【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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Epilogue 家族になる日

エターナルを撃沈した後、真は無事イズモに合流を果たしていた。

そして用意されていたIS用バリュートシステムを装着し、陽動組全員が大気圏への突入を敢行。

 

無事全員が地上に降下することができたが、全員の感想は二度とやりたくないで一致している。

それは千冬も同じ感想であった。

 

イギリス空軍基地に帰還した一同は、エーカー少佐達に歓迎され作戦成功の労いを受けた。

 

その際、チェルシーは作戦が完了した為、空軍に拘束された。

ただエーカー少佐からの便宜によりとある取引がなされ、彼女は即日開放された。

 

その取引の内容は下記の通りである。

・潜入時に得たデータの提供。

・今後もBT3号機の搭乗者として軍に協力する事。

 

この2つを遵守することの代わりに以下のシナリオが用意された。

 

【彼女はBT3号機の搭乗者として秘密裏に選出された人間であり、ある任務を帯びていた】

【エクスカリバーを奪取したテロ組織に潜入し、情報を得るエージェントとして活躍していた】

 

シナリオを聞いたカナードは、かなり無茶なものだなと言う感想をこぼしている。

エーカー少佐には軍上部に顔が効く人間がおり、その人物が便宜を図ってくれたとの事だ。

何でもカタギリと言う日系人の将官らしい。

 

エクスカリバーから救出されたエクシア・カリバーン、改め、エクシア・ブランケットは軍病院に搬入され、治療を受ける事となった。

 

幸いにも副作用のある薬物は使用されておらず、身体を長期間拘束されていたことによる衰弱が目立つも数日中には退院できるとの事であった。

 

拘束された2名、ダイル・ケイシーとフォルテ・サファイアについては束によって引き取られることになった。

この2名はいまだに意識を取り戻してはいない。

束の診察ではエクシアと同じく意識を失わせる薬物は使用されているがそれ以外は使われていないため、自然に目覚めることを待つことになった。

また彼女達が所持していたISについては、束が回収し千冬とIS学園を経由して本国に返還されている。

 

日本にいる蔵人からも連絡があった。

エクスカリバーによる遊園地への攻撃については情報規制が敷かれているとの事だ。

当時入園していた客を割り出し、政府から連絡を行い示談させ遊園地内の屋台から出火した火災と言うことに纏まっていた。

また監視カメラ等の記録は全て削除されており、SNS等も更識家所属の人間が監視を行っているとの事だ。

 

――――――――――――――――――――

 

エクスカリバー破壊から数日。

オルコット家 セシリア私室

 

 

「お嬢様、よろしいでしょうか」

 

「何ですの、チェルシー?」

 

 

ドアのほうを向いたセシリアが、問う。

 

 

「お話があります」

 

「よろしくてよ」

 

 

そう告げると、ドアが開く。

頭を下げて、チェルシーが部屋に入ってくる。

 

 

「失礼します」

 

「それで、話とは?」

 

「……エクシア、入りなさい」

 

「はっ、はいっ!」

 

 

ドアを開けて入室してくるのは、チェルシーと同じくメイド服を身に纏ったエクシア。

 

 

「もう退院したのですか?」

 

「はい、先日、軍病院から退院いたしました。それで……セシリア様っ!」

 

「なっ、なにかしら?」

 

「せっ、セシリア様のご両親は、オルコット家の剣として私の命をつないでくださったのです!」

 

 

エクシアからの唐突な告白にセシリアは首をかしげた。

 

 

「……エクシア、それでは説明になっていませんよ」

 

「ごっ、ごめんなさい、姉さまっ!」

 

「……私が代わりにご説明いたします」

 

 

エクシアに代わり、チェルシーの口から告げられたのは、今回の事件の真相であった。

 

エクシアが何故亡国機業に囚われ、生体CPUとしてエクスカリバーに組み込まれていたのか。

それは彼女が心臓病を患っていたからだ。

 

