私のアトリエへいらっしゃい。   作:ルコ
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買い物の途中










彼の隣を歩くのは初めてかもしれない。

シトシトと降り続ける雨音をBGMに、無言のままに歩き続ける私達は周りからどう映っているだろう。

「……」

「……」

学生服の2人の下校風景だ。

少なくとも”唯のクラスメイト”には思われないはず。


ふと、隣を歩く彼の横顔が不自然にそっぽを向いていることに気がつく。


「…肩、濡れてない?」

「…ん。大丈夫」


うそ。

私達を覆う小さなピンクの傘は、2人が身を寄せ合ったとしても足りないくらい。

なにせ折りたたみ傘ですし。


「傘、誰に盗られちゃったんだろうね…」

「さぁな。安いビニール傘だし、間違われたのかもしれん」

「そっか…」


私は小さな傘を少しだけ比企谷くんの方へと傾ける。


「…そうすると海老名さんが濡れるだろ」

「そう思うならもう少しくっ付いてくれない?」

「だが断る」

「だがくっ付く」

「!?」


肩と肩の間に空いた数十センチの隙間は、私の接近により0へと変わった。

ぴったりとくっ付いた私の肩と比企谷くんの肩は、傘の下で身を寄せ合う。

ふわりと、雨で肌寒い空模様にも関わらず、彼に触れた所が太陽のようにポカポカと。

…あぁ、これが君の温もりなんだね。

もっと触れたい。

触れ合いたい。


小さな勇気を振り絞り、私は彼の手に自らの手を伸ばしてみる。


「……」


このまま、手を繋げたらどれだけ幸せだろうか……、なんて。

伸ばした手は空を切り、もとの場所へと戻ってくる。


「…雨に濡れて風邪を引かれても困るもん」

「海老名さんは困らないだろ」

「困るの」

「なんでだよ…」

「困るの困るの困るの!!」

「数の圧力だ…」


彼が少しづつ私から離れようとするものだから、思わず腕を掴み、逃がさないように固定してしまった。


「…これじゃぁ、君の嫌いなリア充みたいだね」

「まさしくソレそのものだな。…傘、持つ」

「うん、ありがと」







✳︎✳︎✳︎






電車とバスを乗り継ぎ30分。

目的の大型ショッピングモールに到着する頃には雨も弱まり、分厚い雲からは傘を差さずとも濡れない程の小雨へと変わっていた。

ショッピングモールに入るや、比企谷くんは少しだけ湿った制服をハンカチでハタハタと叩きながら、館内の地図へと目を移す。


「よし、それじゃあ俺はコッチから…」

「ここで効率化だの分業だの言って別行動をするような厨二病に近い人って本当にいるのかなぁ〜」

「!?」

「あははー、いるわけないよね。じゃぁ比企谷くん、あそこから見ていこうか。一緒に」

「…はい」


とてとてと私の後ろを少し離れて付いてくる比企谷くんを確認しながら、私達は館内の入り口付近にあるファンシーショップに入る。

目が回るほどにカラーバリエーション豊かな店内は正直苦手かも。

ピンクの壁に緑の棚、店員さんのエプロンにはフルーツのワッペンがいくつも貼られていた。


「…さて、出ますか」

「分かる。分かるけど比企谷くん。もう少しだけ我慢して」


場違い感と言うかアウェー感と言うか…、確かに私の趣味かと聞かれたら即答でNOと言うだろう。

ふと、私に隠れるように身を縮こませていた比企谷くんが立ち止まる。


「……」

「ん?それ、気に入ったの?」

「…別に。」


彼が立ち止まり、見ていた物は小さなキーホルダーだった。

…ディズニーランドのキャラクターだったかな、確か…、パンさん。

ソレは憎たらしい笑顔を浮かべる2人のパンさんが、仲睦まじく抱き合う物であった。

比企谷くんはそのキーホルダーを手に取り、普段のような無表情でポツリと呟く。


「…俺の柄じゃねぇわな」


と、少しだけ残念そうな顔でソレをもとの場所へと戻した。


「…?」

「ん、クリスマスのプレゼントを探すんだろ?何か当てはあるのか?」

「へ、あ、ん〜。可愛い系?」

