墓守達に幸福を   作:虎馬

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モモンガさんことアインズ様の御活躍を御覧になりたい方は是非原作でお楽しみ下さい。
例えば最新刊の10巻では魔法を使わず培った戦闘技術のみで戦う偉大なる魔導王様のお姿が拝見できます。
お勧めいたします。是非どうぞ。


ウチのモモンガさんは・・・強力な助っ人がいるのでヌルゲーなんです。
本家のアインズ様ほど強くはなれないのですよ。



17.モモン・ザ・グレート ビギニング

『漆黒の英雄譚

 これはリ・エスティーゼ王国を中心に活動した冒険者『漆黒の剣士』モモンの輝かしい功績を伝える物語、その序章である。』

 

 

「ちょっと待って、なんですかこれ!?」

「近々ドラキュラ商会で売り出す予定の商品だよ。リアルヒーローを題材にしたノンフィクション英雄譚さ!」

「いや、待って。ホント待って。そもそも何のためにこんな物を?!」

「勿論冒険者モモンの人気を不動のものにする為の小道具さ。より多くの人々に冒険者モモンの活躍を知らしめると共に、紙切れを金貨に変換できる正に錬金術! いずれは紙幣を発行して更なる錬金術に挑みたいものだなぁ!!」

「ホント落ち着いてください。錬金術は鉄を宝石に変えるだけですから労力の割にもうからないってぷにっと萌えさんが結論出してたじゃないですか!」

 

 金策の鬼と化したネクロロリコンに恐怖しつつ、検品を頼まれた魔書「モモン・ザ・グレート 1 ビギニング」を読み進める。まさか自分を主人公にした物語を作られてしまうとは思いもしなかった。更に言えば限りなく自分の言動をそのまま描かれている事がダメージを加速させていく。

 ネクロロリコンの〈激励〉で高揚状態になった結果色々とはっちゃけた言動を取っていた記憶があるモモンガとしては読み進めるのが恐ろしい程である。

 

 

 【骨の龍】の攻撃を受け止めたのは漆黒の鎧で全身を覆い隠し、身の丈程の大剣を構える偉丈夫であった。

 さらにその男は攻撃を受け止めるのみならず、巨大な【骨の龍】を力任せに押し返してみせる。

 

 その場に集った人々はその異常な光景に声が出せない。

 彼等が必死の思いで立ち向かった伝説級のアンデッドの攻撃を受け止め、更には押し返してしまうなど一体誰が想像できるだろうか。

 

 続けて放たれた彼の台詞によりその場に集った者達は更なる衝撃をうける。

 

「遅くなってすまなかったな。後は私に任せて貰おう」

 

 今この男は何と言った?

 任せろだと? 一人で戦うつもりか? そんなバカな事が出来る筈がない。

 

「何言ってやがる、一人で倒せる相手じゃねえ」

「出来る訳が無い」

「そんな事が出来るのはおとぎ話の英雄だけだ」

 

 次々に飛び出る否定の言葉を聞き、しかしモモンは一刀の下に切り伏せる。

 

「ならば私がそれを可能とする英雄となろう」

 

 気負いも無く言い切ったその言葉には、あるいは本当に出来るのではと想わせるだけの自信が込められていた。

 

「一撃だ」

 

 両手に構える大剣の片方を地面に突き立て、両手で身の丈ほどもある大剣を握りしめる。

 

 この男は何を言っているのか? 一撃で倒すと言ったのか? そんな事が出来る筈が無い。

 しかしこの自信に溢れる立ち姿。

 まさか本当に……?

 

 肩に担ぐようにして大剣を構える漆黒の剣士の姿に釘付けになる防衛軍の面々は固唾を飲んで見守る。

 

 迫り来る【骨の龍】を迎え撃つようにして力ある言葉を呟くモモン。

 

「―――――モモンズ・ギガ・ブレイド!」

 

 次の瞬間、【骨の龍】が文字通り粉砕されていた。

 

 目にもとまらぬとは言うが、本当に動作そのものが見えないなど有り得るのだろうか。

 しかし現に、気付いた時には巨剣を振りきったモモンの姿と、その前方で崩れ落ちる【骨の龍】の姿があった。

 

「……ふむ、少しやりすぎたか?」

 

 剣に付いた骨片を振い落しモモンは事も無げに呟く。

 この程度の事は当然とでも言いたげなその姿に人々は漸く状況を正しく理解する。

 

「凄い、これが本物の英雄!」

「エ・ランテルに英雄が来たんだ!」

「勝てる。これであの化け物たちに勝てるぞ!!」

「モーモーン! モーモーン!」

 

