【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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Episode of Lakhina 【本当に救いたかった人】
PHASE1 彼女との再会


――空に浮かぶ砂時計型の建造物

 

 

ああ、またこの夢か。ホント何なのよ。

いつも見るこの変な夢。起きてるときは不思議と忘れてるのに、夢を見ると思い出す。

 

 

――脱出艇と思われる船に一機の機動兵器が近寄る。

――脱出艇の上方から狙っている砲台が狙っていた。

 

 

この機動兵器、何なのかしら。日本のアニメ作品でもこんなの見たことないし。

そう考えると、夢は続いていく。

 

 

――発射された閃光を機動兵器はシールドを使って弾く。

――だが次の瞬間、別角度から放たれたビームに、脱出艇は貫かれて、爆炎に包まれていく。

 

 

「あっ、ああ……っ!!フレイーっ!!」

 

 

――機動兵器のコックピットの中で自分と同じくらいの少年が涙を浮かべて叫んでいた。

 

 

私は、アンタなんか知らないのに……なんで、こんなに悲しいのよ。

泣いている少年の映像が途切れて、夢が終わる。

 

これが、いつも私が見ている夢。

何なのかは分からない。でもとても悲しい夢。

 

――――――――――――――――――――

1月 IS学園職員室

 

 

「……」

 

 

見るからに不機嫌そうな表情のカナードが腕を組みつつ、宛がわれた机に座っている。

服装はいつもの戦闘服ではなく、フォーマルなスーツ。

 

冬休みが明け、IS学園では授業が再開していた。

その中で非常勤の立場にあるカナードにも授業に出て欲しいと言う依頼があった。

 

当初、カナードは断固としてその依頼を断った。

しかし、束とクロエの説得により渋々だが依頼を受けることとなった。

 

IS学園側がこの様な依頼をカナードにしたのは理由があった。

その理由は未だ、ISと言う【力】に対する認識が弱い生徒が散見するのだ。

 

その為、希少な男性搭乗者かつ非常勤講師と言う立場にあるカナードに白羽の矢が立ったのだ。

仮とはいえ教師からの言葉ならば生徒達にも少なからず影響があるはずだと。

 

 

「様になっているじゃないか、パルス先生?」

 

「……織斑千冬」

 

「ん、すまん、聞こえなかった。何だ、パルス先生?」

 

 

わざとらしく咳払いした千冬が笑みを浮かべてカナードに聞き返す。

 

 

「……織斑教諭、何か用か?」

 

「君の妹のラキーナ。三組に転入されたが彼女はうまくやれているかどうか聞きたくてな」

 

 

そう千冬の言葉の通り、ラキーナはIS学園の一年三組に転入されていた。

年齢で言えばまだ中学一年生であるはずのラキーナがどうしてIS学園に転入できるのかと言えば、IS学園には飛び級制度があるからだ。

 

ラキーナは学力やISに関する技術共に、IS学園の飛び級制度の基準を満たしていた。

本人はあまり乗り気ではなかった。

 

しかし、一応の保護者とも取れる立場の束から、

 

 

「学生生活なんて今くらいしか出来ないんだから楽しんでおいで」

 

 

と言われ彼女も転入に納得していた。

もちろん有事の際には束に協力する事は伝えてあるが。

 

余談ではあるが、一時期専用機持ちを一組にクラスを変更させると言う案も出たが却下されていた。

専用機持ちだけの贔屓にも取れるし、クラスの変更など他の生徒達からしてみれば混乱を招くだけだからだ。

 

 

「特に問題があったとは聞いていない。中々うまくやれているようだ」

 

「そうか、それはよかった。ところで午後の一組と二組の合同授業だが、お前も出てくれないか?生徒に実技を見せれるのが真耶と私だけでは手が足りないからな」

 

「……どうせ拒否権などないんだろう?」

 

「分かってるじゃないか。真耶との模擬戦を見せてやってくれ。お前の技量ならば生徒達もいい刺激を受けるはずだ」

 

「……了解した」

 

 

ため息をついてカナードは了承した。

 

――――――――――――――――――――

同刻 一年三組

 

 

ラキーナは自席で参考書を読みつつSHRを待っていた。

ちなみにIS学園の制服は袖を一部カットしてインナーが見えるようにしている。

結構大胆な改造であるが、特に何も言われていないため問題はないのだろう。

 

そんな彼女に、クラスで出来た友人の一人である黒髪の少女――【君島朱里(きみしまあかり)】が話しかけてきた。

 

 

