【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE7 二人で

織斑一夏と飛鳥真がISを起動させて、男性搭乗者となる数年前。

 

某国に一人の科学者がいた。

その科学者の専攻は【人工知能開発】であり、その分野では天才と呼ばれるほどの人物であった。

 

その彼が突如失踪し、某国政府が諜報員を駆使して彼の行方を追ったが現在に至るまで行方不明のままである。

ただ、彼が失踪する直前、日課でつけていた日記に手がかりとみられる文章が残されていた。

 

 

「彼女は女神だっ! ついに出会えたんだ! 私は彼女を永遠のものにしなければ……!」

 

 

上記の文章が震えた筆跡で残されていた。

この文章中の【女神】と呼ばれる女性については目下調査中である。

 

――某国諜報員の調査手帳から一部抜粋。

 

――――――――――――――――

 

 

『君はまさか……っ!?』

 

『はっ、はい、【飛燕】……です。真様』

 

 

飛燕と名乗った少女がぺこりと頭を下げる。

それを見たデスティニーが少々呆れた様なため息を付いてから口を開く。

 

 

『もー、そんなに緊張しなくてもいいって言うのにさー。飛燕は態度が固いよ、うん』

 

『デスティニー姉さんが搭乗者に対してフランクすぎるのっ』

 

 

飛燕がデスティニーに強めに返すが、すぐに真に向き直る。

 

 

『失礼しました、真様。簪様を助ける為にお力をお貸しいただきたいのです』

 

『簪お姉ちゃんを助ける為には真、アナタの力が必要になるの』

 

 

『俺の力……っ、しまっ!?』

 

 

いままでのやり取りで失念していたが、ホワイトネス・エンプレスは健在のはず。

即座に振り返ってみるが、ホワイトネス・エンプレスは微動だにしていなかった。

 

 

『大丈夫だよ。今は私達が真の意識に語りかけてるから、時間は一秒も進んでないよ』

 

『……そうなのか』

 

 

今のうちに攻撃できないかとも考えたが、意識に働きかけて時間感覚を誤魔化しているらしいので無駄であろうと真はデスティニーと飛燕に向き直る。

 

 

『それで、俺はどうすればいい?』

 

『今簪お姉ちゃんの意識はアイツの能力によって電脳仮想空間に隔離されて、囚われてる状況なの』

 

『なので簪様を救出するにはまずその仮想空間にアクセスする必要があるのです』

 

 

2人の説明で今簪がどうなっているのかを理解した真が首を縦に振って答える。

 

 

『簪がどうなっているのかは分かった。けど、どうやってアクセスするんだ』

 

『私達が真の意識を電脳ダイブの要領で仮想空間に送り込むの』

 

 

ISの【電脳ダイブ】

それ自体は真も知識があった。

ISの同調機能を使用し、操縦者保護神経デバイスを通して電脳世界、直接ネットワーク上のシステムに干渉できる機能だ。

現在はアラスカ条約によって規制されてもいる。

 

 

『幸いデスティニー姉さんと今の私はVLユニットによってエネルギーのラインを繋ぐことができる状態です』

 

『そして私と飛燕の同調機能を使った電脳ダイブの応用で真、アナタの声を簪お姉ちゃんに届かせるの』

 

『サポートは私とデスティニー姉さんで行います』

 

 

デスティニーと飛燕が真に告げる。

僅かでも可能性があるのならば、それに賭けないわけがない。

 

 

『分かった、やってくれ』

 

 

デスティニーと飛燕が真に告げる。

自分一人ではこの状況を打破するのは不可能だ。

 

僅かでも可能性があるのならば、それに賭けないわけがない。

 

 

『ならすぐに始めるよ。真、電脳ダイブ中は完全な無防備になるから……』

 

『分かってる。単一仕様能力も使ってVLで光の繭を作って防御する』

 

 

真の返答にデスティニーがコクリと頷く。

 

 

『うん、この後すぐに感覚が元に戻るから。真が防御行動をとったらすぐに電脳ダイブ始めるからね』

 

 

その言葉の後、今まで静止していた周囲の時間が動き出した。

すぐさま飛燕を自機に引き寄せてVLユニットを起動して後退。

 

 

『おや、何の真似ですか、シン?』

 

 

ラクスの声を無視して【単一仕様能力】を発動。

まるで宝石の様に美しく輝く真紅の光翼が広がる。

 

光の翼を操作して、デスティニーと飛燕の機体を繭のように包み込む。

その際、いまだ反応を示さない簪の顔が視界に入った。

 

 

(……簪、待っててくれ。絶対に助けてみせるっ!)

