墓守達に幸福を   作:虎馬

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真面目な話を書くとどうしても反動で彼を書きたくなる。
あの強烈な演技が頭に鳴り響くのです。

しかし一々説明が長くなるのはもう少しどうにかしないとですね。
解ってはいるのですが中々・・・。


10.反省会

 負傷して動けない戦士団の皆を村人達の助力の下でカルネ村に移し、目覚めたガゼフ殿と軽く打ち合わせをして俺は漸くナザリックに帰還した。

 

 話し合った内容としては、あくまで陽光聖典を撃退したのはガゼフ・ストロノーフ率いる戦士団であるという事。厄介事に巻き込まれたくないからと、その際たまたま通りがかった魔法詠唱者の老人が手を貸したということにして欲しいと頼んだ事。戦利品の魔封じの水晶(第7位階天使召喚)はガゼフが証拠品として持ち帰って構わないという事。報酬は所持金から気持ちだけで良いとした事。そして、兵士達の装備はカルネ村の所有物として後日適正価格で買い取って村の財源として欲しいと頼んでおいた。

 

 完璧だ、これで俺は弱きを助け強きを挫くナイスガイという評価になるだろう。王国の重要人物とのコネをしっかり作るという仕事もこなす事が出来た。

 ナザリックの今後を考えて冷徹に振舞わなければならないモモンガさんの分まで俺が人気取りをしておかなくては……!

 

 

 

 ナザリックに戻った俺はまずモモンガさんと作戦会議を行い、その間に捕虜からこの世界の情報を集めて貰うことにした。猶予はあまりないがしっかりと支配者としての立ち位置を確固たるものにしておかなければならない。ナザリックにおける今後の立場を考えるとむしろここからが本番ですらある。

 とりあえずみんなの意見をしっかりと聞く気がある事をアピールするために円卓で会議をする事で一致、取り急ぎ9階層に設置している我が最精鋭騎士団の待機部屋を使って今回の会議をすることが決まった。

 今後の方針についてはナザリックの周辺地域を自分達の領地に出来るように立ち回るのが良いだろうという事で、今のところはガゼフ殿とのパイプを使って吸血貴族ブラム・ストーカーの立身出世方面で進めていく事にする。勿論同時に周辺国家の情勢を見極めつつだが、王国に属するのが良いのでは? というのが今のところの共通認識だ。そもそも法国とは一戦交えてしまったし、帝国とはパイプが無いのだから選びようがないのだが。

 

 

 

 デミウルゴスから少々問題が起こったが一通りの情報収集が終わったとの連絡が入り気合いを入れて迎えた会議本番、その開幕からいきなり事件が起こる。

 

 曰く、至高の御方々と対等の席に着くなど有り得ない事であるとか。

 

「会議と言えば円卓、デキる支配者って感じがして良いよね!」という割と軽い気持ちで出した円卓会議案であったが、まさかそんな理由で反対されてしまうとは。

 

「私とネクロロリコンさんはギルマスとギルメンの関係ではあるが、それ以前に対等な同盟関係にある。その事に鑑みると我々は同時に上座下座のある席につく訳にいかないのだ」

「こと会議の場において、立場の上下によって発言に憚りが生じる事は好ましくないのだよ。特に今は1つでも多くの視点からの情報が必要なのだから」

 

 といった(内心は割と必死な)説得でどうにか納得させたところまでは良かった。

 アルベドやデミウルゴスも「それならば」という雰囲気を出したところでついに本当の事件が起こってしまう。

 

「ン何と配慮に満ちたゥ御言葉なのでしょうか?! ゥ我等シモベ達に対して単に発言を促すンゥのみならずッ! 実際に発言を滞りなく行えるよう環境の整ェェェィ備まで行ってくださるとはァッ!!」

 

 集団からゆっくりと歩み出るようにして周囲の注目を集めつつ、拳を握り、天を仰ぎ、両手を広げるモーションを続ける事で更に視線を引き付ける。緩急をつけて歩み続けるのは自らが動体となって視線を引き付け続ける為のテクニックだ。

 何故そんな事が解るかって?

