竜王ツアーとの会談で得られた情報によってナザリックの対法国戦略は大きく変わることとなった。
元々この世界へ先んじて降臨し一国を掌握したプレイヤー勢力であるとみなし、周辺最大国家とその裏に潜む中規模ギルドこそが目下最大の敵であるとナザリックの人員は考えていたのだ。
しかし蓋を開けてみれば、遥か500年前に全滅した勢力の残党でしかないという。
一応その法国から送られた資料を使うということで、今回は対外的な本拠であるセカンドナザリックの会議室で話し合いが行われることになってはいる。情報が集まった今となっては、各種情報魔法による解析を終えた後でもあるためあくまで念のためでしかないが。
勿論ナザリックの隠蔽を第一とする御方々の方針を想えば、この過剰とすら言える警戒態勢も妥当な対応であると言える。御方々の御心を安んじることこそが最も重要なのだから。
しかしながら目下最大の障害とみなしていた勢力が取るに足らない存在であったと知った参加者一同は、御方々と同席する会議にも拘らずいくらか弛緩してしまっていた。
そう、会議室に降臨なされた御方々の御姿を見るまでは。
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いかん、調子に乗って飲み過ぎた!!
何かあった翌日は会議をする、それがナザリック鉄の掟。
他でもないこの俺が決めた約束事だ。
しかし、だというのに!
頭痛がする。は、吐き気もだ! クッ、グゥ……。な、なんてことだ、この俺が……気分が悪いだと? 《吸血鬼神祖/ヴァンパイア ザ・ワン》たるこの俺が、二日酔いで……会議を欠席するだと?!
〈完全人化〉を解除しても、秘密裏に呼び寄せた第10位階の信仰系魔法を操るヴラドに各種解毒系魔法を使わせても、全く治ってくれない。
体内で分解されたアルコールが悪影響を齎しているとヴィクター博士の解説があったが、『二日酔い』などという状態異常自体がユグドラシルに存在しなかったため対処法がさっぱり解らない。
慌てて〈伝言〉でモモンガさんに連絡してみたものの、内臓などが存在しないあちらも二日酔いに似た症状に苛まれているという。
俺より飲んだ量が少なかったからか、それ程酷い状態ではないそうだが……。ま、不味い、もう会議が始まる!
このままではこれまで必死に築き上げた俺の支配者としてのイメージが崩壊してしまう!
どうにかしてやり過ごさなくては!!
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『あの』ネクロロリコン様が陰鬱とした顔色で会議に出席しておられる。
大胆不敵、用意周到、常に100手先を見据えて動かれるあの至高の御方が、陰々滅々とした面持ちで会議に出席しておられるとは、いったい何を考え、どのような思索の果てにそれほどまでに憔悴するに至ったのか?!
プレイヤー無き現地国家など赤子の手をひねるかの如く容易く傘下に加えることができると、そう思いこんでいたこの身の浅はかさがもはや恨めしい。
元々アルベドはサキュバスという種族柄他者の感情の機微に聡い。そのうえ守護者統括という立場上、他者の心情について注意深く観察するようにもしている。
特に至高の存在に対する注意は他の比ではない。
その事情を承知している彼女は思わず傍らの同輩達の顔色を窺うも、幸いにして彼らもまた同じく驚愕と焦燥に染まっていることを確認できた。
特にパンドラズ・アクターが纏う気配は尋常ならざるものがある。
常ならば会議中は机上に置かれる軍帽を目深に被り直すなど、意外と神経質で礼儀を重んじる彼の気性を考えればあり得ないものだ。
現状を正しく把握したアルベドは気合を入れ直し、御方々の『頭痛の種』を見つけ出そうと神経を尖らせる。
できるできないではない、やらなくてはならないのだ!
それこそがこの身に与えられた至上命題、存在する理由であるのだから。
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いつも通り、そういつも通りにすれば大丈夫だ。
いつもの不敵な表情で……って、アレ? いつもどの面下げて会議に出てたっけ??
不味い、頭が回らない。
あとお腹が痛い。二重の意味で。
取り敢えずいつも通りに会議を始めるのだ。
いつもの、偉そうな……そう! 『全部わかってる』みたいな態度だ!!
