ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

20 / 49
 円満な解決方法が本当に思いつかなかったので、騒動だけ起こして後は投げっぱなしの結末です。
 雲の王国の事件の後腐れ無く後味の悪くない終わり方って想像できますか?



≪終≫何事も暴力で解決するのが一番だ 後編(雲の王国)

 

 

 

 

 

 評議会上に侵入した地上人ハジメが退散しても、議会場は……いや中央州全体の混乱は続いていた。

 

 中央州全体を揺らした未確認の陸雲との衝突。 十分な警備の敷かれた中央州連邦評議会上に現れた侵入者。 天上人でも理解出来ぬ未知の技術を持った地上人。 溶け落ちる陸雲を見せつけながらノア計画の報復宣言。 ノア計画の内容を虚偽改竄していたセドーン長官と共犯と思われる強硬派。

 陸雲との衝突から始まったこの事態は、ハジメがいなくなった後に混乱を伴いながらも各部署に対応の指示が出され、同時に議会場ではこの事態をどう収拾するかの協議に切り替わり、実質ノア計画どころではなくなっていた。

 

 セドーン長官の陰謀もさることながら、未知の技術で天上世界を物理的に滅ぼす事の出来る地上人の存在は恐怖その物でしかなく、議会で起こった事は情報規制されることになった。

 しかし中央州自体を揺らした陸雲の存在は隠せるものではなく、またその陸雲が溶け落ちる所を中央州沿岸から遠目で直接見ていた民間人も多数おり、混乱を避けるための規制に中央州の治安維持組織も対応に追われることになる。

 その日は事態の収拾に精一杯で、謎の地上人ハジメについての協議は後日行われることが決まり、ノア計画については事実確認の必要性とセドーンの陰謀に加担した者の調査、そしてハジメという存在の問題の多さから、無期延期を決定せざるを得なかった。

 

 議会に参加していた者の中で強硬派に属する者はその決定に異議を申し立てたが、ハジメの存在を恐れた者が多く、尚且つ同じ強硬派のセドーンとの繋がりを疑われていたことでその異議は却下される事となった。

 ハジメの力を見せつけてなお実行の意思を揺るがさない強硬派に、大統領を含む理性的な者達はその危うさに危機感を覚え、セドーンの一件と共に調査しようと決めるが無駄に終わる事になる。

 

 議会はノア計画の無期延期の決定で終了し、解散後は各自自身の部署に戻って混乱の収拾に当たった。

 日も落ちて星空が見える様になる頃になってようやく一般の混乱も落ち着きを取り戻し、その報告を受けた大統領も自身の執務室で一息を入れることが出来ていた。

 

「ふぅ……」

 

 余裕が出来た事で、議会場に現れた謎の地上人の事を思い返す。

 中央州を揺さぶると同時に現れ、未知の防衛技術で天上人に手も足も出させず、自身が作ったという陸雲を溶かして見せ、セドーンの陰謀を暴くという暴虐ぶり。

 強硬派ではないが話以上に乱暴な地上人のやり方ではあったが、言葉を交わした限りでは話の通じる相手に思えた。

 

 地上人が自分勝手なら、天上人もまた自分勝手。

 地上人のせいで受ける天上人の被害。 それを地上に抗議するのではなく問答無用で地上文明を滅ぼす事で排除しようとするのは確かに自分勝手なことかもしれない。

 地上人の文明と接触する事で起こる衝突は危惧するが、対話の努力を怠る事は間違っているのではないかと常々思っていた。

 

 大統領が座っている事務机の上には、クリアカバーに覆われたスイッチが置かれている。

 ノア計画の大洪水を起こす装置の起動スイッチであり、議会の決議で決行が決まれば自身が押す予定だった最後のボタンだ。

 議会では無期延期となったが、混乱している現状と天上世界を滅す報復攻撃の危険性があっては実質計画は凍結せざるを得ないだろう。

 

「おそらくこれで良かったのだろうな」

 

 大統領は自身の手で地上文明を滅ぼす事を恐れていた。

 地上人が長い年月をかけて積み上げてきた物をすべて無に帰せば、当然地上人が自分を恨むだろうと。

 それでも天上世界の未来を考えればと覚悟は決めていたが、セドーンは地上人自体を皆殺しにしようとしていたことで肝を冷やす事になった。

 自身が大量虐殺者となる所だったと。

 

