【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
太平洋上 ギガフロート
海上フロート施設が連結し合って移動可能かつ巨大な海上施設として機能しているのが、ここギガフロートである。
かつてジャンク屋ギルドが完成させた施設であり、民間用マスドライバーにより宇宙へのアクセスを可能にしている。
その施設にシン達赤鳥傭兵団とカナードは訪れていた。
すでにシンのウィンダムやカナードのドレッドノートHはMS搭載可能シャトルに搭載されている。
このシャトルはバルトフェルドがジャンク屋を経由してシン達に渡した宇宙までの足である。
ちなみにレセップス級アンデルセンでも海上航行は可能であるが、足をバルトフェルド側が用意した為、信頼できるジャンク屋に預けている。
「もう少しで出発か」
シャトルに乗り込んだシンはG軽減シートのベルトを締めつつ、呟く。
「ですね……まだまだ指定されたL1宙域までは遠いですが」
「まあ、そこまでの足はクライアント側が用意してくれるんだからありがたいよ」
隣のシートで出発を待っているアビーに答える。
彼女は妙に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「それにしても廃棄されたコロニーを拠点に……まるでA.D.時代の特撮フィクション作品みたいですね」
「特撮フィクション作品?」
「ええ、A.D.時代の日本ではそういった作品をよく作っていたんですよ、ヒーローが地下に秘密基地を作ったりとか!」
「なるほどね、廃棄されたコロニーを秘密基地にって?」
「そうですっ!カッコいい……あっ、すいません、熱くなっちゃいまして」
アビーが恥ずかしそうに視線をそらす。
苦笑しつつも全然、とシンは返す。
容姿端麗、自分が苦手としている事務仕事を全部やってくれている才女のアビーがたまに見せるこういった一面は彼女の魅力なのだろうなと思う。
そして少しだけ目を閉じて思考の海に沈む。
(ヒーローか……)
かつて裏切り者の上司に言われたことを思い出した。
戦争はヒーローごっこじゃない。
そんなことは分かっている。
力を持って、その力で何が守り、何を傷つけるのか。
誰を守り、誰を傷つけるのか。
傭兵となったシンはそれを常に考えていた。
そしてその答えはすでに出ている。
力なき、迫害される人達を、今平和に暮らしている人達という花を守る。
理不尽な力によって吹き飛ばさせないために。
(花を……今ある命を決して散らせない、それが俺の想いだ……奴等から見ればヒーローごっこのままなんだろうが……!)
目を開き、開いていた掌を握りしめる。
それと当時に、シャトルの搭乗員による出発のアナウンスが響く。
そしてシン達を乗せたシャトルは宇宙へと昇っていく。
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アメノミハシラ 停船ドック 待機室
シン達を乗せたシャトルは大気圏を突破した後、オーブから独立の意思を示したアメノミハシラへと寄港していた。
なぜアメノミハシラに寄港しているかというと、ここで別のシャトルに乗り換えてL1宙域に向かうようバルトフェルドが指示をしていたからだ。
アメノミハシラは、オーブの五大氏族【サハク】が管理する軍事宇宙ステーションであり、現当主【ロンド・ミナ・サハク】が統治を行っている。
適材適所に人材を配置し、新型MSの開発も行える工場等の設備も整っている。
もはやもう1つのオーブ政府と言っても過言ではなく、ヤキンドゥーエ戦役時にオーブが陥落した際は、ここに身を寄せた者は決して少なくなかった。
また現在はとある理由により難民となったオーブの民の受け入れも行っている。
「何か結構豪華な待機室だな、シン」
「ん、ああ、そうだな」
ヴィーノの言葉に生返事を返す。
ドック内に設けられた待機室で赤鳥傭兵団はシャトルの乗り換えを待っていた。
アメノミハシラにも話が通っているらしく、スタッフによって手際よく案内されていたのだ。
「お待たせいたしました」
スタッフの声と共に待機室のドアが開く。
ドアの先には、身長190cmに迫る長身に黒い長髪の美女が立っていた。
