ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
非常に励みになっておりますので、感想を送ってくださった方々有難うございます。
天上連邦中央州連邦会議場。
この会議場で地球の地上文明を一掃し、地上人の環境汚染を止める事を目的にしたノア計画の最終決議が行われていた。
天上人の地上への悪感情は酷いモノだが、ノア計画による大洪水で全てを洗い流すという行動は乱暴過ぎるという意見も決して少なくなかった。
そこで幾度となく会議は執り行われ、ノア計画を推進する強硬派と消極的である穏健派の議論が続いていた。
決議は法廷に持ち込まれ、お互いに意見を出し合いノア計画を実行するかどうかの判断が中立の裁判長に委ねられているが、議会場での穏健派の意見は非常に弱弱しいものだった。
確かにノア計画は乱暴過ぎるという考えはあったが、それは地上を擁護するものではなくもっと平和的に解決出来ないかという考えから来ているだけで、ノア計画に代わる案を持っているわけではなかった。
また穏健派も地上に対する悪感情が無いわけではない為に、日に日に強硬派の意見に沈黙させられ止める言葉を失っていく。
さらに最終決議の場に地上側の代表として意見を聞くために連れてこられた者たちも、動物保護を行っていた天上世界に動物達と一緒に回収された密猟者という環境破壊を行う側の人間であり、明らかに地上への悪感情を加速させる者たちを用意したところが、地上その物を擁護する意見が皆無という実情を現していた。
密猟者達も地上であれ天上界であれ犯罪者であることに違いはなく、環境破壊をする地上人代表として弾劾され肩身を狭くして震え上がっていた。
彼らも犯罪の自覚はあったのだろうが、突然地上の運命を決める代表にされて吊し上げを食らうとは思ってもみなかっただろう。
この会議がどのような結果になるにせよ、捕らえられている現状では決して明るい未来を思い浮かべることは出来ない。
彼らの密漁による環境破壊の弾劾を終えた頃には、穏健派も厳しい目で密猟者達を見る事しか出来ず、ノア計画の反対を語る雰囲気など残っていなかった。
この場にいる地上側の人間は密猟者しかおらず、そんな彼らの言葉をまともに聞く天上人はおらず、彼ら自身も厳しい弾劾に憔悴してただ自身が助かりたいと願う事しか頭に残っていなかった。
反対意見も消えて賛同者のみが声を上げる状況に、裁判長も最終決議の決定を宣言せざるを得なかった。
「意見も出尽くしたようですので、最終決議の決定を発表いたします。
決議によりノア計画の実行をここに『ドオオォォォン!!』!?」
裁判長が実行を宣言しようとした時に議会場が大きな揺れに見舞われて、殆どの者が体勢を崩して床に倒れこんだ。
「何事だ!」
『わかりません! ですが今の衝撃は中央州全体に響き渡った模様!』
会議に参加していた天上世界の最高権力者、大統領が通信機で監視者に叫びかけ確認をする。
この会議は天上世界全体に関わる重要な会議なため、天上世界の重要人物達が一堂に会している。
それ故に何かが起これば、下からの報告がここにいる重要人物たちに最優先で伝えられる。
事態はすぐに把握され、その場で情報共有がなされた
揺れたのは議会場だけではなかった。
空に浮かぶ小さな島国並みの面積を誇る雲の陸地全体が大きく揺れて、そこに住む天上人を含めた雲の上にある全ての物が揺さぶられたのだ。
空に浮かぶ雲の上にある天上世界は地震とは無縁であり、雲全体を揺らすような衝撃は何かにぶつからなければ起こりえない事だ。
「何処かの山脈にでもぶつかったのか? 観測庁は何をやっている」
『現在調査中ですが、中央州は本日海上を浮遊しています。
山との衝突はあり得ないはずなのですが…』
風によって流される雲の上にある天上世界は、放っておけば何処に流されるかわからない。
それ故に極稀に高い山脈に衝突する事があった為、それを防ぐために自分達の住む雲の流れを観測する観測庁が配置されており、もしもの時は雲を動かして衝突を回避する役割を担っていた。
しかし実際に中央州が何かに衝突して揺れに見舞われたのだから、観測庁が見逃したと考えるのは当然だった。
『っ! 観測庁からの報告が入りました!