 だがそれが発覚したことと未知の技術を持った地上人の出現で、ノア計画は白紙になろうとしている。

 問題は何も解決せず別の問題も出てきたが、この恐ろしいスイッチも無駄になってよかったと思い、責任という名の重荷を下ろせたことに安堵した。

 

 少しだけ気を休めて楽にしていると、備え付けられた通信機の呼び出し音が鳴った。

 大統領は姿勢を正し通信に出る。

 

「どうした」

 

『大統領! 今すぐ其処から逃げてギャッ!』

 

「どうした! 一体何があった!?」

 

 通信機から聞こえてきた慌てた声と最後の悲鳴に何かがあったと悟る。

 疑問は一瞬で、言われた通り今はこの場を離れようと判断して立ち上がるが、あまりに時間が無かった。

 

 次の瞬間には執務室のドアが勢いよく開け放たれ、武装した天上人の衛兵が突入してきた。

 全員が大統領に銃器を向けており、味方でないことは明らかだ。

 

「何だ、お前達は!?」

 

「大統領、少しおとなしくしてもらいましょう」

 

 銃器を突きつけられた大統領は突然の事態に対処する手段を持っておらず、仕方なく両手を上げて抵抗の意思が無い事を示す。

 数人の衛兵が大統領を拘束し、一人の衛兵が机に乗っていたノア計画の起動スイッチを手に取る。

 

「っ! 貴様等それをどうする気だ!」

 

「全てを正すのです。 我々の手によって」

 

 目元を隠すヘルメットを着けている衛士の表情は読み難いが、極めて落ち着いた声には一切の迷いを感じさせない。

 伊達や酔狂でこんな事をしているわけではないと大統領は理解する。

 そこへ新たな人間が占拠された大統領執務室に入ってくる。

 

「最終スイッチは抑えたか」

 

「はっ、長官、こちらに」

 

「セドーン! なぜお前がここにいる!?」

 

 それは本日議会場にて陰謀を暴かれて捕らえられたセドーン長官だった。

 あの後衛兵に連れて行かれ、後日混乱が落ち着いた頃に事情聴取される予定で留置所に捕らえられているはずの人物だった。

 セドーンは衛兵からスイッチを受け取る。

 

「私に賛同する者がいると言っただろう。

 それは私の勤める環境庁だけでなく、別の管轄にも多くの賛同者がいる。

 治安維持局の賛同者が私を解放してくれた。

 地上人への天上人の嫌忌が根深いのは大統領もわかっていたことでしょう」

 

「まさかここまでとは……。 このような事をしてただで済むとお前たちは思っているのか!」

 

「誰も無事で済むとは思っていない。

 だが我々には地上を愚かな地上人から解放する使命があり、それを実行する覚悟がある。

 全てが終わったらおとなしく裁きを受け入れよう。

 だがまず地上人に裁きを下すのが先決だ!」

 

 地上人の事になった時、冷静に話していたセドーンは感情を顕わにする。

 

「ノア計画の洪水によって地上を全て洗い流し、地上人を完全に一掃する!」

 

「無駄だ! そのスイッチは議会の決定によって主要部署が管理するロックを解除せねば只の張りぼてに過ぎん」

 

「無論、私もそんなことは解っている。

 だからこそ『ピピーピピーッ』………そうか、よくやった」

 

 セドーンが話している最中に持っていた通信機が鳴り、すぐに回線を開いて応じ、簡単な受け答えをして通信を直ぐに切った。

 短い通話だったがセドーンの口元が吊り上がり、彼にとって良い知らせだったのが解る。

 

「今の知らせが何だったのかわかりますかな、大統領。

 ノア計画の全てのロックを解除した報告ですよ」

 

「何っ! まさかここ以外にも!?」

 

「ええ、私の賛同者がノア計画の鍵を持つ各庁に強襲して制圧した。

 最終スイッチを持っていても使えないのでは意味がないのでね」

 

「何時からこのような計画を……」

 

「……もともと強襲計画はだいぶ前からあったが、議会の決議でノア計画を決行に持っていければ必要のない予定だった。

 今日の決議によって万全の態勢でノア計画が始まる筈だったというのに、あの地上人が乗り込んできて全てが狂った!

