「艦娘グラフティ4」(第8部)「執務室の午後」 作:しろっこ
「命令であれば素直に従うだけ……」
------------------------------------
「艦娘グラフティ4」「執務室の午後」
(みほ8ん):第41話(改)<6合目で休憩>
------------------------------------
大山の夏山登山道の6合目には簡易型の避難小屋がある。ベンチもいくつか並んでちょっとした広場のようになっていた。そこで今、艦娘たちは食事をしたり陸軍のあきつ丸は装備品のチェックや振り分けを行っている。時刻は既に21時をまわっている。月がきれいだな。
私は瞬間的にそんなことを思いながら軍曹の報告を聞く。彼は周りに聞こえないように声を潜める。
「実はヘリで博労座に到着した後、直ぐに登山道に入り、こちらへ向かいました。艦娘なので当初は付いて来れるか心配でしたが二人ともしっかり付いて来ました」
「なるほど」
別に問題ないじゃないか?
「ただ……」
彼は周りを気にしながらもっと声を潜めた。
「3合目を過ぎるあたりから時雨殿が体調不良を訴え始めました。原因は不明。ご本人が『大丈夫、登れる』と仰るので、あきつ丸に先に上がらせて休憩を取りつつ様子を見ながら上がりました」
「時雨が?」
そう言いながら私は向こうに座っている彼女を見た。確かに顔を伏せていて、不知火が肩に手を当てて様子を伺っている。軍曹は腕を組んで続ける。
「ご本人のプライドでしょう。私が何度も司令に事情を伝えて引き返しましょうと提案したのですが『大丈夫』を繰り返すのみ。私も直接の指揮間ではありませんし、司令殿への連絡は固辞されるので仕方なく……」
軍曹はとても済まなそうな顔をした。私は応えた。
「いや、ご苦労だった。他には報告することは無いか?」
「ハッ、以上であります」
「分かった。準備を続けてくれ」
私も敬礼をして彼に指示をした。私がそのまま時雨のところへ向かおうとすると私の制服を羽織った秋雲が声をかけてきた。
「ねえ、司令」
「なんだ?」
「これ返さないとね」
彼女は上着を指しながら笑った。
「もう寒くないのか?」
「だってご飯食べたら元気になるし山登り始めたら暖かくなるよね」
「まあ、そうだな」
何となく私たちの会話を興味深そうに見ている軍曹とあきつ丸の視線を感じた。指摘されるまでも無く艦娘と司令官との関係は普通の軍隊とは明らかに違う。陸軍から見れば美保鎮守府は、変わった軍隊と映ることだろう。
すると急にあきつ丸が近寄って来て言った。
「司令殿は海軍の制服のまま山登りをされるのは大変でしょう。差し支えなければ自分が背負いますが」
へえ、良く気がつくなと思っていたら私が返事をする前に秋雲が応える。
「それには及ばないよ。秋雲さんが運ぶから……良いよね? 提督」
ここに来て急に『提督』か。
「別に構わないが、背負子みたいなのはあるのか?」
すると軍曹が応える。
「司令殿。簡易型ですが予備の背負子はいくつもありますからご安心下さい」
へえ、さすが陸軍だな。登山向きの装備は一揃い有るようだ。
電チャンと寛代はボソボソと会話をしながら食事をしている。もっと気になる不知火と時雨。私はまだ開封していない糧食を持ったまま並んで座っている彼女たちのそばに腰を下ろした。時雨の背中に手を当てていた不知火は慌てたように会釈をしたる。この子は何となく武人的というか礼儀は正しそうだよな。手袋もしているし。
「秘書艦から急に命令されて、山登りってことで驚いたかな?」
私が聞くと飲料を持ちながら不知火はいう。
「いえ、先ほども申した通り命令であれば内容を問わず従いますから」
なるほどね。硬いな。この子もいろいろな過去とか葛藤を抱えていそうな気配はするけど、この場では突っ込まないで置こう。
続けて私は時雨を見た。彼女も飲料を持っていたが、私の姿勢を感じると強張った笑顔を浮かべつつ上目遣いに会釈をした。この子は不知火ほど硬くない感じだけど……。
「軍曹から聞いたが」
その言葉で少し構えたように強張った時雨。私は続ける。
「いや……君も急に悪かったね」
私が言うと彼女は少し驚いたような表情をして言った。
「ううん、ボクも不知火と同じ。提督や秘書艦の命令であれば素直に従うだけ……」
うーんと、この感じ誰かに似ているよな……あ、ボクつながりで最上か。ただ美保の最上はブルネイ産の量産型ではあるが時雨よりはもうちょっとホンワカしたソフトなイメージが有る。だが時雨は微妙に違うな。余裕の無い真面目さっていうのか? 直感でそんな印象を受けた。
いずれにせよこの二人、疫病神と揶揄される事実と合わせて、やや心に壁を作っている感じがする。それは本人が意図するのではなく、自然にそうなってしまったような……。それはあの『大井』に近いものかもしれない。
もし仮にこの子達が前線で沈むことがあれば、やはり大井のようになってしまうのだろうか? ただ運が良かっただけなのだろうか? いろいろ考えてしまった。だが私は体調の事はまだ聞かなかった。
「ここで食べても良いかな?」
私は取りあえずそこで食べることにした。
「どうぞ」
淡々と応えたのは不知火。うーむ、やはりこの子は悪気は無いんだろうけど、この冷淡に感じる応対で損をしているよな。隣の時雨は電チャン程度に大人しい感じだし。
すると誰かが近づいてきた。私の制服を羽織った秋雲だった。
「なんだ、こっちで食べるんだ?」
不知火たちとは余りにも違うテンションの高さに、私は思わず苦笑した。ただ不知火も時雨も、そのテンションには全く反応していなかった。それもまた奇妙な感じではあった。ただ間近で見る時雨はやはり、体調が悪そうな印象だった。私はしばらく様子を見ようと思った。
---------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------
サイトも整備したいけど~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------
PS:「みほ8ん」とは
「美保鎮守府:第八部」の略称です。