そして出番を貰ったかと思えば即抹殺というかませ王でもあります。
しかし、恐らく6大神の眷族だったのだろう彼が今に至ったのにも何らかの理由があったに違いない!
そんな御話です。
お待たせいたしました。待って貰っていた読者さんには非常に申し訳ないです。
なんだかんだで過去最長の2万字超えにまで伸びに伸びた第48話ですが、そうなってしまった理由はあとがきにて。
スレイン法国の最奥。
偉大なるブラム伯爵との2度目の会合を終えた一同は、喜びを分かち合っていた。
「ブラム様はケイ・セケ・コゥクと共にお納めした資料の数々に大変お喜びでした。今後の我々との関係を構築する上で非常に役立つと。御用意してくださったマクシミリアン殿に、心より感謝を」
「なに。法国の、そして人類の未来のために努力したにすぎぬよ。そして感謝は、実際に資料を用意した彼らに贈ってもらえればそれでよい」
「うむ、『行動で示す』ということは大切だからな!」
「ふふ、本当にね」
初会合を終えて帰国したレイモンは、並々ならぬ覚悟を以て最高執行部の報告会に臨んだ。法国の至宝を提出させるよう説得しなければ折角結んだブラム様との信頼関係も水泡に帰す。その先にあるのはほぼ確実な法国の終焉であったからだ。
もし叶わなければその場で命を絶つことすら厭わぬ覚悟であったが、実際は想像の斜め上に向かう議論になっていた。
議論では、ケイ・セケ・コゥク以外に何を贈るのが良いか、が話し合われたのだ。
それもレイモンが帰還するよりも前から、各々が用意できる資料の下準備を進めていたというのだから頭が下がる。というより、難色を示すのではと疑っていたことをその場で謝罪したほどであった。
「我が国との協定については、暫し内密にすることは先程も話しました通りです。無用な混乱を避けることは勿論ですが、周辺国家最後の1国を国家連合に引き込むために必要な処置であるそうです」
「それもやむなしだろうな」
「ああ。我々人類国家が手を取り合うためには、ある程度の緊張関係でなくては都合が悪いのだろう」
「緊張関係を解消するのは後で構うまい。先ずは形を作ってしまうことだ。あの逸脱者とも既に繋がりがあるというなら、何も問題は無かろう」
「むしろ、表向きには最大の国力を持つ我々を抑えるために帝国の方から王国に擦り寄らせる御積りなのでは?」
「間違いあるまい。我々が周辺国家最強の勢力だからな、表向きは!」
実質的にリ・エスティーゼ王国を掌握したブラム伯爵が周辺国家最大の国力を誇るスレイン法国と協定を結んだと聞けば、孤立したバハルス帝国がどう動くは解らなくなる。
ただでさえ長年に亘り王国と帝国は戦争を続けてきたのだ。そこで一気に勢力を盛り返されたとなれば、聡明な皇帝であっても疑心暗鬼に陥る可能性がある。そんな状態で3国を1つに束ねるようなまねをすれば反発は必至だ。
最悪の可能性として、帝国が現状を打破すべく王国に無理攻めをして無駄に互いの国力を浪費する可能性もあるだろう。
それを避けるためにも、王国と法国の関係性は秘匿するに限る。
この方針は、人類に対する慈愛の発露と誰もが信じて疑わなかった。
「エルフ王国との戦争についても、終結の目処が立ったことは喜ばしい」
「そうですね。私も戦争終結のために動いてくださると聞いたときには我が耳を疑いましたが」
「エルフとの関係さえ改善できれば、我が国に対して実質的な害をなした存在は殆ど居なくなるからな。それを踏まえての御判断とみた」
「これで異種族との融和も大きく進むことだろう!」
他種族との融和政策、その第一歩は国内にもいる最も身近な異種族であるエルフから始めるのが最善であるというのがブラム様の考えであることは間違いない。多くのぷれいやーが人間種であり、その人間種にエルフが含まれると聞かされてはそう動かざるを得ない。
少なくとも一同はそのように解釈しており、実際それが最も堅実な方法であった。
「奴隷の解放による法国の絶対的な人口の増加、それによって産業や兵役に齎す影響を軸にして進めれば良いかな?」
「ええ、単純に長命な種族である彼等を法国に取り入れるメリットは少なくない」
「後は本来の教典を開示することで差別的な思想を払拭できれば、エルフとの融和はなるだろう」
「元々、6大神様はエルフを差別しておられなかったからな」
そう、法国の国家的なエルフへの蔑視はあくまで近年始まったものだった。
もはや当時を知る者は唯一人エルフの王以外にいないが、それでも法国の歴史書にはしっかりと書かれている。彼の者の裏切りと、それによって引き起こされた戦争を。
500年近く続くスレイン法国の歴史上最大の裏切り者、それは彼の6大神の守護者の生き残りでありながら法国を裏切った祖たるエルフの王その人である。彼の悪逆さを思えば、元漆黒聖典の裏切り者たるクレマンティーヌとて無垢な幼子も同然であろう。
彼は凡そ250年ほど前に何を思ったか仕えるべき6大神の子孫を虐殺し、生き残ったのは彼の者に凌辱された女唯一人だった。
時を同じくして、長らく法国を護り続けた眷神達が突如暴走を始め、長らくスレイン法国の神人や眷神達によって護られた大陸北西部の一帯は混沌に呑まれることとなった。この暴走はかのエルフの王の仕業に違いないというのが現在スレイン法国における定説である。
更に言えば、その眷神を止め得る唯一の神人が身重にされてしまったこともあって、法国はまともな迎撃すら取ることができなかったのである。
幸いその後に現れたかの13英雄の活躍により多くの堕ちた眷神達が討取られることで混乱は収まった。
しかしスレイン法国は暴走した眷神達への対応に追われた結果、6大神が降臨し彼らの住処でもあった【神の社】周辺を残して殆どの領地を手放す羽目になった。
つまり現在の人類の窮状を招いたのはエルフの王に他ならないというのがスレイン法国としての見解であった。
その後混乱を治めた法国は裏切り者のエルフに対して戦端を開き、以後苛烈な攻勢に出ていた。
全ては6大神に反旗を翻した卑劣な裏切り者に対する激情と国土の大半を失陥した恨みによって。
こういった事情もあって、法国とエルフ王国の戦争はあくまで祖たるエルフの王が引き起こし、彼の存在によって継続していたという方向で治めることになっている。
法国としては概ね間違っていないためレイモンもブラムの要請に同意し、最高執行部も異を唱えることは無かった。
彼等が狙う首はあくまで唯1つ、6大神の直臣の1人である【祖たるエルフの王】であったのだから。
「やはりあの者の裏切りは慈悲深いブラド伯爵様と言えど見過ごせなかったということだな!」
「あの子の無念も、これで少しは晴れると良いのだがな」
虐殺を免れた神人の直系。
それも戦地へと赴く際に残したとされるスルシャーナの遺言により一時期仕えていた8欲王の落胤の系譜でもある『彼女』は、その特異性に眼を付けられたのか命を取られることは無かった。
ただ、命を取られなかったからと言って無事であったとは言い難い。
あの裏切り者からの性的暴行による精神的な負担と法国が陥った窮状を止められなかった己の不甲斐なさを嘆き、孕まされた子を産み落とした後に命を落としてしまったのである。
その一因は母子を引き離してしまったからだという意見は未だ根強くあるものの、裏切り者との間に儲けた子と一緒にいることは悪影響があるのではという当時の者達の行いも否定しかねる。
その後に赤子が歩んだ境遇も悲惨と言わざるを得ない。
裏切り者の実子にして、あの8欲王の末裔でもあるのだ。即座に抹殺すべきという声すら少なくは無かった。6大神の直系であることを加味してもなお危険な立場だったのだ。
そんな彼女は、だからこそ法国の切り札として徹底的に『強さ』を求められることとなった。
法国最強の個となれば、翻弄されるばかりの木の葉ではなくなるという当時の者達の思いによって。