 やはり地上人など目障りな害虫でしかない!」

 

 セドーンが議会に現れた地上人の話を始めた時、大統領もその存在を思い出す。

 

「そうだ、その地上人だ!

 奴はノア計画を実行すれば、報復攻撃を行うと言ってきている。

 このままノア計画を実行すれば天上世界を未曽有の危機に晒す事になるのだぞ!」

 

「天上世界は既に地上によって存亡の危機に立たされている。 地上人如きに恐れることなど何もない!

 攻撃してくるということは、ノア計画を実行に移さなくても何時攻撃してくるのかわからないという事だ。

 ならばどちらにせよ天上世界を守るために戦う事に変わりない!」

 

 何時攻撃してくるかわからないという事には一理あるが、考え方があまりにも地上に対して攻撃的過ぎる。

 大統領は解っていたことだが地上に対して攻撃的なセドーンが、今になって非常に危険な存在だと再認識した。

 既に各庁や大統領邸を制圧してる時点で、遅すぎた事だが…

 

 セドーンが最終スイッチのクリアカバーを外しスイッチに手を掛ける。

 

「これは天上世界と地球を守る聖戦なのだ!」

 

「やめろぉぉ――――!!」

 

「地上人よ、消え去れっ!」

 

 大統領の叫びも空しく、セドーンはノア計画実行の最終スイッチを押した。

 

『ビーーー! ビーーー! ビーーー!』

 

 それを契機に各通信機、および一般の為の広報機までサイレンが鳴りだし、ノア計画が実行されたことを各地に伝え始めた。

 ノア計画が実行されれば、世界各地に散らばる天上世界の州に情報が伝達されてサイレンが響き渡るのが決まっていた。

 正規の方法で実行された訳ではなかったが、予定されていた機能は正しく働き、ノア計画が始まった事を天上世界中に伝えられた。

 

 響き渡るサイレンに大統領は膝を着いて愕然とする。

 

「なんという事を……してしまったのだ」

 

「議会の決定に背くことになった事は残念だが、これは天上世界を守るために必要な事なのだ。

 全てが終わった後には、誰もが間違っていなかったと解るだろう」

 

「結果が全てという言葉は間違いではないと思うけど、過程を無視していいわけじゃないと思うよ」

 

『なっ!』

 

 この場にいる誰もがノア計画の始動で善し悪しの違いはあれど歴史の節目を迎えてしまったと認識した時、この場の雰囲気にそぐわない緊張感のない第三者の声が聞こえた。

 それは大統領とセドーンが共に衝撃を受けた今日の議会で聞いた侵入者、ハジメの声だった。

 声の発せられた場所を見れば、先ほどまで誰もいなかった場所にハジメが灰色の帽子(・・・・・)を持っていつの間にか立っていた。

 

「半日ぶりですね。

 まさかこんなに早く天上世界に戻ってくるとは思わなかったですよ」

 

「地上人!」

 

 ハジメへの返事は、周りの衛兵とセドーン自身も取り出した熱線銃の銃撃だった。

 当然安全対策に四次元若葉マークを着けているハジメには効かず、銃撃はすり抜けて後ろの壁に焼け跡を作った。

 

「本当に学習能力が無いですね。 半日前にも同じことして効かなかったというのに。

 それに一目見て”地上人!”と叫んで銃撃なんて、呆れを通り越して面白すぎる。

 地上人を嫌い過ぎて、”地上人!”と掛け声を掛けながら射撃の訓練でもしてんですか?

 それはそれで笑えますが引きますけどね」

 

 まるで一昔前の軍国主義のようだとハジメは思ったが、ハジメを見て頭に血が上ったセドーン達は効かなくてもなお銃撃を続けている。

 話も聞かず効かない攻撃を続けてくるセドーン達に、いい加減うっとおしくなってきたので【ショックガン】を取り出してセドーンを除く周りの衛兵全てを撃って気絶させた。

 ショックガンの銃撃も撃ち出した直後に若葉マークの効果が消えるので、通常空間にいる衛兵に有効だ。

 

「おのれ、地上人!」

 

「二言目にはそればかり。 正直地上人という括りで見ないでほしいんですが。

 例えば大統領、こういうのが天上人なのだという見方を地上人全体に認識されたいですか?」

 

