機内に轟音が響きジェット機が大きく揺れた。

同時に客室側のドアが吹っ飛び、気圧の差から小さい備品などが機外に吸い出されていく。

 

 

『ISを展開しろっ! オルコットっ、お前はパイロットをっ!』

 

『はいっ!』

 

 

カナードの叫びと共に機内の全員がISを纏う。

狭い機内であるため機能は最低限、だが搭乗者保護はしっかりと機能するため気圧の低下による症状は防ぐことができる。

 

 

『カナード、ドアを塞ぐぞっ』

 

『ああっ』

 

 

最低限機能を維持できる動体部分と腕部を部分展開したデスティニー、ドレッドノートHのマニピュレータからトリモチランチャーが発射されてドアを塞ぐ。

元々がコロニーで使用することを想定された装備であるため、破壊された箇所を簡易的にだが塞ぐことは十分可能であった。

白いトリモチが破壊箇所を埋め、与圧が加わることで気圧が戻っていく。

 

 

『……あのドア、ミサイルで破壊されたわけじゃないのか?』

 

 

真が破壊されたドアを見て疑問をもらす。

そうミサイルが着弾したのならばもっと被害が大きいはずだ。

それにドアは吹き飛んで歪んでいるが、形を保って機内に残っている。

 

 

『……みたいだね、それにあの歪み方は中から無理やり開いたみたいに……あれ、オープンチャネルでの通信?』

 

 

簪の飛燕にオープンチャネルで通信が届いている。その発信源は機外。

チャンネルを開くとそこに映るのは自身の姉、更識楯無と【霧纏の淑女】の姿であった。

 

 

『よかった、皆無事見たいね』

 

『お姉ちゃんっ! まさか今のって……!』

 

『非常時だったから仕方なくね。 でも外から見ても何とか飛べるみたいね、安心したわ』

 

 

そう、ドアを破壊して迫っていたミサイルを破壊したのは楯無であったのだ。

 

デスティニーのハイパーセンサーで確認してみると楯無の反応は機外にあった。

ミサイルの破壊の為に機外に出た楯無と飛び続けているジェット機との距離は当然ドンドン離れていく。

 

 

『……先にイギリスへ、私は本国経由でイギリスに向かうわ』

 

『お姉ちゃん……』

 

『……任せていいんですね?』

 

 

いつもと雰囲気が違う楯無に真が確認の為に問う。

彼女の表情は静かな怒りを感じさせるものであったからだ。

 

 

『大丈夫よ、任せて』

 

 

その返事はいつもどおりの彼女の表情であった。

 

 

真達を乗せたジェット機を見届けつつ、振り返る。

 

振り返る先にはジェット機にミサイルを放った【IS】【ロシアの深い霧】のプロトタイプ。

その搭乗者はかつて楯無に国家代表の座を奪われたログナー・カリーニチェだ。

 

 

『さて、皆が乗ったジェット機先行っちゃったから本国経由でイギリスに向かわないと……と、ログナーさん、覚悟はできてますか?』

 

 

蛇腹剣【ラスティー・ネイル】を展開し、本気の殺気を向ける。

その殺気も当然だろう、ログナーが狙ったジェット機には彼女の最愛の妹、未来の義弟、そして大切な友人達が乗っているのだから。

 

 

『…………』

 

 

だがログナーもその殺気を受け止めてなお、笑みを浮かべていた。

そして機体を一気に加速させて楯無に向かう。

 

 

『さびしかったんです、お姉さまぁぁぁぁぁぁ!』

 

『えぇいっ、私はノーマルなのよっ!?』

 

 

突進してきたログナーをするりと回避して楯無が叫んだ。

 

 

『なら教えてあげマス! 女の世界もいいものダトッ!』

 

『あぁぁ、本当にっ!うっとおしいっ!ぶっ飛ばしますよっ!?』

 

 

互いのナノマシンが散布される戦場の中、本気でめんどくさそうな楯無の叫びが響いた。

 

 

―――――――――――

 

被弾箇所をトリモチで塞いだジェット機は通常飛行を続けていた。

このままならばロンドンの空港まで問題なく到着できる。

 

 

「……そんな理由で非武装のジェットを狙ったのかよあの人」

 

 