その後彼らの思惑通り、その子は苛烈な鍛練の日々を潜りぬけて強大な力を手にし、現在は法国の切り札たる漆黒聖典の番外席次「絶死絶命」となった。
しかし果たして彼女が幸せかと問われれば誰も頷くことはできない。
当時の者達とて、頷くことは無いだろう。
「ブラム様に、白金の竜王との橋渡しをしてもらえないものだろうか?」
当然のことながら、法国の切り札たる「絶死絶命」の境遇は話している。
同時に評議国との繋がりを持っているという話も聞いているため、あるいはという思いがあった。
「竜王達にとって8欲王は絶対的な敵だ、これ以上ブラム様に頼るわけにはいくまい。せめて、せめて我々法国が有益な存在であると示した後でなくては!」
「左様。今の我々はブラム様にとって害にすらなり得る存在」
「あの子のことを黙認していただけるだけ感謝すべきだ!」
『ブラム』は「『私』が評議国の者に対して話すことは無いし、『下』の者には口外せぬように命じておく」と断言していた。
ならば少なくとも『彼』から漏れることは無いだろう。
「何よりも、先ずは我が国の働きをご覧いただく。それ以外の道はありえません」
レイモンの総括に一同が頷く。
法国の未来を明るいものとするためには、やはり実績を見せる以上の方法は無いのだから。
ナザリック地下大墳墓においても、法国との会談の影響は少なからず存在していた。
2度目の会談において、レイモンは宣言通り世界級アイテム〈傾城傾国〉を持参した。
これによってスレイン法国はナザリックの人員にとってネクロロリコン=ブラム・ストーカーの現地における初の従属国としての地位を得ることとなったが、この事実は意外なほどあっさりと受け入れられることとなる。
彼等は2度目の会談のために幾つもの御土産を用意していた。
6大神信仰の教典や法国の現行法、法国の史書、軍備状況の明細、更にはこれまで行ってきた研究開発についての目録など法国を支配するために必要と思われる情報を可能な限り準備してきたのだ。
人間蔑視の風潮の強いナザリックのシモベ達ではあったが、ここまで徹底的に従属の姿勢を取る法国の動向は好意的に受け止められていた。
アルベドですら「あの短時間でこれらを用意したのであれば、中々に有用な者達のようですね」とまで評価した。もっとも、人間風情にしては、という前置きを置いての発言ではあったが。
こうしてスレイン法国はナザリックの下部組織として上々なスタートを切ることができたのだった。
また同時に、彼等から手に入れた『歴史』の内容は少なくない波紋を生んだ。
特にそれらの書物を貪欲に読みふけった支配者達は、時間の空いている者達に特別会議への出席を求めたほどであった。
あくまで命令ではなく、他の仕事を疎かにしない程度に余裕がある者に限る。それが募集要件であったが、勿論階層守護者達はこぞって出席し、また多くの高位なシモベ達も馳せ参じた。
あのモモンガとネクロロリコンが会議を開く必要を感じるほどの内容である。万難を排して馳せ参じるべき状況であり、仮に役に立てずとも話の内容だけでも頭に叩き込むべきであると誰もが認識していた。
そしてその予感は的中する。
「まずはギルド武器が破壊された影響についての意見を交換するとしよう」
法国の歴史において最大の転機の1つであるギルド武器の破壊。その結果起こった騒乱は、周辺勢力の情勢を一変させるほどのものであった。
特に法国に残っていたシモベ達が一斉に反旗を翻したことについて、支配者達が重大な懸念を持ったことは想像に難くない。
仮に多くの直臣達が最後の主たるスルシャーナを残して去っていたとしても、それでもやはり不穏な気配は感じたことだろう。
「改めて、問題のギルド武器について私から説明しておこう」
神妙な面持ちの一同をみて、ギルド武器の所持者であるモモンガが口を開く。
「ギルド武器とは1つのギルドにつき1つ作製することのできる強力な武器であり、そのギルドの象徴だ。その性能は非常に高く、ものによっては神器級を優に上回り世界級にまで匹敵すると言われている。我等がアインズ・ウール・ゴウンのギルド武器も、世界級アイテムに匹敵するほどの性能であると自負している」
御方々ですら危険視する世界級アイテム、それに匹敵する性能と言われれば否が応にもその恐ろしさを理解できる。
戦慄する一同を見渡してモモンガは言葉を続ける。
「しかしそのギルド武器には重大な欠点がある。ギルドの象徴であるがゆえに、破壊されればギルドの維持ができなくなるのだ。具体的に言えば、私とネクロさんは同じギルドであるという繋がりが無くなり、またこのナザリック地下大墳墓の支配権も消失することとなる。勿論私とネクロさんの友誼はギルドメンバーであるという以前のものではあるから、破壊から即決裂に繋がるということはないのだが、な」
至高の御方々が制圧・強化し、かつては1500人からなるプレイヤーを主とした軍勢を迎え撃ったこのナザリックを失陥する。
その重さはシモベに過ぎない一同では理解できるなどと到底言えるものではない。言えないが、非常に恐ろしいことであることは間違いない。それは間違いなく言えることだ。
「法国の場合、ギルド武器の破壊と6大神の死亡が異なる時期におこっている。そのため確かなことは言えないが、階層守護者のような我々謹製のNPCではない者達の制御は利かなくなるものと思われる。特に拠点から自動で湧くもの達は、ほぼ間違いなく本来のあり方に立ち戻り暴走することだろう」
ならば予め誅殺しておいてはいかがか? そのように考えた者達もそれなりにいたが、あまりにも不毛だろうと却下される。
最大レベルは30程度と脆弱なうえに、そもそも自動で補充される要員である。殺しきることなどできないし、仮に反乱を起こしたところで階層守護者が1人いれば鎮圧できる。
そもそもギルド武器の破壊さえなければ、仮に支配者がいなくとも反乱しないという前例が得られたもの達でもあるとネクロロリコンは断言する。
そんなネクロロリコンの言葉を聞いた守護者一同は、その言葉にある程度の納得はしつつも、忠誠が疑われていることを内心不服に思い己の忠節を示す術はないものかと思案していた。
「さて、そのギルド武器ではあるが」
ギルド武器の重要性を周知したうえで、真剣な面持ちでネクロロリコンは周囲を見渡す。
「私の見立てでは、6大神のギルド武器は東部から攻め寄せてきたミノタウロス王国との決戦で壊れたのではないかとみている」
「かつてこの地に降臨したプレイヤーである口だけの賢者殿が考案し、彼の教えを受けた奴隷たちが礎を築いた大陸最強の兵団でしたか」
口だけの賢者が考案し、彼が奴隷階級に引き上げた人間達によって生み出された銃歩兵隊。その戦力は群雄割拠する大陸中央部においてもなお強力無比であると言われている。
「ああ、そうだ。まあ前提として、この世界の冶金技術ではギルド武器の耐久力を回復することは難しかっただろうと予想されるから」
「〈修復/リペア〉に頼りきりで耐久力の上限値が下がり続けたことが、そもそもの原因ということだな」
「この世界における最強の存在である竜王。これを討伐できる火力であれば、如何なギルド武器といえども損傷は免れませんね」
転移してから経過した時間と、それを扱っていたであろう短命な人間種とその脆弱性。
それらから強力なギルド武器が破壊された理由を詰めていく。
しかし話が進むほどにある疑問が生じ、大きくなっていく。
「……どうしてこれほど強力な武器を他の者たちはつくらないのでありんしょう?」
ギルド武器の重要性とその性能を語るうちに、それを破壊したと思われる武器に注目が移っていった。
これは当然の帰結であろう。
僅かな筋力と器用さで使用できる銃器は、要求するレベルやステータスが低いにもかかわらず非常に強力である。