 ハジメがセドーンを示しながら、衛兵が倒れた事で自由になった大統領に訊ねる。

 

「セドーンは地上に対し余りに過激的過ぎるので、私も同じ天上人としては恥ずかしい事だが一緒にはされたくない。

 いや、それよりなぜ君がここに?」

 

「こちらも天上人がどのような決定を下すか監視してたんですよ

 脅しをかけたとはいえ、ノア計画を実行する可能性も無くはないと思っていましたから。

 ですがまさか、こんな暴走する形でノア計画が実行に移されるとは思いませんでしたけど」

 

「……済まない」

 

「そうだ! ノア計画は実行され、地上の全てを洗い流す大豪雨は始まった!

 貴様ら地上人は全て水に洗い流され消え去れるのだ!」

 

 大統領はノア計画を自身の意思に関係なく実行されてしまった事への罪悪感から謝罪の言葉を漏らし、セドーンは衛兵が倒されたというのに自信満々でノア計画の成功を宣言している。

 

「議会場でも言ったけど僕はここに来れるだけの技術があるから、大洪水が起こっても余裕で逃げられる。

 ノア計画の影響を受けない僕を前にして、どうしてそこまで自信満々に言えるんだか。

 ああ、大統領も謝らなくていいですよ。

 天上人の総意という訳でもないようですし、こいつらの暴走も僕が煽った結果みたいなものです。

 それに僕はノア計画の実行を事前に止めるつもりは無くても、実行後に邪魔をしないとは言ってない」

 

「なに?」

 

「どういうことだ?」

 

 議会場で報復を恐れないならノア計画の実行を止める気はないとハジメが言ったのは本心だった。

 だが素直に大洪水で地上文明を滅ぼさせるつもりもハジメにはなかった。

 実行自体は邪魔しなくても、実行後の大豪雨を止めるすべを事前に用意して、実行に移されたらすぐさま妨害出来る様に備えていた。

 

「ノア計画の要についてもとっくに把握している。

 世界中の雲に仕掛けた気象制御装置を一斉に起動して、地上全てに集中豪雨を降らして洪水を起こす。

 気象制御装置の数は膨大だが、量を補うのは僕等の得意分野だ。

 ノア計画の実行と同時に、こちらも一斉に対処に回らせてもらった」

 

「なんだと! くっ!………おい、地上の様子はどうなっている?」

 

 セドーンが再び通信機を使い、地上の状況を把握出来る仲間に連絡を取る。

 

「……おい、……そんな、……くそがぁっ!」

 

 二三言会話を交わした後に、セドーンが激情に駆られたまま通信機を床に叩きつけた。

 

「この様子であれば僕等の対処は成功したようですね」

 

「なるほど、全て君達の掌の上という訳か」

 

 大統領もノア計画が事前にハジメに防がれたと解り、落胆と同時に安堵した様子を見せて肩を落とした。

 

「こんなバカな事があっていい訳があるか!

 ノア計画は我々の悲願。 天上人の未来を守るという大義の名の元に地球を汚す愚かな地上人を一掃するはずだったのだぞ!

 それを、それをぉぉ!!」

 

 激情に加え憎悪に駆られた声を発しながらセドーンはハジメをにらみつける。

 流石にハジメも強い憎しみの籠った感情をぶつけられて、安全が確保されていると解っていても少なからず慄くことになる。

 引く気は毛頭ないが、このように強い感情をぶつけられるような対人経験がハジメには少なかった為、動揺をしない訳にもいかなかった。

 つまり少々ビビったがそれくらいで逃げる気は起きないという事だ。

 

「…あんたがどれほど地上人に憎悪を募らせてるのか知らないけど、こっちは相応の準備をしていて既に詰んでいるんだよ。

 それに議会場で言っておいたけど、ノア計画を実行するなら報復を受ける覚悟をしておけって言ったよね」

 

「はっ! 待ってくれ、我々は!」

 

「舐めるな! 貴様が侵入したことで中央州は最大級の警戒態勢が敷かれておる!

