【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE3 怨念を抱く者

『っ、速すぎるっ!』

 

 

フレイの叫びと共に、彼女に向かってビームが降り注いでくる。

それを発射したのは彼女より上方を取っているストライク。

 

フリーダムストライカーを展開した今のストライクの機動力は、先程までのエールストライカーとは比べ物にならないレベルで高まっている。

 

ノワールストライカーの可変ウイングに搭載されたリニアガンから弾丸を放つが全て紙一重で躱されている。

そして背部の機械翼が可変し、【バラエーナプラズマ収束ビーム砲】が展開。

即座に反撃として高出力ビームを放ってくる。

 

回避して反撃に距離を詰めようとしても、機動力の差から徹底的に中距離を維持されてしまっていた。

降り注ぐバラエーナの直撃を受けて、フレイは体勢を崩す。

エネルギーも残り1割未満、すぐにエネルギー切れで動けなくなる。

 

 

『……まさかこんなに強いなんてねっ、見誤ったなぁ……』

 

 

思わずフレイはそう零してしまった。

すると上方のストライクが新たな動きを見せていた。

 

機械翼を展開した高機動モードと思われる形態から、両肩にビーム砲、腰部に追加で2門の砲塔が展開された形態へ変化していた。

 

 

(あれは……砲戦形態!)

 

 

形態を切り替えたストライクが何をしてくるのか、フレイにはなぜか理解できた。

 

 

(でもあの状態だと動きが鈍いはずっ、って何で私は……あの形態を知ってるの?弱点までわかるなんて……!)

 

 

そしてその形態の持つ威力と弱点も不思議と理解できていた。

 

 

『その形態なら避けられないでしょっ!』

 

 

先程から崩れた体勢のまま、手に持ったブレードを投げ付ける。

 

 

『っ、ぐっ!?』

 

 

ISのパワーアシスト込みで投げ付けられたブレードは、フリーダムストライカーの左バラエーナの砲口を正確に貫いた。

 

完全に体勢を崩していたフレイからの思わぬ反撃を、ストライクは避けられなかった。

フルバーストモードに切り替え、運動性能がガタ落ちしていた事に加え、トリガーを引く寸前だったからだ。

 

射撃間際だったエネルギーは行き場を失って暴走、特徴的な機械翼の左半分は綺麗に吹き飛び、背部スラスターにも影響が出ていた。

 

そしてその分、ストライクのシールドエネルギーは大幅に消耗していた。

だが今そんなことはラキーナの思考から排除されていた。

 

 

(今の行動、フルバーストの弱点、運動性能が低いってことを知っているっ!?やっぱり彼女は……っ!)

 

 

確信にも似た答えを得た。

やはり彼女は自分の知っているフレイだと。

ただ思い出していないだけなのだと。

 

そんな時、繋がったままのチャンネルからフレイの焦るような声が響いた。

 

 

『あっ、やばっ、ノワールのエネルギーがっ!』

 

 

ストライクへの咄嗟の反撃でエネルギーが切れたフレイのラファールはゆっくりと降下していたのだが、PICを維持するエネルギーも切れたのか落下していく。

 

まだ地上まで30mはある。

落下すれば大事故につながる事は目に見えていた。

 

 

『フレイっ!』

 

 

彼女の意識の中で【紫の種】

 

――【S.E.E.D.】がはじけ飛んだ。

 

 

『今助けるっ!』

 

 

すでに大半の機能を失い、スクラップ寸前のフリーダムストライカーをパージ。

代わりに展開されるのは、ノワールストライカーに似た大型の背部パッケージ【I.W.S.P.】パックだ。

 

フリーダムストライカー並の機動力を得ることができるが、I.W.S.P.はどちらかと言うと近接戦闘に適しているストライカーパック。

身体が未成熟な彼女にはまだ適していないが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)

 

爆発的な加速、大切な人を守る為にラキーナは駆ける。

地表まで約5m、激突寸前に彼女を抱きかかえて減速。

 

そのまま、着地した。

 

 

『……大丈夫?』

 

『えっ、ええ……ありがと、ラキーナ。助かったわ』

 

 