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「……皆揃ったようだな。それでは改めて法国の使者に対する検討会議を行う。昨日行われた「白金の竜王」ツァインドルクス=ヴァイシオンとの会談で得られた情報を基に、目下最大の仮想敵国たるスレイン法国との関係を模索する重要な会議になる。……皆奮って会議に参加してほしい」
覇気が無い?!
あり得ない。余りにあり得ない御様子!!
普段であれば「戦いは戦場についた時点で終わっている!!」と豪語し、事前準備こそを重視されるのがネクロロリコン様である。
だというのに、あろうことか事前準備をするための会議の場でこれほどまでに憔悴しておられるなど、いったいどれほどの不安を抱えておられるのか?!
一同が不安に駆られ、縋るような思いでもう一人の御方に視線を集中させている。
「ではデミウルゴス。これまでにわかっている法国の情報と、昨日竜王ツアーから得られた情報を改めてこの場で報告してもらおう。……長くなるだろうからできるだけ簡潔に頼む」
動揺する一同を一瞥し、普段は基本的に無言を通しておられるモモンガ様が会議を進行しておられる。
この時点で漸くネクロロリコン様との交流が薄いシモベ達も異変に気付き始める。
この会議は、常のものとは違うと。
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ああ、ネクロさんはやっぱりダメらしい。
人生初の飲酒をあれだけ豪快に経験したんだから、まあ二日酔いにもなるだろう……普通の身体なら。
何故アンデッドである俺達がアルコールの影響を、いや、話を聞く限りは二次効果ということか? それを受けているのかはわからない。
しかしいま重要なのは原因の究明ではない、今をどう乗り切るかだ!
普段頼りっぱなしなんだし、今日は俺が頑張らないと!
……でもできるだけ早く終わるようにしよう。
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「―――以上の点から、竜王ツアーを名乗る彼の者は本物の可能性が高いと思われます」
まずラナーを通じて王都に住まう「国堕とし」から得られた13英雄についての情報により、同じく13英雄の縁者である可能性が高いという結論を額に脂汗を浮かべつつ話したデミウルゴス。
竜王ないし13英雄の一員を名乗ることは、王都に「国崩し」イビルアイがいる状況では難しいだろうという推測から始まったデミウルゴスの考察は、可能な限り簡潔に纏められつつも必要な情報は十分に盛り込まれたものであった。
元13英雄の「死者使い」リグリット・ベルスー・カウラウからの紹介で蒼の薔薇に加入したという情報や、悪名高い「国堕とし」を名乗るメリットとデメリット、表向きには種族を隠しつつも仲間には話している状況などを踏まえると、イビルアイが国堕としである可能性は非常に高い。
そしてそのイビルアイが各所で語ったとされる13英雄の情報の確度も、それに伴って高まっているというのがデミウルゴスの見解だ。
しかし、それを聞く御方の顔色は冴えない。
俯き加減に額を両手の指を組んだアーチ上に載せたままで、「まだそんな話をしているのか?」と言わんばかりに鋭い視線を送っておられる。
全体で情報を共有するべきであるという普段の御言葉を顧みると、むしろ省略しすぎてしまったことを御怒りであるのだろうか?
「うむ、御苦労デミウルゴス。それではツアー殿から得られた情報を基に、法国の言い分に対する分析を聞こうか」
普段のネクロロリコン様であれば、ここで国堕としの真偽やツアーの証言との整合性について2議論、3議論はするところである。
それが、無い。
「今更その程度の情報精査をしなくてはならないのか?」という御不満の声が聞こえてくるようだ。
普段とっておられる会議の態度は、あくまで我々の程度に合わせてくださっておられたに違いない!
「……はい、まず法国から送られた2通の手紙のうち1通目につきましては―――」
神妙な面持ちで過去に話し合われた内容を元にした端的な解説を始めるデミウルゴスを横目に、改めて状況を分析する。
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……頭痛が痛い。胃袋が裏返りそうだ。
ヤバい、思考が上手く回らない!