デスティニーを格納した真は声に怒りの色を滲ませていた。

もし楯無が出ていかず、ミサイルによってジェット機に深刻なダメージが出ていたのならば出て行って戦っただろう。

 

そして理解できないのはログナーは自身の欲求を満たすそれだけの為に、非武装のジェット機に攻撃を仕掛けたことだ。

かつて軍人として教育され、一般的な常識を身につけてもいる真には理解できない。

その行動についての怒りが溢れているのだ。

出撃していたら容赦なくログナーを叩き潰していただろう。

 

ドレッドノートを格納したカナードもまた同じであった。

 

 

「あれで元国家代表か。このジェット機は英国代表候補生の私物で乗っているのは国家代表候補生が数名、それに元とはいえ国家代表の座についていた人間が攻撃を仕掛ける。国際問題に発展してもおかしくはないがそれを微塵も考えていない……呆れてものも言えないぞ、これは」

 

 

心底呆れたという表情でカナードはシートに座り込む。

その隣に座っているクロエが心配してか飲料を手渡していた。

それに苦笑しながら、カナードは飲料を受け取っていた。

 

 

「……彼女は大丈夫なのか、真」

 

「……楯無さんなら大丈夫ですよ、それに通信の時の顔、相当怒ってる感じだったし」

 

 

インフィニットジャスティスを待機状態である腕輪に戻したアスランが真に問い、真は通信の際の彼女の表情を思いかえしてアスランに返答した。

いつも笑みを浮かべて余裕を持っている印象の強い彼女があそこまで怒りを感じさせる表情を見たのは初めてであった。

 

 

「うん、怒ったお姉ちゃんを見るのは久しぶりだけど……真剣な時のお姉ちゃんは凄く頼りになるよ」

 

 

簪の言葉を彼女が聞けば涙を浮かべて抱き着くだろうなぁと、内心変な事を考えてしまった真は少し頭を振って思考を切り替える。

実力も心配いらない、後ほど連絡を取って合流すればいい。

 

そしてその2時間後、ジェット機は英国 ロンドン空港に到着した。

 

――――――――――――――

 

イギリス空軍基地 ミーティングルーム

 

ロンドン国際空港に到着した真達一行は1時間かけて空軍基地に案内されていた。

ミーティングルームの一室に案内された真達の前に金髪の男性が現れた。

 

軍服の階級章を見る限り少佐の様だ。

 

 

「この度はご協力感謝いたします、ミス織斑」

 

「こちらこそ急な協力依頼となってしまい申し訳ありません、エーカー少佐」

 

 

千冬が男性佐官と握手する。

顔に深い傷痕がある男性佐官、エーカーが微笑む。

 

 

「いえ全員がオルコット嬢と同じく代表候補生、そして男性搭乗者3名に、かの篠ノ之博士のご協力、戦力としては申し分ない」

 

「そう言っていただけるとありがたい」

 

 

千冬が軽く頭を下げるとエーカー少佐は軽く微笑む。

 

 

「さて、今回のエクスカリバー迎撃作戦、作戦名【カムランの丘】担当のエーカーだ、よろしく頼む」

 

 

エーカー少佐がモニターを操作すると、映像が移り変わる。

 

 

「カムランの丘、この作戦では大きく分けて2つのグループで行動してもらう」

 

 

映ったのは、人里はなれた山林の奥地に佇む大型の物体。

全長は約30mと言ったところだろう。

言うならば仰々しい望遠鏡とも見えるが用途はそんなモノではない。

 

 

「これはBT粒子加速器、またの名を絶対対空砲【アフタヌーン・ブルー】」

 

「……狙撃でしょうか、エーカー少佐」

 

 

アフタヌーン・ブルーの映像が映った瞬間、作戦の意図を掴んだセシリアが手を上げて質問する。

 

 

「その通り、オルコット嬢。君のIS【ブルー・ティアーズ】に【アフタヌーンブルー】を接続し、地上からの超々遠距離狙撃を行うのが当作戦の要だ」

 

 

モニターに作戦概要が映し出される。

モニターに移るのは数機のISによってエクスカリバーに攻撃を仕掛けている画像だ。

また後方、地上からの狙撃ポイントが記されていた。

 

 

「2つのグループ……狙撃、なるほどな」

 

「……囮って事か」

 

「そのとおりだ、パルス君、飛鳥君」

 

