「艦娘グラフティ4」(第8部)「執務室の午後」   作:しろっこ

43 / 54
いよいよ6合目から大山登山を再開しようとしたとき、さまざまな出来事が起きる。


第43話(改)<時雨の決意>

「荷物は……自分の分は持つよ」

 

---------------------------------------

「艦娘グラフティ4」「執務室の午後」

(みほ8ん):第43話(改)<時雨の決意>

---------------------------------------

 

私は周りをちょっと気にしながら時雨に聞いた。

 

「軍曹に聞いたがお前、ここに来るまであまり体調が良くなかったのか?」

 

 あまり目立たない彼女の表情が少し変わった。その大きな瞳が月明かりを反射して印象的だ。彼女は観念したように私を一瞬見たあと直ぐに目を逸らしてポツリと言った。

 

「バレたら仕方ないね……そうだよ」

 

 彼女の反応もまた不知火のようにぶっきらぼうだ。ただ不知火ほどには口調が強くないのでソフトに感じる。その隣にいる不知火は周りに臆することなく食事を取っている。

 

ところが時雨は飲料も飲まず食事にも全く手を付けていない。なるほど調子が悪いのだな……そう思いながら私は彼女に聞いた。

 

「これからお前はどうする? 私と一緒の駆逐艦たちは結局みんな無事だったから取りあえず救援部隊は不要になった」

 

私はそこで登山道を見上げながら続けた。

 

「ここから上に登るのは今まで以上にハードになる。お前が体調不良なら陸軍に頼んで、この場で下に引き返しても良い。そのまま鎮守府へ戻って良いぞ」

 

月明かりの中で彼女は大きな瞳を開いてしばらく思案していた。そしてポツリと言った。

 

「迷惑なのは分かっている。でも提督……出来たらボクも登りたい」

 

 うつむき加減に淡々と応える時雨。口調はソフトながらその端々には彼女の強い想いが感じられた。確かに体調は悪そうだが、それ以上にみんなと上がりたいのだろう。意外に芯がある子なんだな。

 

「お前の気持ちは分かった。では身体の様子を見ながら少しずつ上がるとするか」

 

そこまで言って改めて私は彼女に確認をした。

 

「お前が上がりたい気持ちを尊重して全体の歩調を緩くしてもらう。ただし、そのことは全員にも伝えるが、それでも良いか?」

 

私の問いかけに時雨はちょっと思案してから、うなづいた。

 

「うん。それも仕方ないよね」

 

少し葛藤しているが彼女は同意した。だが遠慮がちに私を見上げた時雨は意外にも少し微笑んでいた。何となく彼女の心の扉が少しだけ開いたような気がした。

 

 いろいろあったが時計を見ると時刻は22:00をまわった。見ると各自の食事も一段落ついたようだ。私は立ち上がると声をかけた。

 

「そろそろ食事は終わって登山の準備を始めようか」

『ハイッ』

 

艦娘たちはそのまま返事をした。軍曹とあきつ丸が大まかに仕訳した備品を入れた背負子(しょいこ)を並べている。

 

 直ぐに軍曹は私に言った。

 

「報告します。運ぶ品は重量を基準に各自に大まかに割り振っておきました。艦娘は人間よりも馬力がありますから少々多めに。立場上、司令殿は手ぶらですが宜しかったでしょうか?」

 

それを聞いて私は申し訳なく思った。

 

『いや、私も装備を少しは持とうか……』と言いかけると秋雲が叫ぶ。

 

「それで異議なし!」

 

思わず彼女を振り返ってしまった。相変わらずだなぁ、お前は。でも電チャンもニコニコしているから艦娘たちはオッケーか。その言葉に甘えるとしよう。

 

ただ今の秋雲の発言で機嫌が良くなっていた不知火の表情がまた少し険しくなった。これは気になるな。私が手ぶらなことより秋雲の屈託のなさが引っ掛かっている感じだ。

 

しかし今の時間、それは置いておく。私は軍曹に聞いた。

 

「軍曹、ちょっと良いかな?」

「ハッ、何でしょうか」

 

私は時雨を見ながら言った。

 

「この時雨のことだ。やはり調子は悪いのだが、どうしても一緒に登りたいという。そこで相談だが彼女の体調に合わせてペースを落としても良いだろうか? 全体に支障があるならそこで別部隊にしても良い」

 

一瞬考えた軍曹。直ぐにうなづきながら応えた。

 

「了解しました。では司令殿にも無線機をお渡ししますので時雨殿の調子が悪くなった場合は適宜、お知らせ下さい」

 

そう言いつつ彼は、あきつ丸から無線機を受け取ると私に渡した。私は「済まない」と言いつつ受け取った。見ると時雨はうつむいていた。

 

ただ私は彼女のしぐさに感情のようなものを感じていた。少しずつ時雨自身の私たちへの感情の幅が広がっているのだろうか? 

 

そんな彼女を見ながら私は付け加えた。

 

「軍曹、この子も体調は悪いから荷物は減らしてくれ……」

「待って!」

 

そこで時雨が制止した。その場に居た全員の目が彼女に集中した。

 

「荷物は……自分の分は持つよ」

 

淡々と、しかし決意に満ちた口調だった。私は何かを言い掛けたが彼女の表情を見て止めた。それは時雨なりの決意なんだ。

 

「分かった。だが無理はするな」

 

私が言うと彼女はまたニッコリした。今度はちょっとドキッとした。やはり彼女も『艦娘』なんだな。

 

「時雨さん大丈夫なのですか?」

 

電チャンが聞いている。時雨は彼女に笑顔で応えた。

 

「うん、ありがとう。大丈夫だよ」

 

背負子を背負いながら彼女は応えた。時雨の心は私は艦娘たちにも少しずつ開いているのだろうか? そんな印象を受けた。

 

やっぱり彼女が来て正解だったか?

 

 




---------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------
サイトも整備したいけど~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------
PS:「みほ8ん」とは
「美保鎮守府:第八部」の略称です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。