墓守達に幸福を   作:虎馬

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遅めのGWでもう一話。
ついに彼が出ます!


5.至高たる所以

 ユグドラシルの終了から3時間後、再び玉座の間にナザリックの主力達が集結していた。

 今回は非常事態という事もあり多くのシモベ達は各階層の守護と点検に充てられており、この場に集ったのは階層守護者と特殊な立場の者達、そして支配者たるモモンガとネクロロリコンであった。

 

 報告会はアルベド主導の下、粛々と進められ、ナザリック内部にはユグドラシル時代との違いは見られない事、しかし周囲が沼地ではなく草原になっていた事、周囲数kmに渡ってモンスターも知的生命体も存在しない事、一先ずネクロロリコンの眷族による警戒網が敷かれており今のところ襲撃は受けていない事、そして眷族の一部を用いて周囲の索敵に向かわせたという情報が共有された。

 

 齎された情報を反芻してデミウルゴスは思う。これが至高の御方々の御采配なのかと。

 まず驚くべきはネクロロリコン様。

 突如起こったナザリックの転移。それを知るなり即座に警戒網を構築し更に周囲への索敵をもただ御一人で速やかにこなしてしまわれるとは。まさに個にして軍、破軍の主と呼ぶべき御方!

 同時にナザリック内部の調査を即座に命じられて異変の有無を調べあげさせたモモンガ様もまたその冷静さ堅実さは目を見張るものがある。

 凡百の輩ではとても浮足立って行動など起こせまい。異常時に必要なものは確固たる足場である事をよく御存じなのだ。流石は至高の御方々を纏め続けたナザリックの頂点。これがナザリックの支配者の姿か! 

 この尋常ならざる御方々の御役に立つためにこの非才の身で何が出来るのだろうか。

 

「す、凄いです。ネクロロリコン様! 僕達が内部の調査を行っている内に外敵からの襲撃を想定して手を打たれているなんて。そ、尊敬します!」

「ええ、マーレの言うとおりでありんす! いと高き御方々は未開の地であってもその御威光を御変わりなく世界に示しておられるでありんすよ!」

 

 その場を見ていたシャルティアの興奮ぶりたるやいささか目に余るものがあるが、外部への視察に親衛隊を率いて随行したのだからその心境は察して余りある。

 

「そのような事はない。君達が内部の調査を十全に行ってくれるという信頼があるからこそ、私が先んじて外部の調査を行う事が出来たのだよ。そして現に恙無く調査も終えてくれた。広大なナザリックを調べあげる事は簡単な事ではないというのにね」

「ネクロロリコンさんの言うとおり、皆の協力なくしてこの未曽有の脅威を乗り切る事は出来まい。皆の働きに期待している」

 

 何とありがたい御言葉だろうか。

 我等を必要とし、あまつさえ期待していただけるとは。

 その場に集うシモベ達は感動に震え、如何なる御命令にも必ずやお応えしてみせようと奮起する。

 

「そして早速だが君達に頼みたい事が出来た」

 

 士気が高まった矢先に新たな命令を下される。なんとシモベ冥利に尽きる御方なのだろうか。

 

「つい先ほど、このナザリックより南西方向約10kmの地点に小規模な村落を発見した。今のところ【影狼】を追加で派遣してはいるが、日が昇ってからは闇に紛れる事が難しい。そこで、君達の中で隠密能力に長けたシモベを選出しこの村の調査をしてもらいたい」

 

 何ということか。内部の防衛体制を速やかに構築したのみならず外部の調査ですら既に結果を出してしまわれるとは。

 しかしこの御方の凄さはやはりシモベの扱いの巧さ。全てを自らこなすのではなく、十分に道を示された上で後は自ら考え動く事を求めておられる。それが出来るという信頼をこめて!

 これに応えぬシモベなどシモベとは認めない。少なくともこの場に集うもの達はそう断言するだろう。

 

 アルベドが支配者の求めに応え、エイトエッジアサシンを使わした上で第6階層のニグレドを動かし監視体制に入る事を進言する。

 それを受けて御二方も満足気に頷かれ採用、エイトエッジアサシンを後ほど呼び出し正確な座標を伝えることとなった。

 

 更に村人の脅威度を測り、危険性が低ければ人員を派遣し交流を図る案を提出。これも即座に受諾し早速派遣する人員の選定に入られた。

 正に果断即決、尋常ならざる速度で今後の方針と取るべき行動が決まっていく。

 しかしここで新たな情報が入り会議は大きく動くこととなる。

 

「皆、新たな情報が入った。件の村は人間種が住む村落で、数は100にも満たぬ模様だ。モンスター等を飼っている様子は今のところ無い」

 

 人間如きにそれほど過剰な警戒をする必要は無い。即座に捕えて情報を吐かせるべきとの声が多数上がる。

 シモベ達は皆この意見を支持したが至高の御方々は即座に斬って捨てる。

 

「この世界の存在の力量が不明な状況で無暗に攻め込み、万一返り討ちにあえば今後のナザリックは立ち行かない」

「我等ナザリックが何故この地に来たのか、それが解らない以上同じく世界の終焉に立ち会った他のプレイヤー達もまたこの地に来ている可能性が多分にある。その状況下でいきなり敵を作りにかかる等無謀である」

