墓守達に幸福を   作:虎馬

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元気一杯なパンドラが(至高の方々以外からは)温かく迎えられているようでなによりです。

そして今回から2巻に相当する内容に入りますが、そろそろ本格的に原作からずれて行きますね。
まあ今回は心配性な支配者達が色々準備するだけですが。



11.忍び寄る死者達

 城砦都市エ・ランテル。

 リ・エスティーゼ王国有数のこの大都市に華美な一団が現れて既に2日が経つ。

 ドラキュラ商会を名乗る彼等は金払いの良さと取り扱う宝石の質、そして何より豪奢な身なりと容貌により早くも都市内に知らぬ者は無いほどに名前が広まっていた。

 

 宝石商ブラム・ストーカーは、美貌の孫娘ソリュシャン・ストーカーと筋骨隆々な老執事セバス、そして精悍な灰白色の狼を引き連れて観光の名目の下、新たな商談を求めて各店舗を廻っていた。

 既に市内の主だった商店を回っており、とりわけマジックアイテムや武器、ポーションに興味があるらしくそれらに秀でた店を入念に訪ねて回っていた。既に町一番のポーション製作者と原材料の仕入れに関わる契約まで取りつけているのだから恐れ入る。

 

 勿論宝石商ブラム・ストーカーは(自称)吸血貴族ネクロロリコンであり、美貌の孫娘のソリュシャン・ストーカーは戦闘メイド隊:プレアデスの一人ソリュシャン・イプシロン。老執事セバスもセバス・チャンである。

 

 彼等がエ・ランテルに来た理由は到着の更に2日前、転移後4日目の夜にまで遡る。

 

 

 

「ネクロさん、冒険者になりましょう!」

 

 転移してから常に支配者ロールを崩す事が許されず、疲弊しきったところにあのパンドラによる連続攻撃である。さすがのモモンガさんもグロッキー気味であった。

 俺の方も勿論それなりのダメージではあったのだが、カルネ村での戦闘はいいガス抜きになってくれたらしくモモンガさん程のダメージではなかった。

 

 勿論モモンガさんは単に息抜きがしたいと言うだけではなく、現地での情報収集を支配者自ら行う事は重要であり市井の様子を体験することは有意義であると熱く語ってくれた。

 俺としてもそもそもの発端が宝物殿から無許可で動く黒歴史ノートであるパンドラズ・アクターを引っ張り出した事にあるため否やは言えない。モモンガさんの精神の安定のためにも全力で応援させて貰おうと思う。

 

「ィ良し! 俺に任せてくれ盟主殿」

「おお! さすがネクロさん、話が解る!!」

 

 そうときまればNPC達から許可が出るように手をまわさねばなるまい。

 

「とりあえず色々準備がいるからデミウルゴスを借りるよ? 俺達より頭が良いアイツがいれば他のNPCに突っ込まれる前に問題点を潰せるはずだ」

「さっすがネクロロリコンさん! 準備の入念さだけならギルド1ですね!」

「フハハハハ! そうだろう、そうだろう! 伊ァ達にノリと勢いだけの男とは言われてないぞォ!」

「褒めてませんけどね、ソレ」

「臨機応変と言ってくれたまえ盟主殿ォ!?」

「そうですね、異常事態への対応力もギルド随一でしたね!」

「ィよーし、ゥ俺っち色々下準備しちゃうぞー!」

「よッ! ロリコンアンデッド!!」

「止 め ろ !」

 

 いつものノリを取り戻したモモンガさんと冒険者になるための建前の理由を詰めていく。

 組織の頂点に立つ者としてこの世界の事を部下の情報越しにしか知らないでいるのはあまりに危険である事や、最初から最大戦力を十分な守りで送り出す事で戦力の逐次投入という最大の愚行を避けるという方向性で押してみる事になった。

 

 さて、俺の見立てでは障害として立ちふさがるのはまず守護者統括のアルベド、そしてモモンガさんが作ったNPCであるパンドラであろう。

 

 アルベドはその立場から皆が思う意見を代表して言う役割であり、組織のトップが安全の確保されていない場所に行く事には反対を表明するだろう。

 これには十分な安全を確保した作戦である事を示せば何とかなると思う。王国最強の男の脆弱さを引き合いに出せば行けると見る。

 

 しかしパンドラはどうなのだろう? 少なくとも報告会議でモモンガさんの隣に座るためだけに謀(はかりごと)を巡らす程度には制作者であるモモンガさんを慕っているようだが……?