実際ナザリックのシモベの1人であるシズは、ステータスの低さに関わらず火力はプレアデスで最強である。魔力弾を放つタイプの魔銃が主兵装であるため正確にはミノタウロスの扱うマスケット銃系統の武器とは少し違うが、それでも同じ銃使いではある。むしろシズは魔力を銃弾に変換する魔銃使いであるため、威力だけならば使いきりの実弾系の方が上回るだろうと予測できる。
銃を扱える最下級職である〈銃士/ガンナー〉の所得自体も、決して難しくはない。
そうと知れば、現地における銃兵の精強さも測り知ることができる。
しかし、簡単に使えて強力な実弾系銃器には致命的な欠点があった。
「……コスパが、悪いのだよ」
「……威力は、素晴らしいのだがな」
強力な実弾系銃器の運用には火薬を精製できる必要がある。そのためには錬金術師などの専門職を自分か仲間が所得していることが最低条件であり、その材料を手に入れ続ける必要もある。そのため十分な威力を出せる火薬を得るだけでも、低レベルプレイヤーでは難しい。
つまり単純に実弾系銃器を撃つことはできても、それを恒常的に運用するためには性能に見合った準備が必要になってくるのだ。
更に言えば、銃弾もまた矢と同じ使いきりである。
そして銃器の基礎攻撃力は銃弾に使用した金属の種類によって決定するため、最大威力を出すためには膨大な高位の金属類が必要になる。そして当然のことながら、高位の金属は手に入れることが難しい。
そういった理由により実弾系銃器の使い手は圧倒的な攻撃能力を有しているのだが、使い手は少なかった。
「ナルホド。至高ノ御方々ガ銃器ヲ主兵装トシテオラレナカッタ理由ハソレデシタカ」
支配者達からの解説を聞き、思わずコキュートスは呟く。
41人全員の所有武器を知るコキュートスは、ミノタウロス族の脅威を知るほどに実弾系銃器の使い手がいないことを疑問に思っていた。
その答えを今得ることができたのだ。
「我が血族に銃使いが居ない理由も、まさにそれだ。運用のコストがかかり過ぎるのだよ。……今にして思えば、ポナパルトや信長を消してしまったことは失敗だったと思うよ。いつ、どこで、誰が有効になるかは解らんものだ」
希少金属を弾丸として消費してしまう。更にそれを発射するための火薬も、十分な効果を出せるものを作るには専用の職業を持つ仲間と材料が必要となる。
そのような難点があったため、低レベルながらも高い打撃力を持つ重歩兵吸血鬼隊は完成しなかった。その中心となる血族も、一緒に作るはずだった錬金術師達の脚がナザリックから遠ざかった苛立ちもあって削除してしまった。
今となっては何も消すことは無かったと思うが、転移というあり得ない現状の結果きた思いなのでやむなしとは理解している。割り切れるかは別として。
「そもそもアインズ・ウール・ゴウンが銃器の使用が解放される前にできたギルドである、ということも大きな理由ではあるがな? 戦い方を突然変えるというのは難しいものだ。射手が低レベルであれば、飛び道具無効などの対処法もあるしな」
「そォもそも! 御方々の予想をも超えた転移という事象こそがァ、全ての始まりでございます。本来であれば世界が終わり、このナザリック共々! 備えは消失していた筈でェございます! これに備えようなどと、空が落ちてくることを憂うが如き愚行と言えましょう!!」
「……これまでの御方々の御言葉から推測いたしますに、この世界はユグドラシルの9世界はおろか、御方々のおわすりあるなる世界からすらも観測できぬ場所であるようです。そのような場所への転移に備えるというのは流石に行き過ぎかと、わたくしは愚考致しますわ」
ネクロロリコンの心境をよく知るモモンガは単なる判断ミスではなかったという方向に持って行こうと別の要因を語る。
対してネクロロリコンが渋面を作る理由を正確には知らない一同としては、完全無欠のネクロロリコンですら判断ミスがあるのかと驚きつつも、これまで徹底的に殺しを忌避していた理由と結びつけていた。
同時に失敗とすらいえない判断ミスにもかかわらず、それと真摯に向き合う姿勢に感銘を受けていた。
「しかしながら、口だけの賢者なる者は、やはり聡明な御仁であったようですね。周囲の者達が、理解できないなりに彼の言葉に従うほどに。自然と強力な銃歩兵隊ができあがるように必要な知識を残しつつ、人間を唯の家畜から奴隷、即ち労働階級へと引き上げておくとは。見事な手並みと申せましょう」
話題の方向を変えるべく、デミウルゴスは至高の御方々と同格の存在である口だけの賢者に言及する。
それなりに知られている設定ではあるが、ユグドラシルでは隠しステータスとして種族毎に器用さや知能というパラメータが設定されていた。例えばビーストマンは爪が指先を覆っていない形状であるため、鍛冶師のような器用さが必要な職に就くのが難しい。
更に言えば、獣人系の種族は全体的にやや知能が低めに設定されていたことから、現地のものが錬金術師や化学者のような職に就くことはかなり難しいことと思われる。つまりミノタウロスだけの集団では、火薬を量産できる体制は作れないのだ。
それを解決したのが、家畜から奴隷に格上げされた人間達であろうことは想像に難くない。
「正に有り得ざる軍勢。この世界で猛威をふるうのも当然と言えましょう」
しかし史書によると、その侵攻部隊を法国の前身が迎え撃ち、そして多大な損害を出しつつも撃退したとある。今以上に神人がいたとしても中々の戦果と言える。
しかし戦いの詳しい内容は後世に残されていない。
撃退した時期とスレイン法国が内乱に突入した時期がほぼ同一であるため、混乱によって情報を残せなかったのだろう。
「話が大幅にそれてしまったな。ギルド武器の話に戻そうか」
2つの事件が起こった時期の一致から、この戦いでギルド武器が壊れてしまったのではないかと、やや強引にネクロロリコンは話を変える。
一時の感情で有用な血族を抹消してしまったことは知られてはならない事実なのだ。
「彼らの言うところの眷神、つまりはギルド所属のNPC達が突如として反旗を翻した原因。確かに、ギルド武器の破壊によるものであれば辻褄があいましょう」
「〈伝言〉で上げられた報告が信じられず、結果各所で情報が錯綜したこともあり、対応も致命的に遅れたようですね」
「……史書を見る限り、エルフの王も暫くは法国の維持のために動いてはいたよう、です、ガ! 彼ァァアレはッ! この段階で法国を見限ったということでショウ、か?!」
「……そうだな。噂のリーダーとやらと旅を続け、プレイヤーが恋しくなったのか。それとももっと別の、それこそ積もり積もった不満が爆発してしまったのか……」
思案気に、しかしどこか楽しげにネクロロリコンは周囲を見渡す。
「私はこのギルド武器が壊れた瞬間に、即座に君達が裏切るようなことはないと思っている。本来君達はそうあれと作られ、このナザリック地下大墳墓に配備された者達だ。しかし、同時に我々と共に此処に存在し、同じ時を『生きた』者達でもある。心の底で私達を軽蔑していたなら、その枷が外れて反旗を翻すこともあるだろう。……だが、君達の敬愛は心の底から出てきているものであると、私は確信している」
「私も同意見だ。お前達が、少なくとも我々に対して向ける忠誠については疑う余地すらない。よってこのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが破壊されたとしても、お前達は変わらず我々に忠誠を尽くすことだろうと信じている」
2人の支配者が、共に己の忠誠を肯定している。
この御言葉を聞いただけでも、命を捨てていいとすら思える福音であった。
しかし、用心深さは至高の41人の御方々においても屈指と思われるネクロロリコンだけは手放しで信を置くことはなかった。
