ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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真・鉄人兵団22

 

 

 

 

「ギャアアビャバヤバババビバイバダビバビァァァ!!!」

 

 その野望を止めんとリルル達が武器を構えた直後、オーロウが発声機能に異常を思わせるような悲鳴を上げる。

 頭を両手で抱え痛みに耐えるように振り回し、異常が起こっている証明にバチバチと青白い光を放ってスパークを起こしている。

 

「一体何が起こっている」

 

「あの制御装置の王冠に何か問題があったんでしょうか?」

 

 明らかな異常にオーロウの思惑にない事が起こっており、構えた武器を振るうのに二の足を踏む。

 やがてオーロウの頭部からのスパークは収まり、両腕をだらんと下ろして力を失ったように俯く。

 様子を窺っていたリルル達は、動かないオーロウにどうするべきかと悩んだ所で、その傍にいたヤドリ天帝が先に動いた。

 

「ようやく黙ったか、オーロウよ。 これで貴様の戯言を聞かなくて済む」

 

「…ヤドリ天帝だったか? 貴様が何かしたのか」

 

「生身の体を手に入れてくるまではいい夢を見させてやろうと手を貸してやっていたが、思っていたほど使えんかった。

 始めからさっさとこうしておれば、こやつの妄想に無駄に付き合う事もなかった」

 

「何をしたと聞いている!」

 

 質問にさして気にも留めようともしないヤドリ天帝に、アシミーは大声で再度問いかける。

 動かなくなったオーロウを見ていたヤドリ天帝は、ようやくアシミーの方を目にとめる。

 

「我等がこやつに手を貸してやっていたのは半分はタダの戯れだ。

 電子頭脳を弄りジャックバグというおもちゃを作るのを手伝ってやった。

 生身の肉体を手に入れてくる事がその対価だったが、力の差を理解出来ずに逆に攻め込まれる始末。

 手が足りぬと分かり、仕方なく我が配下たちが地球のロボットの相手をせねばならぬほどのていたらく。

 これほど使えぬのであれば、始めからこうして意思を砕いて人形にしておればよかった」

 

「人形にだと! オーロウに何をしたのだ!」

 

「おもちゃに操られる人形の王にしてやったのだ。

 人形の王であれば、王もまた人形に決まっていよう。

 その王冠は確かにすべてのジャックバグに指令を送る制御装置だが、同時にジャックバグでもある」

 

「なに!」

 

「じゃあオーロウは!」

 

 アシミーとリルルはオーロウに何が起こったのか察する。

 ジャックバグが頭についたという事は、電子頭脳を貫かれて体の制御を奪われたという事だ。

 王冠の内側になって見えないが、オーロウの頭部はレーザーニードルで貫かれ電子頭脳にケーブルが入り込み強制接続されている。

 オーロウもまた、ジャックバグの支配下に置かれていた。

 

「それを制御装置として使うには、被るのではなくこうするのだ」

 

 ヤドリ天帝はオーロウの真上まで飛んでいくと、そこで止まりゆっくりと降りていく。

 オーロウの頭部に取り付けられたジャックバグの王冠は、放射状に上方に角が伸びて内側が空いている円環型だ。

 ヤドリ天帝がその円環の中央に収まったとき、上に伸びる王冠の角の半分が可動して円盤を固定した。

 

――ガチャン!――

 

 しっかりとした固定音と共にヤドリ天帝は制御装置を通してオーロウの頭部の上にドッキングした。

 始めからヤドリの円盤が収まるように制御装置は作られていた。

 

「この制御装置は私が使うためにあるのだ。

 オーロウも人形の王として我等に使われるなら本望だろう」

 

「オーロウも利用されていたというわけか」

 

「どちらでも構わないわ。 メカトピアの平和を取り戻すために貴方たちを倒すだけ」

 

「確かにその通りだ!」

 

 標的がヤドリに絞られただけだと、アシミーとリルルは改めて武器を構えなおす。

 二人の対応にジムと兵士達も何時でも攻撃を開始出来るように身構える。

 

「オーロウの無能さに多少予定が狂ったが問題ない。

 ジャックバグでこの星のロボットを全て操り、支配下においた地球のロボット兵を使って地球に向かい、地球人を我らの体にする。

 お前たちも我らの為の駒になるといい」

 

「お断わりよ!」

 

「総員、攻撃かい」

 

 

――ドガアアアアァァァァンンン!!!――

 

 

「「「!?」」」

 

