「艦娘グラフティ4」(第8部)「執務室の午後」   作:しろっこ

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調子を悪くした時雨に付き添う提督は、徐々に心を開く彼女から意外な処方箋を聞く。


第46話(改)<艦娘の心と魂>

「提督なら大丈夫だと思う」

 

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「艦娘グラフティ4」「執務室の午後」

(みほ8ん):第46話(改)<艦娘の心と魂>

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軍曹は全体に続けて言った。

 

「司令殿の提案で部隊を二手に分けます。時雨殿はもう少しこの場で休息。司令殿が一緒に付きますので残りの隊員で大山の頂上を目指します。ここまで来ればあとはもう少しです。皆さん頑張りましょう」

 

最後のひと言は陸軍の軍曹としては珍しい印象を受けた。彼も私たちに馴染んできたようだな。

 

この提案に一部の艦娘は反発しそうな雰囲気だったが、意外に寛代が制したらしい。

どうしたんだ? 物分りがイイな寛代。

 

そして全員が歩き始める。この7合目に留まる私はすれ違う艦娘一人ひとりに敬礼をした。それに軒並み返してくれる艦娘たち。まるで出陣を見送るような心地だ。時雨はずっと顔を伏せている。やっぱり調子悪そうだな。

 

最後、時雨の前を不知火が通り過ぎるとき「時雨、先に待ってる」と声をかけた。私は「おや」と思った。すると時雨もその時だけ顔を上げて「うん」と言った。そうか、この二人は、やはり通じる世界があるのだな。

 

やがて、あきつ丸を最後に部隊は完全に二手に分かれた。敬礼をして最後に上がっていくあきつ丸を見送った私は改めて時雨の隣に腰をかけた。

 

「はあ、行ったな……」

 

思わず呟いた。時雨は未だ伏せている。実は私も喉が渇いてきたのだが、そのとき改めて気付いた。そうだよ手ぶらなのだ私は。

 

「あ……私の装備がなかったな」

 

思わず呟くとようやく時雨が顔を上げた。ちょっと表情が硬い。

 

「提督……ボクの装備から取って良いよ」

「あ、そうか」

 

私は時雨の荷物から水筒を取りだした。

 

「あ、この水筒は時雨のだな……まずいか?」

 

私が言うと彼女は応えた。

 

「良いよ。ボクはまだ携帯飲料が残っているし。それは提督が飲んでよ」

「そうか……済まないな」

 

私は遠慮なく水筒を開けると、少し喉を潤した。

 

「はあー」

 

ちょっと落ち着いた。さっきの転落騒ぎで喉がカラカラだった。ふと見ると時雨がこちらを見てニコニコ笑っている。またドッキリした。そんな私に構わず彼女は言う。

 

「提督も人の子なんだね」

「何だ? どういう意味だ?」

 

少し星空を見上げてから、彼女は続けた。

 

「ボクこんな性格だろう? 似たような艦娘ばっかり周りに来るんだ。いやホントはたらい回しにされるのかな? 司令部に」

 

それは分からない。彼女は組んだ足に腕を回して、その中に顔を半分埋めた。

 

「ボクが疫病神って言われているの提督も聞いたことがあるだろう?」

「あ……ああ」

 

本当は初めて聞く。知ったかぶり。

 

「良いんだよ。今日もそうだけど、いつも部隊で行動すると決まってボクの身体の調子が悪くなるんだ。そして置いてきぼり……結果的に、先発隊が全滅してボクだけ生き残るんだ」

「……おい、それって」

 

私は鳥肌が立って嫌な予感がした。まさか今、先に上がったメンバーに何かが?

すると彼女は笑いながら顔を左右に振った。

 

「違うよ大丈夫。ごめん、今日は問題ないよ。今日のボクは、そういう痛みじゃないから」

 

痛みで変わるのか? まるで預言者だな。少し弱々しいがそんな時雨はずっと笑顔だった。この子も急に雰囲気が変わったよな。

 

「不知火も……結局上がるんだな」

 

彼女はふっと寂しい顔をした。そして再びこちらを見る。

 

「提督は、なぜここに残ったんだい?」

 

意外な質問だ。

 

「そりゃお前……こんな山中に艦娘を独りだけ残すわけに行かないだろう」

 

微笑みながらも、悲しい顔をして言葉を続ける時雨。

 

「じゃあ……海の上だったら提督はボクだけ残すかな?」

 

それはキツイ質問だな。

 

「うーん」

 