どうやら別の陸雲と衝突してしまったとのことです』
「それは余りに怠慢だぞ。 一体何処の州と接触したというのだ?」
天上世界は乗る事の出来る陸雲の上にある連邦国家だ。
一つ一つの雲の上が州と呼ばれ、世界中に点在してそれぞれ別の役割を担っている。
気流に流されて別の州と接近する事は当然あるが、衝突しないようにお互いに連絡を取り合っており、よっぽどのミスが無ければ高い山脈との接触と同じくらい起こらない事だ。
それに気づかなかったというのなら、怠慢だと言われても無理はない。
『それが州登録のされてない陸雲の様なのです』
「なに、では今まで発見されていなかった陸雲だという事か?」
『どうやらその様です。
各州の所在を示す信号もなく、ここ数百年発見されなかった新しい陸雲のようです』
昔の天上人が飛行技術を入手してまず行なったのは、自身達の住む雲と同じように乗る事の出来る陸雲の捜索だった。
世界の空は広く、当時は次々に発見されて活動領域を広げていったが、現在では発見しつくされて未確認の物はないと思われていた。
そんな時代に天上世界の首都である中央州に衝突する事で新たに発見されるなど、報告を受けた者たちは何か作為的なものを感じずにはいられなかった。
「あまりに妙な話だ。 その陸雲の状況はどうなっている」
『現在探査機を飛ばして確認中です』
「こちらにも映像を回せ」
『了解しました』
大統領の指示で議会のモニターに衝突した陸雲の映像が映し出される。
中央州に衝突した陸雲は、中央州に比べて小さく十分の一ほどの大きさしかないが、雲の上には植物が芽吹いており草原が広がっていた。
天上世界は地上の文明が発達して飛行機が飛ぶようになると、発見される可能性が出た事でカモフラージュのバリアーが張られるようになった。
しかしその陸雲は外部からも草原がむき出しになっており、カモフラージュされてない事から天上人が手を加えていないのが解る。
「緑が広がっているが、もしや誰か住んでいるのか?」
「わからん。 だがあのような状態で地上人達に発見されなかったのもおかしな事だ」
「大まかな結果でいいので報告しろ」
『全体の大きさは中央州に比べて小さいですが、環境が整っており生き物が暮らしていても可笑しくありません』
「住人や人工物の面影はないか」
大統領は可能性として、天上人の誰かが発見した陸雲を報告せずに隠していたのではないかと考えていた。
『バリアーが無いおかげで遠距離からの観測が出来ましたが、人工物らしき物はなく生き物の影も『そこには植物以外は用意してませんよ』
「な、何者だ!?」
突然通信に入ってきた別の声に大統領は声を上げ、周囲は何事だと慌ただしくなる。
通信に介入した後に、どこでもドアを議会場の中心にある証言台の近くに繋ぎ、ドアを潜ってその場に直接姿を現した。
会場のど真ん中に現れた僕は当然その場にいた天上人の目に入り、突然現れた存在に混乱はさらに加速する。
「何だ貴様! 一体どこから入ってきた!」
「何処って、見ていたでしょう?
このドアを開けて入ってくるところを」
僕は少し小馬鹿にするようにどこでもドアを閉めながら存在を示す。
ドアが閉じれば、向こうにいる僕がどこでもドアを片付ける事でドアが消えていった。
「後、何者かという問いくらいには答えましょう。
あなたたちが洗い流そうとしている地上に住む地上人ですよ」
地上人と名乗った所で会場のざわつきは更に加速する。
地上人に知られている筈のないノア計画を知っていて、その上乗り込んできたのだ。
天上人としては驚かずにはいられないだろう。
「馬鹿な、なぜ地上人がノア計画の事を知っている!」
「そもそもどうやってこの場所に現れることが出来たのだ!
さっきのドアは一体? ワープ装置か?」
「それよりも早く奴を捕らえろ! 侵入者だぞ!」
混乱する中で己の主張を叫びまくる偉そうな天上人が幾人もいるが、一斉に叫ばれてもなにを言っているのかわからないので答えることが出来ない。
「一斉に喚かれても何を言ってるのかわからないよ。
尤も話し合いに来たんじゃないんだ。 いちいち答える気もない」
「なんだと!」
「構わん、捕らえてから尋問すればいいだけだ、衛兵!」
お偉いさんの命令が飛ぶと警棒らしき武器を持った兜をつけた兵士が、議会場の中央に立っている僕を取り囲む。
だが僕も不用心に突っ立っているわけではなく、ひみつ道具による安全性を確保した上でこの場にいる。
武器を持った衛兵数人に囲まれても、ひみつ道具の性能を信じておりどうという事はなかった。
「おとなしくしろ!」
「やかましく騒いでるのはあなた達でしょう。
むしろ落ち着くのを待っているのは僕の方だ」
「この!」
対して動いてもいないというのに大人しくしろという命令が面白くて憎まれ口を叩くと、苛立ったのか取り押さえようと後ろから飛び掛かってくるが、僕に触れる事は出来ずに体をすり抜けて前の方に飛び出して行き、勢いでそのまま倒れこんでしまった。
「な、どうなっている!?」
「もう一度言うけど、落ち着いてくれないかな。 無駄な事なんかしないで」
「なにを!」
僕の言葉にムキになって最初に飛び掛かってきた衛兵だけでなく、周りを囲んでいた他の衛兵も一斉に襲い掛かってきた。
取り押さえようと飛び掛かってきたり警棒を当てようと振ってくる者もいるが全てすり抜けて、僕には何の影響もなかった。