 

笑みを浮かべて真とカナードを見るエーカー少佐が説明を行う。

 

 

「2つのグループ、1つは陽動班、つまりは囮だ。 そしてもう1つはオルコット嬢をメインとした狙撃班、こちらがメインとなる」

 

 

作戦概要としては以下の様になっている。

 

①重力カタパルトを使用し、特殊パッケージを装備したISを陽動班として出撃させる。

②エクスカリバーの迎撃行動を一点に絞らせる。可能であるならば陽動班のみでエクスカリバーを鎮圧することが可能な場合はプランを移行。

③陽動班のみで鎮圧が行えない場合、狙撃班による超々遠距離狙撃によってエクスカリバーを破壊する。

 

 

「……1つ質問いいですか?」

 

「ん、飛鳥君、どうかしたか?」

 

 

作戦概要を聞いた真が手を上げてエーカー少佐に尋ねる。

 

 

「エクスカリバーの迎撃行動……たかだか30mレベルの兵器の迎撃行動に囮を用いるって……他に何かがいるって事ですか?」

 

「……ああ、君の思ったとおりだ、これを見てくれ」

 

 

エーカー少佐がそういうと、ミーティングルームに備え付けられたモニターに映像が映し出される。

かなりの速度で高度を上げ、雲を突き破る映像が流れている。

映し出された映像はISの搭乗記録を録画したもののようだ。

 

 

「この映像は空軍所属のIS2機が撃墜されるまでの映像だ、当然この2機は実戦仕様(アンリミット)状態だった」

 

 

ISには宇宙用パッケージが装着されており、通常の限界高度を超え、間もなく成層圏を超える。

瞬間、相方のISが高出力レーザーに飲まれて爆発した。

 

振り返った記録側のISの前には2機の全身装甲のIS。

背部に特徴的な8枚翼の機械翼を持つ機体と、鶏冠の様な頭部が特徴的な紅い装甲の機体。

 

片方が砲撃をしかけ、もう片方がビームサーベルを取り出して迫る。

その攻撃の速度は相当なもので、動揺していたのか記録側のISは避けれられなかった。

振り下ろされるビームサーベルによって映像は途切れた。

 

装甲の繋ぎ目などが歪に見えたが、真、カナード、ラキーナ、アスランの4人には見覚えがあった。

そのMSの名は――

 

 

「……フリーダムとジャスティス」

 

「……ああ、装甲が一部PS装甲ではないようだったが、間違いないな」

 

 

かつてその機体に搭乗していたラキーナとアスランが呟く。

2機ともC.E.の軍人の中では知らぬ人間のいないMSだ。

 

 

「あの、すいません……そのISの搭乗者って……」

 

 

「……ああ、織斑一夏君、君の想像通り、搭乗者は死亡している」

 

「っ」

 

「シールドバリア自体、宇宙での安定した活動を行うための機能だし、絶対防御は、緊急用のそれだしね……ここまで直接的にやられたらね」

 

 

束が呟き一夏が顔を顰める。

 

 

「失礼します、エーカー少佐」

 

「どうした?」

 

 

ミーティングルームに入室してきた部下の男性士官がエーカー少佐の傍に駆け寄る。

部下の耳打ちが終わると、エーカー少佐はセシリアに視線を向け告げた。

 

 

「……オルコット嬢、チェルシー・ブランケットが今この基地に来ている」

 

「チェルシーがですかっ!?」

 

 

突然の報告に、セシリアの声が高ぶる。

 

 

「ああ、君との面会を希望している……彼女はBT3号機盗難の重要参考人だ、できる事ならば話を聞きたいと考えているが協力して貰えないだろうか」

 

 

エーカー少佐が諭すようにセシリアに告げる。

 

彼女は今回の事件について、核心に近い存在である。

そしてセシリア自身にとっても彼女と話をしたかった。

大切な家族である彼女と――。

 

 

「承知しました」

 

「ありがとう」

 

 

了承の意を伝えて立ち上がったセシリアがエーカー少佐の部下に案内され、ミーティングルームから出ていく。

 

 

「……IS部隊に連絡を入れろ、チェルシー・ブランケットの説得が不可能だと判断した場合はISを用いて拘束すると」

 

 

