リグレット   作:thinsnow


原作:SKETDANCE
タグ:SKETDANCE
スイッチと弟と結城さんの話。

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こちらに登録させていただきました。


リグレット

スイッチは幽霊など居ないと言う。

結城さんはそれを否定する。

 

 

何故ならスイッチの隣にはいつも幽霊がいて

結城さんにはそれが見えていたから。

 

 

スイッチの弟の霊がー。

 

 

 

 

 

「どうやったら信じてもらえるのかしら……」

結城さんが公園で呟いていると

「無理だね、兄ちゃんは頑固だから

自分の考えを簡単には曲げたりしないよ」

隣でスイッチの弟の霊が言った。

「さすが弟くんね、よくわかってるわ

あの人がアナタを見ることができればいいんだけど」

「兄ちゃんは霊感ゼロだからなぁ、それに

幽霊は居ないと思う人には見えないもんなんだよ」

弟はため息をつく、幽霊だから息は出ないが

そういうそぶりは出来るらしい。

「じゃあ、私にのりうつるっていうのはどう?」

「えっ!?」

「それでアナタとスイッチくんしか知らない秘密を話すの

そうすればスイッチくんだって信じてくれるわ」

「でも、のりうつるなんて……どうすればいいの?」

「まかせて、私が読んだ本に憑依する方法が

書かれてあったの、それを実践すれば

のりうつれるかもしれないわ」

「もしできるなら、やってみたいけど

結城さんの体に負担をかけてしまうよ」

「私は大丈夫よ、アナタとスイッチくんを

再び会わせることが出来るならー」

結城さんは鞄からその本を出してきた。

夕暮れの公園は寂しい影を落としていく。

 

 

 

 

「こんな時間に何の用だ?」

スイッチは不機嫌そうに玄関に立っていた。

目の前には結城さんが立っている。

「大事な話があるんだ……けど」

結城さん、もといスイッチの弟は

女の子らしくしないとと意識しつつも

違う体に慣れずにいた。

「……君が急に押し掛けて

来るなんて何かあったのか?」

「うん、どうしても今日伝えたくて……」

女の子の体で緊張しているのか顔が赤くなる。

その様子を見て、スイッチは少し考え込んだあと

「……まぁ、学校じゃ話せないことなら聞いてやるぞ」

すると後ろから母親がやって来た。

「あら、結城さん…だったわね

そんなとこで立ってないでよかったら上がって」

懐かしい母親の声、弟は思わず泣きそうになった。

 

「お母……おばさんありがとう!」

弟は遠慮なく靴を脱いで家に上がった。

「おいおい、図々しいぞ」

「今晩ごはん作ってるんだけど食べていく?」

「ほんとに!?ありがとう」

弟の目が輝く。

あの、生きていた頃の当たり前の日常を

もう一度体験できる。

それがこんなに嬉しいことだなんて。

「ご飯を食べたらさっさと用件をすましてくれよ

俺だって忙しいんだから」

「そうだね、あんちゃ……スイッチくん」

思わず兄ちゃんと言いそうになり、口を押さえた。

自分のあだ名を自分で言うのは不思議な気分だった。

 

リビングにいくと、いつもの匂いを感じた。

幽霊で来たときは匂いも感触も感じられなくて

虚しい気持ちになっていたが、今は五感を

感じ取られる。

「私手伝います」

弟は結城さんのふりをしつつも

家族とのふれあいを求めて自分から

食器を運ぼうとする。

 

その時、無意識に自分のお茶碗を

取ってしまった。

 

食器棚の奥にしまわれていた、青い縁のついた

少しかけたお茶碗を。

 

「おい、それにさわるな!!」

スイッチは弟の手を押さえて引き留める。

「あ……」

弟は戸惑いながら、手を引いた。

ここで中途半端に動いたら、結城さんが

悪く思われてしまう。

今は結城さんらしく振る舞わないとー。

「ごめんね、空いてるお茶碗がいいかと思って」

「いいのよ、気を使ってくれなくても

和義もそんな言い方しちゃだめでしょ?」

母親がスイッチを叱った、弟はそんな様子も懐かしくて

思わず笑った。

「ほらほら、二人とも座ってちょうだい」

弟はスイッチの隣に座る。

いつも座っていたこの席にもう一度座れるなんて。

わくわくしていると母親が料理を運んできてくれた。

 

晩ごはんのメニューはロールキャベツとワカメの味噌汁と

きんぴらごぼうだった。

きんぴらごぼうはしょっちゅう作っていて

毎回ブーブー言いながら食べていたのを思い出す。

でも今日の弟にとっては懐かしい母の味だ。

一口食べて、お袋の味を噛み締めて顔がほころんだ。

 

