ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
敵を待ち構えていたヤドリ達は、突然間近で起こった炸裂音に混乱した。
正面の扉の前まで敵が来ている事は察知しており、入ってくれば迎撃して相手に取り付き支配下に置こうとしていた。
だが待ち構えていた倉庫の中心で爆発が起こり、その近くにいた多くのヤドリが爆発で飛散した液体に掛かると動きを停止した。
突然の事態に何が起こったのか分からず混乱していると、正面の扉にビーム熱による切れ目が一斉に入り、あっという間にバラバラに切り裂かれて大きな穴になる。
そこから一斉に攻撃が飛び出してきて、ヤドリの円盤や操られたロボットに関係なく撃ち倒していく。
同時に穴からジム達が侵攻を開始し、ハジメ達のヤドリの殲滅が開始された。
「撃って撃って撃ちまくれ!
ヤドリはこの部屋のそこら中にいる。
一匹残らず真空ソープでキレイキレイしてやれ!」
「マイスターのご命令だ!
ヤドリをキレイキレイするのだ!」
「…ファースト、キレイキレイは復唱しなくていいぞ」
「了解です!」
ファーストのボケとも思える復唱に気を抜かれるハジメ。
ファースト達主力機のモビルソルジャーは、量産機より人工知能の性能が高いがドラ丸ほど感情面で豊かではない。
なのでこう言ったジョークに対しては柔軟に対応できず、言葉通りに対応してしまう。
そんなやり取りなど気にせず、ジム達は新たに用意された真空ソープを放つ武器でヤドリ達を攻撃する。
――ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!――
ジム達の手にはめ込まれた黒い筒状の武器から、真空ソープの砲弾が打ち出されてヤドリの円盤や操られたロボット達を吹き飛ばしていく。
命中した液体の砲弾は拡散し、飛び散った先にいたヤドリにも当たって無力化していく。
ジム達が装備しているのは【空気砲】の派生の【水圧砲】で、真空ソープの入ったタンクを接続して撃ち出している。
弾ければ周りのヤドリにもかかる事でまとめて倒すことが出来、近距離への対処も想定して拡散で撃ち出す事も出来るように改良してある。
「なんだこれは! 液体に濡れただけで仲間がどんどん落ちていく!?」
「おい! 一体どうなってヌァ!」
「気を付けろ! 液体に触れるだけでやられるぞ!」
真空ソープの砲弾がどんどんジム達から飛び出していき、ヤドリ達が待ち構えていた倉庫は見る見るうちにソープまみれになっていく。
どんどん力尽きて倒れていく円盤やロボットが無ければ、派手な水遊びにしか見えなかっただろう。
ヤドリ達は自分たちが容易に支配できる体が向こうからやってくると手ぐすね引いて待っていたが、真空ソープの効果に恐れ戦くばかりだった。
真空ソープの効果で一網打尽かと思えるほどの戦果だが、そんな中で真空ソープを浴びながらも動きだした影があった。
ヤドリに操られたゼータだ。
水圧砲を撃ちまくってくるジムに向けて、ビームライフルを構えて即座に放った。
ゼータの存在を忘れず警戒していたファーストが、シールドでジムを守った。
「マイスター、ゼータは未だヤドリに操られているようです」
「みたいだな。 簡単にはいかないとは思っていたけど、さっきのソープ爆弾は当たったはずだ」
「はい、ジム達の攻撃の余波にもあたっていますが、奴だけ効果がありません」
ヤドリ達が真空ソープの餌食になる中で無事なゼータを操るヤドリに、二人は原因を考える。
そんな暇を与えないと言わんばかりに、防がれたビームライフルを背中にマウントして、ビームサーベルを手にして飛びかかってくる。
ファーストが相手取ろうと同じくビームサーベルを構えるが…
「僕が相手をする」
「マイスター!?」
「ファーストはジム達の指揮をとってヤドリを殲滅しろ。
一匹も逃がすんじゃない」
「了解しました!」
ヤドリの数はとんでもないが、真空ソープを使った武器とヤドリを見つけるセンサーがあれば全滅させられると考えていた。
ヤドリの寄生能力は人間にとって脅威であり、ハジメ達の在りようを考えれば天敵と言えるかもしれない。
敵対もした以上、今後の脅威にならないように徹底的に殲滅するつもりだった。
ハジメもゴッドガンダム用のビームサーベル、ゴッドスラッシュを取り出してゼータのビームサーベルに合わせるように振るう。
ビームサーベル同士がぶつかり合い、鍔迫り合いをするようにゼータと急接近する。
「よくも仲間たちを!」
「…ハッ? まさかこの場でそんなことを言われるとは思わなかった!」
ゼータのパワーに押し負けぬように、ハジメはその場で踏ん張る。
近接戦闘主体のゴッドガンダムの方が機体のパワーが上なのでだいぶ有利ではある。
「たかがロボットごときが何を言うか!