当時、セシリアの両親は亡国機業と国家絡みで争っていた。

とある戦闘に巻き込まれたエクシアを、セシリアの父親であるジョナサンが保護した。

 

しかしエクシアの容態が急変、一刻の猶予も許されない状況になった。

そこでジョナサンと、その妻エリナは一つの決断をした。

 

極秘裏に入手していたISコアと技術を用いてエクシアに生体融合措置を施したのだ

貴重なISコアを独断で使用する。

 

国を裏切る行為であることは承知の上で、両親は即決した。

国を裏切ることになろうとも、目の前の命を助けるために。

そしてエクシアの命は助かった。

 

しかしその特異性に目をつけられたエクシアは、後に誘拐され生体CPUとして組み込まれたというのが真相であったのだ。

 

 

「今こうして私がここにいるのは全て、ジョナサン様とエリナ様のおかげなのです! 命を救っていただけたからここにいられるのです!」

 

「……ありがとう、エクシア」

 

 

そっとエクシアを抱き寄せた。

尊敬する父と母が、チェルシーの妹の命を救った。

数奇な運命。だが確かに人を思いやる黄金の様な意志を感じた。

 

 

(……お父様、お母様。私はお二人の娘で本当によかった。見ていてください、私もいずれお二人の様になってみせますわ)

 

「……そうですわ、チェルシー、エクシア」

 

 

涙をぬぐってセシリアが微笑む。

 

 

「三人で写真を撮りましょうっ!」

 

「写真ですか?」

 

「ええ。【家族】で写真を撮ることなんて、珍しくもないでしょう?」

 

 

そう告げた彼女に、チェルシーとエクシアは笑みを浮かべて首を縦に降った。

 

この日セシリアの私室に一枚写真立てが増えた。

亡き両親と幼き日のセシリアが映る写真の横にその写真は飾られている。

 

次期当主であるセシリアを支えるように立つ二人のメイド。

その写真に写る三人の笑みはとても幸せそうであった。

 

――――――――――――――――――――

 

そして12月24日、クリスマスイブ。

 

真達はいまだ帰国はしておらず、オルコット家に集まっていた。

その理由は――

 

 

「それでは、セシリア・オルコット様の誕生日パーティーにお集いの皆様、今宵は盛大な祝福をよろしくお願い申し上げます」

 

 

メイド長であるチェルシーがそう告げると、社交界の紳士淑女の面々が一斉にセシリアの下に詰め掛けた。

その中には、今回の作戦に関わったエーカー少佐やジニン中尉、彼等の部下達の姿も見えた。

 

 

「オルコット嬢、いや、セシリア君。今回の作戦、本当に世話になった」

 

 

そう言ってエーカー少佐は軽く頭を下げた。

 

 

「いえ、今回の作戦、それとチェルシーの件。エーカー少佐のおかげでまた家族とこう過ごせているのです。感謝してもしたりないですわ」

 

「私は何もしていないさ。これからも君の躍進と活躍をファンの一人として応援させてもらうことにしよう。それではこれで」

 

 

そう言ってエーカー少佐は敬礼し、パーティー会場を後にしていく。

 

 

「いやー、ホントに凄いわね、セシリア。国家代表候補飛び越してもう確定でしょ、今回の作戦で」

 

「だね。これから家督もついで正式な当主なんでしょ、凄いなぁ」

 

「ぬ、そういえば一夏はどこに行った?」

 

「ちょっ、そういえば箒もいないわっ!抜け駆けなんてさせないわよぉ!」

 

 

それぞれ煌びやかなドレスを身に纏った美少女達が友人の誕生日を祝福しつつ、各々このパーティを楽しんでいた。

 

 

(皆さん、お楽しみいただけているようでよかった)

 

 

かつては孤独を感じたこともあった。

だが今は違う。自分は光の中にいる。

 