 

 

そう決意して、瞳を閉じる。

瞳を閉じると同時に、自身の意識が遠のいていくのを感じた。

 

――――――――――――――――

 

 

『……ここは』

 

 

目を開けると、そこは一面の花畑。

見覚えがあり、何度か訪れたデスティニーの空間。

 

ふと自身の身体を見てみると、ISである【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】を身に纏っていた。

 

 

『真っ!』

 

 

ワンピース姿のデスティニーが目の前に現れた。

 

 

『私の空間を経由してアイツの仮想空間にアクセスするよ、空見てっ!』

 

 

デスティニーが指さした方向を見ると、青空の一部分だけが暗くなっており空間には穴が開いている。

 

 

『あそこに飛んでっ! あそこが入口なのっ!』

 

『分かったっ!』

 

 

機体のスラスターを噴かせて、花畑から飛び立つ。

デスティニーもふわりと浮かび上がって追従してくる。

 

そして2人が穴の直前まで来ると、飛燕も姿を現した。

 

 

『真様、全力でサポートさせて頂きます』

 

『……ああ、頼むよ』

 

『はい』

 

 

光の翼を翻して穴に飛び込む真とその彼を追うデスティニーと飛燕。

しかし穴に飛び込んでた途端、何かに叩きつけられたかのような衝撃が走った。

 

 

『くっ……!』

 

 

その正体は電脳空間を構成するデータの塊。

まるで嵐の様にうねり、飛び込んだデスティニーに襲い掛かったのだ。

 

その奔流にも押し戻されないよう、スラスターと光の翼の出力を高める。

 

だが先に進むにつれて、真の身体にノイズが奔って歪む。

すぐに元に戻るが、またか別の箇所が歪む。

 

先に進むに連れて、ノイズの頻度は高くなっていった。

 

 

『なっ、なんて情報の奔流……っ!?』

 

『くぅっ、真の意識データを保護するのが精一杯だなんて……っ!』

 

 

自機の背後にいる2人から声が漏れる。

デスティニーと飛燕は現在、真の意識が霧散しないように意識データの保存を最優先している。

そうでなければこのデータの濁流の中で真の意識は霧散してしまい、彼の精神は破壊されてしまうだろう。

 

 

『ぐっ……先に進めないっ!』

 

 

すでに頭部以外全てにノイズが奔っている。

デスティニーと飛燕のデータ保護があってこれなのだ。

これ以上進んだら、結果は目に見えていた。

 

 

『まずいよ、真!このまま進んだらっ!』

 

『でも進まなきゃならないんだろっ!』

 

 

そう叫んで先に進む為にスラスターを噴かせる。

だが進んだ瞬間頭部にノイズが発生し、一瞬だけ、真の意識が途切れた。

そして真は一気に押し戻される。

 

 

『真っ!』

 

『真様っ!』

 

『くっ……そぉっ!』

 

 

体勢を立て直して、頭を振りつつ再びデータの奔流に立ち向かうがやはり先にはどうしても進めない。

 

 

『こんな所で……こんな事で立ち止まっていられないんだぁっ!!』

 

 

光の翼を再度広げた真が叫ぶ。

 

 

その時であった。

 

 

――彼の耳に【声】が聞こえたのは。

 

 

『彼女を守るんだろう?ならこんなところで躓いている場合じゃないぞ、シン』

 

 

――いつも冷静で、だが確かに優しさを持っていた親友の声。

 

 

『ほーら、しゃきっとしなさいよ。背中、押してあげるわよ、シン』

 

 

――傷ついた自分を支えてくれた、大切な女性の声。

 

 

『シン、頑張って。あと少しだから』

 

 

――かつて守ると誓って守れなかった儚い少女の声。

 

 

(……っ!!)

 

 

3人の男女の声が確かに聞こえた。

決して幻聴ではない、見知った3人の声。

 

 

トンッ、と確かに背中を押された感覚があった。

同時に身体に奔っていたノイズが一気に消えた。

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 

奔流に押し流されそうであったデスティニーガンダム・ヴェスティージは、その速度を一気に立て直して嵐を突っ切っていく。

 

 

『えっ、えっ!?急にデータの保護が強くなったっ!?』

 

 

飛燕の困惑する声。

妹とは違い、何処か納得したような表情をデスティニーは浮かべていた。

 

 

『……そっか、真はいつも見守られてるんだね』

 

 

紅い光の翼が情報の奔流と言う名の嵐を突っ切っていくのを背後から見ながら、デスティニーはそう呟いた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『全部俺が叩き切ってやるっ!』

 

 

まるで泣いてしまいそうなほどの悲しみと燃えたぎるような怒りが混ざり合った修羅の様な表情。

恋仲になる前も、なった後も彼のそんな表情は見たことがなかった。

蹂躙するかのように、紅いMSはその巨大な剣を振り回して軍艦を両断していく。

 

一隻、二隻、三隻。

軍艦が次々と彼の手によって落とされていく。

最後に残った空母、その艦橋には先ほど、オーブでの惨劇の際に彼を助けた軍人の男性がいた。

だが彼はそれに気づかず、剣を振り下ろす。

 

 

『これで……最後だぁっ!』

 

(っ、だめ、真っ!)