所謂お姫様抱っこの状態で少し恥ずかしそうにフレイはラキーナに答える。

紅潮したフレイの顔と今の状況を整理できたラキーナが同じように顔を赤くして答える。

 

 

『あっ、ああっ!ごっ、ごめんなさいっ!すぐに下ろすからっ!』

 

『……あら、もう降ろしちゃうの?』

 

 

その反応が面白かったのか、フレイはラキーナの耳元で囁く。

その言葉にさらにラキーナの顔は真っ赤になった。

 

 

『ふっ、フレイさんっ!?』

 

「冗談よ、ありがとう。そして強いのね、ラキーナは。でも今度は私が勝つわよ?」

 

 

ウィンクしながらラキーナにそう返して、ISを解除したフレイは待機状態、【ネックレス】になったノワールを手にストライクから降りる。

 

同時に模擬戦終了のコールが響いた。

 

 

―――――――――――――――

模擬戦終了後

 

 

白熱の模擬戦が終わった後、生徒達は各々の訓練や自由時間を過ごすために解散していた。

一夏達も同じく別アリーナに向かい、訓練を行っている。

 

アリーナに残ったのは、整備室に向かった簪と本音の二人と別れた真。

そしてカナードであった。

 

試合前に言っていた話をするために残っているのだ。

自販機で買ってきたコーヒーを真が投げ渡し、カナードは見ずにキャッチする。

 

 

「……彼女、フリーダムの弱点を知ってるみたいだったな」

 

「最後の反撃はフルバーストの発射の瞬間を確実に捉えていた。運動性能が悪化しているという弱点を知っていなければできない。正確には知っているというよりは思い出したというのが正しいだろうがな」

 

 

缶コーヒーを開けつつ、カナードの言葉に真が頷く。

 

 

「ってことは……彼女もか?」

 

「ああ。お前は【アルスター】と言う名を知っているか?」

 

「……アルスター。確か大西洋連邦のお偉いさんだったな。ヤキン戦役で亡くなったらしいけど」

 

 

まだオーブにいた頃。

戦争とは無関係だった頃に、テレビで流れていた。

そのかすかな記憶を思い出した真に、カナードが頷く。

 

 

「ああ。おそらく【フレイ・シュヴァリィー】は大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスターの一人娘、【フレイ・アルスター】だろう」

 

「なるほど。でもやけに詳しいなお前」

 

「連合の一派、特に過激派【ブルーコスモス】では、彼女を英雄視する輩もいたからな。そういった輩に詳しい人間を俺は知っていた」

 

 

カナードも受け取ったコーヒーを開けて口に含む。

ブルーコスモスという単語が出た瞬間、真の表情が歪んだ。

 

 

「……待てよ、ただの事務次官の娘だろ、何でだ?」

 

NJC(ニュートロン・ジャマー・キャンセラー)の情報を彼女が連合にもたらしたんだ。詳細な経緯は不明だが、彼女が得たNJCのデータから地球連合は再び核兵器を使えるようになった」

 

「……それならブルーコスモスが英雄視するのも納得だ」

 

「まぁ、そこはどうでもいい。本題は彼女は敵かどうかという所だ」

 

 

カナードは一気にコーヒーを飲み干して、缶を握りつぶす。

まるで敵ならば叩き潰すと暗示しているかのようだ。

 

 

「どうだろうな。見たところC.E.の事完璧に覚えてるわけじゃないみたいだし。経過観察って所じゃないか?」

 

「……やはりそうか。ラキーナに見張らせてはいるが、どうも彼女と何かあったみたいだからな。念のためお前にも頼みたい」

 

 

やっぱりそうなるかと真の予想は的中してしまった。

それに内心ため息をつきつつ、答える。

 

 

「……俺、生徒。お前仮でも先生。なんとかならないのかよ」

 

「出来るだけでいい。俺も三組で授業を行う際は見ておく。もちろんこの話は束や織斑千冬にも通しておく」

 

「……分かったよ。出来る範囲でな」

 

 

真もそう言ってコーヒーを飲み干した。

まだ敵と決まったわけじゃないが、様子を見ておくに越した事はない。

 

その後適当に雑談した後、二人は別れた。

 

