ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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真・鉄人兵団12

 

 

 

 

 

 ハジメ達がメカトピアの聖女と呼ばれたシルビアに接触し、反戦運動を計画してから数日。

 メカトピア上空の宇宙空間では新たな動きが起こった。

 

「司令官! 地球軍の戦艦が現れました!」

 

「先の騒動から沈黙を続けて数日。 このまま終わらんと思っていたがついに動き出したか」

 

「敵の指揮官機が謎の反乱を起こして敵の戦艦を損傷させるなどの不可解な行動でしたからな。

 調査の為に時間をかけたのだと思われますが…」

 

「原因はおそらくあの特殊武器だろうが、何らかの対策を用意してきたと見るべきか」

 

「とはいえ同じ武器はこちらの手には残っていませんからな」

 

「あったからと言って、先の戦闘で動員した兵力の被害も無視出来ん」

 

「効果はありましたが、敵指揮官機が強すぎて武器を使うのにかなり苦労したと報告が上がってます」

 

 司令官と副指令は先の戦闘での特殊武器と呼ばれるヤドリの円盤を使うのに、動員した戦力被害について考える。

 ヤドリは寄生するときに光線のようなものを発して対象に取り付く。

 その射程は非常に短いので宇宙空間での戦闘中にそれを行なうには、相手の動きを完全に止めなければならなかったからだ。

 先の戦いでのその為の被害はあまり無視できないものだった。

 

「こちらの調査はどうなった?

 あの特殊武器の効果と再配備については?」

 

「使い終わったあの武器は回収され、再配備は打診しましたが色よい返事はありません」

 

「配備されても困るが、効果についてははっきりさせてほしいところだ。

 敵指揮官機が両軍を振り切って地表に降りて行方不明など、訳が分からん」

 

「暴走を起こしたと言われていますが、動きがあまりに不可解でしたからね」

 

「敵指揮官機を無力化できた時は光明が見えたかと思ったんだがな」

 

「司令、大変です!」

 

 特殊武器の効果がさっぱりわからないことから、再配備されてもあまり期待できないと話し合ってた時に、オペレーターが叫んだ。

 

「どうした、敵軍の動きに何があったか?」

 

「依然進行中ですが、数が以前と違います。

 兵を搬送していると思われる母艦の数が増えています!

 その数9、合計十隻の艦隊です!」

 

「十隻だと!」

 

 これまではハジメの乗る旗艦を除けば、モビルソルジャーを配備したアークエンジェル型の戦艦3隻だったが、それが一気に三倍に増えている。

 モビルソルジャーを配備している数が一定であれば、戦力も兵の数も三倍になったと考える事が出来る。

 

「遂に地球軍も本腰を入れてきたという事か!

 全軍に通達。 出し惜しみなしで全力展開しろ!」

 

「了解!」

 

 メカトピア軍側の戦艦から兵士たちが無数に発進して、防衛体制に入った。

 その中にはこの数日で配備されたジュド級も数を増やしている。

 

「さて、これでどこまで相手をしてくれるか…」

 

「向こうが本腰を入れたという事でしたら、今日で全滅かもしれませんよ」

 

 地球軍側の戦力をずっと見てきた二人は、これまで相手が手を抜いて戦っていたことが良く解っている。

 そうでなければ自分たちとメカトピア軍は、疾うの昔に壊滅していると分かるくらいに戦力差を実感していた。

 それが戦力を三倍にして本腰を入れるという事は、あっという間に壊滅してもおかしくないという事だ。

 

「全軍配備完了しました」

 

「敵戦艦さらに加速。 いえ、これは…」

 

「どうした」

 

「敵船団の動きがおかしいです。 

 兵を展開せずに速度を落とさずに我々の方に向かってきています」

 

 レーダーには速度を落とさずどんどんこちらに向かってくる地球軍のマークが表示されている。

 窓から見える地球軍の戦艦がどんどん大きくなってきているのが目に解った。

 

「突っ込んでくる気ですか!」

 

「全艦即時砲撃開始! 出撃した兵団も各自攻撃を開始だ!

