【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
真が簪を電脳空間から救出したのとほぼ同じ頃。
地上 絶対対空砲【アフタヌーン・ブルー】敷設地帯
アフタヌーン・ブルー周辺に待機していた、狙撃班は突如現れた【敵対勢力】と交戦状態に移行していた。
それはかつてIS学園を襲った【無人機】達、初期GATシリーズ【ストライク】【イージス】【ブリッツ】の混成部隊であった。
その数はISのセンサーの探知範囲内だけでも40を越えていた。
それに加えてさらに増援も送られてくる始末だ。
現在、アフタヌーン・ブルー本体は【ドレッドノートH】の分離型アルミューレ・リュミエールユニット【ハイペリオン】が展開する光の壁によって守られている。
だが無人機たちの数が多く、ALの外側に展開しているクロエと楯無だけではどうしても漏れが生じてしまっている状況である。
数機の無人機たちはALを突破しようと、ビームライフルをALに放っており、ドレッドノートHのシールドエネルギーを削り続けていた。
そのうちの一機をクロエのXアストレイはビームライフルで背後から狙撃して撃破する。
すると右方から別のストライクが高速で接近し、ビームサーベルで自身を狙っていることを、ハイパーセンサーで感知。
すぐさま、スラスターを噴かして回避し、逆にビームライフルで反撃する。
反撃は避けられてしまったが、それは計算内であった。
ストライクの後方から接近してきたのは楯無の駆る【霧纏の淑女】、その手には【蒼流旋】が握られていた。
そのままの速度で背後からストライクを貫いて、無力化する。
『くぅっ、数が多いですっ!』
『クロエちゃんっ、後ろよっ!』
自身を狙っていた【ストライク】を【蒼流旋】で貫いた楯無の叫びに、反応したクロエのXアストレイはその特徴的なX字のスラスターを噴かして、背後から飛来したブリッツのランサーダートを回避する。
AMBACとスラスター制御によって体勢を立て直すと同時に、背部ドラグーン2基と有線式ドラグーン【プリスティス ビームリーマー】を射出する。
『落ちてっ!』
ブリッツがドラグーンを迎撃しようとレーザーライフルで狙撃しようとするが、そのマニピュレータを下方から飛来したビームが貫いた。
そしてそのまま、計4機のドラグーンが発射したビームによってブリッツは貫かれ、爆散した。
下方から飛来したビーム、それは光の壁の内部からドレッドノートHがビームライフルで狙撃したものであった。
現在、ドレッドノートHはアフタヌーンブルーを覆うように展開しているALを張り続けるため、動けない。
だが、最低限の援護として、ビームライフルで狙撃し、先程から数機の敵機を落としていた。
モノフェーズ光波シールドであるALは内部からの攻撃はそのまま通すのだ。
『クロエ、周囲に気を配るんだ。まだくるぞっ!』
『カナード様っ、分かってます、分かってますが……っ!』
カナードからの通信を新たに別角度から飛来したビームが遮断する。
放ったのはイージス、その傍には新たに4機のイージスとブリッツ。
アフタヌーンブルーの北方から次々に無人機達が飛来してくる。
(どういうことだ、何故この場所が奴等に割れているっ!? ちぃっ、今はとにかく対抗するしかない……っ!)