「渡すのは由比ヶ浜と三浦か。…由比ヶ浜はともかく、三浦がこの店のモンを貰って喜ぶとは思えんな」

「確かに優美子の趣味じゃないかもね〜」


彼は何も語らない。

悟らせない。

ただ、優しく微笑む先ほどの顔は、私の知る限りではあの2人にしか見せないから。

ほんの少しだけ、心を締め付ける嫌な痛みを感じつつも、私は何も気付かないフリをし続けた。


「ん〜、もうこのお店はいいかなぁ」

「帰るか」

「次のお店へ行くよ」

「あらら」



…………
……

.
.




「結衣にはこれが良いかも!」

「え、なにソレ。雑巾?」

「雑巾風ハンカチだよ」

「…今時のJKの感性が分からん」

「ふふん。結衣なら可愛いって喜ぶはずだよ!」

「…うん。使えなくなったら雑巾にリサイクルできるしね」




…………
……

.
.




「優美子って、実はこうゆうのが好きなんだぁ」

「パワーストーン?」

「恋愛運が上がるやつ!」

「…あいつ、幸薄そうだもんな」

「この前、神社で拾った綺麗な石を渡したら喜んでたよ」

「…それ、軽い嫌がらせだからね?」




…………
……

.
.




「あ、これ雪ノ下さんみたい」

「あ?どれ…」

「ほら、このカタツムリのぬいぐるみ」

「…本当だ。この憎たらしい目とかあいつにソックリだ」

「殻に閉じこもる感じとかもね」


「「あはははー」」



……………
…………
………
……

.
.





ーーーーー。





ショッピングモールの端から端までを網羅し買い揃えたクリスマスプレゼント。

プレゼント自体は小物ばかりで重荷にはならなかったが、流石に歩き疲れた私達はフードコートへと移動する。


「ふわぁ、流石に疲れたねぇ」

「もう動かん。動かんぞ」

「ふふ。付き合ってくれたお礼に何かご馳走するよ。何がいい?」

「マッ缶」

「ないよ」

「はぁ」


比企谷くんはまるでダラけたスライムのごとく椅子に纏わり付いた。

この人は本当に”格好付ける”ことをしない。

そんな自然体な姿に居心地の良さを感じるのだろうか。


「私はアイスクリームにするけど、キミもそれで良いかな?」

「おっけー」

「味は極上ビターチョコで良いよね?」

「良いわけないよね?」


スライムはのそのそと首だけをアイスクリーム屋さんに向けると、細目でメニューを睨みつける。


「…うむ。見えん」

「はいはい。それじゃあ私と一緒のアイスでいい?」

「良識の範囲内でのチョイスを頼みます」


軽く手を振り、比企谷くんは再度グデっとテーブルに突っ伏した。

例えば、もしトベっちなら

『ちょ、男が奢られるなんてダサいっしょ!俺が買ってくるから海老名さんはそこ座っててよ!』

例えば、もし隼人くんなら

『アイスか…。姫菜はどれがいい?買ってくるよ』


……。


ふむ。多感で見栄張りな男子高校生ならば上記2例が通例だろう。

考えてみれば、こうして私が私のままでお話しできるのって比企谷くんしか居ない気がする。

それはまぁ、彼が弱い部分でさえも恥じらい無くさらけ出してくれるからであって、そんな自然体な姿に落ち着く半面、心配でもあるわけで。


いつか、弱い所が脆く壊れてしまったりしないかなんて…。


「……」

「次のお客様ー!」

「あ、はい。…えっと」


考え事をしていたためか、メニューを全く見ていなかった。

種類の多さが売りなのか、ショーケースの中には様々な色のアイスクリームが敷き詰められている。


「えっとぉ〜…、あ」


ふと、沢山のアイスクリームの中で目に留まった一つ。


「あ、あの、ソレください」

「はい!カップル用、チョコベリーショコラアイスですね!」

「声が大きい!静かに!」

「え、あ、はい…。えっと、カップル専用カップでのご用意になりますが、スプーンは2つでよろしいですか?」

「当たり前でしょ!」

「……あ、はい。820円になります」


お金を支払いブツを受け取る。

こ、これがカップル用チョコベリーショコラアイス……。

神々しい!