―――――――――――――――

同日 学生寮

 

 

ラキーナとフレイの模擬戦が終了して二時間後。

すでに日も落ち、大半の生徒達は学生寮に戻ってきていた。

 

それは真達も同じであり、各々の部屋で自由時間を過ごしていた。

 

 

「やっぱりOPにSEがついてるアニメはいいアニメ。【輝煌勇者ファルセイバー】、一緒に見よ、真?」

 

 

ソファに座りながら、ノートPCをモニタとつなげて勇者シリーズと言われる長寿アニメのOPを流している簪が言う。

その隣でOPを見つつ、真が頷く。

 

 

「年末にも見たけど、昨日はファルセイバーが復活してグリッターファルセイバーになった回だったな。あれは心が躍ったなぁ」

 

「うん。あのシーンは何度見てもいい。今日は続きからだね」

 

 

簪の実況解説が挟まりつつ、アニメを視聴し続けてさらに二時間たった。

夜も深まった頃、真の携帯から呼び出しのコールが響いた。

 

 

「ん?」

 

「電話?」

 

「みたいだな」

 

 

一旦アニメの視聴を中止した真は、デスクの上に置かれている携帯をとる。

着信には更識刀奈と表示されている。

 

 

「刀奈さんからだ」

 

「お姉ちゃんから?どうしたんだろう……」

 

 

すでに寮の消灯時間は近い。

そんな夜中に刀奈が自身に電話をかけてきたことが気になるが、とりあえず出て見ないことには始まらない。

 

 

「もしもし、飛鳥です」

 

『ああ、真かい?私だ、蔵人だ。夜分すまないね』

 

 

かけて来た相手は簪と楯無の父親である、更識蔵人であった。

 

 

「蔵人さん?」

 

「え、お父様?」

 

 

真の言葉に簪が反応する。

 

 

『何分緊急の用件でね、刀奈の携帯を借りてかけているんだ。簪も一緒だろう?ならスピーカーに切り替えてくれ、代表候補生としても知っておいたほうがいい情報だ』

 

「分かりました。それと緊急の用件……ですか?」

 

 

携帯をスピーカーモードに切り替えて、蔵人の声を簪にも聞こえるよう調整する。

緊急と言う言葉に嫌な予感を感じた真であったが、それはすぐに的中した。

 

 

『ああ。前置きは抜きだ。数時間前、エクスカリバー事件の後に国際警察機構 日本支部で拘束されていた歌姫の騎士団残党、スコールら四名が脱走したんだ』

 

「なっ……!?」

 

 

エクスカリバー事件の後、マドカとアスランを除いた歌姫の騎士団残党であるスコール、オータム、ダリル、フォルテは国際警察機構の日本支部に引き渡されていた。

 

余談だが、スコールとオータムが使用していたISは束の手で解体、ダリルとフォルテが使用していた専用機はそれぞれ国家に返却されていた。

 

 

『現在行方については捜索中。ただスコール達は何者かに手引きされたようだ。ラファール・リヴァイヴを使用した映像が監視カメラには堂々と映っていた。後ほど写真を送ろう』

 

「ラファール……まさか歌姫の騎士団……でもほぼ壊滅した訳だし……」

 

『今となっては別のテログループの可能性が高いね。【亡国機業】も全体がラクスについて行ったわけではないだろうしね』

 

 

蔵人の言葉にうなずいた真が尋ねる。

 

 

「……この話、カナード達には?」

 

『織斑教諭を通じて話を通すよ。おそらく明日には織斑教諭からアクションがあるだろう。まずは君にと思ってね』

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

『念のためにだが、警戒は怠らないようにね。君はラクスを二度倒している。亡きラクスを慕う者達から狙われる可能性は十分にあり得る』

 

「……はい」

 

『それではまた』

 

 

はいと相槌を返すと、通話は切れる。

ふぅと一息ついた真が振り返ると、少しだけ心配そうな顔の簪が目に入った。

 

 

「……また一悶着ありそうだね」

 

「ああ。だけど俺は戦うさ、今ある花を守る為に」

 

 

そう力強く告げると、簪は笑みを浮かべた。

 

