【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE2 黒

放課後 第3アリーナ

 

 

転入生であるフレイと、ラキーナの模擬戦が行われるという噂は昼休みにはすでに全校生徒に知れ渡っていた。

片やフランスの代表候補生、片や飛び級で転入してきた男性搭乗者の妹。

話題性は抜群であった。

すでにアリーナの観客席には多くの生徒が待機しており、模擬戦が始まるのを待っていた。

 

その中には真達の姿もあった。

真の左隣に簪が、その隣に本音が座っていた。

 

 

「人多いな」

 

「うん。二年生や三年生もいるね」

 

「皆興味津々だねー」

 

 

そんな三人を見つけて声をかける男子生徒がいた。

 

 

「おっ、真に簪さんにのほほんさん。見に来てたのか」

 

 

それは当然、友人である一夏であった。

一夏に続いて箒、鈴、シャルロット、ラウラ、そしてセシリアのいつものメンバーが揃う。

 

 

「ああ。来ると思ってたから席取っておいた」

 

「おっ、サンキュー」

 

 

真達の傍の空いている席に一夏達は腰を下ろした。

 

 

「転入生、フランスの代表候補ってことは、シャルロットは知ってるんだよな?」

 

 

一夏達が座ったことを確認した真は、シャルロットに尋ねる。

 

 

「うん。でも彼女とは2、3回会った事しかないんだ」

 

「そうなのか?」

 

「ほら僕は色々あったしね……まぁ、今は父さんとは仲いいけどさ」

 

 

はははと乾いた笑みを浮かべるシャルロット。

それに苦笑していると、グループに近づく気配を感じ振り返る。

 

 

「お前達も来ていたか」

 

 

振り返った先には、スーツ姿のカナード。

本日の担当分の授業を終えた彼も、観戦に来ていたのだ。

ジャケットを脱いで、ネクタイを少し緩めていた。

 

 

「カナードも来たのか」

 

「ああ……何だお前達、俺に何かあるのか?」

 

 

真に返事をした後、カナードは一夏達に視線を向ける。

一夏達全員が驚いたような表情をしていたからだ。

 

 

「いや、不思議と違和感がなくてな」

 

「スーツ姿様になってるじゃないってね」

 

「いつもの服と雰囲気が違うから新鮮だし、僕はいいと思うよ」

 

「よく似合っていますよ、カナードさん」

 

「……好きで着ているわけじゃないがな、礼は言っておく」

 

 

カナードはため息をついて返す。

 

 

「ところで真」

 

「ん?」

 

「あのフレイと言う代表候補生の事だが……」

 

 

カナードがそう話を切り出した瞬間であった。

Aピットから件の少女、フレイがISを纏って射出された。

 

彼女が纏う機体は【ラファール・リヴァイヴ】

パーソナルカラーなのか、機体全体が黒色。

一般的なラファール・リヴァイヴよりも機動性を重視しているのか、スラスターを増設しているようだ。

また機体背部にはMSで言うランドセルの様な接続コネクタが見える。

 

 

「色が【黒い】けど【ラファール・リヴァイヴ】だよな、シャル」

 

「うん、【黒】って彼女のパーソナルカラー見たいなモノなんだ。それ以外はラファールのカスタム機だよ。機体全体に姿勢制御スラスターを増設してるんだ。でもあんな背部コネクタなんてなかったと思うんだけどなぁ」

 

 

尋ねた一夏にシャルロットが答える。

 

 

「それでカナード?」

 

「いや、試合の後でいい」

 

 

そう真に告げた彼の、フレイの機体を見る視線はどこか鋭かった。

 

―――――――――――

 

フレイの射出に数秒遅れて、Bピットからラキーナのストライクが射出された。

 

装備しているストライカーパックは【エールストライカー】だ。

IS【インパルスガンダム】の【フォースシルエット】と同じく高機動戦闘に適した標準的な装備を持つストライカーパック。

フレイの機体が未知数であるため、様子見もかねて使い慣れたエールをラキーナは選択していた。

 

そんなラキーナの機体を観察するようにフレイは見ていた。

そしてオープンチャネルを送る。

 

 