黒のマントの様なサハク家の装束を身につけた様はまさに女傑と言える。
だが胸部には豊かな果実を実らせ、容姿は下手なモデルなど比べ物にならないレベルだ。
充分に女性的な魅力も兼ね備えている。
シンはその人物をよく知っている。
元オーブの住人ならばテレビでよく見かけた顔だからだ。
「【ロンド・ミナ・サハク】……っ!?」
そう、待機室に現れたのはアメノミハシラのトップ、【ロンド・ミナ・サハク】であったのだ。
「元ザフトのトップエース……【シン・アスカ】か」
ミナはシンを見定めるような視線で見た後、フッと笑みを浮かべる。
シンもこの数年で身長が180cmを超えるまでに成長していたが、それでもミナの方が大きいため見上げる形となる。
「何の用でアンタみたいなトップが……?」
「なに、極めて個人的な理由だ」
不敵に笑った後、その笑みを消し去ったミナがシンから視線を外さずに続ける。
「ヤキン戦役のオーブ侵略戦、国家の宝である国民に犠牲を強いたオーブ政府に変わり謝罪したい」
そういってミナが頭を下げた。
その様子にシンを含め赤鳥傭兵団、そして同席しているカナードも目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
「えっ、いやっ、突然何を……っ!?」
まさかいきなり頭を下げられるとは思ってもみなかったシンは取り乱しながら告げる。
「シン・アスカ、お前はオーブ侵略戦の際に両親と妹を亡くしたと聞いている……氏族としてすべき責任を放棄していた私はアスハの小娘と同じ愚者だ、故の謝罪だ」
頭を上げたミナが告げ謝罪の経緯を語る。
連合によるオーブ侵略の際、ミナは双子の弟であるロンド・ギナ・サハクと共に宇宙にいた。
当時の2人は連合に秘密裏に協力し、オーブ侵略の混乱で政敵となる輩が全ていなくなるのならば好都合とまで考えていた。
言うならばサハク家だけに固執していたのだ。
その後、最強の傭兵である叢雲劾、ジャンク屋であるロウ・ギュールと出会ったことによりギナは死亡。
ミナは自身の考えを改める機会を得たのだ。
国は領土などではなく、そこに住む民。
現在のミナはそれを信条としてアメノミハシラを統治している。
「……貴女は命の事をちゃんと考えてるんですね」
「当然だ、余はこのアメノミハシラに集うオーブの民を導き守る為にいる」
「……元国民としてそれを聞けただけで充分です、ありがとうございます」
少しだけ笑みを浮かべたシンはそう言って軽く会釈した。
その後乗り換え先シャトルが到着し、赤鳥傭兵団の搭乗が完了後、アメノミハシラを出発した。
カナードについては傭兵部隊X母艦であるオルテュギアがアメノミハシラに到着し、そちらに乗船し同行している。
その様子をミナは私室から眺めていた。
「……カガリよ、お前は彼のような存在からいつまで目をそらし続けるのだ?」
地上の故郷を治める氏族の少女に届かない言葉を投げる。
現在のオーブはカガリ・ユラ・アスハが父であるウズミから継承したオーブの理念に基づき中立の立場をとっている。
だがその実はプラントの傀儡、プラントの保護国や領地と言ってもいい有様である。
元々オーブではナチュラルとコーディネーターはある程度共存できていたのだが、ここ数年でオーブにもコーディネーター優遇の政策が執行されはじめており、ナチュラルの国民の流出が相次ぎ、人口比率はプラントから移り住んだコーディネーターが多くなってきている。
またモルゲンレーテにもプラントのファクトリーの手が伸びているとの噂も上がっている。
「世界は再び揺れ動く……お前は理念と民、どちらを取る? その選択次第では……」
遠ざかっていくシャトルとオルテュギアを細目で見つつ、ミナは暗い私室で1人オーブの今後を見据えていた。
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アメノミハシラからシャトルで出発して約1日後――
シリウス1 MS工場 アマデウス内 ミーティングルーム
シン達を乗せたシャトルはL1宙域、廃棄されたコロニーであるシリウス1の宇宙港に到着していた。
廃棄されたコロニーとは思えないほど宇宙港は整備が行き届いており、宇宙港からはエレカに乗せられてシン達は秘密裏に建造されたMS工場に案内されていた。