 そういえば俺が作った『演説を行う偉大なる皇帝』の動作を行った後はずっとモモンガさんが作った動作をしていたような気がする。喋り方もモモンガさんが昔やっていたものを真似ていたような気がするし、これは。

 

「どうかしましたか、ネクロさん?」

「いや、NPCの皆を納得させるための言い訳を考えていてさ」

「あぁ、なんかすごい忠誠心持ってますからねぇ」

「少なくともモモンガさんの安全を保証できない事には冒険者になるのは厳しいと思っているよ。我等が盟主殿はこのナザリックの頂点に君臨する御方ですので?」

「止めてくださいよー」

 

 割と冗談ではないのだが、あえてそうと明言するべき内容でも無いか。

 

「とりあえず俺が考えた作戦で行けるかどうか、ナザリックの頭が良い奴等に聞いてきますね?」

「よろしくですー。ちなみにどんな話をする予定なんです?」

「それは――――」

 

 

 

「――なるほど、至高の御方々は自らこの世界に触れる事で最善の判断が出来るように備えるおつもりという事ですか。……このデミウルゴス、我等シモベが不甲斐ないばかりに御不便をおかけしてしまう事、慙愧に堪えません!」

「き、君達がどれほど優秀であっても盟主殿は自ら前線に赴かれた事だろうよ。あまり自分を責めてくれるなよ?」

「ゥ我が造物主様方はァ! ゥ御自ら前線に立たれる事で! 最善の道を選びとられるゥ、と言う事ですねッ?!」

「君達を信頼していないとか、そう言う訳ではないのだがね? 長らく前線にいた、謂わば職業病というやつなのだよ。一度現場の空気を吸っておかないと不安になるというか」

「御配慮、痛み入ります。ならばこのデミウルゴス、御方々の視察が滞りなく進むよう全力を以てサポートさせていただきます」

「嗚呼、くォれぞォ! ンゥナザリックのあるべき姿なのですねェッ!! ゥ御自らをも駒としてェ、最善の一手を打つ至高の御方々ァ!! そして無私の心で従い、結果を出すべく尽くす我等シモベ達ィ!! ンンゥ正に盤石ゥッ!!」

 

 なんとなくだがデミウルゴスとパンドラの説得が上手くいった気がする。

 モモンガさんが冒険者になるのがナザリック全体の為みたいな雰囲気になっているけど、一応モモンガさんもそういう建前で行くと言っていたからそれは良い。

 

「では、最終的に我々二人が自らエ・ランテルに潜入する事について二人は賛同してくれるという事で良いのかね?」

「ンゥ勿論でございます! そも、御二人の御決定に異を唱えるシモベなど有る筈がァ、ンゥゥ無いのですからァッ!!」

「私といたしましても御二方の安全が確保されている今回の作戦について異を唱える余地などございません。組織の首領として実に御立派な御覚悟でございます。ただ、シモベの立場といたしましては。どうか、御自愛頂きたく存じます。御休息を取られる事も、支配者たるものの仕事の内かと」

 

 見ればパンドラも働き詰めではお体に障ります、と胸に手を当てて訴えている。誰が作ったかは忘れたが『臣下』がテーマの時に優勝したポーズだったか。

 十分な力になれない悔しさと、それ以上にこの身を案ずる思い。それらがこもった眼差しを向けられた俺としては少々申し訳ない気持ちになってしまう。

 そこで、

 

「デミウルゴス君。私は君の智を、頼りにさせて貰うつもりでいる。そこで、都市部の情報を取りまとめる役職を君にやって貰いたいと思う。私達の潜入が滞りなく進むようにね」

 

 まずはデミウルゴスに諜報部の仕事を任せる事にした。

 

 元々エ・ランテルには俺が行く前に先遣隊として恐怖公を送るつもりでいた。そこにデミウルゴスの配下を追加して情報を取りまとめて貰えば組織だった諜報活動が出来る筈だ。息抜きがしたいモモンガさんとしては少々窮屈かもしれないが、身の安全には代えられない。

 何より、

 

「私は血族を一度に手元に集める手段に乏しい、そのため私の力は攻め込むより血族達を展開した防衛線でこそ真価を発揮する。そして我々がこれから手を伸ばすのは三重の城壁で囲われた城塞都市だ」