それにしてもデミウルゴスの説明はわかりやすい。特に今日は今の俺でも解るほどに簡潔に要点を絞った説明に変えてくれているのが解る。
時折こちらの顔色を窺いつつ資料を見直しながら報告する姿を見ていると、心底申し訳ない気持ちになってくる。
すまないデミウルゴス、用意してくれた資料が無駄になってしまった。
……暫く御酒は控えることにするよ。
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法国から送られた2通の手紙。
その1通目は法国からの公式な書類だ。
端的に内容を言えば、エ・ランテルの領主になったことへの祝辞と竜王国への素早い支援に対する謝辞、そして対ビーストマン遠征軍を撃破したことに対する称賛と今後ともその立ち位置を続けてほしいという要請が書かれていた。
概要としてはそれだけであったが、他国の一貴族に対して送る手紙としては非常に丁寧かつ敬意に溢れた文面でもあった。
公式な書類としてはこれ以上ない程に『ブラム・ストーカー』に配慮した文面であると評することができる。
この時点で法国はブラム・ストーカーとの誼を結ぼうという意図が見受けられる。
少なくとも他種族の侵攻から竜王国などを守ろうとしているなら、今後とも裏から援助するという意思も感じる。
そして問題は非公式に送られてきた2通目である。
「―――こちらには、カルネ村における法国所属部隊の活動に対する謝罪から始まり、陽光聖典の活動の目的の説明、つまりは弁明に多くの紙面を費やしております。そして文末には被害の補償に関する交渉と直接謝罪する機会を求め、対談の場を設けてほしいと結ばれております」
一方的かつ徹底的な謝罪と弁明。ひたすらへりくだった文面は異常ですらある。
ここはあくまで部下の暴走であるという体を取って、トカゲの尻尾として切り捨てるのが正しい対処であろう。
プレイヤーであるなら、いや、同格のプレイヤー同士であればこそ、ここまで謙った物言いをすることは怪しいと、先日の会議で御方々も発言している。
更に言えば、
「こちらが同封されておりました硬貨でございます」
これ見よがしに同封されたユグドラシルの新金貨。
これこそが近頃ナザリックを悩ませ続けた存在だ。
「法国は6大神が興した国家である以上、プレイヤーの存在を知っていることは傍目にも明らかです。そのうえでユグドラシルの金貨を同封した謝罪の手紙を送ってきたことは、プレイヤー同士で争うつもりは無いと暗に示していると……これまでは考えておりました」
御方々は、可能な限りプレイヤー同士での戦いを避けたがるはずだとみておられた。
この世界においてほぼ唯一と言って良い同格の存在であるなら、最悪でも相互不可侵の状態に収めたがるだろうと。
同格の相手との戦いでは、間違いなく様々な物資を消費してしまう。この世界では補給の目処が立たない、ユグドラシル時代の各種アイテムが。
しかしそれも過去の話だ。
「竜王ツアー殿から得られた「神人」や法国に伝わる各種アイテムの情報、そして法国を含めた周辺の人類国家群の窮状。これらを総合的に考えますと、法国はプレイヤー『ブラム・ストーカー』との同盟関係の樹立、そして将来的にはブラム勢力の規模に応じて法国への取り込みか傘下へ収まることを狙っているものと思われます」
現状を知れば知るほど、戦いたくないどころの話ではないことがわかってくる。
最重要戦力として細々と神人を輩出する血筋の保護を行っていたが、血が薄まっているせいか神人の出現率は低下しているという。
更にいうと竜王ツアーと6大神がかわした盟約の下、6大神の末裔は相互不干渉ということで見逃されてはいる。しかしそれ以外、例えば8欲王の子孫などは即抹殺対象であるという認識を共有しているという。本来この世界に多大な影響を与え得るプレイヤーの子孫など、見逃せるはずが無いとはツアー本人の言葉だ。
もし仮に法国に6大神以外のプレイヤーの血筋があるなら、その時点で戦争になるとも語っていた。
そんな法国からすれば、竜王と良好な関係を築き得る6大神のような振る舞いをするプレイヤーとあらば喉から手が出るほど欲しいことだろう。単純にブラム本人だけでなく、その子孫もまた将来的にどれほど戦力の拡充に繋がることか。
取り込みのためには、あるいは傘下に収まるためならば、多大な出費も厭わないことだろう。
さて、ここまでのデミウルゴスからの解説に対して御方々の反応は悪くは無い。
法国は『ブラム・ストーカー』と協力体制をとりたいからこそ、あれ程丁寧な手紙をよこしたという見方は的外れではないということだ。
そして、会談の場を設けることについても肯定的だ。
だからこそ、わからない。
会議でそのまま法国の使者を招いて交渉を行うことが決まる。
やや高圧的な態度で傘下に収めるための献策もなされ、御方々から更に幾つかの提案を頂きつつ速やかに会議がまとまっていく。
わからない。何故御方々の顔色が晴れないのか。何も問題は無いはずなのに。
本当にこのまま会議を終えてしまっても良いのだろうか?
