【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE4 因縁の鎖

時間は少々前後して。

学生寮 ラキーナの部屋

 

学生寮の彼女の部屋は、束やカナードとの連絡の機会が多いために一人部屋を割り当てられていた。

一人部屋なので広く友人達がよく遊びに来るが、今部屋にいるのは模擬戦を終えたラキーナのみだ。

 

 

『また派手にぶっ壊したねぇ、ラキちゃん』

 

「すいません、束さん」

 

 

現在ラキーナは本日の模擬戦の結果を束に報告している最中であった。

そしてその結果、ほぼスクラップになった自身のISの装備の事も。

 

空間投影ディスプレイに映るのは見事に半壊したフリーダムストライカーの様子。

背部のウイングは見事に左側が吹き飛んでおり、スラスター部分も吹き飛んでいた。

腰部クスィフィアスも一部損壊している。

 

 

「フリーダムストライカーのダメージレベルはD。しばらくは使えないですよね……?」

 

『これなら直すより新しく作ったほうが早いレベルだね。ま、稼動データはあるからラキちゃん用に調整した新しい奴作る?』

 

「……すいません、製作をお願いします」

 

 

消沈した顔でラキーナは通信相手の束に頭を下げる。

 

 

『あっ、別に怒ってるわけじゃないよ!ただラキちゃんにしては珍しい結果だなって思っただけだよん!』

 

 

それを見た束が慌てたように言った。

 

 

「……彼女はフレイだったんです。私が守れなかった……フレイだったんです」

 

『……ラキちゃん』

 

 

キラ・ヤマトであった彼女の中に残り続けた楔。

それは目の前で愛した少女を死なせてしまった、守れなかった人。

 

ヤキンの後、キラ・ヤマトはフレイの存在を忘れた。いや、無理に記憶の片隅に追いやった。

そうしなければならなかったほど、彼女の存在は大きかった。

 

そんな人間が同じ姿で目の前に現れた。

模擬戦を通じてフレイ・アルスターである事を自身の手で確かめた彼女が受けた衝撃は、やはり相当なものだろう。

 

そう感じた束が口を開く。

 

 

『じゃあさ、ラキちゃんはどうしたいの?』

 

「……えっ?」

 

『キラ・ヤマトは確かにフレイ・アルスターを守れなかった。それは変えようのない事実で、過去を変えるなんてできないんだからどうにもならない』

 

 

束がラキーナの目を見つつ続ける。

 

 

『……でも、今の君は【ラキーナ・パルス】でしょ?なら君のしたい事をすればいいんだよ』

 

 

そう言って束は微笑む。

彼女の言葉にラキーナは目を開いた後、少しだけ笑みを浮かべた。

弱々しいものだったが、少しは迷いが晴れたようだ。

 

 

「……ありがとうございます、束さん。少し楽になりました……と言うか束さんからそういう言葉が出てくるとは思わなかったです」

 

『あっれー!?それはちょっと酷いよ、ラキちゃんっ!』

 

 

ガクッと大げさなリアクションを取った束が苦笑しつつ叫ぶ。

 

 

『そりゃあ白騎士事件とかラクスとの協力とか色々大ポカしてる自覚はあるけどさぁ……今は男性用ISだって研究してるのにさぁ』

 

 

少し不貞腐れたような態度の束がラキーナをジト目で見つめる。

 

 

「あはは……元気出ました、ありがとうございます」

 

『ん、それならよかったよ。用件はそれだけ?』

 

「はい、ありがとうございました」

 

『オッケー!たまにはこっちにきてね!カナ君も寂しがって……あだっ!?』

 

 

コーンッと小気味のいい音がして、束の頭にペットボトルが直撃した。

 

 

『痛いよカナ君っ!』

 

『でたらめを言うお前が悪い。それに俺はもう寝る、明日も早いからな』

 

 