『【飛鳥真】の機体の形態移行前、【インパルスガンダム】だったっけ?似てるわね、その機体』

 

『コンセプトは同じですからね。そちらはラファール……ですよね?』

 

『ええ。あっ、もしかして黒いから一瞬わからなかった?』

 

 

ちょっとだけ得意そうに彼女は笑う。

得意げに胸を張った際に、自身とは比べ物にならないほど豊かに育った二つの果実がぷるんと揺れたのをストライクのセンサーは拾っていた。

心臓が跳ね上がるのを何とか抑えたラキーナは、一度深呼吸して告げる。

 

 

『……それでは……行きますっ!』

 

 

エールストライカーから得られる推力を持って横方向に加速。

加速と同時に展開したビームライフルの照準をラファールに合わせ、トリガーを引く。

 

 

『ビーム兵器まで同じとはねっ!』

 

 

射線を読んでいたフレイはスラスターを噴かして、ライフルの射撃を避ける。

回避行動と同時に展開し専用アサルトライフル【サウダーデ・オブ・サンデイ】を二丁展開、両マニピュレータに構えた。

 

 

『今度はこっちよっ!』

 

 

炸裂音が木霊し、弾丸が次々にストライクに向かっていく。

だが、ラキーナはその弾丸をスラスター制御とAMBACで躱していく。

 

アサルトライフルは弾幕を張る事が出来る為、躱しきれない部分もあるがそれについても冷静にシールドで弾く。

 

ビームライフルはアサルトライフルと比べて速射は効かないが、その分精密な射撃を行うことができる。

加えてラキーナはキラ・ヤマト時代から格闘よりも射撃に秀でていた。

それは生まれ変わった今でも変わっていない。

 

 

『そこっ!』

 

 

回避を続けつつ、弾幕の切れ目を狙った反撃のビームライフルの一射。

 

放たれたビームは、フレイのアサルトライフルを正確に貫いていた。

咄嗟にアサルトライフルを投棄したフレイは舌打ちして毒づいた。

 

 

『どんな腕してんのよアンタっ!』

 

 

自機を正確に狙ってくるラキーナの射線と飛来するビームを回避しつつ、フレイが叫ぶ。

いくつかフェイントが混ざっていたため、完全な回避はできずにシールドバリアに直撃し、エネルギーは減っていく。

 

 

―――――――――――

 

「ラキーナ、やっぱ強いよなぁ」

 

 

一夏がそう呟く。

その呟きをカナードが拾う。

 

 

「高速機動での射撃戦はアイツの得意分野だ。お前も模擬戦で嫌と言うほど味わっただろう」

 

「ああ。こっちの攻撃は全部避けられて距離取られてさ。二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)で詰め寄ろうにも予測されてたのか撃ち落とされたなぁ」

 

 

模擬戦を思い出して一夏が苦笑した。

 

第二形態移行した【白式・雪羅】は機動力でいえば現行のISの中でも間違いなく上位に位置している。

また、移行した際に発現した多機能武装腕【雪羅】の荷電粒子砲のお蔭で遠距離攻撃手段も獲得している。

 

しかし【I.W.S.P.】や【フリーダムストライカー】を使用すれば同レベルの機動力を得ることができるストライクが相手。

単純な機体性能ならばほぼ互角であった。

 

加えて射撃武器の性質が異なるのも響いていた。

デスティニーやドレッドノートH、ストライクが使用する標準的なビームライフル。

また内蔵武器や固有兵装に使用されているビーム兵器はある程度連射も可能である。

 

所謂スナイパーライフルタイプの荷電粒子砲では手数が足りない。

一夏本人が射撃を苦手としているのも合わさり相性は最悪とも言えるだろう。

 

ただビームライフルの射線を読み切って【零落白夜】で切り裂くと言う成果を上げたため、善戦したとは言えるのだが。

 

 

「あの精密射撃でこっちの攻撃動作を潰してくるのはいやらしいわよね、あの子。それに今はまだ使ってないけどあの【フリーダムストライカー】のフルバーストだっけ?あれ威力高すぎない?」

 

「フリーダム系列の最大火力だしな。まともに喰らえばシールドエネルギーもかなり持っていかれるだろうさ」

 

