「艦娘グラフティ4」(第8部)「執務室の午後」 作:しろっこ
「海の底は暗いんだ……」
--------------------------------------
「艦娘グラフティ4」「執務室の午後」
(みほ8ん):第47話<いつか還る場所>
--------------------------------------
私の腕の中に再び顔を埋めた時雨は深くため息をついた。
「海の底は暗いんだ……もう、二度とゴメンだ」
そう言いながら彼女は私のシャツをギュッと掴んだ。彼女の手は暖かかったが、その温もりとは裏腹にその冷たい現実の言葉に私はギクリとした。おいおい意味深なことを言うな、お前。
やはり大井を連想する。こういう難しい子の面倒は秘書艦に頼みたいと考えて、ふと気付いた。
祥高さん……貴女やっぱり今回『狙って』人選しているだろう? そもそも時雨と不知火って、どっちも難しい子だよ。参るなあ。
ところが不思議に思うのは、こうして私の腕に収まる時雨を見ていると、もし自分の娘が出来たら、こういう感じなのかな? とも思えた。お互い軍人なのに、この不思議な関係は何だろう……苦笑するしかない。この時代に出現した艦娘というのは一体、何なのだろうか。
「ありがとう提督、だいぶ回復した。元気になったよ」
そう言って時雨は静かに自分から離れた。その瞳はさっきよりも輝き月明かりの下でも顔色が良くなったのが分かる。
「それは良かった」
私たちは立ち上がった。私はごく自然に時雨に手を貸した。彼女も普通に手を取った。これもさっき電チャンが心を開いていく過程を連想した。時雨は軽く自分の身体を叩きながら言った。
「もう行けるよ……ウン今度は大丈夫だ」
元気になった彼女の笑顔は素敵だ。今までの陰気な時雨からは想像出来ない爽やかさ。出来れば太陽の下で見たかった……まあ明日には見られるか。
「よし、行こうか」
うなづく彼女を見ながら私は無線機を取った。
「時雨班、現在7合目から再登頂を開始する」
ややあって軍曹から返事が来た。
≪了解、気をつけて≫
私達は7合目から岩の斜面を登り始める。私は時雨のテンポに合わせながらゆっくりと登っていく。更に登山を続けて私たちも8合目を過ぎた。この辺りに来ると徐々に傾斜が緩くなり水平移動に近くなってくる。そして周囲には背の低い植物が登山道を覆い始めている。
かなり元気を回復した時雨も周りを見る余裕が出てきたのだろう。歩きながら私に聞いてきた。
「提督、この植物は何かな?」
「ああ、これは大山キャラボクだ」
ちょっと感心したような彼女は呟いた。
「凄いな……まるで波だ。植物が押し寄せてくるようだな」
しかし夜のキャラボクの群生はちょっと不気味でもある。独りで居たら吸い込まれそうな感覚だ。しかし艦娘と居ると、やはり心強い。そんな私の気持ちに呼応したのか?
「ちょっと良いかな」
そう言いながら彼女は私の手を握ってきた。私も特に拒否はしなかった。
二人で手をつなぎながらキャラボクの群生を更に行くと板張りの桟橋のような登山道になった。桟橋といえば海軍だ。私たちも傾斜が緩くなったことと、この桟橋のような登山道で勢いを回復したように歩く速度が上がる。
やがて登山道は大きく上がったり下がったりしながら、ほぼ水平に近くなってきた。こうなると周りの景色を眺める余裕が出てくる。とは言っても月のある夜空とそれに照らされた山の風景しか見えない。
空気が澄んでいるためだろう。夜空に青白く浮かぶ雲が幻想的だ。夜の風も少し強いが乾燥していて心地よい。それを見て今まであまり景色には関心を示さなかった時雨が妙に感動しているように感じられた。
「ああ……いい雲だな」
山の風にリボンをなびかせながら彼女はそんなことを呟いた。ちょっと気になったので私は歩きながら聞いてみた。
「艦娘は夜の雲を見ると何か感じるのかな?」
すると彼女は夜空を見ながら説明してくれた。
「この夜の雲を見ていると静かな夜の航海を連想するんだ。それは年に数回あるか無いかなんだけど、とても静かで良い雰囲気なんだよ」
「ふーん」
まあ私も、こういう雰囲気は嫌いではないな。
「こういう月夜の雲の雰囲気が好きなのか? 艦娘たちは」
時雨はチョッと考えてから答えた。
「全員ではないと思う。でも日々戦っているとさ、そういう静かな海に包まれたいと思うことがあるんだ。そんな夜の海の感じに似ている……とても静かで雄大な広がりがあってね」
そうやって説明しながらも彼女も気分がちょっと異世界へ飛んだようだ。だから私も敢えてそれ以上は突っ込まなかった。ただ少なくとも彼女は、そういう夜の航海がとても好きなんだろう。
無線から軍曹の声が響く。
≪先発隊、頂上に到着しました≫
私は応える。
「了解。我々も今、8合目を過ぎた」
水平な桟橋の途中に9合目があった。もう少しなんだ。
ところが急に時雨が立ち止まった。
「どうした? 気分が悪いか」
私が聞くと彼女は私の手を改めて強く握ってきた。そして呟く。
「これは提督だ……」
「は?」
私が提督(司令)だけど。
「この感じ……」
時雨は私を見上げると大きな目を開いて、真剣な顔をして言う。
「貴方はこの大山の夜空のような方なんだ」
「はは……」
私は苦笑した。夜の大山…… って、それは褒めてるのかな?
すると彼女は更に思い詰めたようにこちらを向いた。月明かりに照らされた顔が妙にキレイだぞ。髪の毛が風になびいている。
「提督が、どの艦娘を好きになってもボクは構わない。だけど……」
そこで彼女は詰まった。握った手が更に強くなる。いや、痛いほどではない。静かな決意がこもったような感触。そして彼女は言った。
「ボクが戻る場所は、いつまでも残して欲しい。お願いだ提督、ボクがどこへ行っても、転属したとしても……最期は必ず貴方の元へ戻るから」
「あ……ああ」
彼女の言う内容が果たしてどういう意味なのか? 相変わらず鈍い私だったが取り敢えずそう応えた。
「いつか……還る場所か」
私の言葉に彼女はうなづいた。
「還る場所があれば……思いっきり戦えるんだ。ボクにはそういう場所が必要なんだ」
彼女は自分に言い聞かせるように、そんなことを呟いた。それは何となく分かる気がした。
私の還る場所は何処だろうか?
いずれ美保鎮守府がそうなるのだろうか?
でも今夜は時雨と心が通じたようだな。良かった。
私達は手をつないだまま歩き始めた。やがて向こうに山小屋のシルエットが見えてきた。私は時雨に声をかけた。
「もう直ぐだぞ」
「うん」
私たちの姿に気付いたのだろう。向こうの人影が手を振っていた。
そのとき私は感じた。還る場所はここだ。
美保とか所属が問題ではない。艦娘たちの居るところが私の還る場所なんだ。だから海でなくても、大山の頂上でも、艦娘たちが私を迎え入れてくれればそこが私の還るべき場所なのだ。
それは時雨も同じだろう。彼女も永らく還る場所がなかった。それで苦しんでいたのだ。そう思って横にいる時雨を見た。彼女と目があったが彼女も微笑んでいた。
「ありがとう提督。やっと……ボクにも還る場所が見つかったよ」
「ああ、きっと私もそうだ」
それは不思議な一体感、連帯感だった。
---------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------
サイトも整備したいけど~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------
PS:「みほ8ん」とは
「美保鎮守府:第八部」の略称です。