浮かぶ疑問に対して考える暇もなく、カナードはライフルで迫る敵機を撃ち落す。
ドレッドノートのハイパーセンサーが狙っていた一機のイージスが【高速巡航形態】に変形していることを知らせる。
そしてそのイージスがクロエのXアストレイに向かって突っ込んでいくことに気づいた。
『クロエッ!背後……ぐっ!?』
叫ぶと同時に、展開したALを激しく襲う振動。
その正体は、ALを攻撃していた無人機の一部が【自爆】したのだ。
一機程度の自爆ならば問題はない。
だが数機一斉に自爆したため、肉眼でも分かるほどにALの光の壁が揺らいだ。
ドレッドノートHのシールドエネルギーも大きく減少する。
『カナードさ……きゃあっ!?』
カナードの叫びに反応したクロエであったが、それは明確な隙となってしまった。
高速巡航形態に変形したイージスのクローによって機体毎、捕縛されてしまう結果になってしまったのだ。
『クロエちゃんっ!』
楯無が叫びと同時に、【霧纏の淑女】に赤い翼状のユニットが接続され、纏っているアクア・ヴェールの色が変化した。
霧纏の淑女のパッケージ、【麗しきクリースナヤ】が接続されたのだ。
そして、クロエを捕縛したまま加速を続けるイージスに向かって、【単一仕様能力】【
イージスを強制的に空間に引きずり込むことで、機動を停止させる。
その効果範囲はイージスだけではなく、周囲の無人機にも効果が及んでいる。
『これで逃がさないわよっ!』
蛇腹剣【ラスティー・ネイル】を展開し、イージスを狙う。
アクア・ナノマシンが一点に集中し、攻性形成することで一撃の威力を高める【霧纏の淑女】の大技である【ミストルテインの槍】は、クロエを巻き込みかねないこの状況では使えない。
ラスティー・ネイルを振りかぶる。
その瞬間、【霧纏の淑女】のハイパーセンサーが、イージスの熱源反応が高まっている事を検知した。
そこから推測される結果は、一つだけだ。
『自爆する気っ! させな……っ!?』
ハイパーセンサーが拾ったのは背後からの高エネルギーの反応。
【沈む床】の範囲外でミラージュコロイドを使用して姿を消していた【ブリッツ】の放ったレーザーだ。
しかもその射線は自身とクロエ、イージスを巻き込むように一直線であった。
まるで楯無がクロエを救うために行動することを【読んでいた】ようであった。
『ぐっ!』
霧纏の淑女が文字通りその機体を盾にして、レーザーを防ぐ。
現在の霧纏の淑女は【麗しきクリースナヤ】が接続された高出力状態、アクアヴェールでこの程度のレーザーは防げる。
だがそのせいで、クロエの救出が遅れた。
『しま……っ!』
『クロエッ!』
組み付いたイージスから閃光が広がる。
それとほぼ同時であった。
イージスの触腕にも見えるマニピュレータ全てが【閃光】によって切断されたのは。
――――――――――――――――
『っ、あれは……っ!』
霧纏の淑女が【単一仕様能力】を発動させたのと同時、射撃体勢のまま待機していたセシリアはその範囲外にいた【ブリッツ】がミラージュコロイドで姿を消したのを目撃していた。
『まさか、このままではっ!』
そこから予測される結末を予感したセシリアは、すぐさま【ダイヴ・トゥ・ブルー】のチェルシーと【サイレント・ゼフィルス】の搭乗者【ジニン中尉】にチャンネルを繋げる。
すぐそばで【BT粒子】の供給を続けているこの二機は敵機の襲撃中でも動けずにいた。
『チェルシー、ジニン中尉、聞こえていますかっ!』
『はい、お嬢様』
『えっ、ええ、オルコットさん』
二人がセシリアに返答する。
『二人にお願いがあります。ビット兵器のコントロールを私に下さい、今すぐにっ!』
セシリアが二人にそう告げる。
彼女の提案はISの常識からしてみれば耳を疑うものであった。
特にBT兵器が搭載されているBT系列の三機は搭乗者ごとに細かいセッティングが施されているのだ。
『いっ、いくらBT系列の機体だからって、個人用にセッティングされたビット兵器を操れるわけがないわっ!』
当然、ジニン中尉はその提案を却下する。
だが、セシリアも引かなかった。
『いえ、やらなければならないのですっ!大切な友人を守るためにっ!何も言わずに私にコントロールを渡してくださいっ、お願いしますっ!』
炎の様に熱い意志。
それはチェルシーとの一騎打ちの際にも見せた、彼女の凄みを纏った意志。
それに感化されたのか、ジニン中尉がやけっぱちになったかのように叫んだ。
『……分かったわよっ、どうなっても知らないわよっ!』
最初から渡す気であったチェルシーと、ジニン中尉がビット兵器の展開操作を行う。
サイレント・ゼフィルス、ダイヴ・トゥ・ブルーのビット兵器、そして元々ブルー・ティアーズに装備されているものと合わせて十基を超えるビットが展開された。
二機の
『くぅっ……!』
思わず声が漏れるほどの負担。
最適化されていないビットの負荷か、鈍い頭痛が奔る。
展開され、宙に浮いているビットの全てがユラユラと不安定に揺れている。
同時制御と
並の人間では到底扱いきれないほどの空間認識能力が必要となる。
だが、それでも彼女はくじけない。
少しだけ瞳を閉じて祈る。
(お父様、お母様……私に大切な人を守る力を……っ!)