 そりゃ俺が「演説を行う偉大なる皇帝」のテーマで作ったモーションだからだよ!

 

 説明しよう!

 仲間が減り始めたアインズ・ウール・ゴウンで暇つぶしに催した「パンドラズ・アクターズ・ショー!」。それはイタいポージングやモーションをパンドラに取らせてもっとも「らしい」動作を作ったものが勝ちという混沌の宴であった。

 流石と言うべきか、序盤はゴーレムクラフトとして腕を振っていたるし★ふぁーさんやかっこいいぽーずを次々開発するタブラさんが勝利を飾っていたが、後半はモーションの操作に慣れてきた俺やモモンガさんも拮抗するようになっていった。拮抗するほどに成長してしまったのだ。色んな意味で!! 

 

 ふぅ、てか何でそのモーション知ってるんですかね!? 毎回ワンオフで特にデータを残していたわけではないのに!! ふぅ、覚えてるの? 当時の俺達の言動見てたの!? ふぅ、その独特な抑揚をつけたしゃべり方も絶対昔のモモンガさんだよね? やっぱ見てたの!? 他の守護者達も俺達の昔の姿を見て覚えてるの!!? ……ふぅ。

 

 ノリノリな《禁忌の箱》は急停止から大きく外套をはためかせるターン、通称「モモンガターン」を決め、そのまま勢いに乗って大きく前傾しつつ手のひらを顔に当てもう片方の腕を後方上部に真っ直ぐ伸ばす「至高のスリークォーター」のポーズに移る。これは前に飛び出た肘から後ろに伸ばす腕が一直線になり、これが地面に対してきっかり45度になるという「スリークォーター」に嵌っていた頃にモモンガさんが作ったポーズだ。これらを連続して決める「モモンガコンボ」は一時期彼の代名詞となっていた程の技である。

 ところでそろそろやめて差し上げなさい、モモンガさんがプルプル震えているから。

 

「そのクァん大なる御配慮に、このパンドラズ・アクター! 全霊を以て応えさせていただきましょう!!

 では、お隣失礼いたします我が造物主様」

 

 そのままシレっとプルプル震えるモモンガさんの横の席に着くパンドラズ・アクター。

 そのためか? お前まさかとは思うがモモンガさんの横の席に座るために一芝居打っていたのか!?「どうかなさいましたか?」とでも言いたげなその顔、いつものハニワ顔のはずなのに表情が見えるぞ!

 

「わたくしも、御隣に失礼させていただきますねモモンガ様」

「ネクロロリコン様、お隣宜しいでしょうか?」

 

 ブルータス、じゃなかったアルベドデミウルゴスお前らもか!?

 ふぅ、と言うかパンドラが歩いているときこっそり移動していたのか。お前らも大概抜け目ないな。

 

 ここにきて席順は早い者勝ちと気付いた他の守護者達も慌てて動き出す。

 

 まず慌ててマーレを連れて動き出すアウラに先んじてシャルティアが残る最重要席であろう俺の隣に突っ込む。

 先手を許して悔しげなアウラはそのままマーレを連れてシャルティアの隣に座り、その奥にマーレ。更に奥にはアルベドが座っており俺の対面がモモンガさんという配置になる。

 コキュートスは迷わずデミウルゴスの隣に来たが、やはり切れ者の傍にいた方が質問等が出来るからだろうか?

 最後に慌てず騒がずパンドラとコキュートスの間にセバスが座り円卓が埋まった。

 

 なんで席に着くだけでこんなに疲れないといけないのだろうか? アンデッドだから疲労無効のはずなのに。

 

 

 

 しかし会議自体は非常にスムーズに進んでいった。

 

 まず俺が二つの作戦「軍狼の檻」と「斜陽」を成功させた事を報告し、皆の協力と献身を称える。実際1人でやっていたら数人死んでいただろう。戦士団は勿論捕虜として捕えたかった陽光聖典の連中も幾らか殺さざるを得なかった。

 

 これに対し、デミウルゴスは眷族である軍狼の皆さんの素晴らしい連携とマーレの適切な補助、アウラの牽制、そして何より稀代の将であらせられるネクロロリコン様のお力によって完璧な結果となりましたと返す。