「ならば仮に、君達が裏切るとしたならば。……6大神の状況に倣うなら、我々2人がこのナザリックを去った後に、そうだな、我々がナザリックの維持を君達に託したとして、君達がそれに反するとするならばどういった状況が考えられるかね?」
あくまで仮定の話。
恐らくは6大神のシモベ達がどういった心境で行動したのかを知るために出された質問であろう。
この問いに対して、真に応えることができることができる者はシモベ以外にあり得ないのだから。
しかし最後に残った慈悲深い御二方ですらこのナザリックを去った後という、あまりにも考えたくもない仮定ではある。
それを想定せよという、あまりにも酷な指令が下された。
なれど、与えられた命令は確実に遂行しなくてはならない。
それがシモベとして作られた者達の存在理由であるのだから。
「あの! 御方々が御隠れになったとしても、私達はその命令を遂行し続けることかと思われます!!」
真っ先に声を上げたのは、若く、そして御方々からの信厚いアウラだった。
「我々ガ、御方々ノ御言葉ヲ違エルコトハアリエマセン!!」
「は、はい! 僕達は、もしも御方々が居なくなったとしても、言いつけを守って、か、必ずや……!」
アウラが意を決し己の意見を述べ、それに追従するように遺志を継ぐことを表明する。
同時に、デミウルゴスとアルベドは、口が裂けても吐けない恐るべき言葉でもあった。
2人は、ただ遺言に従い続ける己の未来を明確に想像できたからこそ、安易に賛同することができなかった。
帰らぬ支配者達の遺言を守り、未来永劫このナザリックを守り続ける。忠義を示すにはこれ以上ないほどの環境であろう。
しかし、それを何年続けるのだろうか? 何十年? 何百年? 何千年だろうか? 寿命という概念の無い悪魔やアンデッドにとって、それは終わることのない永遠の苦行となるだろう。
終わらないナザリック大地下墳墓の保全、それは如何に忠厚きシモベ達にとっても苦行といえる。仮に偉大なる支配者から託されたとしても、心が擦り切れてしまう。あまりにも報われぬ行いだった。
同時に思ってしまう。これを自発的に行い続けたモモンガとネクロロリコンの心労は如何程のものであろうか? 39人のギルドメンバーが去っていったあとに、少なくとも世界が終わるまでの間それを成し遂げた2人の心境は想像を絶するものがある。
敬愛すべき御方々が為したことといえど、待ち人である他の御方々はまだ戻ってくる可能性が僅かとはいえあった。しかし残されたシモベにとっては、異世界に来てしまった以上目指す先がない。仕えるべき存在の居ない中の、いうなれば日の射さぬ荒野を歩み続けるが如き苦行である。
あまりにも恐ろしい。赦されるならば、御方々と共にこの命を終えてしまいたいとすら思ってしまう。
勿論2人も、まともな神経を保てるならば御言葉には従うだろうという思いはあった。
しかし、同時に神経が擦り切れてしまうだろうという悲観もまたあった。
故に、知恵者である2人は、何も言えなかった。
またこのとき、平時であれば真っ先に賛同の声を上げたであろう者も声を上げなかった。
御方々の御言葉であれば、万難を排して叶えるべしと声を荒げるだろう彼女が、押し黙っていたのである。
2人のように先々を見越して絶望したわけではない。短絡的に、まともな精神状態であれば黙して従うのみと、そう信じていた。
そう、まともな精神状態であれば。
「あの〈傾城傾国〉を使われたなら、もしかしたら……」
元より血の気の薄い顔色を一層青褪めさせ、全身をガタガタとふるわせて意見を述べたのは、傾城傾国の実験を任されたシャルティアだった。
「アレはアンデッドですら魅了し、従わせるものでありんす。捕捉人数は1人ですが、有効射程内であればまず避けられないでありんす。あれを受けてしまえば、きっとあたし達も……!」
「な?! 貴女はなんということを!!」
精神の限界が来るまでは忠節を尽くすべきである。仮に精神に異常をきたしたとしても、忠義は曲げてはならないとすら信じている。
そんな信念を持っているデミウルゴスは突然裏切る可能性を示唆し始めたシャルティアに思わず驚愕の視線を送る。ネクロロリコンの憶え目出度い彼女の言葉は、他のシモベが齎す以上の衝撃と不信を御方々に与えるだろうと。
しかし、周囲から殺意すら込められた視線を送られ、針の筵に座ろうとも忠節を貫くのがシモベの生きざまである。
知っていて情報を開示しないことこそが不忠であると信じ、目の端に涙を浮かべつつもシャルティアは口を閉じることを拒絶した。
他者を魅了することのできる職業か種族でなくては使えないという理由で白羽の矢が立った彼女は、アウラやえりざべーとさんじゅうななさいの協力のもとで行った調査の結果得られた情報を報告する。
調査期間は未だ僅かではあるが、世界級アイテムの猛威は既に十分すぎるほどに判明していた。
有効射程内で発動を許した時点で回避も防御も不可能であるということと本人の意思は完全に失われて使用者の操り人形になるという恐るべき事実は、支配者達ですら平静を保つことができなかった。
一同から驚愕と僅かな警戒を浮かべた眼差しを向けられたまま、シャルティアは自らが裏切るという可能性までも忠信から述べ切った。
「ふん、傾城傾国による洗脳か……!」
苦み走った顔で吐き捨てたネクロロリコンを見て、シャルティアは湿った眼を閉じる。アンデッドならば洗脳は通じない、つまり自分は何があっても裏切らないという前提を覆してしまった。仮に忠義が本物であっても、シモベにとっては最悪の不忠である裏切り者の汚名を着せられる可能性を自ら示してしまったのだ。
しかし、そんなシャルティアの心情を一切無視してネクロロリコンは言葉を続ける。
「考えたくはなかったが、やはり世界級というべきか! フン、無理やりにでも回収しておいて良かった」
「デミウルゴスとパンドラは御手柄だったな」
苦み走った貌で吐き捨てるように言うこの言葉の意味を、誰よりもデミウルゴスが理解できた。
世界級アイテムである傾城傾国といえども、元より御方々からすれば脅威足り得ない代物であったことは間違いない。
しかし御方々であればこそ脅威足り得ぬだけであって、シモベ達であれば多大な損害が発生しうる案件でもあったのだろう。そしてそれを未然に察して防ぐために動いておられたのだろうことも察して余りある。
「シャルティア、よくぞその可能性を自ら言及してくれた」
「それは可能性の1つとしては十分にありうるものだろう。やはりというべきか、我々アンデッドですら従えることができるとは……恐ろしい話だ。二心なき忠臣である君でなくては到底預けることなどできまいよ」
「そうだな。やはりお前に調査を任せて正解だった」
自らが裏切る可能性を示唆した矢先に贈られた称賛の言葉に、シャルティアは歓喜に震えた。
自分が裏切ることは無いと信じられていることがひたすら嬉しかった。
「法国の秘宝である傾城傾国を使い、法国の内部分裂を引き起こす。それだけならば十分ありうる話だろう。物理的に可能であるとともに、かつて8欲王の友誼に亀裂を入れた方法と同じわけだしな」
ボロボロと涙を流すシャルティアを余所に、ネクロロリコンは話を進める。
この『自分のしたい話をひたすら続けようとする姿勢』は、普段から見られる傾向である。そして、その内容は常にナザリックの利益に直結するとシモベ達は知っている。多少話が脱線しがちであることも、悪癖に近いものではあるが、知識を共有したいという思いであると察している。
実際は本当に推測などを話したいだけなのだが。
「8欲王は人間種である何人かの仲間の若さを維持するために竜王殺しを続けたが、それも数十年続けば温度差が出てくるのは当然だ。次第に竜王達が隠れ潜むようになったのであれば尚のこと。その熱意の違いを致命的な溝に変えたのが―――」
「―――神の社の民、即ち現スレイン法国の前身でございますね?」