カッと瞳を開くと同時に、セシリアは迷いなくビット兵器に射撃の命令を繰り出した。
――――――――――――――――
『っ!』
突如、自身を捕縛していたイージスのマニピュレータが閃光と共に破壊された。
それを確認したクロエがすぐさまイージスから離れる。
クロエに続いて、楯無もイージスから離れる。
二人の離脱に数瞬遅れて、イージスはその身を破裂させ、閃光に包まれ爆散した。
『今のは……っ!』
『レーザー……セシリアちゃんねっ!』
モノフェーズ光波シールドの内側から幾条もの閃光が絶えず、放たれていた。
その様はまるで光の洪水、いや、嵐のようにも見える。
全てがレーザーが偏向し、生きているかのように軌道を変えて無人機たちを貫いてく。
【沈む床】を発動して無人機たちを拘束していた為か、易々とレーザーの嵐に貫かれている。
『凄まじいわね、彼女……いずれ、国家代表になったときは戦うのね、今から楽しみだわ』
楯無が脱帽気味に呟く。
再度増援の反応をセンサーが拾うが、そのたびにレーザーが発射され、偏向射撃によって落とされていく。
『これは……っ!』
『カナードさん、ALは問題ありませんか?』
セシリアからの通信が繋がる。
彼女の周りに浮遊する十基以上のビット兵器と、現状を把握したカナードはふっと笑みを浮かべた。
(これほどの偏向射撃と同時制御が可能とはな……空間認識能力は【キラ・ヤマト】や【叢雲劾】にも並ぶ、いや超えているかも知れんな)
『ああ、出力を高めて安定した。クロエを助けてくれたこと、礼を言う』
『いえ、友人を助けることは当然のことです。お気になさらずに』
笑みを浮かべて彼女が返す。
『十基以上、しかもいくら系列が同じとはいえ搭乗者用のセッティングもされていないビットでこれほどの戦果を上げるとは。正直脱帽したぞ、
『最高の褒め言葉ですね……あら、ところでカナードさん。今名前でお呼びいただけましたか?』
『別に理由はない。ただそう呼びたくなっただけだ……嫌ならばやめるが?』
『いえ、これからはセシリアでお願いしますわ』
嬉しそうにセシリアが答えて、通信が切れる。
同時に通信が繋がる。
相手はクロエだ。
その表情は不機嫌さで溢れていた。
ジト目かつ膨れっ面で、カナードに告げる。
『……カナード様の浮気者』
『……はぁ?』
カナードは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
その声になんだなんだと注目を集めてしまったのか、ごほんと咳きばらして誤魔化す。
『どうせ私なんて……ドラグーンの操作じゃセシリア様に敵いませんし、スタイルだって彼女には勝てませんもん』
(……いかんな、面倒な状態になっている。音声をカットしておくか)
クロエの愚痴通信の音声をカットし、少しだけため息をついてカナードは思考を切り替える。
口では適当に相槌と謝罪の言葉を打つことを忘れない。
(……この無人機の襲撃、誰かが意図して行ったのは確定だな)
無人機の行動が明らかに以前のものとは異なり、戦術的であった。
外部からの干渉があったに違いないとカナードは考えている。
(歌姫の騎士団以外にそんな連中がいるのか? 情報が少ない。だがエクスカリバーの中に情報が残されている可能性はある。ならばデータの入手は可能か?)