 こそこそ入り込むことが出来たとしても、中央州を落すことなど出来る筈がない!」

 

「セドーーーンン!!!」

 

 大統領が釈明しようとした所を遮って、セドーンが遮って挑発するように中央州の防衛力を自信満々に宣言する。

 しかしそれはフラグというものであり、それが直感的に分かった大統領はもう碌な事にならないと悟って、余計な事ばかり言うセドーンの名を怒気を含みながら叫ぶしかなかった。

 

「それならその防衛力というものを見せてもらおう。

 用意しておいた戦力が無駄にならなくて済む。

 そこの窓から外を見てみろ」

 

 外を見てみろというのと同時に、モニタで見ているであろうコピー達に予定していた合図として指を鳴らす。

 指を鳴らしたのが合図だと解りながら、大統領とセドーンは壁面一杯に広がる窓ガラスから中央州の景色を見た。

 

 日が暮れて建物の明かりが広がる夜景が広がっているが、空には警戒で飛びまわっている天上人のUFOが数十と飛び回っている。

 平時であれば警戒のUFOが少ないのだろうが、セドーンが言ったように警戒の為に数を増やしているのだ。

 その上クーデターを起こした強硬派のせいでノア計画が強行されるわ指揮系統に混乱が出るわで事態は収まる気配を見せない。

 そこへ更にハジメ達は実質爆弾を投下しようとしていた。

 

 UFOが飛び回っている上空に突然数百メートルに及ぶ巨大な浮遊戦艦が出現したのだ。

 それに続いて同サイズの戦艦がどんどん出現し、一緒に数え切れないほどの空飛ぶ巨大人型ロボットが出現した。

 戦艦はどんどん出現し、更には戦艦から増援に巨大な物から人間サイズまでの人型ロボットが発進し中央州の空を埋め尽くしていく。

 瞬く間に中央州の空は、ロボット達のカメラアイの光と戦艦のライトに敷き詰められて、元々あったUFOの光がまるで見えなくなった。

 

『………』

 

「先ほど言ったけど、物量作戦は得意なんだ。 …けど、ちょっと多かったか」

 

 大統領とセドーンは余りの物量に呆然と口を開けて窓から空を見上げている。

 彼らだけでなく中央州にいる天上人達全てがその光景を目撃しており、皆が空を見上げてその数に黙り込むしかなかった。

 ハジメの配下の無人兵器達はまだ行動を起こしていないとはいえ、すぐさま民衆に暴動が起きなかったのが不思議なくらいだ。

 

 中央州の上空だけでなく周辺の空域にも超空間から戦艦とMSが現れており、警戒していた天上人のUFOとその旗艦は攻撃する間もなく包囲されて身動きが取れなくなっている。

 もし戦闘が始まれば直に乱戦になり味方同士で攻撃が当たるほどの密度で配置されてしまっているが、同時に中央州の全てが一瞬で砲火に飲み込まれるのは確実だった。

 この時点で誰の目にも勝敗が明らかになるほどの戦力差を見せつけられたが、あまりの戦力密度に流石に多すぎたかと光景を見ていたハジメも少し反省していた。

 

「とりあえずまともに話をするために、呼び出した戦力を使ってクーデターを起こした強硬派が抑えた要所を再制圧しようと思うんだけど、強硬派のリーダーと思しきあんたはどうする? 降伏する?」

 

「っ! 誰がするものか! たとえ中央州が滅びる事になろうと天上人が地上人に屈することなど「いい加減にしろセドーン!!」ブロォッ!」

 

 心中も覚悟の上と言わんばかりに抗おうとしたセドーンに、流石に堪忍袋の緒が切れた様子で大統領が問答無用の一撃を顔面に叩き込み殴り飛ばす。

 かなり本気で殴ったのかセドーンは一撃で昏倒し、大統領は荒げた息を落ち着かせるように肩をゆっくり上下させていた。

 そしてハジメに向き直ると深々と頭を下げて嘆願する。

 

「恥を承知で頼む! 天上世界を許してもらえないだろうか。 セドーンら強硬派の独断とそれを許してしまったとはいえ、地上を滅ぼそうとした行為は許されるものではないのはわかっている! だが天上世界の滅亡を素直に受け入れる訳にはいかないのだ! どうか私の首一つで許してもらえないだろうか!」

 

「………」

 

 深々と頭を下げながら頼み込んでくる大統領に、ハジメは少々困っていた。

 もともと本気で滅ぼす気はなく、セドーンら強硬派の独断でノア計画が実行されたのは知っていたので、それを理由に見逃すつもりでいた。

 だがハジメは軽く考えすぎていたようで、雲戻しガスに加えて前回のメカトピア戦争で使った戦力を出したことで少々脅しが過ぎてしまったらしい。

 