暖かな、大切な友人達とこうして誕生日を迎えられるのはセシリアにとって最高の幸せであった。

 

 

「おめでとう、セシリア」

 

「誕生日おめでとう、セシリア」

 

「真さん、簪さん。ありがとうございます」

 

 

社交界の紳士淑女達とのやり取りもひと段落したセシリアに真と簪が話しかける。

 

 

「こんなパーティ出たことないからさ、ちょっと緊張してる」

 

「うん、私もこれだけ大きいパーティは出たことなかった」

 

「ふふ、お楽しみいただけているようでよかったです。それにお二人のその姿、よく似合っていますよ」

 

「タキシードなんて着たことないから不安だったけど、チェルシーさん達がコーディネートしてくれたおかげだよ」

 

 

男性搭乗者である真達はセシリアが用意したタキシードに身を包んでいる。

意外にもあのカナードまで用意されたものをキチンと身につけて会場にいた。

 

 

「うん。凄く似合ってるよ、真」

 

(俺は簪のドレスの方が似合ってると思うんだけど……本当に綺麗だ)

 

 

簪は髪の色よりも淡い、水色のドレスを身に纏っていた。

胸は姉の楯無よりも控えめではあるが、それでも十二分に女性としての魅力をかもし出している。

 

 

「カナード様、どっ、どうですか?」

 

 

黒を貴重にしたパーティドレス。

胸こそ箒達に比べればかなり控えめなサイズだが、曲線美は目を惹きつけるものがあった。

 

 

「……似合っていると言っているだろう。もう4回目だぞ、その質問」

 

 

真と同じくタキシードを身に着けたカナードが呆れた顔でクロエに告げる。

カナードに似合っているといわれたクロエにはその言葉が聞こえていなかったようであるが。

 

カナードは髪を短くしていたおかげか、オールバックに髪型を変えている。

これはメイド達にそのほうが似合うと押され、あまりにしつこいため折れた結果であった。

 

 

「カナードも大変だな、まさかクロエとそういう関係だとは思わなかったが」

 

「あれで気づかなかったって……ま、それはアスランが鈍いだけだよ。あっ、それもらうね」

 

 

彼の手の皿からチーズを一切れ頂戴したラキーナは、そのままチーズを口に含み、笑顔を浮かべる。

彼女もまたパーティ用ドレスを身に纏っている。

 

クロエとは違い色は淡い紫色のドレスだ。

体型が似ているため、胸よりも曲線美が目立つコーディネートだ。

 

 

「若いっていいねぇ、ちーちゃん」

 

「何だその言い草は、私達も若いだろう?」

 

「……ふーん。じゃ、相手いるの?」

 

「……その言葉はお前にそっくり返してやろう」

 

「あはは……」

 

 

束、千冬、真耶の大人組三人はアルコール片手にその様子を眺めている。

千冬が不機嫌そうな表情を浮かべているせいか真耶は苦笑いを終始浮かべていた。

 

 

「ううっ、なんで私、いい男が出来ないのぉ。コートニー、いるんなら会いに来てよぉ……ねぇ、節子ちゃんなら分かるでしょこの悩みぃ……」

 

「ああ、利香さんの悪い癖がっ!すいません、ちょっと席を外しますねっ」

 

 

アルコールで悪酔いした利香を、スーツ姿の節子が抱えて会場の外に連れ出していく。

この場にはいないが、日出工業の優菜からも祝電が届いていた。

 

 

「簪さん、ちょっとよろしいです?」

 

「どうかしたの?」

 

 

ちょいちょいとセシリアが簪を手招きして、簪はそれに従う。

なにやら耳打ちしており、簪は顔を真っ赤にしていた。

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

その様子に気づいたのか、真が問う。

それに答えたのはセシリアであった。

 

 

「いえいえ。真さん、たまには女だけで話したいこともあるのですよ」

 

「……分かった。なら、向こうに行ってくるよ」

 