我が意を得たりと笑うネクロロリコンを見て、こっそり拳を握りしめるアルベド。
そしてどういうことかと不思議そうにしているもの達を横目にデミウルゴスが言葉を継ぐ。
「スレイン法国史書によれば、8欲王の1人は6大神の末裔を側近として置いていたそうです。その者が性的な目的も含めた理由で傍に置いていたことは、今の法国にいる彼女を見れば確実ですね」
「短命であるという種族的な特性も含めて、彼女についての情報を交えて考えれば間違いないだろうな! つまるところ、正にその女は国を傾けたわけだ! かくも女は恐ろしい!!」
6大神最後の1人を、如何なる理由かは未だ議論されているとはいえ、葬った。そんな8欲王に対して害意が無いはずがないと興奮したネクロロリコンは語る。
日々床を共にしつつも、虎視眈々とその時を待っていたということは十分にあり得るだろう。敬虔な6大神の信徒であったとされる彼女であればなおのことである。
「とはいえ、これは復讐のための行いだ」
8欲王の牙城を崩壊させる発端、竜王が攻め寄せた切っ掛けの内乱がスレイン法国の前身によるものであるという史書から得られた情報であったが、これは今回とは別であろうと。
「それなりに安定していた当時の大陸北西部を崩壊させる動機が薄すぎる。そもそも法国の秘宝を使って内乱を誘発しつつ、その秘宝はきちんと蔵に戻すなどあり得ないだろう?」
故に、傾城傾国による洗脳で動いたという可能性は低いと言い切る。
言いかえれば、自らの意思で裏切ったという可能性が強調されたとも言える。少なくともネクロロリコンはそう考えているのだろうと一部を除いた一同は察することができた。
「少なくとも君達は、何百年経とうとも我々の言葉を守ることだろう。そして外的要因で意思を変えられることもほぼないと考えられる。では、もう一歩踏み込んで質問しよう。我々が与えたであろう命令を守るために、我々の子孫を根絶やしにする可能性であればどうだね?」
シャルティアを除くシモベ達は思案する。
仮に、考えたくもないが仮に御方々が御隠れになったとして、その御子息に忠義を尽くすだろうか?
問われるまでもない。全霊を以て御仕えするだろう。
シモベであればそう考える。少なくともデミウルゴスやコキュートスはそう即断していた。
しかし、
「なるほど、そういうことでしたら」
アルベドはそう考えなかった。
「わたくしは、御方々の末裔に従うことを良しとしないやもしれません」
反逆の意思を見せたアルベドに思わず明確な殺意のこもった視線を向ける一同だったが、その視線を一身に浴びるアルベドは平然と構える。
「状況を勘案しますと、6大神のうち5人が亡くなってから300年程が経過しております。更に申せば、最後の1人が亡くなって更に200年以上もの時が経過しております。そうなりますと、はたして私達にとっての御方々にあたるものの血はどれほど残っておりますでしょうか? 例えますと、ネクロロリコン様の血族の、そのまた遥か先の血族の方とでも称すべき状況でございます」
1世代が大体20年だとしても、約15世代。
異なる直系の血筋を多少交わらせていたとしても、もはや仕えるべき主の面影すらないだろう。
「仮にわたくしが『拠点の安定と発展』を命じられていたならば、末裔の方に余程の才覚を認めなければ従うことはないでしょう」
「アルベド! 貴女は――ッ?!」
椅子を蹴って立ち上がり激昂して掴みかかったデミウルゴスであったが、拳を握りしめて冷然とした表情を保とうとするアルベドをみて言葉を無くす。
このような言葉を本心で言えるはずが無い。そんなことはデミウルゴスもよく解っている。
そんな彼女がこのような発言をするのは、やはり守護者統括という立場がそうさせたのだろうと即座に理解できた。
「……ネクロロリコン様。私も、もし仮に御2人が御隠れになったとしたならば! その直臣であるブラド様やえりざべーとさんじゅうななさい様、そしてコルデー様の御言葉に従うことは吝かではありません。それだけの実績を御持ちです。ですが、さらにその眷族にまで従うかは、その者の才覚によると、言わざるを得ません」
表情を変えぬようにして言い切ったデミウルゴスを見て、支配者達が驚きの表情を浮かべる。
己の不忠を咎められる。そう思ったデミウルゴスが硬い顔で奥歯を噛み締めるが、
「何を言っている、そもそも私の血族に従う道理はなかろう?」
「そうだな、私としてもネクロさんの血族にまで従えというつもりはないぞ?」
勿論ネクロさんに意味もなく反逆されるのは困るのだが、と笑うモモンガの声を聞き安堵とともに椅子へと崩れ落ちるデミウルゴス。
「……そうなりますと、ンゥモモンガ様が手ずから御作りになりヌェエクロロリコン様に薫陶を受けたこのプゥァァアアンドラズ・アクター!! が、このナザリックの次期支配者筆頭であるということもまた、無ゥゥァァァアアアアイとォォッ!! いうことですかな?!」
「そんなわけないだろう?!」
「ォォオオオウッ!! 神よォォッッ!!!」
大げさな身振りで残念そうな振りをするパンドラを見て、やはり自身の眷族血族に支配権を委ねるつもりはないと一同は理解する。
そもそも御隠れになる状況にも、見捨てられるような状況にもならないように努力すべきであることは言うまでもないのだが。
「また脱線してしまったな。つまりはアルベド君、君が6大神の拠点周辺の安定を至上命題としていた場合、プレイヤーの子孫に仕えるより領地の安定をこそ重視すると考えているわけだな? 仮にその血筋を絶やしたとしても」
「はい。それが最善と判断したならば、御方々の御命令として断行いたします」
硬い表情で言い切るアルベドにそれ以上詰め寄る者は無かった。
むしろ支配者達は、彼女の最善という言葉に興味を持った。
「アルベド。お前の言う最善とは何だ?」
「はい、モモンガ様。かの国の状況に鑑みますと、人類領域の維持のためには6大神の末裔の血筋を護るのみでは不足であると考えます」
徐々に薄まる血筋と、減少していく先祖返りたる神人達。ならばそれらの維持だけでは遠からず窮するだろうと断言する。
強力な個が万の軍勢をも凌駕する現地の事情を思えば当然の理屈ではある。
この言葉に反応したのは、やはりというべきか、戦力増強を生きがいとしているネクロロリコンであった。
「ほう! つまり神人をも上回る戦力を用立てる手段に、君は心当たりがあるのかね?!」
「はい、ネクロロリコン様。端的に申しますと、裏切ったエルフの王はニンゲンどもより遥かに長命であり、それゆえ色濃く血を受け継いだ子を長期的に用意できるものと考えます」
「……つ、つまり?」
「ずばり、産めや増やせやでございます!!」
この返答に暫し支配者達は固まる。
しかしアルベドは止まらない。
「血の薄れた6大神の末裔より、エルフの王の実子の方が強力な個体になる可能性が高いことは法国の現状を見るに明らかでございます。そしてエルフと人間ではエルフの方が遥かに長命。現に神人の末裔とエルフの王の実子は法国最強の個として長年に亘り存在し続けております。即ちエルフの王の子女を増やすことこそが、直接的かつ長期的な戦力増強策と申せましょう!」
「……それでも、6大神の直系は残しておいた方が良かったのではないかね?」
まさかの展開に一瞬意識が飛んだネクロロリコンだったが、頭をフル回転させてどうにか返答をすることができた。勿論言っていることは理解できる。人間は短命だから優秀な個人の寿命を延ばそうという方策は自分だって取っているのだから。
しかし、もしもこの流れで〈完全人化〉した自分がひたすら子作りに励めなどと言われたら? いや、彼女であれば敢えて自分には言うまい。ならば標的になるのは正にアルベドが言う長命なエルフであるアウラとマーレ、特にマーレの貞操が危ない!!