「ねぇねぇ、ラキーナ!今ダイジョブ?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

彼女は転入してきたラキーナに一番最初に話しかけてきた生徒であり、すでに友好な関係を気づいていた。

ラキーナが三組に転入されて、すでに一週間ほど経過していた。

朱里の他にもすでに友人グループとも言えるメンバーが彼女の回りにいる。

 

 

(最初はどうなるかと思ったけど……皆よくしてくれて、良かった)

 

 

友人達に感謝していると、朱里がラキーナに質問を投げかけてきた。

 

 

「カナード先生って今フリー?」

 

「えっ、えっとフリーってその……」

 

 

朱里からの質問と同時に、教室内が一気に静まり返るのを感じた。

皆、朱里の質問に対する返答が気になっている様だ。

 

 

「もー、朝からやめときなよ……といいつつ私も気になるのであった。どうなのそこのところ?」

 

 

朱里と同じ時期に友人となった紫髪の少女【橘愛理(たちばなあいり)】も話に便乗してきた。

 

 

「兄妹なら知ってるでしょ?ねー、いいでしょー?」

 

「えっと……いいのかな、これ言っちゃって」

 

「おっ、おっ!?答えはっ!?」

 

 

朱里の言葉に教室中の女子生徒が耳を澄ます。

それを内心苦笑しつつ、ラキーナが返答した。

 

 

「兄さん、大切に想っている人居ますよ?」

 

 

エクスカリバー迎撃作戦の後、カナードとクロエの関係はより親密になったようであった。

クリスマスイブの日は疲れて眠ってしまっていたが、その翌日に束から教えられたのと、嬉しそうにしていたクロエの態度から推測している。

 

 

(兄さんもやることやってるんだなって思ったなぁ……最近やけにクロエちゃんの身体気づかってるみたいだし)

 

 

ラキーナの言葉に静かに聞き耳を立てていた3組のクラスメイトは全員、目を見開いて驚いていた。

中にはがっくりと膝をついている者もいた。

 

 

「なん……だと……!?」

 

「うぼぁー!」

 

「飛鳥君に続いてかー!まさかの先生までー!そういうのとは無縁そうなのにー!」

 

「くっ、こうなったら織斑君を……はっ、殺気っ!?」

 

 

阿鼻叫喚の地獄絵図。

 

朱里は呆然としつつ、愛理は変な叫び声を上げて頭を抱えた。

何名かの生徒は一組と二組から飛んで来る殺気に身を震わせていたが。

 

 

「あはは……皆凄いなぁ。っと、もうSHRの時間か」

 

 

だがそんな阿鼻叫喚の地獄絵図もSHRの時間が来れば自然と収まった。

朱里や愛理からは、追求したいと言う目線を感じるが朝から教師に叱られたくないのだろう。

少女達は気持ちに蓋をしてSHRを迎える。

 

教室に担任の女性教師が入室してくる。

 

 

「なにやら騒がしかったけど……どうかしたの?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン」

 

 

朱里が片言で返し、ラキーナはそれに苦笑していた。

 

 

「そう?ならいいんだけど。っと今日は皆さんにお知らせがあります。入ってきてください」

 

 

教師のその言葉に教室の扉が開いて、一人の少女が入室してくる。

 

真っ赤な宝石の様に輝いて見える【赤髪】に気品を感じさせる佇まい。

早速制服をセシリアと同じようにドレス上に改造しているようであったが、それが醸し出す雰囲気をより一層上品なものにしていた。

 

 

「今日からこのクラスに彼女が転入されることになりました。自己紹介を」

 

「はい」

 

 

少女は教師に返事をして、クラスメイトに会釈してから告げた。

 

 

「フランスの代表候補生、【フレイ・シュヴァリィー】です。以後よろしくお願いします」

 

 

そう言ってフレイと名乗った赤髪の少女が会釈する。

 

 

(フっ、フレイっ!? なっ、なんでここにっ!?)

 

 

驚愕にラキーナは瞳を見開いた。

転入生として現れた少女はかつて、目の前で守れなかった【フレイ・アルスター】に酷似していたのだから。

ファミリーネームは異なっているが、それ以外はフレイ・アルスターそのものである。

 

 

「えーっと、そうね。パルスさんの隣、空いてるわよね?シュバリィーさんの席はそこで」

 

「分かりました」

 

「っ!?」

 

 

教師がそう告げると、フレイはラキーナの隣の空いている席に座った。

そしてラキーナに向かってニコッと微笑を浮かべて話しかけた。

 

 

「よろしくね、えっと……ラキーナ・パルスでよかったかしら?」

 

「えっ、あっ、うん。よっ、よろしく……お願いします。フレイさん」

 

 