所詮人間もロボットも我らに支配されるべき存在。
大人しく我らに体を差し出しておればよいものを!」
「馬鹿かお前は。 人間だろうがロボットだろうが、自分の体をくれてやろうとする奴がいるか。
何様のつもりだ」
「この宇宙の全ての存在は我らの力によって支配できる。
すなわち我らヤドリこそ宇宙の全てを支配するべき至高の存在なのだ。
その我等に歯向かい、多くの仲間を亡き者にした貴様らは万死に値する!」
「奪おうとすれば抵抗されて当然だ。 一方的に支配しようとしてくる奴らなど、当然反撃される。
だからこうしてお前の仲間がどんどん消えていくんだ。
当然の結末だ!」
「貴様!」
ヤドリは激高して鍔迫り合いをやめると、がむしゃらに振るってハジメを斬ろうとする。
盾の無いゴッドガンダムはビームサーベルで受け流しながら、ハジメはセンサーでヤドリが何処についているのか探る。
センサーにはヤドリの発する念波が色で映し出され、ゼータの胸部、コクピット部分に最も濃い色が流れ出ているのが表示される。
「そうか、コクピットに潜り込んでいたのか」
「貴様らの毒液もこの中までは届かないようだな!」
主力機のモビルソルジャーもハジメの乗るゴッドガンダムの様にコクピットを残しており、モデルであるMSは宇宙空間でも動けるように空気の気密性は万全だ。
ヤドリにとっては毒液でしかない真空ソープも、密閉されたコクピット内までは流石に入らない。
他のロボットを操るヤドリ達は外部にいたようだが、ゼータを操るヤドリはコクピットの存在に気づいて偶然入っていたことで真空ソープの爆弾にも耐えていたのだ。
所詮液体の真空ソープにメカトピアのロボットはもちろん、主力機のゼータを破壊する力はない。
「ならやっぱりゼータを倒すしかないか」
取り戻すつもりでいたが、最悪破壊してでもヤドリに操られたままにはしておけないとハジメ達は思っていた。
主力機には人工知能は搭載されているが、それでもドラ丸の様に人間らしい感情を与えていないのは、破壊されたり壊れる事が前提の命令をしても心が痛まない為だ。
人並みの心を持ったロボットを作れば、ハジメは容易には切り捨てられないと思ったので、機械らしい忠実なだけの人工知能にしたのだ。
「それでも少しばかりゼータに悪いとは思うが、ヤドリに奪われたままには出来ない。
この場で破壊してでも返してもらう」
ビームサーベルの二刀流で斬りかかり、ヤドリは一本のビームサーベルと盾で応戦する。
近接戦ではやはりゴッドガンダムの方がスペックが高く、盾で受けた時に耐えきれずに弾き飛ばされる。
「おのれー!」
ヤドリは近接戦は不利だと悟り、後ろに飛び上がるように下がるとビームライフルを抜いて連射してくる。
ハジメは咄嗟にビームサーベルで応戦しようと考え、その考えを汲んだサイコントローラーがゴッドガンダムを動かす。
ヤドリの撃ってきたビームの連射を、ビームサーベルで切り払うことで全て防いだ。
「うわっと! …ビームサーベルでビームを切り払えたのか。
サイコントローラーが勝手にやってくれたとはいえ、すごいな」
「マイスター、敵の残りが逃げていきます」
ハジメがゼータを相手取っている内に、空間に散っていたヤドリ達は数を激減させていた。
僅かに残ったヤドリの円盤は倉庫の奥の扉に向かって逃げていく。
「奥の方にはヤドリの母船があったはずだ。