瞬時にそこまで思考が及んだのは日々の支配者ロールと、繰り返されるナザリック3賢者との頭脳戦の賜物だろう。
常に負け越していたとしても、経験値は確実に積み上げられている。
対するアルベドも勿論その程度の疑問は想定している。
「彼の者にとってみれば。6大神の末裔にして唯一神人の血に目覚めていた女性との間に子を為すことこそが動いた最大の理由でございましょう。それも8欲王の血すら交わった正に奇跡のような血筋。彼の者が軍勢の強化を目指すならば間違いなく狙うメスでございます!! そして目的を果たすためには、ことをナす時間を稼ぐ必要がございます。ええ、ヤる気になっていただかなくては、子は為せませんので……!」
「ヒッ!」
爛々と輝く瞳を向けられたネクロロリコンは思わず息を呑む。
大蛇に睨まれた蛙とてもう少し希望が見えるのでは? とすら思ってしまった。
少しだけマーレを庇おうとしたことを後悔してしまったほどである。
しかしそこは守護者統括アルベド、話を脱線させることはなかった。今は攻める時ではないと心得ている。
「情報によると最後に残ったスルシャーナの眷族は法国に関わることはない様子。ならば事をナした後の逃走を阻める者は覚醒した神人と一部のNPCのみとなります。そしてNPCはギルド武器の破壊によって暴走しておりますので、目的の女を除いた神人全てを殺すのが手っ取り早いことでしょう。もしも逃亡に失敗して彼女を残して逃げることとなったとしても、彼女が現存する唯一の神人となれば、仮に裏切り者の子を孕んでいたとしても無体なまねはできません。そして孕まされた子についても、むしろ神人と眷神の子とあれば丁重に育てることでしょう。ギルド武器の破壊が齎した混乱を治める手段として!」
アルベドが語る内容はまさに悪魔の所業である。
しかし当時の法国の状況を史書で知る身としては、なるほどと思わなくもない。思考を誘導されているような気がしなくもないが。
「私は民の支配というものに、ネクロさんとは違って、疎いのだが。やはり短命な種族を導くのは難しいことなのか?」
モモンガから質問されたアルベドはちらりとネクロロリコンを見るも、敢えて自ら話す気はなさそうであった。
むしろ興味深そうにこちらを見ている。普段の薫陶をどれだけ理解しているかを確かめたがっているのだと瞬時に理解した。
「まず、民意の制御が難しいということが大きいでしょう。20年程しか生きていない者では、若さゆえに、感情に任せて行動してしまうことが多いことと思われます。教育する時間が短ければ、個々の考え方の違いも大きいことかと。しかし20年程生きたものが子を為すのが当然の種族となれば、その程度の時間しか生きていないものでも一人前と扱われることになります。対して数百年を生きる種族であれば、せめて100年は生きねば一人前と扱われることはありません。短命な種族であれば老境に差し掛かるほどの時間を生きた果てに、ようやく画一的かつ理性的な判断ができるようになるだけ生きて初めて一人前として扱われるのです。エルフとはそういった種族ということですわ」
一般的に、エルフとは頑固であるとされる。その理由としては、見た目こそ若々しいが数百年生きているため、人間で言えば老人になる以上の時を狭いエルフの社会で過ごしているからであろう。
そのようなことをかつてネクロロリコンが雑談として語っていた。この辺りがギャップ萌えに繋がるとも。
アルベドとしては非常に琴線に響く御言葉であったため、特に記憶に残っていた。
「なるほどな。確かに若者は、時として理想を追い求めて無茶をすると言われる。そういったものを全て未熟者として発言権を与えないようにすれば、確かに無茶なことをする者は減るだろう」
「そもそも社会を構成する者の割合の問題がある。若者程多く年を重ねるほどに減っていくピラミッド型の人口比であれば、60年しか生きない社会は半分以上が此処で言う未熟者ということになる。しかし数百年生きるエルフであれば……」
「細長いピラミッド構造であるから、未熟者以外の割合が増すということか」
「仰るとおりです。そして100年の間に都合のよい価値観を植え付けておけば、その集団の制御も容易いことでしょう」
一先ず問題のない回答を返すことができたアルベドは、掌にジットリと浮かんだ汗をそっとぬぐう。
「軍事的な観点では更に厳しいことと思われます。神人に覚醒する可能性が低い以上、その神人には長く国を守ってもらわなくてはなりません。しかし短命な種族であればそれが叶いません。帝国のパラダイン氏のように長期に亘って守護者を務めることは、通常であれば不可能ですので」
「本来であれば、弟子達を鍛えて後事を託さなくてはならなかったわけだからな。彼の存在は帝国にとって非常に重い。……ある意味重すぎるのだが」
「法国のように国中から才あるものを集める制度が整っていれば、あるいは彼以上の存在も現れたかもしれませんが……」
「王国にいるアダマンタイト級冒険者達を見るに、少なくとも唯一人に国防を任せるような事態にはならなかっただろうな。蒼の薔薇、朱の雫、あとはガゼフ殿に……アングラウス君だ!」
才能がある者に、それを伸ばす機会を与える。単純明快ながらも国力の増強には非常に有用な方策と言える。
王国の場合は圧倒的に生まれ出る子供の数が多いうえに、その多くが過酷な人生を歩まざるを得ない環境であるが故の結果であろう。より整った環境を敷いてやれば、純粋な人口の多さという強みもあって爆発的に国力が増すことが予想される。だからこそ帝国はひたすら国力の減衰に力を入れ続けたのだから。
そして稀に現れる実力者についても、条件さえ揃えばプレアデスを下せるものが発生しうることが解っている。奇跡的な確率であっても、生まれ得るのだ。それが数10年で土に還るか、数100年地上に居座るかでは大きな違いであろう。
少なくとも王国で生まれ育った人間の1人は、そうなる可能性があった。
現在はナザリックに招かれ、ひたすら武技を磨き続ける彼を軽視する者はこの場にはいない。僅か一太刀しか放てないとはいえ、当たりさえすれば、そしてクリティカル無効などの特性がなければ、階層守護者であっても即死させうる領域にまで至った恐るべき人間である。
実際に当てたとしてもコキュートスやアルベドのような頑丈なシモベであれば倒されることはないだろうが、デミウルゴスやアウラ、マーレあたりであれば危ういという噂が流れている。
そうでなくとも、至高の存在たるネクロロリコン肝いりの研究である以上軽視できるはずがない。近頃は彼が編み出した武技を更に改良すべく自ら指導しているとも、そして必殺の一撃を当てるための新たな技を授けているとも言われている。
既にレベリングが意味を為さなくなったこともあってコキュートスですらその全容は知れないが、いずれは階層守護者と一戦設けることが確定している。その相手は、恐らく階層守護者最強の看板を持つシャルティアであろうとも。
「人間よりエルフを主軸にした方が、長期的な安定に近付くことはわかった。都合の良いものを長生きさせるという方針にも、ある意味適している。そして当時の神人達を抹殺した理由もまた、それなりに納得できるものだった」
シモベ達の危惧を余所に、モモンガは本来の話に戻す。
元々それ以外の話をしているつもりがないので、本人としては戻したという意識などないのだが。
「他に納得のいく理由を考えられる者はいるか?」
折角多くのものが集まって意見を出し合う場があるのだから臆することなく考えを出してほしい。そう思ってモモンガは意見を求めた。
同時に、元々あり得ない仮定の先の話をしているという自覚もあって、まともな意見は出ないだろうという思いもあった。
