「艦娘グラフティ4」(第8部)「執務室の午後」   作:しろっこ

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あまりにも冷淡なマシーンと化していた不知火に対して提督は手も足も出なかった。


第51話<静寂の絶望を越えて>

「不知火のどこに落ち度があるというの?」

 

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「艦娘グラフティ4」「執務室の午後」

(みほ8ん):第51話<静寂の絶望を越えて>

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 私が聞くともなしに淡々と呟き続ける彼女。

 

「まだ人間の軍隊のように殴られた方が楽ね……でも私は艦娘だから人間が来ても怖くはない。その結果が言葉の暴力……そして仲間外れ。人間と艦娘による不知火という存在の無視ね」

 

 そりゃイジメじゃないか? 酷いな。そう思って腕を組んで彼女を見ると彼女もこちらを見ていた。ただその瞳は真っ直ぐで、感情が見えない。

 

お互いに無言。

 

「……」

「……」

 

だめだ、彼女に何か言いたいが言葉が出ない。

 

 可哀想に不知火は外的な暴力ではなく言葉の暴力を受け続けた結果、過度なまでの戦果の追求、そっけない素振り、きつい言葉遣いが現れているのだ。だから時雨のような似た環境の子と仲良くなることが多いのだろう。しかしそれでは限界があるだろう?

 

 すると彼女も悟ったように応える。

 

「分かっているわ司令……」

 

彼女は少し疲れたのか小屋の壁にすがった。そして地面を見ながら呟くように訴える不知火。

 

「自分が殻にこもっても解決しない。そんなこと承知の上。でもどうしろというの? 不知火に何か落ち度があるというの?」

 

髪の毛に手をやりながら少し顔を上げてこちら見る彼女。その視線に貫くような厳しさは消えていた。正面の月に照らされたその瞳はあまりにも弱々しく美しかった。私はホッとした。不知火自身が心の壁を取り払った印象を受けたから。

 

ただふっと寂しそうな顔をした彼女は続けた。

 

「時雨は葛藤しながら必死に越えたようね。でも不知火は、そういう心はどこかへ棄てたわ。感情が動くことすら煩わしい」

 

 いや、それは違う! 何か違うぞ。私は悩んだ。

すると彼女はまた微笑む。それは人形のように機械的に……なまじ美人なだけに惜しい。

 おっと、いかん! 何を考えているんだ私は?

 

密かに慌てた私に不知火は言った。

 

「慌てなくていいわ。有り難う司令……貴方に不知火の問題を解決して貰おうとは思わない。不知火はただ自分の道を行くだけ」

 

彼女はまた無表情になり真っ直ぐに月を見詰めた。

 

 普段から不知火は言葉で傷つき、また逆に誰かを傷付ける事を恐れて他の艦娘と交わらない。それがさらなる孤立化と彼女自身の精神的な未熟さの原因となっている。

 ああ……しかし私には何も出来ない。つくづく愛もなく非力な自分が歯がゆい。

 

悶々としている私に月を見詰めていた彼女がこちらを見て言った。

 

「でも貴方は司令官なのに、どうして身を挺してまで艦娘を護ろうとするの? さっきの登山道での奮闘振り……おかしいじゃない? 艦娘なんか護る必要は無いのに」

「そうか?」

 

不知火はハァとため息をついた。その表情は硬い。

 

「艦娘なんて単なるパーツ、兵士よ。換えもあるし唯一でもないこんなモノのために人間が命を懸ける価値なんて無いわ」

 

彼女は吐き棄てるように言った。ああ、恐ろしい……冷淡過ぎる不知火。ブラック鎮守府に居たら、こんな艦娘になってしまうという悪い見本ではないか?

 

 私は問いかける。

 

「お前は……本当にそう思っているのか?」

 

彼女は無表情のまま再び私を見た。

 

「軍隊では、ただ上の命令さえ聞いていれば良い。もちろん最初はおかしいと思って不知火なりに抵抗……いえ、工夫もしたわ」

 

ここで彼女はまた大きなため息をついた。視線をそらした。

 

「だけど人間は一人ひとり違う。ある人には良くても、別の人にはダメってことばっかり。それで良かれと思ってやったことに散々ケチを付けられて不知火は無視されるようになった」

 

 まあ軍隊に限らず人間社会でもそういう行き違いはよくあることだ。私はまた問いかけた。

 

「それは……前に居た鎮守府での話か?」

 

彼女はうなづいた。再び視線が合った。

 

「もちろん秋雲のような明るい艦娘が羨ましくも思うし……正直、腹も立つわ」

 

本音が出たな。もはや彼女の心の壁は無い……その時ふと不知火の表情が哀しそうなものに変わった。

 

「でも自分の心の壁を越えられない思いがある。だから周りの艦娘がウザいと思うの。そうすると多くの艦娘が私の目の前から消えていったわ」

 

淡々と語る彼女を見てゾッとした……何だろうか? この心の闇は。自分がパーツとか言いながら、その感情の深さは人間並みか、むしろそれ以上では無いか?