種は服の下に張り付けた【四次元若葉マーク】で、これを付けた存在は四次元空間に実体が置かれて通常の空間の存在は触れることが出来ず、逆に張り付けた側も他の物に触れることが出来なくなる。
つまりナルトの神威(防)みたいな効果なのだが、オンオフにはいちいちマークを付け外しをしないといけない。
オンオフが意思一つで出来る様になればかなり使えるのだが、そこまでの改造はまた今度と諦めた。
いまは何かに触れるには一旦外さないといけないが、外せば相手からも触れられるので、隙の無いこの状況では流石に外すことは出来ない。
僕に触れようと散々飛び掛かってくるが、何度も繰り返してようやく無駄と分かったのか、息を切らしながらそれでも取り囲む衛兵たち。
衛兵の滑稽な姿を見て議会場にいた者たちも、そこそこ落ち着きを取り戻してきた。
「実体のないホログラムなのか」
「それならばどこかに投射機がある筈だが…」
僕に触れられないから映像と勘違いした者達があたりを見回すが、四次元空間に実体を移しているだけなのでちゃんと存在している。
それを証明するには何かに触れるのが一番だが、こちらからも直接は触れられないので難しい。
だが直接でなければいいのでひみつ道具の効果の穴を使えばどうにでもなる。
「ホログラムじゃなくてちゃんと実体はあるし、触れられなくてもこちらからは干渉が出来る。
こんな風に」
「うわあぁぁ!」
僕が腕を振るうと、同時に超能力の念力で衝撃を飛ばして、周りの衛兵を軽く吹き飛ばす。
大して威力を出していないので軽く突き飛ばした程度の威力しかないが、こちらから干渉出来る事を証明した。
四次元若葉マークの効果の穴は貼った対象にしか効果が無い事だ。
例えば何か物を手にもって若葉マークを貼れば持っている物も一緒に四次元に実体を置かれるが、物を手放せば若葉バークの効果が消えて実体を取り戻すようになる。
もう一度手放した物を持つには一度若葉マークを外さないといけないが、もともと持っていた物を手放す形でなら、若葉マークを付けたままでも実体に間接的に干渉出来るという事だ。
最初は何か射撃武器を使おうと思ったが、超能力の念力なら若葉マークを着けたままでも触れずに直接という条件をクリア出来たので、念力で吹き飛ばすという方法で脅威を示した。
衛兵が吹き飛ばされたことによって僕には手も足も出ず、此方からはどうにでもなるという事をようやく認めさせて、そろそろ本題に入ることにする。
「なにをやっても無駄とそろそろわかってくれたかな?
周りもどうやら落ち着いてきたところで本題に入ろう」
「本題だと! 一体何が目的だ!」
「それをこれから話すんじゃないか。 喧しいからあんたは黙っててくれない?」
「貴様!」
最初の時から何度も敵意むき出して噛みついてくるおっさんがいるが、天上人には強気で対応すると決めていたので、ついついからかう様に煽ってしまう。
話が進まないのでそのおっさんを無視して、天上人で一番偉い大統領に向き合う。
「あなたが天上連邦の大統領でいいですね」
「…そうだ。 地上人がここに何の用だ」
「冷静な対応ですね。 あそこのイライラしているおっさんとは大違いだ」
「なんだと!」
「セドーン環境庁長官、少し静かにしていてください」
大統領の叱責にセドーンと呼ばれたおっさんは黙り込む。
他の者も地上人である僕に向ける敵意が多いが、あのセドーンという男は更に敵意が強いように感じる。
だが敵意が向けられるのはここに来ると決めた時から覚悟していたので、出来るだけ気にせず目的だけ果たす事にしよう。
「静かになった所で本題に入らせてもらいます。
僕はノア計画の存在を知っており、理由も手段も目的もほぼすべて把握している」
「それで君はノア計画を止めるためにここに来たのか」
「いいや。 ただやめろと言ってやめる筈がないことは、たいして考えなくてもわかる事だ。
天上人も密猟者を地上人代表にするあたり、地上を擁護する気が無いのは解り切っている」
証言台に地上代表で立たされていたのは、映画でも出てきた四人組の悪役だ。
元々密猟者だし、ドラえもん達が助けても道具を強奪して天上人に攻撃を仕掛けるという救いようのない連中だ。
「あんた、地上人なのか? 頼む、俺達を助けてくれ!」
「突然地上から連れ去られてこんなところ立たされてるんだ。
同じ地上人なら助けてくれよ!」
同じ地上人だからと助けを求められるが、ここに来た目的に彼らはいてもいなくてもどちらでもいい存在だ。
密猟者という犯罪者である以上、同情する気もなく僕が助ける理由などない。
「悪い……とも思わないが、地上でも犯罪者である密猟者を助ける気などない。
突然連れ去られたのは不幸かもしれないが、あんたらを助けても地上の警察に送り届けるだけだ。
手間が掛かるだけだし、どっちにしろ捕まる事に変わりない」
「そんなぁ…」
泣き言を言っている密猟者達はこの場に立たされている事が場違いかもしれないが、環境破壊を行っている代表といえば代表かもしれない。
地上の法か天上の法で裁かれるかの違いでしかないし、どっちが軽罪で済むかなど興味はない。
「彼らを地上人代表にしたのは同じ地上人としては遺憾だが、所詮天上人だけで決める茶番だから誰が代表でも変わらないでしょう。
正直話し合っても無駄だとは僕も思っているし、あなた達も環境問題の解決に地上と話しても無駄だと思うからノア計画なんて強硬手段に出たんでしょう」
「そうだ! 地上人は人間同士で何度も争い、戦争を繰り返している!
