放課後、帰ろうと席を立った時
机の角に手をひっかけて左袖のボタンが外れてしまった。
もともと緩かったせいもあり、糸が切れると簡単に
するりと地面に落ちた。
それを拾い上げたスイッチは前の席で
帰る準備をしていた結城さんに尋ねた。
「君……裁縫は出来るか?」
「ソーイングセットなら持ってるわ」
結城さんは鞄の奥から小さなコンパクトを
取り出した。
「助かった、悪いがボタンをつけてくれないか?」
「いいけど、私これ一度も使ったことないわよ」
「ないのか!?だったらなぜそんなものを持ってるんだ!」
「母親に持たされたのよ、いざというときに役立つからと」
そう言いながら結城さんは中を開き
針を取り出し、黒い糸を伸ばす。
スイッチは不安になりながらも
まあ家庭科で習っただろうし応急措置だと思うことにして
結城さんにボタンをつけてもらった。
ーところが、糸は絡まるわ変なところから
糸が出てくるわでどう見ても不格好なボタンになってしまった。
しかも白いシャツに黒い糸でつけられたせいか
余計に下手さが目立つ。
「……何だこの下手くそなボタンの付け方は」
「失礼ね、アナタの手が邪魔で付けにくかったのよ」
「それに黒の糸でつけるだなんて、おかしいだろ」
「黒は魔除けにもなるしいいじゃない」
「そういう問題じゃない!」
「文句を言うなら家に帰ってお母様に
つけ直してもらってちょうだい」
「ああ、最初からそうすればよかったよ
不器用な君に頼んだ俺がバカだった」
「そうね、私もアナタなんかに親切に
するんじゃなかったわ、じゃあごきげんよう」
結城さんはそそくさとソーイングセットを鞄にしまい
一人で帰っていった。
スイッチは結城さんの付けたボタンをしばらく
見つめていた。
ー翌日
結城さんが教室で本を読んでいると
スイッチがやって来て後ろの席に座った。
「アラ、おはようー」
振り返りそう言いかけていると
あるものに目がいって言葉が止まった。
左手のシャツの袖に、昨日付けたボタンが
そのままつけられていた。
「おはよう、何ジロジロ見ているんだ?」
スイッチは少し照れながら教科書を取り出している。
「アナタ……昨日と同じシャツを着ているなんて不潔よ」
「って、そこじゃないだろ!」
「わかってるわよ、……何でボタンがそのままなの?
昨日あれだけ文句を言ってたくせに」
「付けてもらった義理を守っただけだ
別に君のためにそのままにしている訳じゃないぞ」
素直じゃないわね、そう思った結城さんは
糸が飛び出た袖が少し不格好だから
あとで練習して、ちゃんと白い糸で縫ってあげようと
心の中で呟いた。