 敵の船の動きを止めるんだ!」

 

 指令の咄嗟の判断で、バラバラながらも地球軍の船を止めるために攻撃を開始するメカトピア軍。

 しかし地球軍の戦艦のバリアは、メカトピア側の戦艦の砲撃やジュド級のバスターカノンなどの高火力な砲撃に耐えきり、その速度のままメカトピア軍の展開された兵団の中に突っ込んだ。

 そのサイズ差から兵士たちはバリアにぶつかって吹き飛ばされ、メカトピア軍の船とすれ違いながらあっという間に突き抜けていく。

 すべての地球軍の船が突き抜け、メカトピア軍は隊列がバラバラになり全員混乱状態に陥っていた。

 

「まさかこんな強引な方法で防衛ラインを破られるとは!」

 

「上層部へ報告! 地球軍がメカトピアに降下するぞ!」

 

 体勢を立て直せていないメカトピア軍の後ろには、地表へ降下していく十隻の船の姿があった。

 

 

 

 

 

『メカトピアの全ロボット達に告げる。

 我々は地球を守護する組織シークレットツールズ。

 現在我々はメカトピアに降り立ち、貴様たちが聖地と呼んでいる場所を目標としている。

 我々の要求は前の警告と同じ地球への不可侵である。

 そして先日の戦闘で聖地に連れ去られた我々の友軍機の奪還にある。

 要求の考慮に五日の猶予を与える。

 それが過ぎたなら我々は聖地へ進軍を開始し友軍機を奪還、メカトピアを武力による完全制圧に乗り出す。

 これは最終通告である。 三度目の警告はない』

 

 再びメディアに割り込まされたハジメ達の要求がメカトピア全土に報道された。

 地球軍が地表に降りてきたことが広まり、一般市民は一層不安に駆られている。

 そして議会も地球軍の無茶苦茶な侵攻と要求に、会議場は再び騒然とした状態になっていた。

 

「軍は何をやっていたのだ! あっという間に防衛ラインを抜かれるなど、なんの為の防衛ラインだと思っている!」

 

「しかし報告を見る限り、あれは仕方なかったように思える。

 バリアによる力任せの突破など、誰も予想していなかった」

 

「その上敵の戦艦の数が三倍に増えている。 地球もいよいよ本気になったと見るべきか」

 

「軍も地上に降下させて聖地防衛の為に編成中だが、どこまで地球軍の本気を相手取れるか」

 

「地球軍の動きの変化はやはり、先日の敵指揮官の不可解な行動が原因ですか」

 

「その敵指揮官機は聖地にあると地球軍は言っていますが、どういう事ですかなオーロウ議長」

 

 議員の視線が金族の代表でもあるオーロウに集中する。

 聖地の管理を金族が行なっている事は誰もが知っている事だ。

 そこに暴走した敵の指揮官機がいると言われれば、オーロウが何か知っていると考えるのが自然だ。

 

「敵の指揮官機が聖地にあるなど私は聞いてはおらん。

 大方地球軍が聖地を攻め込むための口実ではないか?」

 

「ではなぜ地球軍は聖地を攻めようとする。

 我らにとっては大事な場所ではあるが、地球軍にとっては重要拠点とみる場所ではなかろう?」

 

「人間の考える事など私に解るわけがなかろう」

 

 オーロウは淡々と知らないと断じているが、内心はかなり焦っていた。

 聖地ではヤドリを含めた自分の計画の施設が、極秘裏に建造されている。

 聖地という歴史的にも重要な場所に新たな施設を作る事は当然禁じられている。

 管理を任されている金族とはいえ、発覚すれば現在の法をもって重い刑に処されるのは間違いないからだ。

 

「確かに人間の考える事は解らんが、もし聖地に敵指揮官機がいるのならどう思われますかな」

 

「何が言いたい、アシミー議員」

 

 ハジメからの情報提供で、オーロウを含む金族が怪しいと睨んでいるアシミーは揺さぶりをかける。

 

「敵指揮官機はオーロウ議長が提供した特殊武器が原因で暴走を起こし、メカトピアのいずこかに消えたという解釈でした。

 しかし行方不明の筈の敵指揮官機が聖地にあるのだとすれば、オーロウ議長あなた方金族が敵機を操って聖地に隠匿したと思えるのですが…」

 

「なんだと!?」

 

「どのような証拠があってそのような事を言う!」

 

「我ら金族を侮辱しているのか!」

 