ソレは少し大きめのカップに詰められたチョコとベリーのアイス。

満遍なく掛かったカラフルなチョコチップが可愛らしい。


1つのアイスカップに2つのスプーン。

まさしくカップル御用達のアイスではないか…。


「……か、買っちゃった…」


何を血迷った?なんて言われて呆れられるかもしれない。

……。

お得だから。

こっちの方が安くてお得だから!


火照る顔に手で仰いだ風を送りながら、私は比企谷くんのもとへと戻った。

自然…、自然な感じだ。


「…ん、結構時間掛かったな」

「お得だから!」

「は?」

「お得だからコレ!コレの方がお得だから!」

「お得?何が……っ!?」


ドンっ!!!

とカップを比企谷くんの前に置く。

頬杖を付いていた彼もその音に驚き、私の目とアイスクリームをパチクリと見つめる。


「……まぁ、大きい奴をシェアした方がお得だよな」

「そ、そうだよね!」

「……あれ、分け皿みたいなのは?」

「は?」

「え?」


アイスで分け皿って…。

サラダじゃないんだからそんなお皿はないよ。

や、彼に常識は通じない。
これまでに何度も痛感してきたことじゃないか。

そうだ、彼には少し強引なくらいの方が良い。


「…はいっ!」

「ん?」


私はスプーンにアイスを一口すくい、彼の目の前に差し出した。


「く、口開けなよ。アイス溶けちゃうでしょ」

「……。ならそのアイスを1度カップに戻せ」

「お行儀が悪いじゃない」

「自分で食えばいい」

「私、このアイス嫌いだから」

「この大きさを1人で食えと!?」

「す、スプーンが1つしか無いからこうやらなきゃ食べられないでしょ!」

「あるからね?も1つスプーンがアイスに刺さってるからね?」


アイスに刺されたスプーンを私は抜き出し空へと投げ捨てる。

それは放物線を描きゴミ箱へと吸い込まれた。


「…1つしか無いよ?」

「しょ、正気か?」


彼は投げ捨てられたスプーンの行方を追いかけると、苦笑いを浮かべながら私を見つめた。

少し無茶をしてしまったことは承知だよ。

でも、もう引き返せないから。


「…っ。もう、腕が疲れちゃう。はい、あーんして」

「…あーんって言っちゃってんじゃねぇかよ。…ん」


控え目に開けられた彼の口に、私は震える手を抑えながらおずおずとアイスを食べさせてあげる。

遠慮気味に加えられたスプーンを見て安心し、私はそれを引き抜いた……、引き抜こうとした。


「……なにをしているのかな?」

「…んー、んん。んーん」

「喋れてないよ」

「んー……」


引き抜こうとしたスプーンががっちり比企谷くんの口によって咥えられ引き抜けない。

スプーンと歯が当たる音なのか、私が力を入れるとカチカチと音が鳴る。

私は仕方なくスプーンから手を離すと、彼はそれを待っていましたとばかりにスプーンを握った。


「……」

「ふふ。スプーンが無ければこの辱めも出来まい。八幡大勝利」

「ぬかった…」

「ふん。ベタな展開さえも打破する俺のボッチ力。我ながら恐ろしい。…つか、本当にこの味は嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃないけど…。でも、スプーン1つしか無くなっちゃったし」

「…自演乙とはまさにこの事だな。…はぁ、貰ってきてやるから待ってろ」


呆れたように肩の力を抜きながら、比企谷くんが席を立とうとすると、彼の背中越しに、こちらを凝視している女子学生に気がつく。

気のせい?

と、思ってはみたものの、どうやら彼女の視線は比企谷くんのみでなく、私にも向けられているようだ。

着崩した制服は恐らく…。


「海浜総合…?」

「あ?」


私の視線の先へ、比企谷くんも目を移す。




「あー!やっぱり比企谷じゃーん!あれ?今日も違う女の子連れてるの?」














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