「…………」
一時間目も終わり、私はすることもなくボーっとしている。なぜかって?現在我が一年一組には他学年他クラスから大勢の女子が来ているうえに、クラスの女子も含めてその場の視線が突き刺さるように向いているからだ。と言っても、私の席は窓際の最後尾。彼の隣にいる谷本さんとかよりは気が楽だ。
そんな皆の視線の先にいるのは織斑くん。笑った顔が爽やかでイケメンでしかも優しそう。あれだな。ラノベやギャルゲーの主人公みたいな男の子だ。私はそんな主人公の目立たないモブクラスメイト。目立たず周りに同調することもなくひたすらに教室の片隅で息を殺してる的なあれだ。ん?周りに同調しないと目立つのか?
「(ああ、一夏だ……)」
と織斑くんの下の名前が聞こえたので彼の方を見てみればポニーテールのお胸にメロンを抱え込んだ美少女と教室の外に出て行くのが見えた。
……外に行くのはいいけど、時間に間に合うように帰ってくるんだよ?出席簿アタックの餌食になりたくなければね。
しかし織斑くんたちは2時間目のチャイムに間に合わず、なぜか織斑くんの頭にだけ出席簿アタックが振り下ろされたのであった。
○
「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」
すらすらと教科書を読んでいく山田先生。基本に忠実でオーソドックスな授業だか人柄のなせる技なのか特に問題もなく、分かりやすいと言える授業だと思う。
「織斑くん、何かわからないところはありますか?」
「えっ!?」
男で急遽入学が決まったこともあるからか、山田先生が織斑くんに聞いていた。やばい。無垢すぎるよ。この人ほんとに成人女性なのかな。
「何かわからないところがあったら行ってくださいね。なにせ私は先生ですから」
そう言って胸を張る山田先生。それによって揺れる大きく実った二つのジャンボメロ――ごっほごっほ!うっうん!…うらやまけしからん。
そんな事を思っていると山田先生に呼ばれた織斑くんは教科書に目を落とす。そして何かの覚悟を決めた顔をする。
「じゃあ、先生!」
「はい織斑君!」
「ほとんど全部わかりません!」
ピシィッ!と教室の空気が凍ったのがわかる。見なよ、山田先生涙目じゃないか……。
「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
シ~ン。誰も手を上げない。いやいや、織斑くん。そんな『マジで!?』みたいな顔されても。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
教室の端にいた織斑先生が問いかける。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パァンッ!
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
織斑先生が呆れた表情を浮かべる。
「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」
ギロリと睨む織斑先生。それは実の弟を見る目じゃないですよ織斑先生。殺し屋がターゲットを見る目です。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても答えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
まったくもって正論。規則の全てが正しいわけじゃないけど概ね間違っちゃいない。
「おい、織斑。貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」
ギクッ。なんでわかった!?という顔をする織斑くん。ごめんね、言えないけど私にも分かるんだ……
「望む望まざるにもかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」
なんというか暴論だなぁ……まあこれが私の新しい日常だ。これから三年続くこの日常に早く慣れないと心労で倒れることだろう。
○
「(これが世界初の男性IS操縦者……なんだか期待違いですわね……」
二時間目も終わり、休み時間。織斑くんの元にまたしても一人の女子生徒がいた。なんか偉そうな金髪巻き毛の女子。腰に手を当てたポーズもなんか偉そうだ。
「聞いてます?お返事は?」
「あ、ああ。聞いてるけど……」
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というものがあるのではないかしら?」
「……………」
すまない、私も知らないぞ。IS学園目指したのはずっと前からだが、代表候補生になるつもりもなかったのでそういう関係も調べる気はなかったんだ。
「悪いな。俺、君のこと知らないし」
織斑くんの返事に、気に入らなかったのか吊り上げた目を細めて見下したように続ける。
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」
あ、このことアレだ。今時の女尊男卑な世間を具現化したみたいな子だ。こんな子でも代表候補生になれるのね………
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
がたたたっ。聞き耳立ててクラスメイト数名と今度は私もずっこけた。額ぶつけた。痛いです。
「読んで!字のごとく!国家代表のIS操縦者の候補生のことですわよ!?」
「なるほど」
「まったく、信じられませんわ。極東の島国にはテレビもないのかしら……」
て、テレビくらいあるよ?滅多に見ないけど。
「つまりエリートってことか?」
「そう!エリートなのですわ!」
うわぁ……心の中が一気にパァーッと明るくなったよ……鼻伸ばして高笑いしてるよ……
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
織斑くんの気のない返事。正直そろそろ本題に入ってほしい。感情の移り変わり激しすぎて受信しちゃうこっちも疲れるんだ……
と、そこまで訊いたところでチャイムが鳴る。
「っ………! またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」
なんだろうこの小物臭。
結局この休み時間は変なクラスメイトのクラスメイトの絡みを見て小腹がすいたのを感じた休み時間だった。