その際、隣接する形で設立されている大型艦建造施設にて建造されている大型艦を見ることができた。
かつてのデュランダル政権下のザフトでの旗艦、ミネルバに酷似した大型艦が現在施工中の様であった。
ミーティングルームの扉が開かれ、室内に入る。
ミーティングルームにはシン達の他に【数人】が待機していた。
「……おいおいおい、有名人だらけじゃないか」
小声でヴィーノがシンに告げる。
彼の言葉ももっともであろう。
ミーティングルームに待機している人間は誰もがこの戦乱のC.Eでは指折りの猛者であったからだ。
南アメリカ合衆国の英雄【切り裂きエド】こと【エドワード・ハレルソン】
崩壊した旧連合のエース、【月下の狂犬】こと【モーガン・シュバリエ】
テストパイロット時代からの付き合いであり、行方不明となっていた【コートニー・ヒエロニムス】
最強の傭兵であり、駆け出し時代に多大に世話になった【サーペントテール】の【叢雲劾】に【英雄殺し】の【イライジャ・キール】
等々――錚々たる面々だ。
コートニー、劾、イライジャにはかつての恩もある為軽くシンは会釈する。
コートニーは特に反応を返してくれなかったが、劾は頷き、イライジャは笑みを浮かべてくれた。
「叢雲劾……奴もこの依頼を受けていたのか」
部屋を見渡したカナードが呟く。
軽いショックを受けていたシン達であったが、そんな彼等に声をかけてくる者がいた。
「シン! シン・アスカっ! やっぱり来てくれたんだな!」
褐色の肌に赤のタンクトップとボロボロのジーンズを身につけたボーイッシュな少女――いやすでに一人前のレディと言える年齢だろう。
年齢は17歳くらいであろうか、適度に括れたボディラインにタンクトップを盛り上げる2つの丘。
かつて連合に占拠されたガルナハン解放作戦の際に協力してくれた現地レジスタンスの少女。
幾分か、いやかなり成長しているがシンやヴィーノは彼女に見覚えがあった。
「お前、コニールかっ!?」
「ああ、久しぶりだな、シン、ヴィーノ!」
シン達に声をかけたのはガルナハンの少女、コニール・アルメタであった。
「あっ、ああ、随分と久しぶりだな、コニール」
太陽に近いL1宙域に建設されたシリウス1はコロニー自体に対策がされているが、平均気温がL5やL4に建設されたコロニーよりも高い。
彼女が薄着でいる理由はわかるが、以前よりも成長して女性としての魅力が高くなった身体に、タンクトップ姿は色々と目のやりどころに困ると言うのがシンとヴィーノの本音であったが。
「女らしくなっちゃってまぁ……いっ!?」
「あ、すいません、足が思いっきり滑りました」
「あっ、足が滑るっておまえなぁ……!」
ヴィーノはいつの間にか隣にいた整備士の後輩に全力で足を踏まれ悶絶する。
それを苦笑しつつシンが見ているとミーティングルームの扉が開いた。
「やあやあ、皆集まったようだね」
軽薄な口調でアンドリュー・バルトフェルドが室内に入ってくる。
ザフトの白服を着た彼に続いて、同じく白服の【イザーク・ジュール】その部下【シホ・ハーネンフース】が続けて入室する。
「……ジュール隊っ」
アビーが呟く。
その表情は決して友好的とは言えないものであった。
理由はメサイアでの決戦の際に、ジュール隊は突如としてザフトに反旗を翻したからだ。
裏切りの理由はザフト内でも諸説唱えられているが、戦後処理の関係で有耶無耶にされてしまっていた。
アビーの視線に気づいたのかバルトフェルドが苦笑しつつ告げた。
「さて、皆色々と言いたい事があるかもしれないが、まずは【バックワード】へ……いや、今からこの名前は相応しくないな」
一度ごほんと咳払いして続ける。
「歌姫の騎士団に反旗を翻す【反歌姫の騎士団連合】……【ネオ・ザフト】へようこそ、歓迎しよう」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
外伝連中が本編に出てきてたらまだあんなエンドには行かなかったんじゃあないかなぁ……でもロウとか向こう側に付きそうなんだよなぁ。
正直ジャンク屋=火事場泥棒でそれが公認されてる種世界はやっぱりおかしい。
ジャンク屋は討伐しなきゃ。
ああ、簪とのイチャイチャが書きたい(マテ