カナードの声がディスプレイから響く。

余談だが、学生寮で生活をしているラキーナと違い、カナードはブレイク号で変わらず生活を続けている。

空き部屋を調整し割り当てて寮監を彼に任せようと千冬は画策していたがこれだけは決して譲らなかったらしい。

 

 

「明日も早いって……兄さん完全に先生になってる……」

 

『やることはしっかりとやるよね、カナ君。それにくーちゃんと会える時間少なくなってるから頭に来てるのかなー……うわっぷっ!?』

 

 

束の頭に今度は中身が入ったドリンクのペットボトルが投げつけられて、中身がぶちまけられた。

結構な量残っていたらしく、髪の毛と服がびしょ濡れになっている。

薄着ではなかったため、服は透けてはいないが悲惨な状況だ。

 

当然、投げたのはカナードでありその顔には青筋が浮かんでいた。

 

 

『だー!束さんも流石に頭にきたぞ、カナ君!』

 

 

束がうおおおと叫びながら、ディスプレイから消える。

そしてその数秒後、彼女の叫び声が響いた。

 

 

『あだだだだっ!ごめん、ごめんっ!腕がもげるぅっ!』

 

『そうか。後でくっつければいい。できるだろ。ほら、もうすぐ右腕が外れるぞ?』

 

『私の腕、プラモとかじゃないからっ!生身ぃ!ほぉおぁぁぁぁっ!あっ、あっ、あっ!もげっ、もげぇっ!』

 

 

チャンネル越しでもギリギリと嫌な音が聞こえる。

おそらく相当痛い関節技でもかけているのだろうとラキーナが考えていると、ディスプレイにクロエがひょこっと現れた。

 

 

『ラキーナ様、何かありましたらお力になりますので、遠慮なく仰って下さいね』

 

「うん。ありがとう、クロエちゃん。あれ、そう言えばアスランとマドカちゃんは?」

 

『アスラン・ザラは部屋でなにやら作業しているそうです。マドカは部屋で寝ています』

 

「なるほど……うん、ありがと。休みにそっちいこうかなぁ。何かホームシックみたいな感じになっちゃった」

 

『腕がぁあーっ!!!』

 

 

聞こえてくるいつもの日常に、ラキーナは笑みを浮かべた。

 

――――――――――――――

学生寮 フレイの部屋

 

 

「あー、もう、ホントレポートって嫌になるっ!」

 

 

下着姿と言うラフ極まる格好でPCを覗き込んでレポートを作成していた彼女は、そう言ってベッドに倒れこむ。

ボスンとベッドに倒れこんだ彼女は、レポートの作成で固まった体をほぐす為に伸びをする。

その際に豊かな果実がぷるんとはずんだが、一人部屋の為問題はなかった。

 

何故フレイがレポートを作成しているかと言うと、彼女が代表候補生だからである。

国家に所属したIS搭乗者であり、国家代表の卵である候補生。

自らの専用機であるISの稼働データや所感をレポートとしてまとめて提出するのは義務であるのだ。

 

これは何もフレイに限ったことではなく、セシリアや鈴、シャルロットにラウラ、簪も同じである。

簪の場合は、国家と併せて日出の所属でもある為、その分増えているのだが。

 

 

「……ラキーナ強かったなぁ。妹があれだけ強いってことはやっぱりカナード・パルスとかも強いのかしら。確か光の盾みたいなもの使ってたわね。あれってビームなのかしら」

 

 

ベッドの上で寝転がりながらフレイが呟く。

 

 

「飛鳥真は滅茶苦茶な高機動機体で、織斑一夏は一撃必殺の零落白夜だったわね。あー、戦ってみたいなぁ」

 

 

真のデータは所属している日出工業を通じて各国にも公開されており、【インパルスガンダム】をはじめ、進化した機体である【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】もある程度データが公開されていた。

 

フレイがその映像を見た時の感想は【異常】の一言であった。

 

相対したISのハイパーセンサーを振り切るだけの機動力と運動性能。

装備している武装のほとんどが非実体のビーム兵器でしかも高出力。

それを手足の様に操る彼の技量。

 