いまだ、音声をカットした通信で愚痴を流しているクロエを無視して、思考の海にカナードは沈んでいった。
――――――――――――――――
同刻。
英国上空数千m。
無人機のフリーダムとジャスティスの足止めの為残ったラキーナとアスランの戦闘も佳境に入っていた。
無人機フリーダムの特徴的な背部の翼が変形し、形態をフルバーストモードに移行する。
高出力ビーム砲、レールガン、全身に装備された火器から一斉攻撃するフリーダム系列最強の技、フルバースト。
かつてのキラ・ヤマトは、この機能によって最強とも言われていた。
しかし、現状は異なった。
『フルバーストは確かに強力だけどっ!』
対峙しているラキーナのストライクは、自身に向かってくる全ての射線を読み切っていた。
全身のスラスターとアポジモータを駆使してのAMBAC。
そしてすぐさまビームライフルでフリーダムを狙う。
『そこっ!』
発射されたビームが無人機フリーダムのバラエーナを貫いた。
フリーダム系列の機体にとって特徴的な翼の一部分が爆発によって捥がれた。
瞬間、ラキーナの意識の中で紫の【S.E.E.D.】が弾けとんだ。
広がる視界と感覚。
そのおかげで、フリーダムの【弱点】を正確に把握できている。
『ハイマットモードに戻すまでのラグを狙えばっ!』
続けてストライクは背部の【フリーダムストライカー】をパージして別のストライカーパックに切り替える。
切り替えたストライカーパックは【ソードストライカー】であった。
『これでぇっ!』
左腕のロケットアンカー【パンツァーアイゼン】を発射して、フリーダムの左腕を掴み上げる。
PS装甲搭載機であるフリーダムに、アンカー自体でダメージを与えることは出来ない。
だが、それがラキーナの狙いではなかった。
『こんのおぉおおおっ!』
パンツァーアイゼンを自機に引き戻すことで、フリーダムの体勢を崩す。
フリーダムガンダムには砲戦形態のフルバーストモードと高速移動形態のハイマットモードが存在しており、フルバーストモードの運動性、機動性はお世辞にも優れたものではなかった。
本来、このフルバーストモードの欠点を補う為に、ジャスティスガンダムとの連携が必須とされていた。
しかし、試作機として奪取したフリーダムには開発者であるユーリ・アマルフィの執念の塊ともいえる【ハイマット・フルバーストモード】が搭載されていた。
ハイマットモードとフルバーストモードの特性を併せ持った形態であるため、ある程度の運動性と機動性を確保できる。
キラ・ヤマトであったラキーナが好んで使用していた形態であるが、これまでの戦闘からラキーナはこのフリーダムにはハイマット・フルバーストは搭載されていないと見極めていた。
その狙いは見事的中。
満足な機体制御も取れずに、フリーダムはパンツァーアイゼン毎ストライクまで引き寄せられる結果になった。
そして、ソードストライカー最大の目玉でもある大型実体剣【シュベルトゲベール】のビーム刃を起動させながら振りかぶった。
『これでぇえぇぇっ!』
機体制御を失ったフリーダムを大型実体剣【シュベルトゲベール】が切り裂いた。
機体の大部分に損傷を負ったフリーダムはアイカメラを点滅させながら、反撃の為にビームサーベルを展開する。
だが、その程度で今のラキーナは止められない。
フリーダムのビームサーベルを最小限の動きで回避、そのまま蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。
続けてソードストライカーパックをパージ、別のストライカーパックへ換装する。
換装したのは【ランチャーストライカー】だ。
機体全長ほどもある【超高インパルス砲 アグニ】を構え、吹き飛ばされたフリーダムに照準を合わせる。
『フリーダム……さようなら』