環境汚染をやめろと訴えに行ったところで、天上世界の存在が知られれば攻撃してくるのが目に見えている!」
僕が話しているところにまたセドーン環境省長官が興奮した様子で割り込んでくる。
実際そういう流れになるのは僕も予想出来るが、話の邪魔をするのはやめてほしい。
「そこのおっさんの言葉には僕も同意する所だけど、僕の話が終わるまでちょっと黙っててくれない」
「セドーン環境省長官、これ以上邪魔をするのであれば強制的に退出してもらいますよ」
「ぐっ、わかりました」
最終通告にようやく大人しくなり、僕は話を再開する。
「喧しいのが大人しくなったところで話を続けさせてもらう。
貴方達のノア計画の事を知って、僕もどうやって解決すべきかいろいろ考えたんだ。
環境汚染なんて一朝一夕で解決出来るモノじゃないし、森林伐採や温暖化の原因も現代社会を回す上で減らす事は出来ても無くす事はそう簡単に出来ない要因だ。
技術が発展すれば改善する問題でも今の地上の技術ではまだまだ掛かるし、技術が出来ても社会全体が簡単に環境汚染の改善になる技術に移行出来るわけでもない。
つまり地上の環境問題を直ぐに解決して、そちらを納得させるのは事実上不可能だという事だ」
「では君はどうやってノア計画を止めようというんだね」
「あえて言うなら力ずくです」
「なに?」
僕の力ずくという言葉に大統領は眉をしかめるが、それは仕方ないだろうと話を続ける。
「力ずくといっても天上世界に戦争を仕掛けようっていうんじゃない。
もっと解り易く力を見せて諦めてもらう事にした」
「どうしようというのだ」
「そこであのモニターに映っている雲の陸地です」
先ほどの衝突からモニターに映っている一面草原の雲の陸地。
「先ほどこの中央州を揺らした雲の陸地。 あれを作ってぶつけたのも僕だ」
「馬鹿な、陸雲の人工的な生成は我々でもまだ成功していないのだぞ!」
衝突の後はこの天上連邦の中央州に接触したままだが、あれは僕達が作った雲の陸地で存在を示す為に態とこの中央州にぶつけた。
「僕は地上人だが見ての通りちょっと特殊で、一般とはかけ離れた科学技術を持っている。
そしてその技術はあなた達に推し量れるようなものではない。
この場に立っているだけなのに、あなた達が手も足も出ないのもそうだ」
ひみつ道具頼りなのであまり自信満々には言えないが、科学力が進んでいる天上人でもひみつ道具の科学力には及ばない。
天上人が陸雲と呼ぶ雲の陸地は、どういう発生条件か知らないが天然の代物だ。
天上世界は宇宙人との交流もあるみたいだし、もしかしたら過去に地球に訪れた宇宙人の仕業という可能性もある。
だが、天上人が陸雲を自由に扱えるわけではないのは調べがついている。
「あなた達が過去に地球上に存在する天然の陸雲を全て見つけ出しているのは知っている。
地球の空をくまなく探したあなた達なら、天然の陸雲はなく人工的に作られたと考えた方が自然だ。
そしてあなた達が探しても見つからなかった陸雲が、この会議のタイミングでこの中央州に偶然ぶつかってくると思うか?」
「……確かに偶然にしては出来過ぎているな。
貴方が意図的にやったのだと認めるとして、あの陸雲でどうしようというのだ」
「デモンストレーションに必要だから用意したんですよ」
「デモンストレーション?」
「ちょうどいいですのでモニターを見ていてください」
この会議場の様子は、僕の援護をしてくれるコピー達がタイムテレビで様子を常に確認しており、此処の会話の状況に合わせてデモンストレーションを実行に移せるように動いてくれている。
予定通り僕が陸雲の様子を見るように議会場の人間にモニターに意識を向けさせたら、映像に映し出されている陸雲が動き出した。
『大統領、衝突した陸雲が動きだしました!