 

セシリアに頷いて答え、真はカナード達の元に向かう。

 

 

「あら、義弟君。簪ちゃんとはいいのぉ?」

 

 

振り返ると、ドレス姿の楯無――刀奈が笑みを浮かべて立っていた。

簪とは違い、純白のパーティドレス。

胸元を強調しつつも、ヒップラインまで隙が全くない。

 

 

「……皆がいるんだから、その呼び方止めてくださいよ。刀奈さん」

 

 

視線を逸らして真が告げる。

その態度にニマァと刀奈の口が弧を描く。

 

 

「照れちゃってまぁ!お姉ちゃんは寂しいのよっ!」

 

 

真の右手を握って胸元まで近づける。

その行動にギョッとしつつ、すぐに手を振り払う。

 

 

「ああっ!本当にめんどくさいっ!アンタって人はぁっ!」

 

 

叫びながら真は走り出す。

 

その様子を皆は笑いながら見ていた。

 

――――――――――――――――――――

数時間後。

 

誕生日パーティも一段落し、チェルシーに案内され真は皆と別れて宛がわられた部屋を目指していた。

そしてとある部屋の前で彼女は止まった。

 

 

「こちらです、真様」

 

「どうも……ってかその真様っていうの止めてくださいよ、あの時はシン・アスカって言ってたじゃないですか」

 

 

初めて横浜のDeランドで出会ったときの事を思い出して真が言う。

だがチェルシーは首を横に振って微笑む。

 

 

「いえ、貴方達はエクシアの救出に命をかけてくれました。私にとっては恩人です」

 

「……まぁ、アナタがそう言うならいいんですけど」

 

 

少し照れた様に真は返す。

 

 

「それではおやすみなさいませ」

 

「チェルシーさんもおやすみなさい」

 

 

そう言って真は部屋の扉を開けた。

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

 

そう言って扉を閉める。

薄暗い部屋、月光が部屋を薄く照らしている。

そんな部屋に、人の気配がした

 

 

「めっ、メリークリスマス、真」

 

 

顔を真っ赤にしながらドレスを身に纏う簪が部屋の中にいた。

白い、まるでウェディングドレスにも見えるドレスを纏った簪だ。

 

先程の淡い水色のドレスも綺麗ではあった。

だが今の彼女は月光に照らされて美しくもあり、扇情的な雰囲気を醸し出していた。

その美しさは比較にならない。

 

その光景に一瞬思考停止した真であったが、すぐに再起動した。

 

 

「なっ、なんでここに簪が?」

 

「えっと、チェルシーさんに案内されて……」

 

「じゃっ、じゃあそのドレスは?」

 

「セシリアから、頑張ってくださいねって」

 

 

部屋をよく見ると、ベッドは一つ。

しかもサイズはクイーンサイズのものが一つ。

 

 

「……」

 

 

震えながら、待機状態のデスティニーを握り締めた真は、一度深呼吸してから――

 

 

『謀ったな、セシリアー!』

 

 

コアネットワークを使用した通信をセシリアに送る。

 

 

『はて、何のことでしょうか?』

 

 

反応はすぐにあった。

明らかに楽しんでいる声色の彼女に真が叫ぶ。

 

 

『いや、宛がわれた部屋に簪がいるんだけどっ!?』

 

『何分空き部屋がありませんでしたので。真さんと簪さんはお付き合いされていますし、少し前まで学園でも同室だったのでご案内させて頂きました』

 

 

もっともらしい返答だが、先程チェルシーに案内されてここまで来た時に、空き室はいくつもあることを確認していた。

そして思い出した。

 

先程、セシリアと簪が何か会話をしていたことを。

おそらくこれを計画していたのだろう。

 

 

『あ、ドレスは私からの簪さんへのクリスマスプレゼントですよ』

 