かつての愛機にそう告げて、トリガーを引く。
発射された高出力のビームがフリーダムを飲み込んだ。
続けて二射、三射とアグニを放つ。
数度の爆発が起こり、フリーダムの残骸が落下していく。
ハイパーセンサーでも確認してみたが、フリーダムの反応は完全に消失していた。
『……本当にさようなら』
少しだけさびしそうな顔をしたラキーナであったが、そこに少々離れた空域で交戦しているアスランから通信が入る。
『ラキ、フリーダムは?』
『丁度倒したよ。アスラン、援護に向かうよ』
アスランが相対しているジャスティスの単純な機体性能と出力は、彼の操るインフィニットジャスティスとほぼ同等であった。
また搭乗者であるアスランと比べるとラキーナの身体は未成熟である。
その為、アスランがジャスティスを引き離して、ラキーナはフリーダムを相手にしていたのだ。
『いや、その必要はない、こちらももう少しだ。それにラキ、君がフリーダムを倒したいと思うように、俺も自分の手でジャスティスを落としたい』
『……うん。なら待ってるよ、アスラン』
『ああ、待っていてくれ』
ラキーナへの通信を切ったアスランは、自身の目の前の敵、【ジャスティス】に視線を戻す。
無人機ジャスティスの右腕と右脚はすでにアスランの攻撃によって捥がれている。
対してアスランのインフィニットジャスティスに目立った損傷は見えない。
だがシールドエネルギーの残量は残り3割程度しか残っていない。
この状況になったのはアスランが使うビームサーベルに原因があった。
インフィニットジャスティスが持つビームサーベルは限定的に【零落白夜】を再現している。
そのおかげでジャスティスのビームサーベルを一方的に切り裂いてダメージを与えることが出来ているのだ。
もちろん、劣化したとはいえ【零落白夜】、エネルギー消費は尋常でなく実戦仕様状態でもエネルギーが残り少なくなってしまっている。
(エネルギーは残り少ない……だが、このまま押し切るっ!)
今のアスランに迷いなど一欠もない。
彼の戦闘能力をフルに発揮できる状態だ。
『うぉおっ!』
流石に学習したのか、ジャスティスはそのサーベルを防ぐのではなく回避することを選択し、同じく瞬時加速で後退する。
『逃がすかぁっ!』
ソリドゥス・フルゴールを展開するジェネレータ、ビームブーメラン、ワイヤーアンカーを内蔵したビームキャリーシールド外装部から【EEQ08 グラップルスティンガー】を展開。
クローが射出され、逃げるジャスティスの右腕を捕縛した。
奇しくも相手を捕縛する戦法はラキーナと同じであった。
だがここからは異なる。
インフィニットジャスティスの背部リフターである【ファトゥム-01】を切り離す。
『行けっ!』
MSのインフィニットジャスティスとは異なり、ファトゥム-01はサブ・フライトシステムではない。
だがスラスター類はファトゥム-01に集まっており、突撃させることで相手を貫くと言う同じ用途で使用することが出来る。
グラップルスティンガーで体勢を崩され、動きを止められていたジャスティスの回避は間に合わなかった。
ファトゥム-01のビームラムがジャスティスの胴体を貫いた。
シールドエネルギーの大幅減少と、胴体を貫通させられたことにより機能不全が発生。
だがアスランの攻撃は終わらない。
ファトゥム-01を射出すると同時に、本体であるインフィニットジャスティスも瞬時加速により、ジャスティスに接近していたからだ。
その手に握るのは零落白夜が発動しているラケルタビームサーベル。
『とぅっ、でぇあっ!』
ジャスティスの頭部を右脚部グリフォンビームブレイドで蹴り飛ばし、切断。
そのまま背後に回り、ラケルタビームサーベルを一閃。
ジャスティスの下半身を切り落とした。