 沸きおこるモモンコールを背に墓地へ―――――

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「おいやめろ! それは試作品だから。壊されたらまた一から作り直しになるから!」

 

 当時の様子を思い出し、思わず破り捨てようとするモモンを慌てて制止するネクロロリコン。

 

 ドヤ顔で必殺剣「モモンズ・ギガ・ブレイド」という名のただの振り下ろしを放った光景を文面で突きつけられたモモンガの精神的ダメージは計り知れない。

 〈パーフェクト・ウォーリアー〉を発動した渾身の振り下ろしは現地の人々にとっては正しく一撃必殺の大技に見えた事だろうが、そんなことはモモンガにとっては関係のない事である。

 

「そもそも一撃宣言はネクロさんが煽ったからじゃないですか!? 『良く言った英雄を目指す者よ!』とか『さあ、森の賢王が相手では出しきれなかったその力! ここに示すが良い!!』とか『相手は物言わぬ死者、加減は無用だ! その荒ぶる本能を解き放てェッ!!』とか言ってド派手に煽ってたじゃないですかぁああああ!!!」

「はて、俺もその時は興奮していたものでね。自分が何を言っていたか覚えていないのだよ」

「つーかモモンコールを始めたのもネクロさんだし! そもそも何でブラムのブの字も出てないんですか?!」

「モモンが主役の英雄譚なのだから旅の商人なんて端役に割くページ等ある訳ないだろう?」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 余談だが、「漆黒の英雄譚」がエ・ランテルを中心に爆発的な売り上げを叩きだした結果、スピンオフとして「エ・ランテル偉人伝」や「破軍の老将 ブラム外伝」が製作され、絶妙な脚色がなされた内容で出版される事になる事は未だ誰も知らない。

 群像劇として舞台映えするため、劇場ではむしろ「老将ブラム」が主題の演劇が多くなる事も全くの余談である。

 それによりある人物が将来悶え苦しむ事になる事も勿論余談である。

 

 

 街の防衛を仲間達に任せ、漆黒の剣士モモンは一人墓地を行く。

 雲霞のごとく押し寄せる死者の軍勢を前にしてもなお、その歩みが止まる事は無い。

 左右の巨剣は吹きすさぶ嵐の如く、その歩みは無人の野を行くが如く。

 

 そして辿り着いたのは墓地の中心、この事件の黒幕である地下組織:ズーラーノーンの高弟である悪の魔法使いが巣食う霊廟であった。

 

「よくぞここまで辿り着いた、勇敢なる戦士よ!」

 

 悪の魔法使いは嘲笑を交えて語りかける。

 

「そして実に愚かだ! ただ1人でここまでやってくるとは!!」

 

 脇に控える弟子達が詠唱を始める。

 更にその背後には伝説のアンデッドである【骨の龍】が屹立する。

 

 この絶望的な状況にあってなお、モモンに焦りの色は無い。

 落ち着きを払ったモモンは訊ねる。何故このような事を為すのか? と。

 

「知れた事!」

 

 悪の魔法使いは答える。

 

「このエ・ランテルに大いなる破壊をもたらし、我が名を永遠の物とするためよ!」

 

 この答えにモモンは激怒する。

 そのような下らぬ目的の為に無辜の民を巻き込んだのか?! と義憤に燃える。

 

 全く悪びれることなく、我が名声の糧となる事が出来た事を喜べと吠える悪の魔法使いの声を聞き、もはや語る舌は持たぬと剣を構えるモモンは――――

 

 

「もっと色々言ってませんでしたっけ? 死の螺旋がどうとか、永遠の命がどうとか」

「大衆はそんな小難しい理屈も、悪役の主張にも興味は無いのだ。悪役が悪事を為して、正義の味方に倒される。それでいいのさ」

「そりゃそうだけどさぁ」

 

 個人的には大量のアンデッドによって充満した負のエネルギーで不死の魔法使いになるという「死の螺旋」とやらに興味津々であったモモンガは不満を覚えたが、先にデミウルゴスに読んで貰ってそれが良いと言われているならと納得する。

 シュウグには解りやすい悪役と明確な正義の味方を用意するのが宜しいでしょうと言われたらしいが、ナザリック1の知恵者が言うのなら間違いないのだろう。

 

 そのままページを読み進めるモモンガだったが、意図的に【骨の龍】を倒すクライマックスのシーンを読み飛ばしていく。

 必殺の「ファイナル・エクサ・ブレイカー」が炸裂する山場だったのだが、モモンガにとっては最新の黒歴史を目の前に突き付けられたに等しい。

 これが検品でさえなければ破り捨てていたところだ。

 