「きんぴらごぼう…いつも大根とさつまいもが

入ってるんだよね」

「へ?いつも?」

母親がキョトンとしていて、またやってしまったと

思いながら

「あのっ、スイッチくんのお弁当に入ってて

それを見てたからっ」

「人の弁当を覗くなんて悪趣味だな」

「うるさいな、あ……スイッチくん」

そのやり取りを見て母親が笑う。

「なんだか結城さんと和義が兄弟みたいに見えるわ」

その言葉を聞いて胸が締め付けられた。

「本当は僕なんだよ」

そう言いたくなった。

 

でも、まだ言っちゃダメだ。

今は結城さんのふりをしなきゃ。

 

そして弟はまた箸を進めた。

 

 

 

食事をすませて、スイッチと弟は

二階のスイッチの部屋に行った。

「それで大事な話とはなんなんだ?」

スイッチは椅子に腰かける。

「えーと、それなんだけど……」

二人だけの秘密、いくつもある中で考えたのは

小3の時のあれだった。

「あのさ、この部屋暑くない?」

「は?むしろ寒いが」

「えー暑いよ、スイッチくんもセーター脱ぎなよ」

弟はスイッチの服を脱がせたかった。

スイッチの背中には八針縫った跡がある。

それは二人で木登りしたときに出来たものだった。

あのとき、スイッチが弟をかばって怪我をした。

それを知っているのは弟だけだ。

 

それを言えば、きっと弟と信じてもらえるはず。

 

 

「そんなに緊張しているのか?」

スイッチが弟の横に座ってきた。

「まぁわからんでもないが、言えるまで

ちゃんと待ってやるから」

そう言うと、スイッチは弟の手を握ってきた。

 

弟はその行動に驚き、横を向きスイッチの顔を見ると

スイッチの頬が少し赤くなっている。

そして瞬きを何度も繰り返している。

そのしぐさは緊張している時にいつも出る仕草だと思い出す。

そして、手から伝わってくる鼓動も少し早いような気がした。

 

 

 

(あれ?もしかして……兄ちゃん……)

 

弟はすぐに気づいた。

スイッチは結城さんが告白しに来たと思っている。

そして、スイッチはそれを受け入れようとしている

ということに。

 

 

(そっか……兄ちゃんはこの人のことが……)

 

そう感じると、自分の存在が一気に意味のないものに

思えてきた。

スイッチが今見ているのは結城さんであって

自分ではない。

 

 

 

弟は触れられていた手を離した。

 

「男の癖にだらしないな、好きなら自分から

言いなよ!!」

スイッチに向かってそう叫んだ。

スイッチは驚き目を見開いていた。

「意地はって、また後悔しちゃダメだよ」

「なっ……」

スイッチは戸惑いながら弟を見ていた。

 

そして、弟は家を出てあの公園に戻った。

 

 

 

目を覚ましたら、そこはまた同じ場所だった。

結城さんはしばらく麻酔を打たれたようにぼんやり

していた。

「ねえ、弟くん……いるの?」

「いるよー」

「スイッチくんに信じてもらえた?」

「……ううん、結局言わなかったんだ」

「そうなの?なんで……」

「知らなくていいこともあるんだ、僕はもう

この世界にいない人間だから」

「そんな、悲しいこと言わないで」

「それに、兄ちゃんにも大切な人がいるから

兄ちゃんがその人を大切にしてくれたら

僕はそれで幸せなんだ」

その言葉の真意がわからなかったけれど

弟くんはきっと幸せな時間を過ごせたのかしらと

結城さんは思った。

 

そして公園の街灯が点滅しながら、一人の背中を照らしていた。

 

 

 

 

 

「おい、オカルト女」

「スイッチくん、昨日はごちそうになったみたいね」

「…なったみたいって、なったのは君だろう」

「そうだったわね……」

廊下を歩きながら、二人は話している。

結城さんは弟から詳しいことを聞いていないので

ボロが出ないようにしようと焦っていた。

「ところで、昨日のことだが……君は結局

俺に催促してきたのか?」

……何の話だろうか、わからないが適当に合わせようと

「そうね、だらだらせずに早くしてほしいわ」

前から貸している本の事とか、そんな感じだろうと思い

そう告げると、スイッチが立ち止まった。

 

「結城さん、俺はー……」

 

 

 

その二人の様子を、窓の向こうで

ニヤニヤしながら弟は見ていた。

 

 

 

 



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