そしてやはりというべきか、皆難しい顔をして考え込む。自分が裏切る可能性を述べよと言われて、鋼の忠誠を持つシモベ達が即答できるかと言われれば無理なのは当然であろう。
そんな一同を見て、いや見たからこそ、ネクロロリコンは口を開いた。
「……シモベの扱いが余程酷かった、というのはどうだ? そうでなくとも、創造主により『設定』された方針と異なる命令を強制され続けるというのは苦痛ではないかね? もしくは仕えるに値しない無能であったのなら、本人相手では難しくとも、その子孫であれば恨み辛みが積み重なってついカッとなってやってしまうのではないかな? そうなると、私なら逃亡が上手くいくように組織を壊滅させてから逃亡を謀りそうなものだが」
重苦しい声色で、ネクロロリコンは最大の懸念を顕わにした。
感情論。
理詰めでは完全に制御できないもののひとつである。
そして多くの情報が出そろった今となっては、ある意味支配者2人にとって最も慎重に扱うべき問題となっている。
言外に、自分が無能であっても従ってくれるのか? という意味を含ませた質問でもあった。
この質問に対して、考えもしなかったと言わんばかりに驚愕に眼を見開くシモベ達を余所に、真っ先に反応したのはモモンガであった。
「……そのときは手出し無用と言ってくれればそうしますからね? なんなら〈誓約〉より上の〈禁誓〉を使っても良いので、暴れて出ていくのは本当に無しでお願いします」
「た、例えばの話だよ盟主殿?! 皆も! そんなに怯えた顔をしないでくれたまえ!!」
不満があるから皆殺しにして出ていくと言いたいわけではないとかなり慌ててネクロロリコンは説明をしているが、シモベ達にとって重要なことはそこではない。
シモベ達としてはもしも不満があるのなら殺してもらっても一向に構わないし、むしろ出て行かれる前に死を与えて貰えることはこの上ない慈悲であるとすら言える。ナザリックを見捨てるその時まで支配者としての責務を果たして下さるという、実にありがたい申し出ですらあった。
数百年にも亘って主無き拠点に侍り続ける可能性を示唆された直後であればなおのことである。
つまりネクロロリコンの発言を聞いてシモベ達が浮かべた表情は驚きと感謝であったのだ。
また仮にモモンガとネクロロリコンが無能であったとしても、シモベ目線では御仕えすることになんの問題もなかった。むしろ、不敬ながらも張りがあるとすら思える。多少不出来であった方が御仕えし甲斐もあるというものだ。偉大なる至高の御方々が無能なはずがないのだが、これはあくまでも仮定の話である。
しかし、シモベ達がネクロロリコンの質問に対して即答できなかったことにはもっと別の理由があった。
もしも自分の創造主につばを吐けと言われたなら? そこまでいかなくとも、創造主から与えられた『設定』と大きく食い違う命令をされたならどうだろうか?
これは多くのシモベからすれば想像の埒外にある問いかけであった。そもそもこれまで生きてきた経験上、自身の与えられた『設定』に反する事をさせられる可能性事態が全く想像できなかったのだ。
まず至高の存在のまとめ役であるモモンガはシモベの行いに対して唯の一度も不平不満を述べたことがなく、幾つかあった明確な失敗に対しても怒りの感情すら浮かべたことがなかった。本人の寛容さもあるだろうが、十全に御仕えしている成果であると多くのシモベ達は思っていた。
また厳しい対応を取ると恐れられているネクロロリコンにしても、これまで苛烈な対応を取ったのは僅か2度のみである。そのいずれもナザリックの利益に関わる案件であったことから、与えられた仕事の意義と目的さえ間違えなければ叱責を受けることにはならないと誰もがそのあり方を信頼していた。
更に言えば、多くのものにとって本当の意味で不平不満を持ち得る環境に置かれなかったということが大きい。
例えばPKギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の成立仮定からして、その影響を強く受けたシモベ達からすれば人間種殺すべしが基本である。しかしこの方針は、ネクロロリコンの「使用法を熟慮し、何も無ければ最後に殺せ」という方針に反するものではない。そのため人間種に対する厚遇についても、敵を利用して別の敵を倒す、そのための方策の一つとして問題なく受け入れられていた。
他にも、かつてエントマは『設定』による間食に対して叱責を受けたことがあったため、現在第6階層における人間達の監視において『任務中の食事』を一切断っている。
勿論全く食事をしていないわけではなく、朝食、10時のおやつ、昼食、3時のおやつ、夕食、夜食をアルベドが設定した休憩時間に食堂で摂るようにしており、それ以外では一切口にしていないというだけである。十分な食事が定期的に摂れるように配慮されたシフトであり、また睡眠時間は任務とは別であるため空腹になるとすれば就寝時間くらいしか存在しないように設定されている。これはアルベドと協議してスケジュールを決定した結果であり、御方々への報告も行われたうえできちんと許可されてもいる。
元々一定時間ごとに休憩時間を取ることは、転移からそれほど時間がたっていない頃に出されたモモンガからの『指示』であったため何も問題はない。むしろアルベド達にとっては、こういった事態のために予め余裕を設定してもらっていたことに気付かされた案件ですらあった。
遅まきながらもこれに気付いたアルベドやデミウルゴスは、己の配慮の足りなさを悔やみつつ防衛用のシフトの見直しを行ったものだった。不測の事態に備えた、より万全な、そして余裕のあるシフトへと……。
また一時期問題になったセバスの『困っているものを助ける』という『趣味』ですら、任務の合間であったとしても、未だ任務に差し支えさえなければ黙認どころか推奨されている。これについては少々デリケートな問題であるため、無暗に敵対する者が増えなければ良いというかなり大雑把な指導が全体に通達されている。
その敵を作らないようにするための対応法を考えるための勉強会が開かれるようになったのもこのころからだった。後にシモベ達が自発的に行っている勉強会に気付いたモモンガが参加するようになってからは、支配者達から実戦的な指導と評価も貰えるようになった。ちなみにデミウルゴスやアルベド、そしてパンドラズ・アクターは当然として、アウラやマーレ、そして多くのプレアデスメンバーもかなり高い評価を支配者達から受けている。むしろこの勉強会で高い評価を貰えないシモベは新たに外部での任務につかせてもらえないという一種の選抜試験の様相を呈し始めている。この勉強会で高評価を得る条件として無暗に敵対者を作るような言動は厳に戒められてもいるのだが、当然のことながら異を唱えるものはいない。全方位に敵を作りひたすら戦い続けるような『設定』を与えられた『シモベ』はいないからだ。
ちなみにナーベラルはこの勉強会で散々な成績を残している。かなり目こぼしされているようではあるが、彼女が代えの利かない人材であることと、任務が容易ならざるものであることもあってかなり甘めに評価されているとシモベ達はみている。もしもネクロロリコンの傍付きであれば話は別だっただろうが、幸か不幸かシモベに甘いモモンガの護衛であるため長らく見逃されていたとも、嫉妬心を含めて多くの人型を取れるシモベ達は思っていた。
最近は勉強会におけるネクロロリコンの凄まじい視線もあってか、幾らか改善されているのだが……。