パンドラズ・アクターは、終始無言を貫いている。
「意見も出揃ったようだな。それでは会議は此処までとしようか」
終わってしまう。
このまま終わらせてはいけないような、そんな予感が腹の奥から湧き上がってくる。しかし無暗に会議を引き延ばすことをモモンガ様は好まれない。
会議が終わると見るや、ネクロロリコン様は何処か安堵するかのような表情になっておられる。
会議が盛り上がること、それこそ話が多少脇にそれるほどに討議が盛り上がることを好まれる御方が、会議が定刻より早く終わることを、今は喜ばれている!
御方々が喜んでおられることは、勿論我々にとっての喜びである。
しかしこの状況は素直に喜ぶことができない。
やはり『何かを隠しておられる』のか? しかし、何を? 我々に感づかれることが御方々にとって不利益になる何かがあるというのか?? そんなもの、何も考え付かない。
死ねと言われれば喜んでこの命を差し出す、そんな我々に知られたくない『何か』とはいったい?!
「……ネクロロリコン様! 1つ、お尋ねしたいことがございます。宜しいでしょうか?」
終了の宣言がなされようとしたこの段になって、遂にパンドラズ・アクターが沈黙を破る。
両拳を握りしめた只ならぬ気配を纏っての発言に、会議室は静まりかえる。
対して視線を向けられたネクロロリコン様は、一瞬眉を顰めた後何処かバツの悪そうな表情になられた。不敬な例えではあるが、いたずらが見つかった子供のような雰囲気を纏っておられる。
「……無論だ。この会議室、この円卓において、全ての者は同等の発言権を有している! これは他でもない私の発言だ」
どこか苦味を含みつつも覚悟を決めたかのような顔色を見るに、やはり指摘されたくない『何か』があるのだろう。
しかし、いったい何なのか……?
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遂に、と言うか漸く会議が終わると思った矢先に……! パンドラ、お前か!!
だが、良いだろう。会議の重要性を説いたのはこの俺だ。
そしてお前はかつてホウレンソウの重要性を説いた。
ならば俺が『二日酔い』の状態で会議に出たことを、他でもないお前が咎めるのは当然。
他の者では言い辛いことでも、お前ならば言えるだろう。ナザリックにおいて、お前はそういう立ち位置だ。
視線の先でパンドラがちらりとモモンガさんに視線を向ける。
やや困り顔のモモンガさんだったが、構わない! ここは今後のためにも叱られておくべきだ。
反省の意味も込めて此処に示しておこう。会議に真面目に参加しないものは、誰であっても、そう俺達至高の存在と呼ばれる者たちであろうと赦されないのだと。
「私もネクロさんと同様の考えだ」
視線をあわせ、コクリと頷いた俺を見てモモンガさんがパンドラに発言を許可する。
当然だ、会議というものは真面目に参加しなくてはならない!
さあ、この俺を断罪するがいい! パンドラズ・アクター!!
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ナザリックの頂点、モモンガ様が頷かれた。
御方々の秘密を暴く。
余りに罪深いその業を、階層守護者ですらないパンドラズ・アクターに背負わせようとしている。
歯を食いしばり、次なる発言を待つ。
本来であれば、守護者統括たるこの身が、このアルベドこそが為さねばならぬ罪業を同胞に任せてしまった。
その無念を胸に押し込んで、今後の糧とすべく発言に耳を傾ける。
「ネクロロリコン様は、精神支配のマジックアイテム「ケイ・セケ・コゥク」を、世界級アイテムとお考えなのですね?」
「……へ?」
「―――っ!!」
―――世界級、常識を捻じ曲げる、精神支配、敵対、交渉役、至高の……!!