 アシミーが兵への攻撃の号令をだそうとした時、彼らが入ってきた入り口とは別の扉が爆発で外から吹き飛ばされ、吹き飛んだ扉が整列していたジャックバグ付きのメカトピア兵の中に飛び込んだ。

 思いがけない突然の爆音に、リルル達もヤドリ天帝たちも吹き飛んだ別の入り口の方に注意が向く。

 

「マイスター、どうやらまだ戦闘は始まっていないようです」

 

「交戦中かと思って少し先行したが、早とちりだったか」

 

 爆炎の残り火がある入り口には、爆熱ゴッドフィンガーを放った体勢のゴッドガンダムINハジメと、ビームライフルと盾を構えたファーストが立っていた。

 その後方からは、二人を追って遅れて来るジム部隊の姿が(まば)らに見えた。

 

「ハジメ殿か!」「ハジメさん!」

 

 爆炎の中から現れたのが、二手に分かれて様子の分からなかったハジメである事に安堵するリルル達。

 

「敵の反応がたくさんある場所に、リルルとジム達の反応があったから少し急いできたんだが、大丈夫だったみたいだな」

 

 リルルの外装と兵士であるジムには味方としての信号を発しており、ハジメにはある程度居場所を把握できていた。

 先行した二人に後方からジムがどんどん追いついてくる。

 地下施設に侵攻したメカトピア側のロボット達が再び集結しようとしていた。

 

「なぜ地球のロボットがここにいる。

 貴様らは私の配下が相手をしていたはずだ」

 

「ヤドリ天帝だったか。 あの場所にいないからどこにいるのかと思ったら、リルル達の方にいたのか。

 お前の仲間なら僕らが一匹残らず全滅させた」

 

「なんだと! おい! ………おい、応答しろ!」

 

 ヤドリ天帝が通信を送って返答を待つが応答はない。

 ハジメは先ほど戦った場所にいたヤドリを、センサーの反応がなくなるまで虱潰しに探し回り、真空ソープで徹底的に汚れ一つ見逃さずにきれいにするように殲滅した。

 

 真空ソープの効果でどんどん死んでいくヤドリに、機械を使う事で発声できた者達の中には命乞いをする者もいた。

 ヤドリは一瞬で泡に包まれて窒息するせいか、断末魔を聞く事はなかったが、母船の内部に浸透するように攻撃を仕掛けた時は、どんどん消えていく同胞に恐慌に陥るものや怨言を叫ぶもの、命乞いをするものなど、追い詰められた者達の最後の声を多くハジメは耳にした。

 自分が脅威だからという理由で殺すからこそ、その声をハジメはすべて消えるまで聞き続けた。

 終わったときにはハジメも憔悴していたが、リルル達の事を思い出してまだ終わっていないと、預けたジム達とノーベルガンダムの外装の反応を追いかけてこの場まで駆け付けた。

 

「………まさか、本当に全滅したというのか」

 

「お前たちヤドリの対策を僕らは用意してあった。

 寄生能力は厄介だが、それを無効化する方法があればお前たちを倒す事など難しくはない。

 母船も破壊して残っているのはここにいたお前たちだけだろう」

 

「母船もだと! あそこには800万もの我が臣民がいたのだぞ!」

 

 ヤドリは小さいが故に小型に見える母船でもそれだけの数が収容されていた。

 その全てを殺されたという事は、ヤドリ天帝のとって国民の全てを殺されたに等しい。

 そのような事実は、自身の絶対性を信じていたヤドリ天帝に受け入れられるものではない。

 

「その全てを殺した。 僕はこの場でお前たちを全て殺しつくすつもりだ。

 恨むなとは言わない。 諦めろとも言わない。 全力で抗うといい。

 その上で僕はヤドリを滅ぼしつくし、以後の遺恨も懸念も一切残さず断ち切る」

 

 ハジメはヤドリ天帝に対して一切揺るがない殺意を示す。

 その様子をリルル達は些か困惑するように見ている。

 これまで戦争状態であってもメカトピアに温厚さを示してきたハジメの強い殺意に、これまでの印象から大きな違和感を感じていた。

 

 リルルはハジメの優しさをシルビアによって示されていたので、そんな殺意を見せる姿が特に大きな違和感を感じていた

 ここまで殺意を見せるほど、ハジメはヤドリを憎んでいるのか殺さなければならない理由があるのか。

 そして、その殺意がメカトピアに向けられなかったことに僅かばかりの安堵があった。

 

「………許さん…許さんぞ」

 

 ヤドリ天帝はドッキングする事で自身の体となった、オーロウの拳を握り震わせて怒りを顕わにする。

 