 哀しそうな表情のまま思い出したように不知火は言った。

 

「ごめんなさい。非科学的なことを申しました」

「……」

 

私は絶句していた。心の壁はなくなったが、もはや彼女の深い泥沼のような心情の世界には私は手も足も出ない……申し訳ないと思っていたら不知火は私を見て続けた。

 

「司令は時雨の言っていた通りね」

「は?」

 

 ここで彼女が初めて……本当に自然な笑顔で微笑んだ。私はドキッとした。ああ……凍りついていた彼女も、やっぱり艦娘だったんだ。その笑顔……私の心に突き刺さるような自然で魅力的な艦娘らしい表情を見て私は妙にホッとした。

 

 そうだ。もしかしたら彼女にはまだ回復できる余地があるのかも知れない。そう直感した私だったが、不知火はなおも続けた。

 

「美保の秘書艦……祥高さんね。彼女が私を呼んだことも知っている」

 

大山にはまた風が出てきた。彼女の青い髪が月明かりになびく。それは神秘的な光景だ。

 

「それでも美保では最初、目立たないようにしていたけど……貴方が着任してから艦娘たちと仲良くやっているのを見て少し考えたの……もしかしたらここで不知火も変わることが出来るかも知れないって」

 

 お願いだ、変わってくれ不知火。

 

「時雨も言ってたわ。『貴女には足りないものがある。それは司令なら満たしてくれるかも知れない』……って。でも『それが何かは教えられない』って」

 

 私は固唾を飲んだ。すると急に彼女は感情的になった。視線がきつくなったが、それはもはや他人を刺すような物ではなかった。

 

「何なの? ……不知火の足りないものって? 要求される戦果を上げて被害を最小限に食い止めて、いったいこの不知火のどこに落ち度があるというの?」

 

 それは彼女の心からの叫びだった。地面を見ながら少し震えているのか? ああ、不知火の心は本当に孤独なんだ。今はそれを満たしてあげる事しかない。だが鈍感で語彙も少ない私には到底彼女を説得することは出来ないだろう。不知火は思いつめたように私を見上げた。ゾッとするほど綺麗だった。

 

「司令、貴方は知っているのでしょう? 不知火の何が問題なの?」

 

 彼女は更に畳み掛けてくる。おい、さっきの孤立した態度とは完全に立場が違うぞ? ……だが私はそれでも安心していた。お前も結局は何かを求めている。その気持ちが有れば私でも何とかなるかもしれない。

 

「それは戦果でも言葉でもない。それはきっと……」

 

言い掛けた私は時雨の言葉を思い出した。『艦娘も必要に思う温かい心』……それか。孤独な不知火は温かい心の触れ合いが必要ではないのか? 

 

「不知火」

 

それまで私に食いつくように畳み掛けていた彼女は、私が名前を呼んだので逆にちょっと怯んだようだ。

 

「お前は孤独なんだ。それは戦果とか言葉とか、そういうものでは満たされない。期待を裏切られが孤独な世界に放り出されたお前が自ら失ってしまったもの……」

 

 私は彼女に近づいて手を取った。不知火は一瞬、ビクッとした。そうか……他人に触れられることすらほとんど無かったのだな。可哀想に。私に手を取られて拒絶はしないが視線をそらす彼女だった。少し震えている。まるで弱々しい小動物のように。

 

「鈍感な私には、お前を喜ばせる言葉も何もない。ただ人間と艦娘という二つの存在が良い関係を作る一つの方法は恐らくこれだろうと私は信じる」

 

 もう半分強引だけど、これしか思い浮かばない。私はそのまま彼女を抱き寄せて静かに抱擁した。

 

「あ……」

 

 不知火は小さく呟いた。その時、私は大井(仮)を思い出していた。もし不知火がいま私に嫌悪感を抱いて直ぐに跳ね除けるか、あるいは逆に締め付けてくれば私は大ケガをしたことだろう。それでも私はどうなっても良いと覚悟を決めていた。

 

 だが彼女は全く抵抗しなかった。最初は緊張して震えていたいたが直ぐに力がほどけた。そして不知火もそっと抱き返してきた。私は登山道での電ちゃんを思い出した。これが艦娘との触れあいの時なんだ……。

 

 月明かりの下、そよぐ風の中で私と不知火は抱擁を続けていた。そういえば最初、彼女の肌は冷たかったが次第に暖かく、そして柔らかくなっていった。まるで不知火の心が解放されていくような感覚だった。いや彼女だけではない。きっと私の心もまた同時に解放されているんだ。

 

 それは時雨や電チャンの変化にも似ている。そして不知火は彼女たちよりも遥かに孤独で長い期間を苦しんできた。それが私の抱擁程度で満足に癒されるとは思わない。それでも今の私に出来る精一杯は、これだけなんだ。許してくれ不知火。

 

「……」

 

 彼女は黙っていた。私も何も言わなかった。ただ何かが不知火に通じて言葉にならない想いが彼女からも少しずつ返って来るような心地がした。

 

 どのくらいの時間そうしていただろうか? 少なくとも電チャンや時雨より、あるいはあの大井よりも長い時間だったかも知れない。

 気が付くと東の空がほんのりと青白くなってきた。そうか、もうすぐ夜明けか。

 

すると彼女はポツリと言った。

 

「夜明け……不知火は夜明けが好きなの。激しい戦いの次の朝、何も見えない、何も聴こえない静寂の絶望を越えて見える水平線……ああ、今日もまた生き残ってしまったなって……」

 

私はうなづいた。

 

「不知火、それでも良い。お前は生きろ。だがこれからはたった一人ではなく、皆と共に生きろ。私も一緒だ」

 

不知火は私の腕の中で、かすかにうなづいていた。

 

「生きる……私は共に生きる」

 

そう呟いた彼女。それからもまたしばらく私たちはジッと抱擁を続け居ていた。

 

 やがて人の気配に気が付くと、いつの間にか時雨が起きて、私たちの後ろに立っていた。

 

「おめでとう……」

 

そう言った彼女は微(かす)かに微笑んでいた。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも整備したいけど~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ8ん」とは
「美保鎮守府:第八部」の略称です.
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