 なあなあで済ませるつもりはないが、大統領の首なんか貰っても何の得にもならない。

 大統領がいなくなったら天上世界の混乱も収まりきらないだろうし、余計に後始末が面倒になる気がするとハジメは顔を歪めながら思っていた。

 

「あー大統領。 ノア計画を実行したのは強硬派で天上世界の総意でない事は分かっています。

 ですので陸雲を溶かす雲戻しガスは使いませんが、そこら辺をはっきりさせる為にクーデターを起こした強硬派を抑えようと思って上の戦力を用意してきました。

 強硬派が占拠している要所についても調べがついているので、無人兵器でそこを再制圧してからそちらに引き渡しましょう」

 

「しかし、これは天上世界の問題ですので…」

 

「そうですけど、用意して出してしまった以上こっちも引っ込みがつかないんですよ。

 非殺傷の武装で抵抗する者のみを倒させますので、大統領の指示に従う者に抵抗せず攻撃しないように指示を出してくれませんか?

 上のロボットも攻撃してくる者に無抵抗でいろという訳にはいきませんので。

 強硬派を排除したら上の戦力も帰らせますので」

 

「わかりました! では早速…

 中央州全国民に告げます。 私は大統領の…」

 

 大統領の指示が終わると同時に、人間サイズのMSモビルソルジャーの非殺傷装備部隊が強硬派に制圧された各庁に降り立ち、抵抗する者=強硬派と考えて攻撃を開始した。

 全て無人兵器のロボットなので多少の攻撃をものともせず突き進み、建物にいる抵抗者すべてを改造ショックガンと改造近接武器【ショックスティック】で気絶させる事で犠牲者を出すことなく制圧していく。

 抵抗する者は多数いたが、一時間もしない内に強硬派に制圧されていた各庁は再制圧されて、後詰めに大統領から指示を出されて外で待機していた部隊に引き渡された。

 

 その後すぐに上空に待機していた無数の部隊と共に戦艦に収容されて、超空間に入る事で展開された全部隊はその場から姿を消した。

 それまでの間に上空でも強硬派や緊張に押しつぶされてUFOが攻撃してくることがあったが、数機掛かりで抑え込んだり、推進器をあっという間に破壊する事で無力化し、性能差を天上人の防衛部隊に知らしめることになった。

 

 無人兵器の部隊が帰ってからはハジメは大統領と少し話したが、前回と同じように好きにしろと極力関わりを持たないという意思を見せてから帰っていた。

 改めて言うが天上世界の問題は地上と直結しており、ハジメでも簡単に解決出来ない問題だ。

 つまり政治的な問題でありハジメの関わるとことではないのだが、ノア計画という地上に対する一方的な干渉だったから、ハジメも止める形で干渉した。

 

 だがもし政治的な交渉だったり、地上が天上世界を認識した上での戦争だったらハジメは全く干渉の余地はなかっただろう。

 交渉の場に中立の立場で立つことなどありえないし、戦争に加担しようにもどちらが一方的に悪いという場合などそうそうないし、仮に加担すればパワーバランスが崩れてより厄介なことになるだろう。

 ハジメの所属は日本なのだろうが、母国の為にひみつ道具乱用など碌な事になる気がしない。

 

 とにかくハジメにとって雲の王国の事件は力ずく以外に手段がなく、落としどころも微妙な結果にしかならない厄介な事件だった。

 さんざんケンカを売ってしまった手前ハジメは今後天上世界に関わる気はしないが、天上世界がノア計画を無くした後どうするかは分からない。

 天上人全てが宇宙へ移住してしまうのか、地上に自分達の存在を公開することで環境汚染をストップさせるのか、はたまたハジメ達が思いつかない方法でこれからも暮らしていくのか。

 

 全てがうまくいく良い結果を迎えるとはとても思えないが、自分勝手でもハジメは天上人により良い未来が訪れる事を願うしかなかった。

 

 

 

 

 




 自分でも納得のいく終わり方をしていないのですが、とりあえずこれで本編完結です。
 派生作品を書く予定ですが、それはまたの機会に

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。