「仮に村の戦力が乏しく情報の搾取が容易くともその支配者がいた場合対立、あるいは不利な状況での交渉をすることになってしまう」

 

 と諌められたのだ。

 

 皆この深謀遠慮に感銘を受けまずは戦力の分析と周囲の状況整理、その上で改めて使者を選定する事で話はまとまる。

 至高の御方々の御言葉がなければ、あるいは精強な軍勢を無用に敵に回しこのナザリックが襲われることとなっていたかと思うと、自らの配慮の足りなさが情けない。

 今後はより一層深く思考し、至高の御方々の御手を煩わせる事の無いようにせねばと心に誓う。

 

 

 

 現状打てる手はこれ以上ないだろうと会議は終了とし、最後に紹介すべきものがあると一人のシモベを前に出させた。

 

 パンドラズ・アクター。

 ナザリックの会計を担当する宝物殿の領域守護者。

 偉大なる至高の御方々の頂点であるモモンガ様が御作りになった守護者。

 情報だけならば多くの者達が耳にしていたがその姿を見たものは無かった。

 しかしこの非常事態にあたり戦力として表に出す事を決断なされたという。

 

「ではパンドラズ・アクター君。皆に自己紹介を頼む」

「畏まりました、ンゥネクロロリコン様!」「ひょ?!」

 

 大仰に御方々に一礼し守護者達に向き直る。

 

「ゥわたしの名はプァンドラズ・アクター!」「ひ」

「至高のゥオン方々の頂点! ンゥモモンガ様に御作り頂き」「ひぃ」

「至高のゥオン方々の命の下、畏れ多くも宝物殿の管理を任されておりました」「ヒギィ」

 

 大きく手を振り肩にかけた軍服を翻す大仰な名乗りから始まり、力強く拳を握り、帽子の縁に指をかけ、指先をスライドさせつつ最後の決めポーズは手で顔を隠しつつの斜め45度!

 

 その独特のアクセントと無駄に大仰ながらも無駄に洗練された所作に度肝を抜かれる守護者達。

 しかし凍りついた玉座の間において凍りついていない者がただ一人いた。

 

「素晴らしい口上でした。アクター(役者)としての己を知らしめる洗練された動きと台詞、さぞや研鑽を積まれた事でしょう」

 

 拍手と共に微笑みながら褒め称えるは守護者統括・アルベド。

 アクターの名から至高の御方々を楽しませるべく作られたのだと即座に理解し、十全にあるべき姿を貫くその様を称える。

 

「お褒めに与り恐悦至極です、お嬢さん(フロイライン)」

「名乗りが遅れ失礼いたしましたわ、ぅわたくしは! 偉大なる錬金術師タブラ・スマラグディナ様の御手により生み出され、守護者統括の大命を任じられし者、アルベドと申します。以後良しなに」

「これは失礼いたしました守護者統括殿」

 

 大きく翼を広げこちらも大げさな所作で即興のセリフを歌い上げるアルベドもまた中々の役者と言えよう。それでいて最後の一礼を貴婦人としての作法に則ったもので締める事で言外に小娘扱いを窘めているのだから侮りがたい。

 見事な返しを受け瞬時に非礼を詫びるパンドラズ・アクターだったが、こちらはどこか嬉しそうですらあった。

 

 その後もアルベドに触発された各守護者達も各々の創造主を褒め称え自身の役割と名を負けじと大げさな動作付きで名乗っていく。

 それを受けるパンドラズ・アクターもその一人一人に拍手で応え挨拶を交わしていく。

 聞けば名乗りの最中の所作はなんとモモンガ様とネクロロリコン様が考案なされたものだとか。

 これは表に出るとするなら不測の事態が起こったときである事を考えると、出てきた際に即座に溶け込めるようにあえて大仰な名乗りを教えておられたに違いない。そしてそれをさせる為にあえて皆の前に出させたのはモモンガ様。

 早速他の守護者達に溶け込んでしまった新たなる仲間を見ながら、デミウルゴスは支配者達の周到さ用心深さに恐れ入る。

 

「恐らくは緊張をほぐすためでも、あったのだろうね」

「どうかなさいましたかな、ェ炎獄の造物主ッ! デミウルゴス殿?」

「ああ、頼もしい仲間が増えた事を喜び、それ以上に偉大なる支配者様方の深謀遠慮に感銘を受けていたのだよ」

「・・・さようですか。このパンドラズ・アクター!必ずやご期待に応えて、いえ、御期待以上の働きを御覧に入れましょう!」

 

 おどけてパフォーマンスをする新たなる仲間に笑みを深くするデミウルゴスは、共に御方々を盛り立てていきましょうと硬く握手を交わし壇上から暖かく見守る偉大なる支配者達を見上げるのだった。

 




渾身の中二ポーズを曝露された至高の御方々は生温かい目で眺めていたのだった。
イイハナシダッタキガシタンダケドナー

勝手に膨れ上がっていく支配者像と上がり続けるハードルを必死に超えようとするのがオバロの醍醐味ですね。

パーフェクトアルベドさんは有能、ドウテイコロコロだって御手のものです。
アクターの設定にどう書かれているかは解りませんが、作ったモモンガさんの影響を大きく受けているとすれば・・・?
有能な副官ばかりでモモンガさんも安泰ですね!

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