 

「うん。なら私も。真の背中を守るから」

 

「……ありがとう、簪」

 

 

彼女からの想いを受けて真は笑みを浮かべる。

そして携帯には蔵人から画像が送られてきた。

 

あまり鮮明ではないが、ラファールに乗った女性の画像。

顔の部分を特殊な装甲で隠しているが、水色の髪が印象的であった。

 

―――――――――――――

更識家 蔵人私室

 

 

「刀奈、ありがとう。明日、学園に戻りなさい」

 

「はい、お父様」

 

 

蔵人は携帯を刀奈に返す。

制服姿の刀奈が受け取り、表情を曇らせた。

 

彼女もまた今回の脱走の件で17代目楯無として呼び出されていたのだ。

彼女が駆け付けた際にはすでにスコール達は脱走した後であったが。

 

 

「……また戦いが始まるのでしょうか」

 

「これは勘だがおそらくね」

 

 

そう蔵人が返すと、刀奈は苦笑を浮かべる。

幼い頃から、蔵人の勘はかなりの精度で当たっていた。

それこそエスパーなんじゃないかと言うレベルでだ。

 

 

「お父様の勘はよく当たりますから、確実ですね」

 

「やれやれ、昔から言っているが私はエスパーではないんだがね。今日はもう遅い、休みなさい」

 

「分かりました。それではお父様、おやすみなさい」

 

「ああ、お休み」

 

 

刀奈に微笑んで蔵人は返す。

 

襖を閉じて気配が遠ざかっていくことを確認した蔵人は、備え付けられたモニターのスイッチを入れる。

モニターに映るのは謎の襲撃者がスコール達を救出する映像。

 

襲撃から救出、撤退まで5分程度で終わらせている。

 

蔵人として暗部の職についている彼でも、脱帽するレベルの手際だ。

 

更識蔵人の記憶にも、ギルバート・デュランダルの記憶にも見覚えのある人物はいない。

だがなぜか、自分は違和感を感じている。

 

 

「……君は誰だね」

 

 

そう呟いて蔵人はラファールに乗る女性の映像を食い入るように見つめる。

喉の奥につっかえるような、答えが出かかっているのに出てこない違和感を覚えながら。

 

―――――――――――――

某所

 

 

「私だ」

 

 

水色の髪の女性が携帯で誰かと通話している。

 

 

「ああ、すでにあの四人は確保したよ。なにラファールでもミラージュコロイドを使えば単機での奪還もそう難しいことじゃない」

 

『……そんなことできるのはあんたくらいだよ、隊長』

 

「今の私は【ライリー・ナウ(・・・・・・)】だよ、ミシェル(・・・・)

 

 

苦笑しながらライリーは通話相手のミシェルに返す。

 

 

『そうだった、癖が抜けないなぁ』

 

「それは私もだよ。さて本題だ、ISコアの準備はどうかな?」

 

『コアの状態は良好で機体の構築も完了しましたよ。後は四人の回復待ちですね』

 

「分かった。彼女達には私から伝えよう」

 

『はい。んじゃ俺はしばらく待機ですね……んで、まだ目的は教えてくれないんですか?』

 

「ふふ、まだだね。さて、それではね」

 

 

携帯を切ったライリーは懐にしまい、サングラスを取り出す。

 

 

「……もうすぐ、あと少しだ。彼女を利用して彼をおびき寄せる算段も付いている」

 

 

そう笑ったライリーは一度頭を振るう。

すると澄み切った水色の髪から色が変わっていく。

 

 

「この変装機能も中々役に立つ。簡単なもの程、時には人を貶めやすいものだ」

 

 

まるで金を糸に紡ぎだしたかのような美しいブロンドの髪。

彼女の首の【ネックレス】が不気味な光を発していた。

 

 

ギル(・・)にもまだ私が誰だか気づかれはいないだろう。女の身体と言うのも中々役に立つものだ」

 

 

ライリーはそう言ってサングラスをかけて夜の暗闇に消えて行った。

 

 




ライリー・ナウ
一体誰なんだ…(棒


次回予告
「PHASE4 因縁の鎖」

「それが君達の新しい力だよ」

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