私は考え込んだ。まるで禅問答だ。続けて何かを言うかと思った時雨は、ずっと私の返事を待っているようだった。私は理屈ではなく直感で答えた。

 

「もし私がその場の最高指揮権を持っていたら、私は残る。無理でも必ず戻る。そして……最期を見届けてやる」

 

その言葉に彼女はホッとしたようだ。

 

「提督は、そういうタイプだね……有り難う。ボクもそうさ……ホントにいろんな最期を見てきたんだ」

 

私の答えが時雨の中でどういう受け止め方をされたのかは分からない。ただ彼女はしばらく経ってからこう言った。

 

「提督……艦娘も温もりが欲しくなる瞬間があるって知ってた?」

「温もり?」

 

鈍感な私には、そりゃボイラーの温度か? という程度しか想像出来なかった。そんな私を見抜いたように彼女は笑った。その笑顔は非難するわけでもなく自然だ。

 

「違うよ提督。艦娘だって心というか魂で動くんだ。いろんな魂が潰える瞬間をずっと見続けているとさ、ボクももう自分の心が閉じてしまうんだ。分かるかな? 自分で心の回路を塞いでしまう……そうしないと耐えられないんだ」

 

済まん、分からん。

 

「ボクがよく故障するのは多分それなんだよ……こんなこと言うと馬鹿にされるかも知れないけど、提督お願いだ。ボクを包んで欲しい」

「はぁ?」

 

相変わらず私は鈍感である。だが彼女は『やっぱりそうだよね』という表情をして、私の手を握ってきた。そして訴えるように私を見詰めた。この視線はヤバい。

 

「提督なら大丈夫だと思う。お願いだ……」

 

そう言って彼女は私に抱きついて胸元に頭を埋めてきた。あ、この感覚は……何となく『あのとき』の五月雨を思い出した。いやあれは現実ではないかも知れない。むしろさっきの電チャンか?

 

 艦娘と言う存在が不思議に感じるのは不謹慎だが抱擁した瞬間だ。男女関係は未だない私だが恐らく人間の感覚に近いか、それ以上の何かがある。艦娘の心と人の心が触れ合う瞬間だ。

 

時雨が言う『心や魂』と言うのは何処となく人間のそれとは違う感覚はある。または別の何かなのだ。ただ人間の心にも感応する要素はあるらしい。

 

「……」

 

時雨は黙って私の胸に顔を埋める。私も自然に彼女の身体にそっと手を回した。

 

これは……五月雨とはまた少し違うな。あまり意識していなかったけどこの子は、ほのかに花のような香りがする。五月雨も電チャンも同じ駆逐艦だけど、何となくこの子はオトナっぽいのだろうか? この香りも含めて精神的な大きさを感じる。

 

そしてさっきの電チャンの時のように今まで凍り付いていた彼女の心が何かに満たされていくようだ。安心に包まれて何かが溶けていくようだ。

 

そうか彼女が言う『包む』というのはこういうことなのか? 艦娘も愛に飢え人の愛でも満たされれば満足するのだろうか? 時雨は呟いた。

 

「久しぶりだよ……ウンずっと忘れていた、この安心感。昔の鎮守府はどこもこんな感じだったのに……」

 

誰が聞くともなく彼女は呟いていた。ああ、やっぱり時雨はとても繊細な子なんだ。彼女は私の胸で少し顔を上げる。

 

「もうちょっと良いかな? 提督……もう少しで回復できそうなんだ」

「ああ……こんな私で良ければとことんまで付き合うよ」

 

思わず言ってしまった。私には正直言って人を愛する自信は無い。だがこの言葉に偽りはない。精一杯彼女に応えよう。

 

「ありがとう……嬉しい」

 

時雨でもこんな言葉を言うのか。この子は今までどれだけ自分を閉じ込めてきたのだろうか? 美保はブラック鎮守府ではないと思っていた甘かった。司令としてこういう艦娘の存在を掴みきれなかった事は問題だったな。まだまだ配慮が足りない自分であったことを悔いた瞬間だった。

 

そのとき無線機から『8合目を通過』という内容が入った。先発隊はもう直ぐ頂上だな。だが私達は7合目で、二人で留まり続けていた。チラッと横にある無線機を見ながら時雨は言う。

 

「急がないとね」

「ああ……」

 

そう言いながら私もボンヤリ星空を見上げていた。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも整備したいけど~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ8ん」とは
「美保鎮守府:第八部」の略称です。
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