驚愕と緊張のあまりに少しどもりながら彼女に返す。

その様子を見たフレイは苦笑していた。

 

 

「何ビクビクしてるの?私そんなに怖い顔してる?」

 

「いや、そんな事は……ないです」

 

「ふーん……あ、そっか、アンタ飛び級で2つ下だもんね。いいのよ気にしなくて?」

 

 

笑みを浮かべたフレイ。

その笑みはかつてのフレイ・アルスターと全く同じであった。

 

 

「うっ、うん。ところでフレイ……さん」

 

「さん付け止めなさいよ。それで、何?もう授業始まるわよ?」

 

「あっ、すぐ終わるから。C.E.(コズミック・イラ)って言葉に聞き覚えはある……ありますか?」

 

 

緊張しながら核心を尋ねたラキーナであったが、フレイは首をかしげた。

 

 

C.E.(コズミック・イラ)? 何それ、何かの映画のタイトル?」

 

 

首をかしげながら授業の準備を始めるフレイ。

 

 

(彼女は……覚えていないのかな?でもデュランダル議長……蔵人さんの例もあるし、思い出してないだけなのかな?)

 

 

C.E.の記憶を持つものは最初から持っていたものと、後から思い出した者に分かれている。

大体が前者であるが、身近な例だと更識蔵人――【ギルバート・デュランダル】の例もあった。

 

その為、フレイも思い出してないだけなのではと一人、思考の海に沈んでいく。

 

 

そして授業が開始され、数十分後。

プログラミングの課題が出され、皆必死に課題に取り組んでいた。

 

 

「あら、凄いわね、ラキ。プログラミングもう終わったの?」

 

 

課題であるプログラミングは、ラキーナにとっては大して難しいものではなかった。

その為ため、考えながらも終わらせていた。

 

それを確認したためか、ディスプレイを覗き込んで驚きながらフレイは言う。

 

だが今のラキーナはそれどころではなかった。

何故ならば、ふわりと彼女の赤髪がラキーナの顔の目の前を横切ったからだ。

髪から香る芳香。

女性特有の香りに、今は女性であるはずのラキーナはドキリとしてしまっていたからだ。

 

 

「どしたの?」

 

「……なんでもないです」

 

 

鼓動を早めている心臓を押さえつけられたら押さえつけたいと考えつつ、ラキーナが返す。

 

 

「……ふーん。よし、私もさっさと終わらせないとね。あ、ラキーナ」

 

「はい?」

 

「放課後、アリーナ使って一緒に訓練しない?まだ施設全部把握してないから、案内して欲しいのよ」

 

「……分かりました」

 

「ん、ありがと。ああー、もうプログラミング苦手っ!」

 

 

フレイはそう言ってディスプレイを凝視して作業を進めていく。

 

 

(確かめないと。本当に彼女がフレイなのか……どうなのか)

 

 

そう、ラキーナは決心していた。

 

 

――――――――――――――――――――

昼 食堂

 

 

「真、あんまりハンバーガーばっかりだと身体壊すよ?」

 

「そんな連日食ってるわけじゃないから、大丈夫だって……というか、今日は簪もじゃないか」

 

「うっ……それはそうだけど、そういう気分だったから」

 

 

有名ハンバーガーチェーンの紙袋を持った簪が言う。

 

真と簪の二人は午前中、所属企業である日出工業の支部にとある用事で呼ばれていた。

日出工業にて開発している量産型ISの試作機がようやく稼動段階に入ったため、その試験の為だ。

 

用事も終わらせて、学園に返ってくる際に昼食の為にハンバーガーを買っていた。

 

二人が空いているテーブルを見つけて座る。

相席しようとする生徒たちはいなかった。

一部うらやましそうに見ている生徒たちはいたが、それはもう無視することに二人はしていた。

 

 

「まあいいけど。それはそうと、それピクルス入ってた気がするんだけど大丈夫なのか?」

 

 

真の言葉にはっと包み紙を開けて簪は中身を確認する。

ソースの中に確かにピクルスがいくつか見えた。

 

簪が少しため息を付いて、困った顔で真を見上げた。

 

 

「……真、お願いがあるんだけど」

 

「後でピクルス、抜いてくれれば食べるからさ」

 

「ありがとう、ごめんね」

 

「あははー、熱々だねー!」

 

 

テーブルにドーナッツを持った本音が相席しつつニコニコと告げる。

二人が少しだけ赤くしてごほんと咳払いした。

 

そして真が本音が何かの紙を持っていることに気づき、話を切り替えるために尋ねる。

 

 

「本音さん、その紙は?」

 