 誇らしげなアウラやマーレを見ていてほほえましい気持ちになってしまった。

 

 その後もガゼフや村長との会話で幾らかの情報と金子、カルネ村と戦士長というパイプも手に入った事を共有する。カルネ村は復興の手伝いなどを行いつつ交流を深め、この世界における橋頭堡としたいとも語る。

 情が湧いたからというのが根底にあるのだが、皆も肯定的な反応をしていて一安心だ。デミウルゴスが実に良い笑顔で「委細承知いたしました」と頷いてくれるのが心強い。悪の華ウルベルトさんが作っただけあって弱者を見捨てられないのだろう。向かいでカルマ値善のセバスも喜んでいる。

 

 割と和やかだったのはここまでである。

 捕虜から得た情報を報告する段になり、デミウルゴスが苦虫を噛み潰したような顔で隊長のニグンに死なれてしまった事を報告する。

 予め聞いてはいたが、捕虜となった状態で三度質問に答えると死亡する呪いのようなものがかかっていたらしい。

 俺が完璧な働きをして手に入れてきた上等な捕虜から些細な情報しか得る事が出来なかったと酷く申し訳なさそうにしている。

 

「御方々の崇高にして万全なる作戦に泥を塗ってしまいました事、このデミウルゴス、痛恨の極みです。どうか、何なりと罰をお与えくださいますよう」

「君の判断は至極もっともであり、今回は相手が一枚上手だったと考えるべきだ。私だってそのような聞いた事も無い呪いが相手では同じく死なせていた事だろう。そもそも追跡魔法等を警戒せず素通りでナザリックに運び込ませたモモンガさんにも問題があった、という話になるしね?」

「ネクロロリコンさんの言うとおりだ、捕虜の処遇を決める権限を持つのはこの私であった。ならばデミウルゴス、お前のミスは私に起因していると言えよう」

「そんな! 至高の御方々に問題などある訳が……!」

「私達とてミスはする、今回は皆の協力あっての戦果だと認識しているしね?」

 

 俺は隣に座るデミウルゴスの肩に手を置き、

 

「何より。ミスをする事、それは誰しもあることだ。重要なのは次に同じミスをしない事だと私は考えている。盟主殿も、そうだろう?」

「正しくその通りだ。大切なのは失敗を忘れず糧にし、次に生かす事だ。まさか同じミスを何度もしないだろう、デミウルゴス?」

「勿論でございます! 次こそは万全に万全を重ね、この命に代えましてもご期待に添える成果をお出しいたします」

 

 命をかけるまでしなくてもいいのだが、本当に命がけで何かをしかねないのが心配だ。しかし水を差す訳にもいかないだろう。

 

「デェミウルゴス殿! 不肖の身ではありますがこのパンドラズ・アクターから一つ! 至高の御方々直伝の英知をゥお授けしましょう」

 

 お前はもう良いよ。手で顔を覆う中二ポーズも良いから。

 

「失敗を避ける秘訣、それはホウレンソウ! 即ち、報告! 連絡! 相談!!

 至高のゥ御方々は御一人御一人が多くの手勢を従える立場であらせられました。その部下の者達の失敗の原因のゥ多くがホウレンソウの不足であったと、ゥお聞きしております!」

 

 一々大げさなポーズを取ってはいるが、言っている事は実にまともだ。一々大げさなポーズを取ってはいるが。

 

「定期的に作業の結果を『報告』し、何かしら異常が見えれば正確にその情報を『連絡』、そして不測の事態が起こったならば『相談』し指示を仰ぐ。情報の共有によって多くのミスは未然に防ぐ事が出来るの、デス!」

 

 そういえばへろへろさんとかたっち・みーさんが愚痴っていたときにるし★ふぁーさんが妙に真面目に語っていたな。お前が言うなと突っ込まれてはいたが、至極正論であった事もあって本気でそれを言うやつもいなかったのを覚えている。あいつも普段の言動に問題があったとはいえ仲間思いのメンバーだったからなぁ。

 

 紆余曲折を経て報告会は今後定期的に開く事等が決まっていった。

 その場で普段感じている疑問などを解消し、シモベの手に余る事態であれば至高の御方々の英知をお借りするという事にもなった。あまり期待されても困るのだが……。

 