下半身を切り落とされたジャスティスは機能を完全に停止、スラスター類が停止してPS装甲もダウンしていく。
『……終わったか、っ!?』
一息ついたアスランであったが、ガクンと自機を揺らす振動に意識を切り替える。
『っ、エネルギーが……っ!』
零落白夜を使用しつつ、全開の戦闘機動を行った為、残りのエネルギーが切れたのだ。
PICもその機能を停止しつつあった。
今、彼がいる空域は英国上空数千m、生身で放り出されたら死は確実であった。
『まっ、まずい、このままでは……っ!』
『……全くアスラン、大丈夫?』
焦るアスランであったが、自機の上方から声が響き、機体を誰かに支えられた。
当然、その誰かとは――
『らっ、ラキ……すまない、助かった』
そう、ラキーナであった。
アスランとの通信を終えた後、やはり援護に彼女は向かったのだ。
『まったくエネルギー切れだなんて……これじゃ真達の援護にも行けないね』
少しからかう様な口調でラキーナが言う。
『うっ、すまない。まさかここまで零落白夜がエネルギーを消耗するとは……』
『まぁ、最低限私たちがするべきことは終わったからね。後は真達を信じるだけだよ』
『……そうだな、今の真ならば、大丈夫だな』
ラキーナとアスラン、2人は空を見上げた。
その先の宇宙で戦う、大切な仲間の事を信じて。
――――――――――――――――
デスティニーガンダム・ヴェスティージのVLユニットから真紅の光翼が広がり、その翼が機体に莫大な推力を与える。
『運命を……斬り開くっ!』
そしてただ加速しただけではなかった。
加速するデスティニーの軌道上にはっきりと、デスティニーの【残像】が残っている。
(これはあの時と同じ、ミラージュコロイドの残像……?)
簪はこの残像に見覚えがあった。
飛燕完成時のデモンストレーションの際、真が自分に使ったモノと同じだ。
いや、残像の完成度ならば当時とは比べるまでもなかった。
(ハイパーセンサーを完全に惑わしてるっ、それに残像に使うミラージュコロイド粒子量を増やしてるっ、これならっ!)
ミラージュコロイドが最も影響を与えるのは肉眼よりも【精密機械】である。
真と簪は当然ながら肉眼であるが、ラクスはAIであるため、ISの代表的な機能であるハイパーセンサーと機体各所のセンサーで周囲を知覚している。
当然、ホワイトネス・エンプレスにも【ミラージュコロイドデテクター】は装備されているが、この装置が感知できるのは、ミラージュコロイドを使用している機体が近くにいる事がわかる程度のものであり、使用している機体の正確な位置までは特定できない。
よってこのデスティニーの攪乱行為の効果は非常に有効なものであった。
撹乱行動を続けるデスティニーからプライベートチャンネルが飛燕に繋がる。
『簪、ヤツからの攻撃は全部避けてくれ、じゃないとまたあの【能力】に囚われる可能性がある』
『うん、分かった』
『それと、これからの作戦を伝えておく。内容だけど……』
ラクスを落とすための作戦を真は簪に伝える。
内容を頭に刻み込んだ彼女は頷いて答える
『……分かった。あわせるよ、真』
真から作戦にそう返すと、通信は切れた。
後は回避と牽制を続けつつ、タイミングを逃さないよう気をつけるだけだ。
『質量を持った残像とでも言うのですかっ!?』
現在、ラクスの視界とセンサーはミラージュコロイドによって惑わされ、複数のデスティニーが襲い掛かっているように見えている。
だがこの程度ならば対処は充分可能であった。
『ですがこの程度の円舞曲で惑わされませんわよ、シンッ』
ミラージュコロイドデテクターの出力を低下。
ハイパーセンサーの機能を熱源反応と動体感知に限定することで、高速機動を続けるデスティニーを正確に捉えて高出力ビームを放つ。
同時にドラグーンも展開、半数がデスティニーに、半数が飛燕に向かっていく。