 

 

振り下ろされた剣は、男性のいる艦橋を容易く切り裂いた。

艦橋から広がる火の手はすぐさま空母を包み込み、燃料に引火。

爆発が洋上で起こり、その炎にMS【ソードインパルスガンダム】が照らされていた。

 

私の叫びは届かない。

これは過去の彼の記憶だと、ラクスは言っていた。

それはすなわち、知らず知らずのうちに恩人を彼自身の手で殺めてしまったという事だ。

 

 

(こんなの、ひどい……っ)

 

 

再び場面が移り変わる。

 

黒い機体から放たれたビームがインパルスガンダムを狙う。

両マニピュレータを破壊され防御が出来ないインパルスガンダムを、オレンジのモノアイのMSが庇う。

インパルスガンダムと同じようにマニピュレータを破壊されており、インパルスを庇うには自機を盾にするしかなかった。

 

庇ったMS【グフ・イグナイテッド】の動力炉付近にビームは直撃していた。

 

 

『ヴェっ、ヴェステンフルス隊長っ!』

 

『だーかーらー、ハイネだって……』

 

 

彼が隊長らしき男性に叫ぶ。

その直後、男性が乗ったMSは爆散した。

 

 

『ハイネェーっ!!』

 

 

(もういやぁっ!)

 

 

もう見たくない、先程から彼の記憶はどれも凄惨で悲しみに溢れていた。

彼から教えてもらっただけで理解していたつもりだった。

 

だけど本当の意味で彼が経験してきた事を私はまるで理解できていなかった。

 

 

姿を消していたラクスが目の前に現れると同時に、あたりの風景が消え漆黒の空間に変化する。

 

 

『彼は今見た様にこの世界では決して経験する事のない凄惨な戦いを潜り抜けてきた戦士。シンの事を何も知らなかった貴女に彼を支えることが本当に出来ますか?』

 

「……っ」

 

 

彼女の言葉に言い返せなかった。

そんな私を見て、ラクスは笑みを浮かべていた。

あざ笑うかのような冷笑だった。

 

 

『理解してもらえたようですね。貴女の様な小娘ではシンを支えることなど出来ません。貴女はここで消えてくださいな。精神が死ねば肉体も引っ張られて死にますので』

 

 

恍惚な表情を浮かべたラクスは手に出現させた拳銃で私を狙う。

彼女の言葉に以前、彼が言ってくれた言葉が脳裏に奔った。

 

 

――簪だから、俺は自分の気持ちに正直になれたんだ。ありがとう

 

 

そうだ。

 

確かに私は彼の過去を本当の意味で知らなかった。

けど彼を好きになったこと、この感情は間違いなんかじゃない。

 

 

誰にも否定されたくないし、否定させない!

 

 

「……ってくれた」

 

『? 何か言いましたか?』

 

「真は、私だから正直になれたって言ってくれた!好きだって、言ってくれたっ!」

 

 

ラクスに叫ぶ。

彼に好きだと告白された際に言ってくれた言葉。

本当に心から嬉しかった言葉。

 

 

「私は確かに彼の凄惨な過去を知らなかった。けどそれでも私は彼の事が好きっ! アナタにこの気持ちを否定なんかさせないっ!」

 

 

その言葉に、ラクスの表情が歪んだ。

 

 

『っ……アナタがいくら叫んだところで、この状況は変わりませんわ』

 

 

表情をすぐさま冷笑に切り替えたラクスは銃のトリガーに指をかける。

狙いは私の額。

 

トリガーが引かれる、その瞬間だった。

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

 

雄々しい咆哮と共に紅い光が私とラクスの間に飛び込んだ。

刹那、銃を持った彼女の右腕が切断され宙を舞う。

 

そして広がる紅い翼。

【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】から広がる光の翼が柔らかく私を照らしている。

 

当然、それに搭乗しているのは【最愛のヒーロー】だった。

 

 

『ごめん、ちょっと遅くなった』

 

「……ううん、大丈夫」

 

 