同じく織斑一夏の戦闘映像も少ないながら公開されていた。

 

まだまだ拙い所はあるがそれでも代表候補生レベルの戦闘機動を取れる技量。

そして世界最強のブリュンヒルデから受け継いだ必殺の【零落白夜】。

 

本当に彼等は数か月前までISに触れていなかった人間なのかと思った。

 

同時に感じたのは、負けたくないという純粋な対抗心だ。

代表候補生としてのプライドが刺激されたのだ。

 

 

「あ、ラキーナって飛鳥真や織斑一夏と親しかったりするのかしら」

 

 

ラキーナが男性搭乗者と親しければ、紹介してもらって模擬戦も行えるのではないか。

思いついた案を実行に移そうと携帯を取り出した時であった。

着信音が響いて、モニタには自分の上司である教官の名前が表示されていた。

 

 

「げっ、タイミング悪いなー」

 

 

そう言いつつ、フレイは電話に出る。

 

 

「はい、フレイです」

 

『ああ、フレイ。そちらはもう寝る前だったかな?』

 

「もう寝たいけどまだレポートの作成中よ、ライリー」

 

 

フレイが少しめんどくさそうにそう言うと、ライリーがため息を洩らしたのが聞こえた。

 

 

『まだ終わってないのかね?全く君は代表候補生としての自覚が……』

 

「分かった、分かったからストップ。ライリーのお説教は長いのよ。それで要件は何よ?」

 

 

フレイの嫌そうな声に咳払いしたライリーが続ける。

 

 

『一週間後くらいになるが、私もIS学園に用が出来たんだ。その際に案内を頼みたくてね』

 

「一週間後……分かったわ。まぁ、私もまだあんまり詳しくはないんだけどね。何のようなの?ノワールの新装備?」

 

『おいおい、そのノワールパッケージが新装備じゃないか。なに、ちょっとした用事だよ。しかしフレイ、声が嬉しそうなのはどうかしたのかい?』

 

 

ライリーがそうフレイに尋ねる。

彼女の勘と言うか、鋭さは相変わらずだなと苦笑しつつ、フレイは回答する。

 

 

「初日で気が合いそうで強いヤツと友達になれたのよ。そうだ、今度紹介するわ」

 

『ほう、フレイがそこまでいうとはね。噂の男性搭乗者かな?』

 

「違うわよ、あの三人はタイプじゃないわ。ラキーナって女の子よ、飛び級で二つ下だけどできるわよー」

 

 

フレイが嬉しそうに返す。

もしこの通話が映像も伝えていたのならば、フレイは大層驚いただろう。

 

何故ならばライリーの表情は全てが計画通りと言う、歪んだ笑みを浮かべていたからだ。

だが音声のみの為、フレイはそれに気づかなかった。

 

 

『……ふふ、会うのが楽しみだよ』

 

「私も久しぶりにライリーに会うのが楽しみよ。それじゃね」

 

『ああ。おっとレポートは明日の昼までに提出する事、いいね?』

 

「くっ、覚えてたか……了解しましたー」

 

『それではお休み』

 

 

ライリーからの通話が切れ、フレイは携帯をベッドに放る。

 

 

「はー、仕方ない。やるかぁ!」

 

 

そう言って彼女は立ち上がって再びレポートとの格闘を再開した。

 

――――――――――――――

 

深夜

日本 某県 某市 廃病院

 

 

とある廃病院の地下。

全体的に廃れて久しい施設だが、地下の一室のみ光が灯っていた。

 

部屋の中には最新の医療機器が配置されており、電子音が小さく鳴っている。

その部屋の中に配置されているベッドは4つ。

 

ベッドには4人の女性。

歌姫の騎士団残党のスコール、オータム、ダリル、フォルテの4人だ。

 

そのうちスコールとオータムは目を覚ましていた。

以前に比べて少し痩せており、顔色もあまりよくはないが意識ははっきりとしていた。

 

 