 そのまま攫われていた少年を助けてめでたしめでたしとなったところで本を置く。

 

 暫く無言で天井を眺めていたモモンガだったが、4度5度と大きく息を吐いて精神を安定化させていく。

 

「ブラムを出さないのは、ンフィーレア少年を表に出さないためですね?」

 

 今回のミッションにおける収穫の一つ、エ・ランテル随一の薬師であるリィジー・バレアレ。

 孫を取り戻す事でモモンへの忠誠を取り付けた老婆は勿論それなりに意味のあるカードとなるが、ある意味それ以上に価値のあるのが孫のンフィーレアである。

 祖母のリィジーに対する人質であると同時に、「あらゆるマジックアイテムを使う事が出来る」というタレントを持つ彼はもしかするとナザリックに対して大いなる脅威となっていた可能性がある。

 

 「叡者の額冠」によって精神支配されていた彼を助ける事を強く主張したのは、本では描かれていないブラムことネクロロリコンであり、希少なこの世界固有のアイテムである「叡者の額冠」を回収しつつンフィーレアを救助できたのもまた彼の力によるものだ。

 

 精神支配を受け、外した時に精神を破壊されると言うならば、絶対的な精神異常耐性を持つアンデッドにしてしまえば良い。

 そう言ってズーラーノーンの死体から〈ブラッドプール〉で回収した血液を媒介にして〈血族創造〉を発動、ンフィーレアを血族としてしまう。

 

 勝手に血族化した事を詫び、嫌なら記憶を消して元通りにすると語るネクロロリコンだったが、果てしない研究をする学徒にとって永遠の命は喉から手が出るほど欲しい物と返答されそのまま無事に血族として迎え入れる事となった。

 

「私は血族を作る際に相手の望みを一つ聞くことにしている。力を求めるもの。永遠の美を求めるもの。研究に全てを捧げるものもいる。君には、そうだな。村娘を一人、でどうかね?」

「そ、それは!」

「うむ、では決まりだな。君が十分な働きを示したならば、君をより強大な吸血鬼である〈真祖〉とする事で意思を持った君だけの眷族とさせてやろう。まさに死が二人を分かつまで共にある事が出来るだろう! 勿論それなりの価値を示しさえすれば私が血族に加えてやっても良い、精々頑張りたまえよ?」

 

 その際傍から見れば悪魔の取引ならぬ吸血鬼の取引が行われたが、これはネクロロリコンとしては善意100%の行いである。

 望みを叶える代わりに血族にするというのも、血族の設定におけるマイルールである。

 今回もお互いにとってWIN-WINな関係の素晴らしい取引であったと自負している。

 昏い笑みを浮かべるンフィーレアに愛しの娘がいるカルネ村へと住処を移す事を指示し、彼が欲していた「神の血のポーション」も譲り『渡す』事にした。

 

 そのまま吸血鬼化した事がばれないよう素早く住処を移すよう細かく指示するネクロロリコンを見るモモンガは驚愕していた。

 

 まさかそこまで計算していたのかと。

 

 実際そんなことは無いのだが、モモンガとしては色々先の事を読んで手を打つネクロロリコンのことをぷにっと萌えレベルの鬼才と思い込んでいた為「さすがネクロさん!」と納得してしまっていた。

 

 この誤解によって後に地下大墳墓では神算鬼謀の主、地上では明智の狼王と呼ばれることに繋がるのだが、今は誰もその事を知らない。

 




今回は批判がちょっと怖いですが、ンフィーレアさんをナザリック入りさせました。
まあ原作でも半ナザリック入りしていますし、何よりこんな危険人物を野放しにはできませんよね?
特に意味は無いですがレアアイテムもゲットできますし(ここ重要)。


こうしてンフィーレアはカルネ村に向かい、ドラキュラ商会研究部門副主任にして製薬部門長となったのでした。
ああ、カルネ村がまた一歩魔境へ。


>エンリの覇王炎莉将軍閣下化フラグが折られ、血濡れのエンリルートのフラグが立ちました。

>某人物の勧誘フラグが立ちました。

>建国フラグが立ちました。


次回は楽しい楽しいアンデスアーミー騒動の反省会。
さすモモさすネクロは書いていて楽しいのですが、デミウルゴスの深読みは書いていて頭が沸騰しそうで困ります。
少々時間がかかるカモなのでそこはご了承ください。

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