今逃げてる奴らを追いかけて、母船に乗っている奴らもすべて倒せ」
「了解しました」
ハジメは変わらずヤドリを全滅させるようにファーストに命令を下す。
ヤドリの母船はそのまま奴らの本拠地になっており、そこには円盤に乗っていない多くのヤドリがいるのが解っている。
母船のヤドリを倒せば、生き残りはほぼ僅かだろう。
その命令が聞こえたゼータを操るヤドリは絶叫する。
「やめろ! 母船にいるのは戦闘員だけでなく女子供もいるのだぞ!」
その叫びに流石にハジメも目を白黒させて戸惑いを覚えた。
ヤドリの生態に興味などなかったが、母船にはいわゆる一般人のヤドリも生活しているという事だ。
まさか情に訴える作戦、などではなく咄嗟に出てきた言葉のようだが、そんなありきたりなセリフを敵側として聞かされるとはハジメは思っても見なかった。
メカトピアのロボットに社会があったようにヤドリにも社会がある。 それは別に不思議な事ではない。
その事実を知ってハジメはヤドリの殲滅を考え直す………事が頭によぎるが、その考えを即座に振り切った。
ヤドリは危険、その考えは既にハジメの中では一切揺るがぬほど固く定まっており、この戦いの中で決着を着けると決めていた。
その脅威は鉄人兵団が攻めてくる事と全く別の恐ろしさであり、油断も余裕もなく倒さなければいけないと考えていた。
シルビアの思いからメカトピアを救いたいと思っているが、ヤドリの脅威は地球だけでなくハジメ達も脅かしかねないと結論が出ていた。
それならばどんな理由があっても、ハジメはヤドリを全滅させることをやめる事は出来なかった。
メカトピアの為でなく、地球を守るためでなく、自分を守るためにヤドリを滅ぼす。
そんな自分勝手な理由でも、ハジメは
「…ファースト、行け!」
「させるかー!」
ヤドリはハジメを無視して、母船へ向かおうとするファーストとジム部隊を止めるために追いかけようとする。
躊躇が生まれ後ろめたさも感じるがハジメはそれを許すわけにはいかないと、念力を放ってゼータの機体に干渉して動きを止めようとする。
「なに、なぜ動かん!」
ヤドリは動きを止めたゼータを動かそうと出力を上げると、少しずつ前に飛び始める。
「ぐぅぅ…やっぱりゼータほどのパワーを…抑えるのは念力じゃ少しの間が限界か」
超能力の念力は初期はハジメの腕力程度の力しかなかったのだが、訓練を続けることで作用する力はどんどん増えている。
どんどん強力になってはいるが、それでもロボットが動こうとする力を抑えるには、並のパワーでは足りず、動きを抑え続ける事は出来ない。
「このぉッ!」
押さえ続けられないと判断したハジメは、作用する力の方向を変えて床に向かって叩きつけるようにゼータを落とした。
変な体勢で落とされたことでゼータは着地する事は出来ずに床に倒れる事になる。
「グッ、一体何が…」
「お前の相手は…僕だ!」
「邪魔を…するなぁ!!」
ファースト達に母船に向かわれて酷く焦っているヤドリは、ビームライフルを狙いも定めずに連射してハジメを排除しようとする。
ハジメも水を差された思いだが、ゼータとの決着を着けるべく、ゴッドガンダムの必殺技の準備に入る。
左手に持つビームサーベルでライフルのビームを切り払いながら、右手のゴッドフィンガーを起動して熱エネルギーを発し始める。
「
そのキーワードに従い、ゴッドガンダムの背の羽が広がり光の輪を作り、胸部の装甲が展開して右手にエネルギーを送り始める。