 アシミーの金族への疑惑の指摘に、オーロウを含めた金族の議員たちがいきりたつ。

 プライド高い金族への物言いは、彼らの自尊心を揺さぶるものだった。

 この時はオーロウも事実に関係なく怒りを顕わにしている。

 そしてほかの議員は、アシミーのその可能性を考察する。

 

「アシミー殿の言い分は唐突だが、消えた敵指揮官機の所在は気になるところですな」

 

「敵指揮官機を狂わせた特殊武器もオーロウ議長からの提供でしたからな」

 

「もしそうなのだとしたら、敵指揮官機は暴走ではなく操られていたことに」

 

「まさかジャックバグ…」

 

 ジャックバグの名前が出てきたとき、議会が一瞬静まり返る。

 ジャックバグは嘗ての戦争での禁忌であり、その危険性を議員は誰もが知っている。

 終戦時にすべて破壊され処分されたが、まさか残っていて先の戦闘に使われたのではと危惧する。

 だがオーロウ議長はすぐさまそれを否定する。

 

「あの特殊武器はジャックバグとはまるで別物だ!

 使用した者達の確認を取れば直ぐに解る事!

 あらぬ疑いをかけないで頂こうか」

 

「特殊武器がジャックバグと別物であることは私も確認しています。

 しかし敵指揮官機の行動を暴走と呼ぶには、地球軍に害する理性的な動きをしている。

 何らかの理由で敵指揮官機が造反したとしか思えない。

 あの特殊武器によって操られたとみるのが自然なのですよ」

 

「前にも言ったがあの特殊武器による敵の行動は私も想定していなかった。

 だが、仮に敵があの特殊武器によって操られたからと言って何の問題がある」

 

「オーロウ議長!?」

 

 ロボットを操る存在はジャックバグを連想し、現在のメカトピアでは禁忌なのだ。

 それを認めるような発言に議員たちが驚く。

 

「奴らは栄光あるメカトピアのロボットの系譜ではないのだ。

 仮にジャックバグが使えるというなら、私は奴らに使用する事を進言しよう。

 人間に使われるより、始祖の系譜であらねど同じロボットに使われる方が幸福なのではないか」

 

「オーロウ議長、流石にそれは…」

 

「仮の話だ。 たとえ地球のロボット相手でも神の禁忌に触れる可能性はあるからな」

 

 メカトピアのロボットは同胞の電子頭脳に干渉することが出来ない。

 地球のロボット相手でもその制約に引っかかる可能性は無いわけではなかった。

 

「オーロウ議長も先の一件は想定外であったのはよくわかりました。

 では敵指揮官については聖地にはないと言われるか?」

 

「無論だ」

 

「では念の為議会として聖地の調査を進言する」

 

「何?」

 

 オーロウは再び不機嫌な声を上げてアシミーを睨みつける。

 

「私の言葉が信じられないというか」

 

「敵指揮官が聖地に隠されていないと、地球軍の宣告後に確認されたのですかな」

 

「いや、していないが…」

 

「でしたら聖地を捜索してみる必要はあるでしょう。

 オーロウ議長もこの戦争でお忙しい。 警備に穴が出来て隠匿されたという可能性もあるのではありませんか?」

 

「警備に何の問題もない!」

 

 計画を実行に移すまでもう少しなのだと、聖地の捜査の必要性を否定するオーロウ。

 

「ですが間もなく金族直下の警備だけでは足りなくなります。

 軍との防衛体制を兼ねて聖地を確認しておいた方がよいと思いますが…」

 

「なに、どういう事だ?」

 

「地球軍は聖地を目標に定めてきました。 であれば軍を聖地の守りにつけねばならない。

 そしてもし守りを突破されたなら聖地内への追撃をせねばならなくなる可能性もある。

 その状況を想定して防衛に聖地内の状況を知っておく必要がある」

 

「聖地への敵の侵入を許すなどあってはならんことだ!」

 

 オーロウの叫びに、それに関しては同意と議員たちが頷く。

 

「ええ、ですが想定しない訳にもいかないでしょう。

 地球軍はすぐそこまで来ているのです。

 侵入されたら許可が出るまで追撃出来ないなど、それこそ問題では?」

 

「むぅ…」

 

 オーロウは唸りながらどうするべきかと考え込む。

 アシミーが言った通り地球軍が迫ってきており、聖地の防衛も先の宇宙での強硬突破をされたら抜かれるかもしれない。

 そうなれば計画もなにもあったものではないと、オーロウは地球軍が侵攻するまでが聖地の秘密を守り通せる限界と悟る。

 