 

鈴の言葉に真が返す。

 

オリジナルである【フリーダムガンダム】と相対したことがある真からしてみれば彼女の意見もよく分かる。

ハイマット・フルバーストモードと言う仕様外の機能が搭載されていた【フリーダムガンダム】はまさにC.E.では伝説になるレベルの戦果を挙げていたのだ。

当時のザフト軍が何度苦渋を舐めさせられたか、数えるのも億劫だ。

 

現在はMS時とは違ってモードの切り分けが必須になるISでは多少隙ができる。

しかし、相手がラキーナでならばそのタイミングをつくのはシビアだろう。

 

そんなことを考えていると模擬戦にも変化が訪れていた。

 

―――――――――――

 

『やるわね、ホント。二歳下とか思えないわよ』

 

 

ストライクは先程から徹底して中距離を維持したまま、ビームライフルによる精密射撃を行っていた。

それによりフレイのラファールのシールドエネルギーはすでに4割を切っていた。

 

だがフレイの顔には笑みが浮かんでいる。

それはまだ余力を残しているから浮かぶものであった。

 

 

『でもまだこれからよっ、さぁ、行くわよ【ノワール】っ!』

 

 

フレイの声と共に、【黒い追加パッケージ】が量子展開され、ラファールの背部接続コネクタに接続される。

 

巨大な可変ウイングユニットに射撃用の連装リニアガン、そして接近戦用の大型実体剣。

その外見はラキーナのストライクが使用する【I.W.S.P.】に酷似していた。

 

フレイの切り札にラキーナの瞳が見開かれる。

出現した追加パッケージの正体を彼女は知っているからだ。

 

 

(あれは……【I.W.S.P.】っ!?いや違う、あれは……っ!)

 

 

『さぁ、こっからが第2ラウンドよっ!』

 

 

追加パッケージ【ノワール】のスラスターが火を噴く。

パッケージ未装着時とは比較にならない速度で動く、フレイのラファール。

 

正式名称【ラファール・リヴァイヴ・ノワール】は可変ウイングユニット内の連装リニアガンを放ちながらストライクに迫る。

 

―――――――――――

 

 

「あれは【ノワールストライカー】っ!?」

 

 

真が驚愕と共に立ち上がる。

その反応に驚きつつも、簪が彼に問う。

 

 

「【ノワールストライカー】って?」

 

 

彼女の質問に我に返った真が、座りなおしつつ答える。

 

 

「【ノワールストライカー】。連合の一部隊で使用されてたMS用のストライカーパックさ。【I.W.S.P.】のコンセプトを継承させてなおかつその万能性を殺さずに、近接格闘に特化させてるんだ。そういえばインパルスのシルエットにも候補で上がってたな。第二形態移行したからペーパープランで終わったけど」

 

「そんなものをどうして使っているんだろう。彼女があんなパッケージを使ってるだなんて僕、初耳だよ」

 

 

真の言葉にシャルロットが疑問の言葉を出す。

 

 

「流出した技術情報によってフランスはコピーを作成したんだろう……あくまで可能性だがな」

 

 

カナードの言葉にシャルロットが苦笑いを浮かべている。

フランス政府は歌姫の騎士団ともつながっていた過去がある。

流出した出所は恐らくデュノア社だろうと、シャルロットとカナードは予想していた。

 

 

「……しかし完全なコピーという訳ではないようだな。近接武装がIS用の実体剣になっている」

 

「ああ。ノワールストライカーの近接武装は確か【フラガラッハ3】。エクスカリバーやバルムンクに近いビーム実体剣だったはずだ。ラキーナのストライクの【I.W.S.P.】が装備してたな、そう言えば」

 

「PS装甲に対して効率よくダメージを与えるためにはビームを使ったほうがいいと、あいつが設計段階から束に告げていたからな」

 

「おそらく技術をモノにできなかったんだろう。世界各国のIS研究機関が真、日出経由で流れている日出のビーム粒子発生技術や操作技術を実戦レベルで再現できていない。ドイツ軍でも同じだ」

 

 

真とカナードの言葉を裏付けるように、ラウラが続ける。

 

 

「……今後も技術流出による影響が出そうだな、カナード」

 

(……あの女、やはりそうなのか?)