中央州に接触して止まっていた陸雲が気流とは関係なく離れていきます。
明らかに何らかの操作を受けている模様!』
「どうやら本当にあなたの意思であの陸雲は動いている様だな」
「正確には現在僕の仲間が制御しているんですけどね。
デモンストレーションに中央州を巻き込むわけにもいかないので、距離を取らせてもらいます。
撮影している人達にはちゃんと映し続けるように言ってください」
「…聞こえているな。 あの陸雲の監視を続け映像をこちらに流し続けろ」
『りょ、了解しました』
大統領の指示で映像を映している部下の方に連絡が届けられる。
中央州から僕等の陸雲がどんどん離れていき、十分に距離を取った所で動きが停止した。
『未知の陸雲、止まりました』
「十分距離を取ったので、始めますよ」
「一体何をする気だ」
大統領の質問に僕は答えず、ポケットからペンシル上の道具を取り出し頭についてる赤いスイッチに親指を添える。
「こうするんです。 ポチっとな」
『ドオオォォォォン!!!』
スイッチを押すとき必ず言う言葉を言いながら、起爆装置のスイッチを入れる。
するとモニターの陸雲の上で爆音が響き渡り、中央から薄紫のガスが一気に吹き広がった。
陸雲に触れたそのガスは、気体でありながら土のような密度を持って浮かんでいた雲の大地を液体に変えてどんどん溶かし始めた。
「なっ!!」
大統領の叫びの他にモニターを見ていた議会場の人間も、驚きに声を上げると同時に目を凝らして立ち上がりモニターに食い入る。
その間にも紫色のガス【雲戻しガス】によって質量を持っていた陸雲はただの雲に戻っていき、雲の上に生えていた草木は水になった雲と一緒に地表に向かって流れ落ちていく。
雲戻しガスに包まれた陸雲はあっという間に普通の水蒸気の塊に戻って、乗っていた物は全て重力に従って落ちていった。
残ったのは雨にならずに、そのまま本来の形に戻ったただの雲だけだった。
自分達の住む土地と同じ陸雲が水泡のようにあっという間に消えていく光景に、議会場にいた天上人は茫然となっていた。
足元にある陸雲が只の雲に戻ってしまえば、天上世界に住む事は当然出来なくなる。
そんな考えがこの光景を見ている天上人の頭に過ぎっているのだろう。
黙っていても仕方ないので、此方から話を再開する。
「地上を大洪水で洗い流すのがノア計画なら、僕は人魚姫計画とでも名付けるかな。
乗る事の出来る陸雲を只の雲に戻し、天上世界を水泡の様に消す計画ってところか。
いや、計画って程考え込まれた物でもないな」
陸雲が只の水となって消えていく様子を人魚姫の最後に例えたのだが、少々無理があるかもしれない。
「………つまり我々が地上を洗い流そうとするなら、そちらも天上世界を滅ぼそうという脅しという訳か」
「明言しないがそういう事になるね」
これだけ解り易いことをやれば、天上人もそう考えるのは難しくない。
結局のところ、解決方法はドラえもんが映画でやった天上世界への脅しと同じだ。
映画では密猟者の四人組に王国を奪われて実際に天上世界の陸雲の一つに打ち込まれたが、それを止めるために王国を自爆させてのび太達の過去の実績と人徳で平和的解決に至った。
だが僕にそんな人徳もなく過去の実績もないので、正真正銘の脅しを天上人に見せつける事にした。
「そいつを取り押さえろ! 天上世界への宣戦布告だ!」
大統領の次に正気に戻ったセドーンが、衛兵に僕を取り押さえるように命令する。
命令に従って衛兵達もまた僕を取り囲むが、先ほど手も足も出なかった事に二の足を踏んで囲むだけに止まる。
そんなことも忘れて命令を出す辺りセドーンというおっさんも、よほど頭に血が上っているようだ。
「さっきも僕に触れることが出来なかったのに何を言ってるんだか。
それから言っておくが、天上連邦を構成する世界中に存在する陸雲の分布もすべて把握している。
天上世界全ての陸雲を只の雲に戻す事は可能だ」
「天上連邦を舐めるなよ! 地上の兵器の攻撃などにびくともしない防衛戦力が我らにはある!
貴様らが攻撃を仕掛けてきたところで返り討ちにしてくれるわ!」
「確かに一般に知られている地上戦力では天上世界と戦うのは無謀だろうが、僕等の持つ技術が地上どころかあんたらの常識の範疇にある技術でないのは解っているだろう」
「セドーン長官、軽率な発言は慎めと言ったはずです!
衛兵は彼を抑えていなさい!」
大統領の指示で興奮して過激な発言をしているセドーンに喋らせないように、衛兵が取り押さえる。
興奮していた本人も衛兵に抑えられ、今度こそ完全に黙らせられた。
「彼の発言は地上との戦争を承認する物ではありません。
興奮し勝手に言った事ですので、聞かなかった事にして頂きたい」
「……政治的対応をしてくれるのは嬉しいけど、僕等は少数の意思決定で行動している。
改めて言うが僕は地上人だが代表ではなく、どこの国家や政府に関わってない独自の技術でここに訪れている。
解り易く言えば地上人の一人が勝手に文句を言いに乗り込んできたと思ってくれていい」
「…ずいぶん無茶苦茶な地上人もいたものだ」
「安心していいよ。 地上のどの国家も僕と繋がりがあるわけじゃないから、僕以外に天上世界の事は知らないだろう。
ここに来たのは僕達の勝手だから、地上の国から何か要求が来るわけでもない」
「これほどの力を見せつけておいて、何を安心すればいいのやら…」
大統領はちょっと呆れた様子を見せるが、これが組織的な行動ではなく個人レベルの行動と言われれば規模が大きすぎると思うのは同然だろう。
明らかに個人が持つには強すぎる力なのは解っているが、何処までいっても個人に過ぎないので政治的な交渉というものは出来ない。
実質テロリストと変わらないのだが、国家交流の場がない以上力を見せる形でしか対話も解決も出来ない。
人徳で物事を解決出来る映画ほどうまくいかないのは、これまでの経験で解っている事だ。