「んふふー、見て驚くのだー!」

 

 

本音がそう言って真に見ていた書類を手渡す。

一旦ハンバーガーをテーブルにおいて、手を拭いた真はその書類を受け取る。

その横から同じようにドリンクを置いた簪が覗き込む。

 

 

「これって、ドラグーン適性テストの結果用紙?」

 

 

ドラグーンを操作するためには【空間認識能力】が必要になる。

日出工業でもドラグーンの適正テストを行うことで搭乗者や技術者の中から適正のある者を見つける試みが行われていた。

余談ではあるがこのテストを作り上げたのはジェーンと束であり、彼女達によるとドラグーン適性とBT適正はほぼ同一のものらしいとの事だ。

 

 

「しかも評価、Aっ、凄いじゃないかっ!」

 

「えへへー、私も驚いてるのー」

 

「……俺、下から2番目の評価Dだったからなぁ」

 

「私は評価Cだった。凄いよ、本音」

 

 

当然、真や簪もそのテストは受けていた。

真の結果は全6段階の内、下から2番目のD。簪は評価Cであった。

ドラグーンを操作するには最低でも評価Cの適正が必要なため、簪はドラグーンを操作できるが真には不可能なのだ。

それを思い出して真は苦笑していた。

 

 

「あすあす、セッシーのビットとか見切れてるのに評価低いんだ」

 

「ドラグーンって本当に適正ありきの武装だしな。ドラグーンは動かすよりも対処する方がなれてるってのものある、対処方法は身体に叩き込んであるしね」

 

 

そう言って本音に書類を返す。

 

 

「日出全員がテスト受けたらしいけど、適正だと簪と利香さんの評価Cが最高だったよな」

 

「うん。この結果、もしかしたら本音にも専用機……開発されるかもしれないね」

 

「専用機かぁ」

 

 

珍しく悩むように本音がその言葉を反芻した。

 

 

「ん、悩むことなのか?」

 

「確かに欲しいとは思うんだけどねー。私はあすあすやかんちゃんの機体を整備出来るほうが楽しいし、好きかなーって。いや、もちろん悩んでるけど」

 

「本音、そういうのはちゃんと決めないと」

 

 

簪が本音に告げるが、真が何かに気づいたように告げる。

 

 

「……考えてみれば開発されるとしてもおそらくは第一世代ドラグーンになると思うから、本音さんが協力しない限りは難しいだろうな」

 

「第一世代?ドラグーンにも世代があるの?」

 

「それは初耳」

 

 

本音と簪が真の言葉に疑問符を浮かべた。

 

 

「ああ、これは受け売りなんだけど。ドラグーンの第一世代はこのテストで判別できる空間認識能力がないと使用できない代物なんだ。ISで積んでいるのだとクロエの【Xアストレイ】だな。後セシリアのブルー・ティアーズもドラグーンとほぼ同じだから第一世代相当だな」

 

「なるほどー、それじゃ第二世代ドラグーンは?」

 

「こっちはある程度インターフェイスを改良されてレスポンスが向上したヤツだな。第一世代ほどの空間認識能力は必要ないんだ。ま、操作難易度は高いままだけど。ISで積んでいるのは……ないな。デスティニーに装備されてるフラッシュエッジⅡ、飛燕に装備されてるフラッシュエッジも簡易化されたドラグーンではあるんだけどね」

 

「フラッシュエッジもドラグーン技術なんだ。自動追跡装置(ATS)が積まれてるのは知ってたけど」

 

「戻ってくる処理は基本マシン任せだからな」

 

 

そう言って真がハンバーガーをかじる。

 

 

「あ、話は変わるんだけど、三組に転入生がきたんだよー」

 

「転入生?」

 

「うん、フランスの代表候補生だって」

 

「シャルロットと同じか」

 

「そう!そして何でもラキーナちゃんと放課後に模擬戦をやるらしいの!」

 

「転入初日からって、凄いね」

 

「だな。相手はラキーナか。厳しいんじゃないか?」

 

 

ラキーナの実力を知っている真からすれば、その転入生はかなり厳しい戦いを強いられるだろう。

それは簪も同じ考えであった。

 

 

「真、気になってる?」

 

「まぁな。簪、放課後暇なら整備のついでに見に行かないか?」

 

「うん。いいよ、大丈夫」

 

「私も行くー!」

 

「んじゃ、3人で……まぁ、一夏達も来るんだろうけどな」

 

 

そう真は返して自身のドリンクであるコーラに手を伸ばした。

 






次回予告
「PHASE2 黒」

『本気出しなさいよ、ラキーナっ!』

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