 

 

真の言葉に頷きつつ、カナードはフレイへの疑惑を深めていた。

 

―――――――――――

 

『くっ、速いっ!』

 

 

リニアガンを回避しつつ、ビームライフルでフレイを狙う。

だが、機動力と運動性能が比較にならないほど向上している為、射線を読まれて躱されてしまう。

 

 

『やぁっ!』

 

 

そして至近距離に持ち込んだラファールの実体剣【ダン・オブ・サーズデイ】の一撃がストライクのビームライフルを切り落とす。

返す刃でストライク本体を狙うが、ライフルを破壊された時点で即座に後退していたストライクには届かなかった。

 

だがそのままスラスターを噴かして密着。

再度ブレードを振り下ろす。

 

 

『ぐっ!』

 

 

咄嗟にビームサーベルを展開してその一撃を受け止める。

アンチビームコーティング施されている為か、ブレードを切断することはできずに鍔迫り合いになる。

ビーム粒子が火花となって飛び散り辺りを彩っていた。

 

 

『さぁ、どうしたの、ラキーナっ!あんたもまだ本気出してないんでしょっ!?』

 

 

笑みを浮かべてフレイはラキーナに告げる。

だがラキーナの脳裏にフラッシュバックしたのはかつての記憶。

 

 

(あんた…自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!!)

 

 

無論、今のフレイ自体が言ったわけではない事は理解している。

だが同じ顔の少女に、同じような言葉を言われた為か、トラウマが蘇ってしまったのだ。

 

 

(違う、あの時の言葉とはっ!彼女はただ真剣に試合しているだけなのにっ!)

 

 

自己嫌悪を感じつつ、それを振り払う。

だがそのせいかビームサーベルを握る手がわずかにぶれた。

 

 

『っ、隙ありっ!』

 

『ぐぅっ!?』

 

 

鍔迫り合いを押し切ったブレードがストライクの胸部装甲に直撃して、シールドエネルギーが減少する。

ここまでビームライフルによる消費しかしていなかった為か、まだ余裕はある。

 

だがフレイの攻撃は止まらない。

ブレードを使用してさらに連撃。

 

咄嗟に瞬時加速による後退を選択する。

 

 

『読んでるわよっ!』

 

 

彼女の言葉と同時に、背部のノワールストライカーより【アンカーランチャー】が発射される。

 

 

『この程度でっ!』

 

 

即座にAMBACと各部姿勢制御スラスターによる姿勢制御。

そして飛来してくるアンカーランチャーはビームサーベルで切り払った。

 

 

『今のをやりすごすってのっ!?いいわ、燃えてきたっ!』

 

 

それに驚愕しつつも、フレイは興奮した様子で続ける。

 

 

『本気だしなさいよっ、ラキーナっ!』

 

 

ブレードで再度斬りかかってくるラファール。

 

 

(……フレイ)

 

 

エールストライカーが格納されて、別のストライカーパックへと換装する。

その様子を確認したフレイは連装リニアガンを放つが、次の瞬間にはストライクをロストしていた。

 

 

『っ、はやっ!?』

 

 

いや、正確にはロストした訳ではない。

ハイパーセンサーはしっかりと反応を捉えていた。

ハイパーセンサーで感知できても人の身体が追いつかないのだ。

 

アリーナ上方を見上げると、そこには――

 

 

(機械の天使?)

 

 

機械天使。

今のストライクはまるで天使のようにも見える。

 

そのストライカーパックはフリーダムの名を持つモノ。

8枚の機械の翼を背負った自由の名を持つ装備。

【フリーダムストライカー】

 

 

(あれは……私はあれをどこかで見たことがある?)

 

 

身に覚えのないデジャヴュを感じたフレイであったが、今はそれを無視する。

 

 

『確かめる為に私も本気で……本気で行くよ、フレイっ!』

 

 

自由の翼を広げたストライクと共にラキーナが翔る。

 

 

 





次回予告
「PHASE3 怨念を抱く者」

「君は誰だね?」



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