「…わかった、聖地の再確認を行なっておく」

 

「お願いします。 もし見つかるようでしたら、引き渡し交渉が出来ますからな」

 

 先ほどからの聖地の強い調査要求に、オーロウはアシミーが何らかの確信を持っているのではないかと疑念を抱く。

 聖地に敵指揮官を運び込むときに情報が漏れたのかと考えるが、原因を特定するには至らない。

 ハジメ達地球側との接触とは流石に想像出来ないだろう。

 

「アシミー議員は地球軍と交渉するおつもりで?」

 

「既に地表の聖地手前まで進行されているのだ。

 彼らも最終通告と言っている。 我々に決断を迫っているのだ」

 

「メカトピアが人間に敗北を認めるなど!」

 

「だが戦況はあまりにも良くない」

 

「あとがないならば全戦力もって決戦に挑むべきでは!」

 

 地球側の要求に話題が変わると、議会はまた騒然となって発言の応酬が始まる。

 要求に応じるという事は敗戦を認めるという事であり、それを認められないがために議会の意見は纏まらずにいた。

 議会でそれを受け入れるにはもう一押し足りず、地球側からもう一押しすれば一線を越えるためにこれ以上刺激を与えられない。

 必要なのは議会を動かす別の切っ掛けだった。

 

 議会が騒然となる中で、議会に一人のロボットが飛び込んできた。

 

「大変です!」

 

「何事か、議会の協議中だぞ」

 

「シルビア様が!」

 

 伝えられた聖女の名に議員たちはどよめき、唯一アシミーだけはようやくかと吉報に安堵した。

 

 

 

 

 

「すごい事になったわね」

 

「もうちょっと小規模な演説をイメージしてたんだが…」

 

 シルビアとハジメ達が接触して数日。

 ハジメの提案から独自に民衆に演説を行い反戦運動を計画したシルビアは、自身の友人に協力を依頼し多くの市民に話を聞いてもらえる場所を当っていた。

 ハジメ達は準備が終わるまでシルビアの屋敷に世話になり、ついに公演の準備が整ってその実行場所に移動してきたが…

 

「これは完全に講演会だな」

 

「演説とどう違うの?」

 

「基本的に話を聞いてもらうのは同じだけど、僕の予想していたものと規模が全然違う」

 

 ハジメの想像していたものは街頭演説くらいの規模だったのだが、目の前にはシルビアを一目見ようと多くのロボット達が集まっている。

 場所は公園の広場なのだが、遠くからも見えるように演説の舞台まで用意されている。

 シルビアが協力を依頼したという友人が全て用意し、演説を行うという情報を広めたことでこれだけの人が集まったのだ。

 

「これなら成功間違いなしね」

 

「演説がうまくいけばね。

 だけど、これだけ人が集まれば直接議会を動かせるんじゃないか?」

 

「あら、それはだめよ」

 

 舞台裏から集まった人たちの様子を窺っていたハジメ達に、演説の準備を終えたシルビアが話しかけてきた。

 

「聖女と呼ばれてたって私はタダの一般人なのよ。

 議員でもないのに議会を直接働きかけるようなことは許されないわ。

 私はあくまでメカトピアの人々にお願いして、戦争に反対する声を一緒に上げてほしいというだけよ。

 多くの人々が一緒に同じ意見を述べれば、議会も無視する訳にはいかなくなる。

 演説の呼びかけというのは、民衆が議会に間接的に意思を伝える良い手段ね」

 

 シルビア以外の者が演説を行なってもここまで影響力は出ないだろう。

 ハジメはそう思いながら、議会に直接働きかけられないとは言わなかった事を追求しなかった。

 

「シルビア様。 私はあまりお手伝いできませんでしたが頑張ってください」

 

「ありがとうリルルさん」

 

「あとはシルビアさんの呼びかけ次第です。

 これをきっかけに議会が交渉に乗ってくれる事を祈っています」

 

「ご武運を、シルビア殿」

 

「ええ、民衆の力が議会を動かすところを見せてあげる」

 

 そういってシルビアは舞台の上に向かっていく。

 この演説によるシルビアの呼びかけで、反戦運動が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




春ですからか、すごく眠くなってます。

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