「ところでデミウルゴス、この付近一帯は特に誰かの土地という訳ではないのだな?」

「ハッ、王国の領地ではありますが辺境の地であり、また帝国との国境付近にあるためほぼ手つかずである模様です」

「それなら見つかって厄介事に巻き込まれないように隠れておいた方がよさそうだね。将来的にこの付近の土地を手に入れようとしている事がばれると面倒だ」

「? 何か意見があるようね、マーレ。至高の御方々より発言の際に遠慮は不要との御言葉も頂いているわ、言って御覧なさい」

「は、はい! そのぅ、ナザリックの外壁に土を被せて、その上に幻術をかけてやれば見つかりにくくなると思います」

「マーレあなた、栄光あるナザリックの壁を土で汚すというの?」

「いや、名案だ。何時までもネクロロリコンさんの眷族達で防衛線を張っている訳にはいかないからな。今のままではいずれ近くを通った者らに見つかってしまう。発見されない事の方がはるかに重要だ」

「幸いここ数日で近付いた者はいなかったが、追い払い続けるにも限界があるからね。しかし周辺は平原地帯だ、丘を他に幾つか作った方が良いか?」

「決まりだな。マーレ、まずはナザリックの外壁に土を盛り周囲の景観に溶け込ませろ。それが終わり次第周囲に同じものを幾つか作りナザリックを隠蔽せよ」

「流石にこの量を一人では苦しいな、何より作業は急を要する。……ッ、パンドラズ・アクター君、君もブループラネットさんの姿を借りてマーレ君の援護に向かいたまえ」「えっ」

「Wenn es meines Gottes Wille !!」「クッ」「!?」

 

 

 

 多大な犠牲を払いどうにかナザリックの方針が決まった。モモンガさんの眼光が虚ろなのは気のせいではないだろう。

 すまないモモンガさん、俺があいつを引っ張り出したばっかりに……。

 だが御蔭で凡その議題が消化できたのでこれで会議は終了だ。とりあえず部屋に帰ってお茶を飲もう。

 モモンガさんと一緒にグダグダするのも良いだろう。

 

「では、これで会議を終える。ネクロロリコンさん、最後に何かありますか?」

 

 ぅえ!? えーっと、その、アレだ!

 

「……このナザリックは我々アインズ・ウール・ゴウンの魂の在処。この身が全霊をかけて守り抜かねばならぬ安住の地だ。ナザリックの民達よ、どうか力を貸してほしい。そして共にナザリックに更なる繁栄をもたらすのだ!」

 

 最後の締めと言うならやはりこれくらい言わなくてはな!

 ふふ、皆も力強く頷いて

 

「ヌゥアザリックの栄光よ、不滅なれェエイ! ゥアインズ・ウール・ゴウンの栄光よ、ゥ永遠なれェエイ!

 ゥアインズ・ウール・ゴウゥン、ぶぁんざぁあああい!!」

 

「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」

 

「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」」

 

「「「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」」」」

 

 

 

 ……言うんじゃなかった。

 

 俺達は鳴りやまない万歳コールから逃げるようにして転移で会議室を後にする羽目になるのだった。

 




そんな訳で1巻の内容が終わりました。
基本的に原作の流れを踏みつつオリ主が余計な事をして少しずつ原作から離れて行くようになります。

どうでもいいですが、パンドラズ・アクターは求められる事を過不足なく100%こなすタイプだと思っています。
大げさな動きでアインズ様がダメージを受けてしまうのは初期設定でカッコいいポーズを取るように命じられているからであって、一回全部リセットして影に徹しろと言われれば完璧にこなして見せる事と思います。

ついでに言うとウチのパンドラズ・アクターはネクロロリコンとモモンガさんの合作、奇跡のハイブリッドです。その破壊力は2倍ではなく2乗、エクリプスをも上回る破壊力です。


対してデミえもんは求められる先を自ら考え実行するタイプで、150%の成果を出す事を自らに課していると思います。迎撃指揮官としても、そしてナザリックに残ってくれた御方の為にも。


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