いつの間にか、涙が溢れていた。

 

けど溢れる涙を止められない。

先程までの凄惨な記憶から流れる悲しみの涙ではなく、彼が来てくれた事が心の底から嬉しいのだ。

 

 

『……さっきの嬉しかった』

 

「えっ、聞こえてたのっ?」

 

 

それに一瞬ドキリとして、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

少し恥ずかしそうにしている彼が苦笑していた。

 

 

『そっ、そんな!?何故貴方が、シン、何故ここにっ!?』

 

 

真に切断された腕を庇いながら、ラクスが取り乱す。

 

 

『彼女を助けに来た。それ以外に理由なんてあるわけないだろ』

 

『真っ、電脳世界から脱出準備できたよっ!』

 

『こちらです、真様、簪様っ!』

 

 

見たことがない2人だけど、真の味方だというのは直感で理解できた。

いまだ取り乱しているラクスに向かってビームライフルを展開して放つ。

それを後方に下がってラクスは避ける。

切断された右腕は、周囲からデータが集まって再生していた。

 

 

『何故、何故ですのっ!何故、シン、アナタはそこまでしてその女を……っ!!』

 

 

2人の手をとった私は意識が薄れていくのを感じた。

おそらく同じように感じているであろう真が口を開いた。

 

 

『今度こそ絶対に、守るって決めたからだ』

 

 

そう確かに告げたのと同時に、私たちの意識は途絶えた。

 

――――――――――――――――

 

 

デスティニーが作り出した光の繭が、開かれる。

紅い光の翼と共に、青い光の翼が羽を広げた。

 

現れるのはデスティニーと飛燕。

搭乗者である真と簪の意識は無事戻っていた。

 

 

『……真、ありがとう』

 

『こっちこそ。シン・アスカとしての記憶を見た上で、ラクスにああ言ってくれたのが本当に嬉しいんだ』

 

 

少し照れたように彼が簪に答える。

 

 

『……やっぱり聞こえてたんだ』

 

『あー、うん。まあ、それは置いといて……だっ!』

 

 

デスティニーの光の翼が翻り、まるでビームシールドのように変化する。

単一仕様能力によって操作されたそれが、強大な光の濁流を受け流し、逆に翼へと還元していく。

 

どす黒い赤、まるで血の様な紅の翼を開いてビームを放ったホワイトネス・エンプレス。

相反して宝石の様な煌びやかな紅の翼を翻すデスティニーガンダム・ヴェスティージ。

 

 

『何故、何故、何故、アナタは私のモノにならないのっ!? 世界は私のモノ、私は世界のモノ、それはこの世界でも同じなのにっ!』

 

 

武装を構える瞬間、投影ディスプレイに新たな武装の情報が提示された。

それはデスティニーの近接格闘武装、アロンダイトの画像であった。

ただ唯一、異なっているのは実体刃部分は分割展開され、刀身に組み込まれている。

 

 

【アロンダイトVer.2】

 

 

デスティニーが提案してきた武装はディスプレイ上でそう表示されている。

このタイミングで新たな武装を発現させた愛機を信じ、真は新たなアロンダイトを展開させる。

 

展開と同時に刀身から溢れだす光が周囲を照らす。

その溢れ出した光は全てビームであり、機体の全長程のビーム刃が形成されている。

アロンダイト全体が完全にビーム発振器となっているのだろう。

 

 

『アンタの思い通りになんてならない。俺は彼女が好きだ、だから守るって決めた』

 

 

アロンダイトの刀身に背部VLから溢れる光が集い、紅い光の刃となる。

今までのアロンダイトとは異なり、機体全長ほどのビーム刃が構成されていたため、さらに巨大な剣に変化している。

 

強いて言うならば超過駆動(オーヴァーロード)

 

 

『アンタの想いは確かに強いだろうさ。けどアンタは自分の意志を貫くことしかしない。オリジナルと同じで周りを見ようともしてない』

 

 

新しいアロンダイトを振りかぶる。

 

 

『一人で出来ることなんてたかが知れてる。誰かと一緒に考えたり意見を言い合ったりするのが人間なんだよっ!だから……』

 

 

デスティニーのすぐそばで【バルムンク】を展開した飛燕がその大剣を構えた。

 

 

『俺達は二人一緒に前に進むっ!』

 

『行こう、真っ!』

 

『ああ、行くぞ、簪っ!』

 

 

それぞれの光の翼を翻して、デスティニーと飛燕はホワイトネス・エンプレスに向かっていった。

 

 

 






次回予告

「次回予告 PHASE8 妄執の果て」


『運命を……斬り開くっ!』


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