このようにそもそも不満を持つような状況に陥ったことのないシモベが多くいたため、もしも意に反する行いをさせられても忠義を尽くせるかと改めて訊かれて即答できなかったのである。
しかし、正しくその状況に陥ったものからすれば、誰よりも早く応えるべき問いでもあった。
「……御方々の御懸念通りに、無二の忠誠を持つ者として作られたシモベが、そうであるがゆえに忠誠を誓っていると仮定したならば、ギルド武器の破壊によって解放されたとしたならあり得るやもしれません。例えば創造主の違いによって基本的な信念に違いが生じ、仕えるべき主の方針に対して不平を感じていたならば、起こり得ることと、御答えいたします」
硬い表情でセバスは可能性を語る。
可能性に過ぎないにしても、シャルティアが示した洗脳によるやむを得ない状況ですらない、自発的な反逆の可能性である。不屈の精神力を持つセバスといえど、拳を握りしめ、震える全身を力ずくで押しとどめなければ静止状態を保つことすらできない心境であった。
かつて受けた仲間達からの殺気が、あの時以上の濃度で全身を貫く。
それでも、歯を食いしばり、己の創造主への忠誠で心を補強し、せめて至高の存在の視界に入っているだろう上半身だけは無様に震えぬよう気合で押し留める。
ナザリックの基本的な方針な人間蔑視である。ネクロロリコンとモモンガはその人間を殺さぬよう、そして上手く活用できるよう考えて動いているからこそ、現在は全体としても殺さないように動いている。なによりその方針を取ることによる目的が理解できるからこそ、完全に不平不満も無い。
しかし理解できていなければ、将来的に不満がたまってしまったかもしれない。そして指揮を執るのが至高の存在その人でなければ、その不満はより大きくなるだろうとも思う。
セバスは、思想の方向性こそ逆ではあったが、己の短慮によってそれに近い状況になったことがあった。
ならば、その時にあった事実を示したうえで、己の、そしてナザリックのシモベ達の忠誠を示したいと思っていた。
「――それでも、少なくとも御方々に対する不平不満による裏切りは、断じてあり得ぬことと! このセバス・チャン、我が創造主たっち・みー様に誓い、宣言いたします。少なくとも私はたっち・みー様から与えられた『設定』よりも、御方々から直に頂いた御指示を重く受け止めておりますれば! か弱きもの達で屍の山を築くことも、一切躊躇いはございません!!」
不満があった、ただそれだけで裏切ることはあり得ない。あってはならない。仮に御方々が御隠れになった後であったとしても、それはかつての忠誠をも汚す行為である。不満があれば裏切る己であったなどとは、死んでも認められない。
だからこそ仮に相手が本人ではない子孫であっても、反旗を翻すことはできないとこの場で断言する。至高の存在に仕えることは生きる意味であり、存在理由なのだ。シモベにとっては命よりも重い誇りでもある。それを汚すようなことは、僅かでも疑問に持たれ得る行為は、たとえどれだけ苦難を経験して精神が摩耗しようとも決してできないと言い切る。
そして他のシモベ一同もまた、重みのあるセバスの言葉に賛同した。
彼らは知っているのだ、たとえ勘違いであったとしても、創造主の方針より現在の支配者達の指示こそを重視したというセバスの忠誠を。
セバスの意見に反する者がないことを確認したモモンガは重々しく宣言する。
「ならば先程の意見をエルフの王が動いた理由として、今後の方針を決めていくとしよう」
「仮に違ったとしても、本格的に命令に背いたのは300年後だからな。それだけ忠義を尽くしたのだ、不平不満が理由であっても十分すぎる」
モモンガの発言に追従して、憐み、同情、そういった感傷的な表情を浮かべてネクロロリコンは嘆息する。
「長年に亘る忠節、実に見事! 仮に我々の見立て通りであるならば、彼は十分に主たる6大神への忠義を示した。ならば、こちらも相応の敬意を持って相対するとしよう」
そして共感の感情を吐ききり、その顔を一変させる。
「だが、彼には『一度』死んでもらわなくてはならん」
朱色の瞳を暗く輝かせ、支配者は嘯く。
瞬間、会議室は凍りつく。
この場に集う者ならば誰でも知っている。
今ネクロロリコンが浮かべる貌は、罪人を断ずる無情な執行者の貌であると。
情の深いネクロロリコンではあるが、それなりの許容範囲があるとはいえ、己が信奉する道義に反したものに対しては僅かな容赦すらない。
なにより同情や共感もしても、それがナザリックの利に反するならば、そしてその行いが道義にもとる行動であるならば、断固として誅殺する。それがネクロロリコンという支配者のあり方にして、アライメント極善の思考である。
「彼の者の罪は、プレイヤーの末裔である婦女に対する性的暴行。そして私欲のための戦争継続。エルフ王国民に対する搾取も、含めることができるだろう」
断罪するべく動き始めたネクロロリコンは、もはやシモベ如きには止められない。
そして、唯一止め得る存在もまた。
「うむ、どれも見逃すことのできるものではないな。むしろ見逃したならば咎められる、そういった罪状だ」
背中を押した。
この瞬間、祖たるエルフの王の命運は決した。
これは法国とエルフの王国の長きに亘る戦争が終結する、僅か5日前の出来事であった。
ということで、裏切り者として法国から蛇蝎のごとく嫌われているエルフについて考えてみました。
自分の子供を増やして戦力拡充を図る6大神の関係者で、裏切り者と呼ばれる存在。腐敗した王国を放って戦争している辺り余程手ひどい裏切りを受けたものと考えます。
そしておそらく壊れたであろうギルド武器の存在を加味した結果、こんなところではないかと推測しました。
少なくともエルフ王国と法国の戦争は止めないとこの物語は終わらせられないので、もう少しだけ法国編が続きます。
風呂敷をたたむ作業の、なんと難しいことか。
つづきまして異様に時間がかかった言い訳ですが、今回の話を仮完成させるまで「6大神のギルド武器をゴブリン王が壊した」という捏造設定のまま動いており、これは個人的に法国のゴブリンスレイヤーっぷりにも説明がつくかと思って書いていました。
いたのですが、何度見直しても年表とかつて出した転移プレイヤーの順番を変えることができず全面書き直しになったという悲しい出来事がありました。ここで少々涙目になって心が折れそうになってしまい、書き直しに時間がかかってしまったという事が1つ目です。
そして書き直しという作業中に盛り込むべき伏線なり、説明しておくべき情報などをガシガシ書き足していった結果が過去最長どころか普段の倍の分量にまで膨れ上がってしまった次第です。
……前半の法国編だけ先に投稿しようかとも思いましたが、暫く音沙汰なかったからたっぷり文字数を入れたかったということもなくはないです。二週間ぶりが数千字ではねぇ……。
まあ大分今回で固まったので次話は早めに出せるかと思います。少なくとも7月中に!
とりあえず月2はどうにか保守したいところです。そうしないと暑さを言い訳にして去年みたいになりそうですし……。
さて、話を書く上で本作における法国に関する設定の考察などを色々したので、そのうち活動報告辺りで纏めてみようと思います。勿論次話が優先ではありますが、考察する事こそが私の本来の趣味なので御容赦のほどをお願いしたいです。スルシャーナの死因やそれに対する8欲王との関係など、本編中で書ききれなかったことがたっぷりとあるので……。
何時上げられるか解りませんが、気が向いた人は是非とも意見感想など聞かせて貰えればと思います。そういった設定等の話がしたいというのが、オバロ二次を書き始めた理由だったりもするので。
そしていつか答えが出るのが今から楽しみな訳です!