「「なりませんネクロロリコン様!!」」
脳内で数多の情報が瞬時に組み合わされ、想像するだにおぞましい可能性に行きつく。
あってはならない、可能性が存在すること自体が赦されないその未来に。
「なにゆえそのような危険な行いを?!」
「御方がそのような危険を冒す必要など!!」
思わず立ち上がったのはアルベドとデミウルゴス。
二人はほぼ同じ思考を辿り、同時にその結論に至った。
そして立ち上がった状態で更に思考が加速していく。
世界級アイテムの効果は同じ世界級アイテムを持つことで防ぐことができる。これは普段から〈幾億の刃〉を懐に忍ばせておられる理由の1つであるという説明とともに、かつて教授していただいたことがある。
だからこそ、それを持っておられる御方々が相対するべきであるという御考えは理解できる。そして頂点であるモモンガ様ではなくネクロロリコン様が出向かれるということにも。
だからといって、納得できるかと言われれば断じて否である。
世界級アイテムを何らかの方法で奪取されれば、世界級の効果を防げないということになる。
御方がそのような失態を演じるはずはない、ないが、万に一つという事はありうる。この世界には未知の〈武技〉や〈タレント〉が存在するのだ。
御方々の指導があったとはいえ、僅か半年で守護者に手傷を負わせるような技術がこの世界には存在する。その技術を600年もの長きにわたって研鑽してきたとすればその脅威は計り知れない。
それでは聡明なる御方々が、何故そのような危険な橋を渡ろうとしておられるのか。
簡単だ。その責任感の大きさと、ナザリックの民を想う深すぎる慈愛ゆえだ。疑いようが無い。
そして隠しておられた理由ももはや明白、こうして反対されることが目に見えていたからだ。だからこそ気付かれないうちに会議を終わらせようとしておられた。
他の者に任せるわけにはいかないという思いゆえに。
不安に苛まれつつも、我々に気付かれないように!
「我々を想ってくださっているそのお気持ち! 深く、深く感謝いたします! しかし、だからこそ、その危険を冒す役は我々にお任せくださいませ!!」
「我々が洗脳、支配されたならば即座に討ち取ってくだされば宜しいのです! 御方の身代わりとなれるならばむしろ本望! しかる後に対策をとり、確実なる勝利をお収めくださいませ!」
最初は只ならぬ気配に唖然としていた他の守護者達も、2人の説得を聞いて少しずつ状況を理解し始める。
「相手ガ脅威足リ得ヌカラコソ、御身ガ自ラ御出デニナラレルコトヲ良シトシテオリマシタ。シカシ脅威ガ認メラレタ以上、御身ガ出向カレルコトハ看過致シカネマス!」
「何が起ころうとこの身に代えてでも御守り致しますが、これを絶対と言い切ることは到底できぬこともまた事実です。どうか御再考頂きますよう!」
「あ、あたしが! あたしが代わりに交渉に出向くことはできないでしょうか?! あたしなら最悪洗脳されても直ぐに殺してしまえるはずです!!」
「そんなのまどろっこしいでありんす! 至高の御方を洗脳しようだなんて不敬者、速やかに誅殺すべきでありんす!」
「あの、相手が国家ですから! ぼ、僕に任せてもらえたら、その、早いかなって思います!」
守護者達の訴えは徐々に熱を上げていく。
そうして、その一同の必死な訴えに御方々も動かれる、
「……え、っと?」
「……うむ、皆の意見も尤もだ。そして皆のネクロさんを想う心、嬉しく思う。やはりギルドメンバーであるネクロさんをこれ以上危険な目にあわせるわけにはいくまい。ネクロさんも、見ての通りその献身は誰も望んではいないのだ。ここは代役に任せることとしよう」
やはりモモンガ様としても苦渋の御決断だったのだろう。一同の勢いを借りて有無を言わさぬ気配で代役をたてるように説得を始められた。
ナザリックが打つ最善手とは即ち御方々が動かれること、シモベとしては心苦しいがそれは認めざるを得ない。
しかし今回は危険を冒さなくてはならない場面でもないはずだ。カルネ村に向かうときとは色々と状況が異なる。十分回避できる危険なのだ。
「なァらばその代役、この私に任せてもらおう、か!」
