墓守達に幸福を   作:虎馬

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勘違いされて困る支配者達のお話です。
玉座の間の扉が重い。


3.支配者達の対談

 NPC達が全て退出し、先ほどまでの物々しさが嘘のように静まり返った玉座の間。至高の御方々ことモモンガとネクロロリコンは頭を抱えていた。

 当然である。ゲームの最期だからとノリノリでやっていたロールプレイを他人にばっちり見られていた上にそれを真に受けられてしまいとんでもない誤解をされてしまったのだから。

 そもそもどうしてNPCが動いているのか? これはゲームではないのか? 思わずスキルを使ってしまったがメニューバーも無いのにどうやったんだろう? 等々疑問が次々と浮かんでは消えていく。

 

「夢、って事は無いんでしょうね。やっぱり」

「夢にまで見た状況、ではありますがね」

「じゃあゲームって可能性は?」

「これがゲームだとしたら拉致監禁罪辺りが適用される状況だねえ。それに電子なんとか法で触覚やら味覚嗅覚やらはダメなんじゃなかったっけ? つばを飲んだときとかになんとなく感じたんだけど?」

「そうなると、やっぱアレですかね? ゲームの中に入っちゃった的な?」

「そんなバカな、と笑えないのが困りものですね」

「ところでさっきのスキルはどうやったんです? メニューバーに近いものが見つかったんですか?」

「・・・いや、咄嗟に出たというか、なんというか。アレです、息をするようにって奴ですよ!」

 

 暫く考えてからフワフワした返答を返す。どうやって手を動かすのかを説明できないし声の出し方も口では説明できない。それらと同じ感覚で意識したら出来ると説明を続ける。

 それを聞いたモモンガは目を閉じているような雰囲気になり集中すると。

 

「あ、出来ました!」

 

 嬉しそうに語るモモンガの全身から禍々しいオーラが立ち上る。楽しげに絶望のオーラを纏い即死判定の波動を撒き散らす骸骨の姿は控えめに言っても邪悪な魔王そのものであった。

 

「なんとなくですけど魔法も使えそうですね! 残MPも体感的に解りますし」

「ゲームでここまで体に信号を送るなんてのはかなり無理でしょうし、やはりゲームの中に・・・!」

「可能性は高そうですね!」

「そうなると、マジックアイテムも普通に使えるみたいだし戦闘力はアバターそのままって認識でよさそうだな。これならナザリックにいる間は安全だろうね」

「アイテム? ああ、そのモノクルですか」

 

 モモンガはネクロロリコンが掛けている片眼鏡に目を向ける。細やかな細工の施された金縁のそのアイテムは勿論ただの飾りではない。レアなデータクリスタルと希少金属をふんだんに使った神器級装備であった。

 

「ナザリック1無駄に豪華な神器級装備と呼ばれ恐れられた成金貴族のモノクルですね!」

「ナザリック1格式高い神器級装備の悪魔貴族の片眼鏡です!」

 

 最上級装備である神器級の装備は製作に必要な希少金属やデータクリスタルを集めるのが非常に難しい。そのため作られるのは戦闘に直接関わるものばかりだ。しかしこの自称悪魔貴族の片眼鏡は違う。戦闘に使わない〈鑑定〉等の情報系魔法ばかりが大量にかかっている。それも普段使い用であるならその度に付け替えてやれば比較的製作の容易な伝説級から聖遺物級で収めることが出来るような効果ばかりである。その上であえて神器級の装備として作り上げてしまったのだからメンバーからは呆れと称賛の声が盛大に贈られることとなった。勿論その多くは「さすがはネクロロリコンさんぱねぇ!」という称賛(?)の声であったあたりアインズ・ウール・ゴウンメンバーの人となりがうかがえる。

 

「それの効果と言えば、ああ〈鑑定〉ですか。つまり今装備品などの名前や耐久値が眼鏡に映っているという事ですか」

「正確には頭の中に直接流れ込んできていますね。どうぞ」

 

 手渡された片眼鏡を付けてみると、確かに「解る」。装備品の凡その性能や身につけている小物の数々、そして口髭を生やす老紳士の姿と重なりあうようにしてもう二つの姿も「見える」。

 

「見えている、というのとは違いますね。姿がダブつくように真の姿が解りますし」

「凄かろう? 貴族たる者身につけるものはやはり特級の物でなくてはならんのだよ」

「はいはい凄い凄い」

 

 正しく夢にまで見た状況に緊張感が薄まりつつも、更に幾つかのスキルや魔法の効果を確かめ、感覚は少し違うとは言えいつもの使いなれたものだと結論付ける。

 

「さて、能力装備ときたらそろそろNPCについて考えますか」

「とりあえず敵ではないですね。全力で平伏していましたし。アルベドなんかあのまま首を落とされても本望って雰囲気でした」

「吸血騎士団についても問題なさそうです。なんというか、俺が作った奴等は繋がりみたいなものがあってなんとなくわかるんですよ、本気で守ろうとしてるのが」

「繋がり、ですか。メニューバーにあるタグ付きのステータスなどでしょうかね」

「ええ、体力とか状態とかもなんとなくわかる感じです。倒されたら直ぐに解るかと」

 

 ナザリック地下大墳墓の内部については各階層守護者達からの報告待ちということで問題ないと判断、外部のセバスとの連絡を取ることとなったのだが、ついに問題が発生する。

 

「何? 草原だと!?」

 

 弛緩した空気から一変したモモンガの雰囲気からネクロロリコンもまた気持ちを切り替える。

 