「それじゃあ目的を果たした以上そろそろ帰らせてもらう」
「待ってくれ、他に要求は何かないのか。
無いにしても何らかの連絡手段を残しておいてほしい!」
さっさと帰る宣言をすると、予想通り引き止めるに来た。
天上世界を滅ぼす的なデモンストレーションを見せられて、他に何か要求を求めてきたのは交渉を行う為だろう。
その為の連絡手段を求めてくることも想定の内だ。
「必要無いだろう。 貴方達天上人も地上と交渉するという考えが初めから無いのだから、こちらも交渉をするつもりはない。
仮にここにいるのが他の地上人だったとしても、問答無用で地上に生きる全ての物を洗い流そうと考えている奴らとまともに話し合いが出来るなどと思わないだろう。
僕がここに来た目的は天上世界がノア計画を実行に移したら、僕等が天上世界を水の泡にする事と宣言しに来ただけだ」
「待て、地上に生きる者全ては天上世界に避難させることもノア計画に入っている。
ノア計画の実行に併せて天上世界を滅ぼせば、避難させている地上人も道連れにすることになるのだぞ!」
「アハハハハハッ!」
「な、なんだ!?」
大声を上げて面白そうに笑う演技をするが、実際には馬鹿馬鹿し過ぎて呆れているのが僕の心境だ。
相手を威圧するような演出のつもりで大笑いしてやろうと思っていたが、ワザと笑うというのも疲れる。
大統領がなんで僕が笑っているのが解らない様子なのが笑える事実の証拠だが、その結果が地上の滅亡に繋がりかねないのだから酷過ぎて笑えない。
「冗談はよしてくれ。 笑えない話なのに笑えてしまう。
そんなバカみたいな話、地上人の子供だって少し考えれば可笑しいって気付く」
「……何が可笑しいというのだ」
笑われた事が心底遺憾という表情で不機嫌そうに聞き返され、僕は改めて呆れながらもその理由に答える。
「僕はノア計画を調べる際に天上世界についても大体の情報を得ている。
天上連邦はいくつもの陸雲によって構成される合衆国だが、一種の列島国家のような物だと解っている」
天上世界は広大とは言っても雲の上であり、大きい物でも地上の島と呼べるサイズを超える物はない。
もし大陸と呼べるの大きさの陸雲が存在していれば気象衛星にも映るだろうし、そうなれば流石に現代の地上人も陸雲の存在に気付いている。
故に天上世界それぞれの陸雲の大きさは島サイズが限界であり、それが世界中に散らばって地上人が可笑しな雲と気付かない程度の大きさに収まっている。
そんな島サイズの雲がすべて集まっても、合計面積が大陸と呼べるほどの物には到底なりえない
「一つ一つの面積は小さく特定の役割に限った州が存在しているのも知っているが、人が居住出来る陸雲の面積は全てを併せても日本の国土の合計にも満たない。
そんな面積に全ての動植物を避難させようなんて出来る筈がない。
全ての地上人に限ったって不可能だ」
「な、なんだと!?」
大統領は今度は心の底から驚いたという表情を見せ、他にいる議会に参加していた者たちの中にも幾人か驚いた表情を見せている。
その他には僕の言葉自体を疑い訝しむ者や、苦虫を潰したようにこちらを睨む者もいるが話を続ける。
「あんたらは地球環境のためにノア計画を起こすんだから、当然植物だって避難の対象だろう。
全ての木々も洗い流しては環境汚染どころではない。
そこに動物も人間も受け入れようなんて、どう頑張っても天上世界の陸地面積が足りなくなる。
地上人だけで何億人いると思っているんだ」
「………多目に見積もって五億人と聞いている」
「当の昔に世界人口は六十億人を超えているよ」
「六十!?」
僕が前世で生きていた時代よりも現代は少し昔で、世界人口の統計はまだ七十億を超えていない時代だが、この世界でもいずれ超えるだろう。
そんな人数の人間を日本にも満たない面積の土地に押し込めようなんて、子供でも少し考えれば不可能だと解る。
その上他の動物も受け入れようなど到底無理な話で、ノア計画の地上の生き物の避難は偽りだとしか思えなかった。
しかし大統領が地上の人口を知って驚いているのも演技というわけではなく、他にも驚いている者もいるので、避難計画がちゃんとしたものだと本気で考えていた者がいた。
さらに言えば文明の進んでいる天上世界で交流が無いとはいえ人口の試算をここまで大きく間違えるのもおかしな話で、調査ミスではなく意図的に情報を誤認させられていたと考えるのが自然だった。
「地上人の人口についての調査も、ノア計画立案の際に予測算出されていたはずだ!
なぜそれほどに計測の違いがある?
計算ミスと呼ぶにはあまりに数値に違いがあるぞ!」
大統領が自分の知っている報告と事実の違いに周囲に問うがそれに答える者はなく、同じく訝しんでいる者と困惑する者と少数目を泳がせている者がいる。
怪しい仕草をしている者達が僕の目にもわかるが、大統領も流石にこの場にいる者の一部が怪しいと訝しむ。
「………ノア計画避難の受け入れの為に、地上人を含む地上の生き物の調査記録を作ったのは何処の管轄だ」
「た、確か環境庁だったと思われます」
大統領の傍にいる側近が答えると議会の視線は机に押さえつけられていた、
「セドーン長官、あなたは地上の情報の誤りについて知っていたのかね」
「………」
「答えろ、セドーン長官!」
「……地上人など全て洗い流してしまえばいいのだ!」
押さえ付けられながらも地上人を洗い流すという宣言に、実質自白したも同然のセドーンはそのまま開いた口を閉じずに話し続ける。
「私は環境庁長官として地上の環境も観測し、その汚染過程の多くを見てきた。
地上人は美しい大地に住みながら、それを何とも思わないように壊し汚す。
絶滅動物保護区の動物の殆ども地上人の繁栄で住処を奪われ生きていけなくなったものが殆どだ。
今なお地上で暮らしている動物達もどんどん数を減らし絶滅の道を歩んでいる。
動物だけではない、大地が地球そのものが滅びの道を歩み始めている!