『いやいやいやっ、そういう話じゃなくてさっ!てかさっきのはこれを計画してやがったなぁ!』

 

『あら、ネットワークの調子が……それでは頑張って下さいねっ』

 

『あっ、おいっ!話終わってないって!』

 

 

わざとらしくそう告げた彼女の言葉でブツリと通信が切れる。

プルプルと待機状態のデスティニーを握りしめた真がガクッと頭を垂れた。

 

 

「真?」

 

「あー、俺達同じ部屋みたいだな」

 

「……嫌だった?」

 

「いや、そんなことないって。ただ驚いただけださ」

 

 

苦笑しつつボスンと、ベッドに腰を下ろす。

簪は真の隣に腰を下ろした。

 

横目でちらりとドレス姿の簪を見てから口を開く。

 

 

「……そのドレス、滅茶苦茶似合ってて、綺麗だ」

 

「本当っ?」

 

「あぁ」

 

 

照れたように、真が返す。

嬉しそうに笑う簪は真の手の上に自身の手を置いた。

 

温かな彼女の体温を感じる。

恥ずかしそうに、だがしっかりと指を絡めてくる。

 

ガリガリと自身の理性が削られていくのを真は感じていた。

 

 

「……今日はクリスマスイブだからいつもとは違う私を見てもらいたくて。それでセシリアが提案してくれたの、ドレスを着て二人きりになるのはどうかって」

 

 

そして紅潮した顔で続ける。

 

 

「だから……もっと私を見て。それに抱きしめてほしい」

 

 

上目遣いで簪に告げられた。

断れるはずがなかった。

 

 

「……分かったよ」

 

 

彼女の後ろに回り込んでゆっくりと抱きしめた。

微かに鼻腔を擽る香り。

正直、理性は限界に近かった。

 

 

「あったかいな、簪」

 

「そう、かな……。あ、真、やっぱり手大きいよね」

 

 

簪が背中から回された真の手を握る。

体格差もあるが簪よりも彼の手は1回り程度大きい。

 

 

「そうか?」

 

「うん、大きいよ。この手で真は戦い続けていたんだね……ずっと」

 

 

【シン・アスカ】としての記憶を直接見た簪はそっと彼の手を撫でる。

凄惨な記憶ではあった。

だが彼は前に進むことを決して止めなかった。

 

それは彼が命を守ることを止めなかったからだ。

ボロボロになりながらも前に進む、憧れの存在。

 

一歩も進む事のできなかった自分を、再び空に引っ張り上げてくれた。

 

 

「真は私のヒーロー……だよ」

 

「……簪」

 

 

彼女の言葉で、脳裏に【シン・アスカ】として戦ってきた記憶が蘇る。

 

戦い続けた自身の手で守れた命は確かにあった。

しかしその間からすり抜けていった命もまた数多くあった。

 

だが、今は――違う。

 

 

「……守りきれない方が多かった、けど今は違う。一夏が、カナードが、セシリアが、千冬さんが、束さんが、優菜さんが、皆がいる。そして……」

 

 

ぎゅっとさらに強く抱きしめる。

今この手の中には、かつて手に入らなかった、大切な幸せが確かに存在している。

失わせたりなんてしないと、真は改めて心に誓っていた。

 

 

「簪がいる。俺は本当に君に会えてよかった」

 

「私も、真に会えてよかった。好きになれてよかった」

 

 

そう言って、簪は瞳を閉じる。

それは何かを待っているかのようで。

 

同じ様に瞳を閉じて、そっと彼女の唇に唇を重ねる。

 

 

「んっ……」

 

 

どれくらいそうしていたかは分からなかった。時間にして数秒のはずが、体感では数分に感じている。

名残惜しさを感じつつ、離れる。

 

だがまだ終わらない。

そっと、真は彼女をベッドに押し倒す。

 

 

「あっ」

 

 

少しだけ声を出した彼女だったが、抵抗は全くしていなかった。

それどころか、真の手を自分の胸に当てていた。

 