部下にエーカー少佐はそう告げる。

命令を受けた部下の男性は敬礼を返して、ミーティングルームを飛び出していく。

 

その判断は的確なものだ。

相手はISを所持しており、しかもそれは最新鋭の第3世代型だ。

セシリアの説得が通じず、彼女がISを使用して襲撃を掛ける可能性はゼロではない。

 

 

「……有事の際には私達も拘束に加わりましょう」

 

 

千冬が立ち上がり、エーカーに告げる。

この場にいる全員が一般のIS搭乗者以上の実力に専用機を持っている上、真をはじめ、カナードにラキーナ、アスラン、IS開発者の束、加えて暮桜が復活している千冬までいるのだ。

 

戦術的な行動をとれるかを除いた単純な戦闘能力だけならば、並大抵の特殊部隊よりも上の戦闘力があると言っても過言ではない。

 

 

「感謝します、ミス織斑」

 

 

エーカー少佐が千冬の申し出に礼を言って笑みを浮かべる。

 

そして一同はセシリアが向かった先、第1滑走路へと向かった。

 

 

――――――――――――――――

第一滑走路

 

 

「……数日振りですね、お嬢様」

 

 

メイド服を着たチェルシーが一行の到着を確認して、笑みを浮かべる。

 

 

「……チェルシー、何故貴方がBT3号機を強奪したのか……話してはくれませんの?」

 

「……お嬢様、勝負をしましょう」

 

「勝負?」

 

「ええ、お嬢様が私に勝てば私は全てをお話しします……ですが負ければ今回の件については話せません、私が1人で解決して見せます」

 

 

そう言ってチェルシーはISの拡張領域から2振りのサーベルを取り出す。

1振りをセシリアに向かって放り、彼女はそれを受け取る。

 

 

「……分かりましたわ、直接聞き出して見せますわ、チェルシー!」

 

 

サーベルを鞘から引き抜いてセシリアが構える。

 

 

「承知しました、お嬢様。 ルールは4ポイント先取でいかがでしょう?」

 

「異存ありませんわ」

 

 

同じように鞘からサーベルを引き抜いたチェルシーがセシリアに相対して構える。

 

 

「では、開始の合図は私が取らせて頂こう」

 

 

エーカー少佐が2人に告げ、頷いて答えた。

 

 

「……始めっ!」

 

 

開始の宣言と同時にまずはセシリアから動いた。

 

チェルシーと彼女の距離は約3メートル、その距離を素早く詰める。

IS学園の女子制服はあまり運動には向いていない構造となっている。

それは制服をドレスの様に改造している、彼女の場合より顕著である。

普通に走る程度ならば問題はないが、瞬発力が必要になる場面では決して向いているものではない。

 

だがそんなハンデを微塵も感じさせないほど、彼女の動きは素早いモノであった。

 

甲高い金属と金属の接触音が響き、サーベルが弾かれる。

 

セシリアの高速の一突きをチェルシーがサーベルでいなしたのだ。

そして手首、身体を回転させることで防御から攻撃に素早く移行し、セシリアの顔面をサーベルが狙う。

 

 

「っ!」

 

 

間一髪サーベルでの防御が間に合ったが、彼女の綺麗な金髪が数本断ち切られて宙を舞う。

防御の勢いのまま、セシリアはチェルシー側のサーベルを弾いて数歩距離を取った。

 

 

「まずは1ポイント……お嬢様、まさかこれで終わりではありませんよね?」

 

「……いいえ、まだまだこれからですっ!」

 

 

再びチェルシーとの距離を素早く詰める払い切りを繰り出すセシリア。

それを見極めて一歩下がるチェルシーであったが、それを予測していたセシリアはカウンターを貰うことを覚悟でさらに一歩踏み出す。

 

 

「これで1ポイントっ!」

 

 

サーベルの一閃でチェルシーの胸元を切り裂いた。

 

 

「お見事です」

 

 

切り裂かれた胸元から見えるのはISスーツ、乱れた胸元をチェルシーは正してセシリアに言った。

 

 

「ですが、これからですっ」

 

「っ!?」

 

 

チェルシーの動きが先程よりもさらに早くなった。

まるでこれからが本領発揮であるといわんばかりに。

 

その速度と剣速の鋭さにセシリアは反応が遅れた。

一瞬で懐に潜り込んだチェルシーは意趣返しの様に、セシリアのスカートを切り裂く。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