地上人がいる限り滅びの道を突き進み、いずれは我々天上人を巻き込んで地球そのものが滅んでしまう!
そんな愚かな地上人など救う価値などなく、他の動植物のみを救えばよいのだ!」
「セドーン長官、それは余りにも身勝手過ぎる。
地上人も生きている人間なのだという事を忘れてはいけない」
「地球を滅ぼす生き物など悪魔と変わらん!
その悪魔達を一掃する為にノア計画を立案したというのに、地上人を天上世界に避難させようなどと!
この百年で格段に増えた地上人を受け入れる余裕など天上世界にはないというのに!」
このおっさんがノア計画の立案者だったらしい。
ノア計画という無茶な提案をするだけあって、地上人への敵意は人一倍凄いみたいだ。
その計画が一部情報を隠していても通ったのは、おそらく隠蔽に協力する共犯者が多いからだろう。
天上人全体の地上への悪感情が強い証拠だ。
「確かに地上人が六十億もいるのでは、天上世界にすべて受け入れるのは不可能だ。
ノア計画そのものの見直しが必要となるでしょう」
「だから地上の情報を修正して提出していたというのに!」
そこで僕を全力で睨んでくるセドーン長官。
地上人という括りでとは言え、本気で憎悪をぶつけられて僕は少し身震いする。
取り押さえられているし四次元若葉マークで安全を確保しているから大丈夫だが、それでも強い感情の敵意をぶつけられるという事はこれまでなかったので、僕も気押されして恐怖を感じてしまう。
だが強気で天上人の相手をすると決めているので、我慢して気丈にふるまう事に努める。
言う事は言ったのでもう帰ってもいいのだが、逃げ帰ったように見られるわけにはいかない。
もうちょっと区切りのいいところまで話をしてから帰ろう。
「僕が悪いんじゃなくて、同胞を騙していたのがいけないんだろう?」
「何だと、地上人がぁ!」
「セドーン長官、このまま計画を推し進めればいずれ発覚していた。
そうなれば結局言い逃れの出来ない状況になっていた」
「ノア計画で地上人を滅ぼせれば、その後どうなろうとどうでもいい事だ」
「だが発覚すればノア計画は途中で中断されるだろう」
「私一人だけで情報を誤魔化せる訳がない。
その時になれば中断を妨害する手はずも整っている」
「共犯者……いや、その様子では環境庁そのものがグルの可能性がありますね。
これ以上の事情聴取はここで行うべきではない。
衛兵、セドーンを連行してくれ。 環境庁にもすぐに査察を行う様に指示を出しなさい」
「わかりました」
情報を偽り地上人をノア計画で洗い流そうとしたセドーンが衛兵に連れられて議会場から出ていき、査察の指示を側近の人が通信機で命令を出す。
「……正直何を言っていいのかわからないが、礼は言っておこう。
我々は意図せず地上人を皆殺しにするところだった」
「必要ない。 あのおっさんも天上人である以上、地上人から見れば天上人の意図した事だったという事になる。
協力者もいるようだったし、天上人と地上人が敵同士という事に何の変りもないだろう。
まあ、地上人は天上人の敵意などまるで気づいてないし、僕等も天上人がノア計画を企画した事についてはどうでもいいと思っている」
「まて、どうでもいいとはどういうことだ。
君はノア計画から地上を守るためにここに来たのだろう」
「半分は正解だけど、半分は違う。
地上で暮らしているという理由で地上側だが、僕等の技術があればノア計画から逃げる事は簡単だ。
人魚姫計画は地上文化を滅ぼした際の報復行為、その宣言に過ぎない。
地上文化を破壊されるのは暮らしている僕等にとっては損失になるから、その報復として攻撃するのであって、地上その物の為じゃない。
報復を恐れないというなら、ノア計画を実行に移しても止める気はあまりない」
「なんだと」
今言った事は結構本気だ。
そもそもノア計画の実行は天上世界の政治的な問題でもあり、力ずくでしか止める方法が無かった。
だが止めたからといって天上世界の今の問題が解決する訳ではなく、僕にも解決出来ない以上放置するしかない。
つまり我慢するか別の方法を考えろと丸投げするしかない僕には、必要以上に天上世界に何かをする気にはなれなかった。
天上世界が僕の報復攻撃を恐れないというほど切迫してノア計画を実行に移すなら、それも仕方ないと思うしかなかった。
風の村やバウワンコの事もあるから、実行に移しても大洪水を防ぐ算段でいるけどね。
「再度言うが、僕は地上代表ではなく一個人に過ぎない。
ノア計画に至った天上世界の問題は政治的な問題で、ノア計画は地上に対する外交手段と判断した。
戦争或いは侵略という名の外交手段にね」
「…確かにその通りかもしれない」
『大統領!?』
ノア計画が戦争や侵略と言われて大統領が認めると、他の人達がその事に驚いて声を上げる。