 

「真、大好きだよ」

 

 

月明かりに照らされた、彼女の上気した表情はとても愛おしかった。

 

――――――――――――――――――――

夜もふけた頃――

 

 

「束、待たせてすまない」

 

「んー、大丈夫だよカナ君。くーちゃんは?」

 

 

束に宛がわれた部屋にカナードが入室する。

 

 

「……部屋でもう寝ている」

 

「あらら、くーちゃん楽しんでたからなぁ。でもだからって無防備過ぎるのはどうかと思うんだ。男は狼なのよ、気をつなさいー……あだだだだ、冗談だって、冗談っ!」

 

 

束の後頭部にアイアンクローを食らわせながら、カナードはため息を付いた。

 

 

(ん、待てよ。何でカナ君、くーちゃん寝てるの知って……おっ、おおっ!?まさか……まさかっ!?)

 

 

カナードの髪はまるでシャワーを浴びたばかりの様に湿っている。

頬も少しだけ上気しているようにも見えた。

 

それに気づいたのか、顔をそらし咳払いして話を切り替える。

 

 

「……それで、データの解析は?」

 

「あー、量が量で設備もないから詳しくは日本に帰ってからになるとおもうけど、簡単な解析は済んでるよ」

 

 

カナードの催促に先程までの思考を切り替えて、束が告げる。

 

 

「流石だ。それでどんなデータだった?」

 

「はい、これ」

 

 

印刷した紙の束を取り出して、カナードに手渡す。

ざっと目を通したカナードが眉間に皺を寄せる。

 

 

「……未登録のISコアか」

 

「そう、オリジナルのラクスが製作したコア。【ホワイトネス・エンプレス】とか【インフィニット・ジャスティス】とかに使われてるのはあくまで私が作ったロットだから別物。全部で十個」

 

「十か……しばらくは休めないな」

 

「だね。あー、カナ君。温泉旅行でも行きたいよー」

 

「自腹で勝手に行け」

 

 

渡された資料を捲りつつ、カナードは束の提案をばっさり切り捨てた。

だがその口元には薄くだが笑みを浮かべていた。

 

――――――――――――――――――――

 

 

某国――

 

 

「ん、私だ」

 

 

女性が通話相手に答える。

 

 

「あぁ、【連中】から聞いているよ、歌姫は堕ちたか。彼女の歌は戦乱を呼ぶ歌で好きだったのだがね」

 

 

薄く嘲笑を浮かべたその女性はデスクに腰を下ろす。

 

 

「まぁ、いずれ消すつもりだった。その予定が早まっただけ、手間が省けたと考えよう。こちらの動きはすでに【彼ら】に伝えている」

 

 

ククッと笑みを浮かべる。

 

 

「ん、そちらは問題ない。奴等から必要なものは手に入れてある。ISのコアだよ、未登録のね。それにアレの建設も約6割と言ったところだ。だが問題はIS学園の連中、遠からず私達に気づくだろう。特に飛鳥真、カナード・パルス、篠ノ之束、織斑千冬、アスラン・ザラ……そしてラキーナ・パルス。何人かは覚えがあるだろう、君も」

 

 

通話相手に尋ねる。

相手がため息をもらしたのが聞こえる。

 

 

「私個人としてもラキーナ・パルス、いやキラ・ヤマトは警戒している。何せ彼に殺されたのだからね。しかし、彼も今や女性か。難儀なものだな」

 

 

通話相手もその言葉に相槌を打っている。

 

 

「ああ、また追って連絡する。今後も頼むよ」

 

 

携帯電話を懐にしまう。

 

 

「……ふふ」

 

 

サングラスを手にして身につける。

水色の髪の彼女はそのまま、その部屋を出て行った。

 




次章予告
INTERMISSION①
【INTERMISSION 年末の二人】

「簪、明けましておめでとう」

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