これまで戦闘で使ってきたゴッドフィンガーは、掌から熱エネルギーを発する機能を武器として使っていただけに過ぎない。
「勝利を掴めと、轟き叫ぶ!」
前腕カバーのプロテクターがスライドして、右手のゴッドフィンガーにエネルギーが溜まり燃え上っていく。
ゴッドガンダムの全機能を開放し、必殺技として放とうとすることでゴッドフィンガーは真の威力を発揮する。
必殺技を叩きこむべく、ゼータに向かって急接近するハジメ。
右手から放たれるエネルギーに脅威を憶えたヤドリは、回避行動を取るために飛び上がろうとする。
「逃がさん!」
「またか! 動けぇ!」
再び念力でゼータの動きを止める。
ヤドリが抵抗する事で念力も長くは続かないが、そのわずかな一瞬でハジメは手の届くところまで来ていた。
「爆熱! ゴッドフィンガァァーーー!!」
燃えるゴッドフィンガーの抜き手がゼータのコクピットに突き刺さる。
そこには真空ソープを逃れる事に成功したゼータを操るヤドリがいる場所だ。
そこを狙い、ハジメは確実に必殺技を叩きこむことに成功した。
叩き込まれたヤドリはその時点で反応を見せず、既に事切れているかもしれないが必殺技はまだ終わっていない
「ヒートエンド!」
コクピットを貫いたゴッドフィンガーに込められたエネルギーが解放され爆発を引き起こす。
胴体部で起こった爆発によりゼータの機体は上下に分かたれた。
コクピットにいたヤドリなどこの爆炎の中で無事で済むわけはなく、センサーからもゼータにくっついていたヤドリの反応は消え去っていた。
「………」
必殺技を終えてゴッドガンダムの胸部と背部の羽は閉じられた。
余韻を感じるようにハジメは、床に転がったゼータの上半身と下半身をぼんやりと見る。
ゴッドフィンガーを放った右手のプロテクターを元に戻すと、ハジメは息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
「僕は謝らない」
ヤドリにも守るべきものがあったのかもしれないが、それをハジメは自分の意志で消し去ろうとしているが故に、罪悪感で謝罪の言葉を口にしたくなる衝動を我慢する。
謝ってしまえばヤドリに対して間違っていると認めてしまう。
例え敵であっても自分の都合でたくさんの命を奪うという事実に、ハジメも後ろめたい気持ちがある。
命を奪う自分が間違っていると認め、無意味に失われる命にしたくはなかった。
だからハジメは謝らないと決めた。
ハジメの脅威として滅ぼされたのだという意味を否定してはいけない。
ヤドリが滅ぶことに大きな意味はなくても、無意味にするのは命の冒涜だと思ったからだ。
やはり戦争など碌なものじゃないなと、まだまっとうな価値観がある自分が少しだけ誇らしかった。
奥にある母船にはまだヤドリがたくさんいるのだろう。
ヤドリが人の姿をしていればもう少し辛いのだろうなと思いながら、先行したファースト達を追ってヤドリの殲滅に向かった。
爆熱ゴッドフィンガーを使ったのに、なぜか最後はシリアスな感じになってしまいました。
ヤドリだって生きてる。 ただ敵だっただけという感じにしたかったんですが、キメ技でなんか残念な感じになってしまった。
別に爆熱ゴッドフィンガーを使わなくてもよかったんですが、出したいと思って無理したらこうなってしまいました。