「これで2ポイント目」

 

「っ、まだぁっ!」

 

 

構えなおしたセシリアがチェルシーに迫る。

だが、彼女が繰り出した刺突はチェルシーに簡単にいなされてしまった。

しかしその一撃でチェルシーの髪を数本、はらりと散っていた。

互いに2ポイント目、しかしチェルシーのほうが力量が上に見える。

 

 

「……あのメイド、かなりの腕前だな」

 

「体捌きがしなやかで速い……セシリアの一撃も完全に見切ってたみたいだな」

 

「剣の扱いも手馴れているな……彼女も悪くはないが、厳しいぞこれは」

 

 

2人の攻防を見て、カナード、真、アスランがチェルシーの実力を推測して呟く。

前世であるC.E.世界では、近接格闘技術で間違いなく上位に食い込み、生身の格闘技術に秀でている3人だ。

その推測は当たっていた。

 

振り下ろされるサーベルがセシリアの胸元を切り裂く。

たまらずチェルシーから距離を取るセシリア。

 

 

「これで3ポイント目、お嬢様は私の剣を見切れていない、勝負は決まりま……」

 

 

そこまでチェルシーが言いかけた。

だがその言葉は最後まで紡がれなかった、何故ならば。

 

 

「いいえっ! まだですわっ!」

 

 

数度の突きによって傷ついた繊維を引き千切る、セシリアが制服の上半身部分を引き千切ったのだ。

 

 

「あぁぁっ!」

 

 

続いて下半身部分を脱ぎ捨てる。

 

彼女の突然の行動に一部の少女達は困惑しつつも想い人の目を塞ごうと動きだそうとしたが、制服の下から現れるのは下着ではなく、ISスーツ。

 

 

「……何の真似ですか? 制服が邪魔で私の動きが追えなかったとでも?」

 

「いいえ、そんな自惚れた言葉は言いません!」

 

 

そう言って転がっていたサーベルを構える。

 

 

「チェルシー!私が貴女を止めます!貴女は私の家族だからっ!そして、貴女ともっと話をしますっ!今までのこと……これからの事をっ!」

 

「……!」

 

 

明らかに数瞬前とは雰囲気が違った。

 

炎の様に熱い闘志。

だが決して玉砕を覚悟しているのではない、言葉通り自分に言葉を届けるためだけに己の命を懸ける力強さを感じる。

それだけの【凄み】をチェルシーはセシリアから感じていた。

 

 

「……いい目です、お嬢様。まるで父君の様です」

 

「……いきますわっ!」

 

 

制服を脱ぎ捨てて身軽になっただけではない。

意志の力、そしてその凄みか。

 

 

「っ!」

 

 

セシリアの動きが先程とは比べ物にならないほど早くなっていた。

全身のバネを使った、しなりの強い一撃。

 

その一撃は美しくもあり、艶やかであった。

 

セシリアのサーベルをチェルシーのサーベルで受ける。

甲高い音を立てて、両者のサーベルが根元から折れた。

 

しかしセシリアはその折れたサーベルをそのままチェルシーに向ける。

 

 

「これで3ポイントっ!」

 

「っ、まだですっ!」

 

 

チェルシーの胸元を切りつけそのまま、連撃に移る。

だがチェルシーも折れたサーベルでセシリアを狙う。

 

しかし、それでも今のセシリアの爆発力は止められなかった。

首筋に添えられる、折れたサーベルの切っ先。

 

そして自身のサーベルを握る右手をセシリアは左手で掴み上げ、止めていた。

 

 

「……っ!」

 

「これで……私の勝ち……ですわっ!」

 

 

興奮で上気した顔のセシリアがチェルシーに告げる。

 

 

「……私の負けですね……お強くなられました」

 

 

折れたサーベルから手を離してチェルシーが笑みを浮かべる。

何処か晴々した、今まで溜め込んでいたものが晴れていくような爽やかな笑みだ。

 

 

「……お帰りなさい、お嬢様」

 

「ええ、ただいま、チェルシー」

 

 

チェルシーの言葉にセシリアも笑みを浮かべた。

 

 




セシリアが主人公過ぎて。


次回予告
「PHASE4 歌姫の残滓」

「……一緒に来てくれるか、簪?」

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