地上の戦争についても環境破壊と同じように避難していた天上人は、ノア計画を戦争と一緒にされるのは許せないのだろう。
「皆もノア計画についてもう一度考えてくれ。
我々にとって天上世界と地球の未来を守る行為だったとしても、地上人にとっては攻撃される事と変わらず、戦争や侵略と取られても間違いではないのだ」
「僕のやっている事もあなた方にとっては脅しを含んだテロ行為だが、地上人から見れば地上を守る行為に見える筈だ。
実際僕にとっては地上文化を滅ぼした場合の報復宣言であり、地上その物を守るためという訳じゃない。
もしあなた達が僕に迷惑を掛けずに地上に対して攻撃しようというのなら、止める理由は残念ながら残されていない」
地上への攻撃行為をしても止めないという僕の言葉に、幾人も驚いた表情をして視線が突き刺さってくる。
「政治的な問題である以上、一個人が首を突っ込んでも何も解決はしない。
ノア計画はともかく、天上人の地上への悪感情は正当性があるものだと僕も認める。
解決するには環境汚染を繰り返す地上人をどうにかしないといけない事だし、その解決方法は僕でも容易に実行出来る事じゃない。
言葉だけで解決出来る政治的な方法が出来ない以上、力ずくで解決するしかない。
だから僕はあなた達に力を示した」
「ではノア計画を止めて、君は我々にどうしろというんだ?」
「どうもしない、あなた達で考えてくれ」
「なに?」
力ずくで止めておいて、後は好きにしろという丸投げに多くの者が訝しむ。
いろいろ考えたが天上人の納得のいく解決方法は思いつかず、かといってこちらも地上を洗い流させるわけにはいかないから、止めるだけ止めて天上人が後はどうするかは自分達に決めさせることにした。
止めるだけ止めておいてと思わないでもないが、僕に天上人の面倒を見る義務はないのだ。
「僕の要望はないとさっき伝えた。 この後貴方達がどうするかは貴方達が決めろ。
納得するしないのどちらにしろ、貴方達に提示する代案はない」
「そんな無責任な!」
「やはり地上人は自分勝手だ!」
開き直って丸投げにしたことでヤジが飛んでくるが、本当に僕にはどうしようもない事なので強気でふんぞり返る。
とはいえ責任を感じないでもない状況に、僕は少し胃が痛くなり出したのでそろそろほんとに帰りたい。
解決しない問題を語りだしたらきりがないし、もう言う事だけ言って帰ろう。
「確かに自分勝手だが、それは天上人もだ。
自分勝手に環境汚染をする地上人、自分勝手に地上を洗い流そうとする天上人、自分勝手に天上世界を脅す僕ら。
人間は誰もが自分勝手な生き物だという事を自覚しろ。
誰も彼もが自分勝手にしてきた結果が現状なんだ」
後は自身の行動の結果に責任を持つことだが、持てない責任はどうしようもない。
どうしようもないならどうしようもないで成る様にしかならないのだから。
僕も今回はそう開き直るしか方法はないと悟った。
「天上人は宇宙との交流があるのだから、移住したいなら移住するといい。
地上の環境汚染を止めるために戦争を仕掛けるならそれでもいい。 僕に火の粉が飛んでこないなら止めはしない。
ノア計画を強行したいならすればいい、宣言した通り報復はするがな。
その他に何をするにしろ決めるのは貴方達なんだ」
「………」
好きにしろと言い切り、聞いていた議会の人間は茫然と黙り込む。
僕の宣言に何を思っているかわからないが、どのような選択にしても本当に天上人全員が納得のいく道を選ぶとも限らないのだ。
問題があっても解決出来ず妥協せざるを得ないのはよくある話だ。
僕も今回ばかりは完全に力ずくで黙らせるという方法に妥協しなければならなかった。
当然納得していないがひみつ道具でも解決出来ない現実なんだと無理矢理納得する事にする。
言いたい事は言い切ったし帰ろう。
「話が少々長引いたがそろそろ帰らせてもらう」
「っ! 待ってくれ、もう少し話を!」
「断る、後は貴方達で話し合え」
そう言い切って、僕は超能力の瞬間移動でその場を後にした。
欠かさず超能力の訓練を続けた結果、かなりの距離を瞬間移動で移動出来るようになり、天上世界の中央州の近くの海上で念力で体を浮かせて待機し、この近くでステルスモードで隠れていた時空船が迎えに来るのを待った。
安全体制万全でもアウェイでの話し合いは神経を使ったのでさっさと休みたかった。
政治的な会話って難しい。
かなり、そしてあえていい加減にハジメは語り切りましたが、完全にヤケクソになった結果です。
自分も天上世界の問題を円満に解決する絵が想像できず、これまでで一番力ずくで無責任なやり方になりました。
結果的にグダグダになってしまいますが、このやり方を今回は最後まで貫きます