「お任せ下さい。血族の皆様を安全かつ即座に動員できるよう配備し如何なる状況にも対処できるよう取り計らいます」

「将来的にはここをナザリックの対外的な本拠地として行きたいところだね。ナザリックその物に攻め込ませぬためのダミーとして。まあ追々考えていくとしよう」

「畏まりました」

「それからパンドラ君」

「ハイッ! ゥ私にも御力になれる事が?!」

「後ほど私の部屋に来て貰えるかね? 金策と潜入工作の両方に有用な策があるのだが、そのためには君の力が必要なのだよ」

「ゥ私の力が御役に立てるのでしたらこれに勝る喜びはございません! ンンゥ何なりとォッ!!」

 

 その後恐怖公を交えてエ・ランテル諜報網の話し合いを進めていく。

 最終的に恐怖公の眷族達と共に俺の眷族である【影狼】とデミウルゴスの配下であるシャドウデーモン達、更にコキュートスの配下であるエイトエッジアサシン達から数名がエ・ランテルへの先遣隊として向かう事となった。

 

 これらの先遣隊が収集した情報から血族を配備し、万一の場合の逃走経路なども用意しておく。特に数が多い恐怖公の眷族達には重要施設への潜入もやって貰うつもりだ。これらの情報の取りまとめは諜報部のデミウルゴスの仕事とした。

 

 更に俺とモモンガさんの本隊が潜入する際にはカルネ村の時と同様にニグレドによる監視体制を敷き、アウラ率いる強襲部隊もエ・ランテル付近に布陣させる。これだけ用意すれば安全に関しては問題ない。この体制は都市内の安全が確保されるまで続ける予定だ。モモンガさんにも少しだけ我慢して貰おう。

 そして第一陣として街に出向くのは〈時間逆行〉や〈再生〉と言ったスキルを持つ俺であることも決まった。ナザリックにモモンガさんが待機している状態の方が対応の幅が広まるという理由もある。

 

 後日、ナザリックの管理で忙しいモモンガさんにも恐怖公達から送られてくる情報を基にした会議に出席して貰った。議題は御供をどうするか、配置する血族の選抜、潜入する際の偽装身分について等だ。

 商人として入り込むのは吸血騎士団を使えば実質コスト無しで運送が出来るのではと言う俺の発案で、とりあえずの売り物は錬金術師のタブラさんの力を借りうけたパンドラに〈錬成〉して貰った宝石だ。触媒無しの〈上位錬金術〉で作られたユグドラシル基準では飾りにしか使えない小石だが、売れればラッキー程度のお守りである。勿論自前の指輪や腕輪もなめられないように持っていく。

 新米冒険者は碌な仕事が無いという事も解ったためそのアシストも必要だろう。商談がてらどこかに行く仕事を受けて俺が雇ってみるのも良いか。そのあたりは臨機応変に決めていけば良いだろう。普通に最下級から順次上げていくのも一興だとはモモンガさんの言だが。

 

 

 

 こうしてナザリックのエ・ランテル侵攻は始まる。

 ゆっくりと、しかし確実に。

 財力と武力の両面から襲いかかる彼等に抗う術を人類は持たない。

 

 




2巻の内容に入りましたが相変わらず会議をして軍勢を配備して道具を揃えてと、一体何と戦っているんだと言われそうな準備編でした。

恐ろしい事に作中時間ではまだ8日目の朝だったりします。
時系列を見て原作のアインズ様はよく一人でこんな強行軍が出来るものだと感心してしまいます。流石は智謀の王。

ところで作者は悪の秘密組織が謀りを巡らせるシーンがわくわくして大好きです。
それと同じくらい予想外の事態に慌てて対処するのも大好きです。
ウチで慌てて対処するのは誰の仕事になるのか。



以下作中設定の解説など

〈錬金〉
原作ではタブラさんが取っているのではないか、と言うこと以外は詳細不明な錬金術ですが、鉄を魔力で変性させるみたいな技術として扱っています。タブラさんは魔力系魔法詠唱者らしいですし。
ちなみに下位錬金術は確率で鉄を別の金属に変える程度、中位錬金術でお飾り程度のちょっとした宝石などが出来、上位錬金術でやっと装備品の材料に使える素材が出来始め、最上位錬金術に高価な触媒を使えば神器級にも使える素材が確率で作れるという設定です。
あと宝石は硬度と重さで価値と作製の難易度が変わるという設定で、ルビーやサファイア、ダイヤモンドは小さくても高価ですし、ヒスイやコハク等はお手頃価格です。


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