『……っ!』
デスティニーの【運命ノ翼】を発動。
迫るビームは全て、VLユニットに吸収され、デスティニーはさらにその機体速度を高める。
追いすがっていたドラグーンを全て振り切り、再度分身を展開する。
『ビットッ……でもこれくらいならっ!』
飛燕も同じくVLユニットの出力を高め、高速機動に移行する。
減速させないようにバルムンクを斬撃モードから砲撃モードに切り替えて、ビームを放つ。
『っ、小癪なっ……!』
ホワイトネス・エンプレスへ着弾する直前に、見えないフィールドに弾かれるように、ビームは拡散された。
【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】が装備されているホワイトネス・エンプレスは、この攻撃でダメージを受けることはなかった。
だがそれは簪も理解している。
この攻撃は単なる陽動である。
『もう一度電脳空間に……っ、シンっ!』
ドラグーンを介して再び【単一仕様能力】を発動させようとしたラクスであったが、背後から急接近してくるデスティニーの反応を捉え振り返りつつ、能力の対象を真に変更する。
『やはりアナタはこの小娘を守るっ!ならば直接、打ち込んで差し上げますわっ!』
大型マニピュレータが【手刀】の様な形状を取ると、ビームが発生。
発生した【ビーム手刀 カラミティエンド】を迫るデスティニーに叩き込む。
だが、カラミティエンドを叩き込んだデスティニーはまるで霞の様に姿がぶれ、消えていった。
『なっ!?』
洩れるラクスの驚愕の声、だがデスティニーの攻勢はそれだけにとどまらなかった。
周囲に残っているデスティニーの残像が一斉に、ホワイトネス・エンプレスに襲い掛かったのだ。
『こっ、これは質量を持った残像が……動くっ!?』
(これが真の作戦……【単一仕様能力】の応用、ミラージュコロイドに使っているエネルギーを能力で操作して、ミラージュコロイドを操作する。それはつまり【残像を動かす】ってこと……!)
真が先程、簪に伝えた作戦。それがこのミラージュコロイド操作による【残像操作】だ。
デスティニーに装備されているミラージュコロイドは、残像を残す機能が搭載されている。
しかし今のデスティニーには発現した【単一仕様能力】が備わっている。
ミラージュコロイド粒子を活性化させるエネルギーを単一仕様能力で操作することで、残像を一箇所に止めるのではなく、動かす。
もはやこれは【残像】ではなく【分身】ともいえるだろう。
かなりの精密なエネルギー操作技術が必要ではある。
だが【S.E.E.D.】を発動させ、全ての感覚が鋭敏になっている今の真ならば可能である。
いや、S.E.E.D.の発動の有無など些細なことであろう。
――真は誰かを守るとき、その力を最大に、限界以上に発揮するのだから。
『くっ、こんな事では……っ!』
襲い掛かるデスティニーの【分身】達。
ビーム手刀で切断し、霧散させていくが、ホワイトネス・エンプレスは確かに翻弄されていた。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
デスティニーが新たに発現した【アロンダイトVer.2】を構え、突っ込む。
速度は現在のデスティニーが出せる最大戦速。
まるで宇宙の闇を裂く流星のごとく、デスティニーはホワイトネス・エンプレスに突貫を仕掛ける。
『しま……っ!』
分身達への対処のせいで、ホワイトネス・エンプレスの動きは止まっていた。
迫るデスティニーに対して回避と迎撃は不可能であった。
『これで終わりだぁあぁぁっ!!』
機体の中心部を易々と、アロンダイトは貫く。
その一撃は確かに、ホワイトネス・エンプレスのコアを貫いていた。
だがまだ終わらない。