「私達を助けたのは亡国の同志ってわけじゃなさそうね」

 

「みたいだな。スコール、どうする?」

 

「……まずは状況を確かめないと。そうでしょう、そこの人?」

 

 

そうスコールが部屋の扉に向けていう。

部屋の扉が開かれ、そこにはライリーが立っていた。

 

 

「身体の調子はどうかな?」

 

「ええ、おかげさまで。貴女が助けてくれたのね、感謝するわ」

 

 

スコールは笑みを浮かべてそう答える。

だが彼女の纏う雰囲気は警戒一色、自分達に危害が加わるのならば力づくで抵抗すると、目が語っていた。

それをみたライリーは笑みを浮かべた。

 

 

「私の名はライリー・ナウ。君たちの敬愛するラクス・クラインと同じ、C.E.の記憶を持つ人間だよ。まあ、警戒しない方がおかしいか」

 

 

そう言って彼女は懐から何かを取り出してスコールに向かって放り投げた。

 

落下した物体。

それは少し大きめの腕輪。

 

それが何なのか、理解したスコールの目が見開かれた。

 

 

「それが君達の新しい力だよ」

 

「まさか……IS?」

 

「そう。ラクス・クラインが作り上げたISコアを使用したものだ。君達全員分、四つある」

 

 

そう言って追加で三つ。

腕輪、指輪、チョーカー、待機形態のISを取り出す。

 

 

「……これを私たちに渡す理由は何?」

 

 

スコールにとってライリーは見ず知らずの人間だ。

そんな人間が自分達に、敬愛するラクスが遺したISコアを使用した機体を渡してくる。

 

その意図が掴めないのだ。

 

 

「共にIS学園を襲撃して欲しいのだよ。君達もおそらくは再起と復讐を図るだろうと思っていた。だから君達の力を借りたい」

 

「……貴女の目的は何?」

 

 

ライリーの提案を聞いたスコールであったが一旦判断を保留して、目の前の彼女に視線を移す。

金の髪に、蒼の瞳。

スコールからみても十分美女と言えるライリーだが、その瞳の中にどろりとした黒いモノが見えた。

 

 

「私の目的……そうだね、私も【復讐】と言うことにしておいてくれないかな。まあ、敵の敵は味方と言う奴だね」

 

「へぇ、やけに曖昧じゃねえか」

 

 

彼女の言葉にオータムが食って掛かる。

その態度に薄く笑みを浮かべたライリーであったが、続ける。

 

 

「自分を殺した相手を殺したいと思うのは当然じゃないかね?」

 

 

そう告げた声。

それはスコールもオータムも今まで生きてきた中で聞いたことのない程、冷たい声色。

亡国機業のエージェントとしてそれなりの修羅場はくぐってきた彼女達でも、一瞬寒気を感じるほどであった。

 

その言葉にスコールは笑みを浮かべた。

 

 

「……いいわ、貴女に力を貸してあげる」

 

「おい、スコールっ!?」

 

 

スコールの肯定の言葉に、オータムが声を上げた。

振り向いた彼女が苦笑しながら告げる。

 

 

「いいじゃない。願ったり叶ったりよ。専用のISを手に入れることもできるし、ラクス様の仇も討てる。これ以上の好条件、早々ないわ」

 

「……そりゃ、シン・アスカやカナード・パルス達をやれるだろうけどよ」

 

「それに、ライリーを気に入ったのよ。彼女はこちら側の人間、信用に値するわ」

 

 

そう告げたスコールは了承の意を伝える。

 

 

「感謝するよ、ミススコール。それでは一旦話はここまで。君達はまず身体を治すべきだ。何か必要なものがあったら遠慮なくいってくれ」

 

 

スコールからの返事を聞いたライリーは笑みを浮かべた。

その笑みはどこか嘲笑に近いものであったが、それに気づいたものはこの場には存在しなかった。

 





次回予告
「PHASE5 Xの傷跡」


『クロエェェェェッ!!』



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