墓守達に幸福を   作:虎馬

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12.薬品店にて

 エ・ランテルで最高のポーションメイカー、バレアレ薬品店。ここには冒険者や軍の関係者をはじめとした様々な人物がやってくる。

 物見遊山で貴族がやってくることだって稀にある。今日の客もその類だろうと最初は考えていた。

 

 ドラキュラ商会の代表を名乗るブラム氏が町一番のポーションと聞いて是非話を聞かせて欲しいと訊ねてきた時は、美人なお孫さんとの観光と同時にうちのポーションを扱いたいという商談に来ているのだと思っていた。

 実際その気はあったように思う。

 しかし商品を眺め、効能を聞き、原材料や製法に対して異常なまでに興味を持ち始めた頃、僕は少々戸惑いを覚え始めていた。

 ある種の違和感と言ってもいい。

 まるでこの店にあるポーションが異質なものであるかのようなその態度。

 

「青以外の色をしたポーションは無いのかね?」

 

 特に記憶に残るこの質問。彼はその後「例えば赤とか」と付け加えていた事もよく覚えている。

 困惑気味な様子から見るに、彼にとってポーションは青では無いのだ。

 

 赤いポーション。

 

 神の血とも呼ばれる僕達錬金術師が求める究極のポーション。

 それは〈保存〉の魔法をかけずとも永遠に品質を保ち続ける事が出来る完成されたポーションだ。

 しかし現在の技術ではどうやっても青く変色してしまうことから、神の血は青いのだというジョークすら生まれてしまった伝説の品だ。

 

 まさかこの老人はどこかで赤いポーションを見た事があるのだろうか?

 

 今日のところはと、店で扱っている全ての種類のポーションを2つずつ購入することを決めた彼に更なる疑問が湧いてくる。まるで調査をしているかのようなその行動に疑惑が加速していく。

 このまま帰らせるべきではない。

 直感的にそう思った僕は商談を持ちかけることにした。

 

「原料の調達ですか?」

 

 先ほど材料についても随分と詳しく知りたがっていた事からこちらにも興味があるはずと、カルネ村での薬草採集に誘ってみる。

 信頼関係の構築と原材料の実物を見る機会を得られるという説明に彼もなるほどと答える。

 更に言えば付近の村々を回る行商の下見にもなるだろうと語る彼は是非ご一緒したいと答え、お孫さんは執事と共に街に残し向かうのはブラム氏一人と御供の狼達だけという事で決まった。

 

 往復で約3日の旅路だ、もし本当に赤いポーションを知っているのなら何としてでも聞きだしたい。

 あるいは話してもいいと思って貰えるほどの信頼関係を築かなくてはならない。

 

 その後も旅の日程などを軽く打ち合わせし、明日冒険者を雇いに冒険者組合へ行くことになった。

 ブラム氏は自分の護衛は狼達がいるから問題ないが、荷物の積み下ろし等を行う人手はあった方が良いだろうとそれなり程度の冒険者を雇うことに決まった。

 

 

 

 そして翌日、冒険者組合。

 依頼を出そうと待ち受けに向かう際に全身鎧の戦士が銅級の依頼では不服だからもっと上の依頼を受けさせて欲しいと難癖をつけているところに出くわした。

 彼曰く、後ろの二人は第3位階の魔法詠唱者であり自分もそれに引けを取らない腕前だから難しい依頼も可能だと言う。

 そんな彼らに興味を持ったのだろう、ブラム氏は僕に一言断って彼等の下に向かった。

 

「見事な装備品と御供を連れているが、鎧の中身はそれに見合ったものなのかね?」

「勿論、身の程に合わない装備は寿命を縮めるだけですからね」

 

 首元に下げるプレートは銅。

 つまりは最下級の冒険者ということになる。

 しかし身につける装備は明らかにミスリルやオリハルコンといった上級の冒険者が纏うべき物だ。

 おまけに後ろの美女2人も揃って第3位階の魔法が使えると言うのだからあまりにもチグハグなチームだと思う。

 

「見たところ冒険者になったばかりのようだね。碌な仕事が受けられなくて困っているといったところかな?」

「お恥ずかしながら」

「ではどうだろう? これから私達はちょっとした薬草採集に向かうのだが、護衛と荷降ろしを行う冒険者を探している。銀級の最低額でどうかね?」

「ふむ、少なくともあの壁にかかった依頼よりはやりがいがありそうですね」

「ンフィーレアさんも構いませんか? お代は私持ちという事にしておきますが」

「僕は構いません。それから依頼料は折半という事で」

「よろしいのですか?」

「ええ。大事な商売相手ですし、守って貰うのは主に僕になるでしょうから」

 

 これはまぎれもない本心だ。

 ブラ厶氏は狼達を率いてそれなりに戦えると語っている事から恐らくはテイマー。そして1人で旅が出来る程度の実力者だ。

 対して僕は第2位階の魔法が使えるとは言えあくまで薬師。戦うのは得意ではない。

 彼は僕の身を守るために有力な冒険者を安く雇うつもりなのだろう。

 

「一応確認の為に、第3位階の魔法を使って貰えますかな? 屋内では難しいなら一旦外に向かいますが?」

「いえ、この場で結構。ナーベ、〈飛行〉を使ってみてくれるか?」

「はい、モモン、さ――ん」

「「……」」

「その、彼女は人前で話すのはあまり得意では無いようですね、モモンッサーンさん?」

「ブフッ、……モモンです。ええ、彼女はあまり人前で話すのが得意ではないのですよ」

「いやぁナーベちゃんにも困ったもんッスよねぇ。あっ、あたしはルプゥって言います。よろしくッス!」

「おっと私とした事が名乗っていませんでした。ドラキュラ商会のブラム・ストーカーと申します」

「バレアレ薬店のンフィーレア・バレアレです」

 

 ちょっとした騒動はあったが、ナーベさんが〈飛行〉を使って軽く移動をするところを確認してから依頼を出し、3人組と奥の控室へ向かう。

 そのまま翌日の朝に出発する事や荷物の手配、食料についても各々が携行食で済ませる事等が決まり明日に備える事になった。

 




今回は短いですがここまでです。このままンフィーレア視点でモモンッサーンさんの無双シーン書いても仕方ないですし。
ちなみにネクロさんは素でポーションの事を聞いてるだけです。

そして残念ですが漆黒の剣の皆さんは出番なしです。
ペテルもルクルットも好きなキャラではあるのですが・・・。
出会うフラグが折れた代わりに死亡フラグも折れました。

チーム『漆黒』が3人なのは勿論設定厨なオリ主の仕業です。
アレだけアインズ様から釘を刺されても改めないあたりそう言う設定だとしか思えないのです。
どんなやり取りがあったかはまた次回、入れられなければあとがきで解説します。

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