「それで、周囲に知的生命体やモンスター等は? ふむ。少し待て、ネクロさんとも情報の共有をしておかねばならん。一先ずナザリックに帰還し指示を待て。

 大変ですよネクロさん! なんかグレンデラ沼地じゃなくて草原地帯になってます!」

「え、何で?!アップデートで地形が変わったのか?ゲーム内時間が超進んだとか?!?!いやしかし・・・ふぅ、モンスターは何がいるんです?」

「え!? その、モンスターもそれ以外の知的生物もいないみたいですね。どうしましょう、一旦帰還するよう指示しましたがもう少し遠くまで行かせてみますか?」

「・・・駄目だな、離れれば離れるほど何かあった場合助ける手立てが無くなってしまう。よし、それなら索敵部隊を編成しよう!」

「そうなると、やはりアレですか?」

「俺と言えばアレだろうよ。ぷにっと萌えさん考案ヘロヘロさん協力の我が108の必殺技の一つ!」

「ちなみに107番目は?」

「え?!・・・サモンカスケード!」

「じゃあ3番目」

「えーっと、あー、そのー、完全人化?」

「それ昔ラッキーセブンって言ってませんでしたっけ? そもそも108も無いでしょうに」

「・・・48の必殺技にするべきだったか!」

「そういう問題じゃないと思いますが、まあとりあえず1階層に行きますか?」

「いや、その前に戦力を整えよう。〈伝言〉!・・・シャルティア君、今大丈夫かね?」

「(はい! 至高の御方以上に優先すべきもの等何一つありんせん)」

「まず、守護階層の方はどうかね? 何か異常は見つかったかね?」

「(いえ、全ての場所を見て回れたわけではありんせんが今のところは何も異常はみられませんえ?)」

「それは何よりだ。では一旦守護階層の調査を取りやめ、我が吸血騎士団を率いて地表部中央霊廟に集結せよ。その他の者は所定の位置にて待機。これより私と我等が盟主殿による地表部の視察を行う。その護衛を任せたい」

「(それはっ!光栄でありんす、直ちにネクロロリコン様の親衛隊を率い推参させていただくでありんす!)」

「ああ急ぐ必要は無いよ、私達も用意をしてから向かわねばならんのでね。そうだな、十五分後に向かうのでそれまでに用意しておいてくれたまえ」

「(十五分後に地表部中央霊廟でありんすね。了解したでありんす、今すぐ用意してくるでありんすからどうかごゆるりとお越しになっておくんなまし!)」

「ああ、あまり急がなくて良いからね。あと言いにくいようなら私との会話は廓言葉も控えめで構わないよ」

 

 《神祖》の血族であるため普通の吸血鬼より強化されている吸血騎士団の護衛と守護者最強の戦力であるシャルティア、これらを用いた布陣であればモモンガが後方で待機していれば撤退は容易い。最悪の場合でも〈鮮血の降雨〉を使って血の狂乱を引き起こし突っ込ませてやればたとえワールドエネミーの類が相手でもそれなりの手傷を与える事が出来るだろう。最悪の場合1から騎士団を作り直す羽目になるので出来ればやりたくないのだが、背に腹は代えられない。

 ちなみにネクロロリコンが考案した自称108番目の必殺技がこの『最終突撃命令』である。実際に使ったときはあの1500人からなる大攻勢に精鋭騎士団を含めた全軍を突っ込ませて相手の布陣を大いに乱す事に成功している。勿論自身を含めて全員玉砕し、後日メンバーの力を借りて泣きながらレベリングを行う羽目になったため二度と使わないと決めたのだが。

 

 モモンガもまたネクロロリコンの行動に応じてアルベドに連絡をとり内部の警戒レベルを最大限まで引き上げるよう指示を出す。

 相変わらず仕事が早くそつがない、流石は我等が盟主殿。思わず緩む顔を引き締め頼りになる盟友と共についに支配者達は玉座の間を出る。

 

 いざ未知の世界、新たなる冒険へ。




という訳で思ったより進みませんでした。今回で偵察隊を出すところまで行って、次回が忠誠の儀から作戦会議の予定でしたがカルネ村がまた遠のいてしまいました。

ネクロロリコンのキャラについて少しずつ掘り下げていったらどんどん伸びてしまい、結局玉座の間から出てません。
次はもう少し動きますよ!・・・きっと。


以下ちょっとした解説など、読み飛ばしてもらっても大丈夫です。

血族
随伴用NPC作製とか言うチート能力ですが、レベル1の下級吸血鬼か通常吸血鬼をそれぞれ経験値消費で生み出すというスキルで作り、後は頑張ってレベリングする必要があります。
そして勿論死亡時のペナルティである5レベルダウンとレベル0以下になった際のキャラ消滅もあるので『最終突撃』でみんな仲良く玉砕すると・・・という設定です。
便利そうなスキルなのでペナルティも重い、というオリ設定でした。

ネクロロリコン
インパクトが強すぎたせいか名前に対する反響がすごかったですね。ちょっと驚きました。

名前はネクロノミコンをもじっただけの中二的なネーミングの筈です。根暗な巫女んと悩んで横文字のネクロロリコンにしたという裏設定あり。
だからロリコンじゃないよ!
ペロロンチーノさんとも仲が良いしシャルティアを作る時に多大な協力をしたけどロリコンじゃないよ!
好きな女性キャラを挙げると幼女ばっかりだけど吸血鬼がロリキャラ担当になってる事が多いだけだよ!
決して少女性愛系不死者を自称している訳ではないんだよ!

以上、ネクロロリコン氏の弁解コーナーでした。

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