とどめとばかりにこの状況を作り出した張本人が、『ブラム・ストーカー』の姿となって声を上げる。
「ゥ御方々には安全なナザリックで指示を出していただき、矢面に立つのは、この! ゥ私が担当させてもらおう!! ……それなりに特徴は捕えていると思うのだが、いかがかね?」
「うっ!」
流石に至高の御方々が纏っておられるオーラこそ無いが、喋り方やポージング、台詞選びに至るまで瓜二つといえる。
「良いだろうパンドラ、代役はお前に任す。後ほどしっかりと演技指導をしてもらうと良い、徹底的にな! そしてその間にデミウルゴス、アルベド、お前達が交渉の草案を用意しておくのだ!」
「ちょ?! 待った、待ってくれモモンガさん!!」
やはり御自分で事を為せぬことは不安なのだろう。しかしここは飲んでいただかなくてはならない。
「ネクロロリコン様! 我々にこのナザリックの命運を託すこと、そのことが御不安であられることは至極当然のことかと思われます!!」
「これは
「……この身は決して少なくない時間を御二人と過ごさせていただきました。御方の『ブラム・ストーカー』、必ずや完璧に演りきって御覧に入れましょう!! ですからどうか、このパンドラズ・アクターが造物主様より賜りし使命を果たさせてくださいませ!! 何卒! 何卒ォ!!」
「……ネクロさん、これが『この件』の始末です。その身が心配であることも勿論本心からのもの、聞きいれてください。パンドラ! ……期待しているぞ?」
「ぐ、承知した、盟主殿」
「お任せくださいゥ我が造物主様。御期待には、全力を以て応えましょう! くォオのプゥァァアアンドラズ・アクターのォ、一世一代のォ晴れ舞台ィッ!! どうか御照覧あれェェィイ!!」
こうして対法国使節団の検討会議は幕を下ろした。
ネクロロリコン様は何処となく頭痛が悪化したようにも見受けられるが、それはこれからの演技指導の難しさに対してであろう。
我々も御方の代理を務めるという難業を果たすべく足早に場所を移す。
次は始めから任せると仰っていただけるように。確たる成果をお出ししなくてはならない。
タイトルがオチ。
と言う訳で久しぶりの会議でした。そして勘違い。
ネクロさんを2重の意味で救ったパンドラのファインプレーが光ります。
ちなみに彼が最初に傾城傾国の事に気付いたのは普通にアイテムマニアだからです。あと世界級の危険性はプレイヤー二人に次いで理解しているということもあります。
世界級アイテムを所持しているアルベドといえども、使った事が無いのではその危険性はピンとこないでしょうし。
ちなみに本作のモモンガさんたちも世界級アイテムの可能性は言われるまで気付いていませんでした。今まで順風満帆だったうえ、何よりシャルティアの洗脳が無かったという事が大きいです。
そして言われてヤバいと気付いたモモンガさんが慌てて影武者に行かせようと丸めこんだ格好です。
あとついでに普段のアレコレの仕返しを兼ねて、呑み過ぎへの御仕置きなどもあったりなかったりですが。
ツアーが6大神の残した秘宝についてどれだけ情報を持っているか解りませんが、概要位は知っているだろうという独自解釈がありました。
そして法国が下手に巨大化して欲しくないので色々情報を流してきたという状況になります。
ツアーと法国はあくまで積極的に敵対していないだけで味方でもない、という立ち位置ではないかと思っています。
最後にどうでもいいオリ設定の解説など。
『二日酔い』
これはアルコールの効果ではなく、この世界で発生した高ランクな経験値アイテムを大量に使ったペナルティというか成長痛のようなものになります。そのため「ユグドラシル」に存在した方法での解除は不可能です……世界級アイテムでも使わなければ。
そのためガバガバ呑んでレベルアップはできないという割とどうでも良いオリ設定。
飲食可能になっても良い事ばかりではない、それがユグドラシルクォリティだと思っています。
ちなみにアンデッドであろうと「暴食のマスク」をつければ摂取した食物による毒状態になるという独自設定もあります。こちらは「ユグドラシルにあった状態異常」なので普通に魔法等で解除できます。