ホワイトネス・エンプレスの背後から竜殺しの名を冠する大剣を振りかぶった【飛燕】が迫ってきていたのだから。
『簪っ!』
『うんっ!』
バルムンクが振り下ろされ、ホワイトネス・エンプレスの背部ユニットであるエンブラスユニットが破壊される。
致命傷を与えたことを確認し、デスティニーと飛燕は互いの得物を引き抜いて、後退する。
ホワイトネス・エンプレスからはバチバチと火花が散っており、もはや死に体であった。
『……アア、ナぜ、貴方は、ワタクシのモノにならない、ノ?』
『……アンタはオリジナルと同じだ。他人を道具としてしか見ていない。そんなヤツのものなんかに俺はならない』
明確な拒絶の言葉をディスプレイに映るラクスに告げる。
その言葉に、ふと笑みを浮かべる。
その笑みは、オリジナルラクスが死の間際に見せたものと全く同じであった。
同時に、別の空間投影ディスプレイが立ち上がった。
確認するとデータが2つ送られてきている。その配信先は目の前のホワイトネス・エンプレスからだ。
『これは……?』
『ヤはりアナタは素晴らシい……私からの贈り物ですわ、それヲどう使うカはお任せしマす……ワ』
そう告げて、ホワイトネス・エンプレスから繋がっていた通信が切れる。
目の前の実機もガクンと力なくマニピュレータが垂れ下がる。
残っていたドラグーンも機動を停止し、慣性のまま宇宙を漂っていた。
『終わった……の?』
『ああ、終わったみたいだ……ふぅ』
大きく深呼吸して、汗をぬぐう。
限界を超えた機動を続けていた為か、滝の様な汗だ。
以前に比べて身体への負担が少ないのは、耐G訓練を続けていた賜物であろう。
『その機体、どうする?』
簪も同じように汗をぬぐいつつ、真にたずねる。
機能停止したホワイトネス・エンプレスの事だろう。
それに答えるように、真はテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔を展開した。
『破壊する。残ってちゃいけないものだしな、離れててくれ』
コクンと簪が頷いて少しだけ離れたのを確認してトリガーを引く。
ホワイトネス・エンプレスは、発射された高出力ビームに飲まれていく。
元々致命傷を負っていた機体が耐えられるわけもなく、爆発して宇宙に散った。
『……よし、後はエクスカリバーだけだ、簪、エネルギーは大丈夫か?』
『うん、エネルギーはまだ大丈夫。真も大丈夫だよね』
『ああ、一夏達は大丈夫かな……っと』
エクスカリバーに向かった一夏達にチャンネルを繋げる。
少ししてからチャンネルが開く。
ディスプレイに映るのは、見知った親友の顔。
『一夏、生きてるか?』
『生きてるって!真っ!そっちは終わったのか!』
『ラクスは倒した。エクスカリバーにはまだとりつけてないのか?』
『ああ。エクスカリバーからのレーザー攻撃が激しすぎて……うお、千冬姉がレーザーをブレードで切り払った……』
『射線を完璧に読めば出来ないことはないけどさ……千冬さん、腕は相変わらずだなぁ』
世界最強のブリュンヒルデの名は伊達じゃないなと、改めて認識した真が一夏に告げる。
『俺達もそっちに向かう、エクスカリバーからエクシアさんを救出しなきゃ、今回の作戦は完了とは言えないからな』
『分かってる!座標のデータを送るから頼むぜ!』
『ああ、すぐ行く』
一夏から座標データが送られてくる。
『データは確認した。そっちに向かう』
『おう』
一夏の返事を確認して通信を一旦切る。
すぐそばに寄り添っていた飛燕の簪に、振り向いて告げる。
『エクスカリバーはまだ攻略できてないみたいだ。座標データはもらったから行こう』
『うん、分かった』
簪の返答に真も頷いて答えた後、二機は背部VLユニットを起動。
輝く紅の翼と蒼の翼を翻し、宙域を離脱していった。