「我が全ての臣民を殺したなどと、その大逆を犯した貴様らを絶対に許さん!」

 

「許しなど、尚の事要りはしない。

 ヤドリには何一つ残さず消えてもらう。

 それですべて終わりだ」

 

「やれ、人形共!! 奴を破壊しろ!」

 

 ヤドリ天帝の怒りを含ませた号令に、ジャックバグは兵士の体を操ってハジメに向かって攻撃を仕掛けた。

 フィンガーレーザーやプラズマライフルの光線が飛び、即座にファーストとジム達が盾を構えてハジメを守った。

 

「ジム部隊、応戦せよ!」

 

「こちらも攻撃開始。 俺達も忘れてもらっては困る」

 

 ファーストの号令でジム達もビームライフルで攻撃を開始し、アシミー達メカトピア軍も攻撃を開始した。

 待ち構えていたジャックバグの兵の数はメカトピア軍よりも多いが、ハジメ達率いるジム部隊によって数の差は逆転している。

 ヤドリ天帝の命令でジャックバグの兵はハジメに攻撃を集中させているが、ファースト達の盾により攻撃はほぼ防げている。

 対してジャックバグの兵士たちは、ハジメに攻撃する事を意識するあまりジム達とメカトピア兵の攻撃をうけてどんどん倒れていく。

 ハジメ達が到着していなければ戦力は拮抗していたが、今のままではあっという間にジャックバグの兵は全滅するだろう。

 

「おのれ! やはりこんな人形では役に立たんか!」

 

 悪態をつくとオーロウの体を翻し、残ったヤドリの仲間を連れて奥の方へ走りだす。

 

「逃がすな、ファースト!」

 

「ジム部隊、追撃せよ」

 

 ハジメ達の後方にいたジム達が飛び上がり、上を回ってヤドリ達を追いかけようとする。

 それを止める様にジャックバグの兵たちが、飛んでいるジムに向かって飛びかかり動きを止めていく。

 その間にヤドリ天帝たちは奥のゲートを潜ると、そこで立ち止まって再びハジメ達を見た。

 

「逃げはせん! 800万の我が臣民を虐殺した貴様ら地球軍を、生かしたままにしてなるものか!

 貴様らも、上にいる地球軍も皆殺しにしてくれる!!」

 

 

――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!!――

 

 

 ヤドリ天帝の宣言と同時に大きな爆発と振動が発生し、地下施設全体が大きく揺れ始める。

 あまりの揺れに床に立っていた者達は体勢を崩し、戦っていた者達も攻撃が途切れる。

 

 更にヤドリ天帝たちが立ち止まった前のゲートの扉が閉じ始めた。

 

「何をした!」

 

 地下施設全体の揺れに、ただ事ではないとアシミーは問う。

 揺れと爆発は一向に収まらず、天井が壊れて鉄材の一部が落ちてくる。

 

「ここにもう用はない! この地下施設の崩壊で押しつぶされるがいい!

 聖地で生き埋めになるなら貴様らも光栄だろう!」

 

「追い詰められて基地を自爆とは、物語の要点を押さえているじゃないか!」

 

 この展開によくあるパターンだと思ったハジメは、称賛を込めた皮肉をヤドリ天帝に送る。

 

「私は追い詰められてなどいない! すべてを破壊する力を呼び起こした!

 このまま地上に上がり貴様らの仲間をすべて破壊してくれる!」

 

 ジム部隊、メカトピア軍の遠距離攻撃でヤドリ天帝を狙うが、残ったジャックバグの兵士たちがハジメへの攻撃をやめ、盾となって攻撃を妨害する。

 その間にゲートは更に閉じていき、ヤドリ天帝の姿も扉の向こうに消えていく。

 

「どうするかハジメ殿 奴らを追うべきか?」

 

 アシミーの問いにハジメは、この止まらない揺れとヤドリ天帝の言葉から、この地下施設が崩壊する事は確信できた。

 今ヤドリ天帝を追うべきかどうかハジメは悩むが、この場にはメカトピア兵達がたくさんいる事で、それを見捨てて身勝手にヤドリ天帝を追う事は出来ない。

 

「脱出しましょう。 逃げたヤドリも地上に出るなら仲間が逃げられないように捕捉してくれるはずです。

 まずはこの崩壊する地下施設から全員の脱出を優先します」

 

「わかった、まずはどう行く」

 

 ハジメは地図を見て脱出ルートを考える。

 地下施設は入り組んでいる。

 地図を見ながら出ないと真っ直ぐ出口にたどり着けない。

 

「…アシミーさん達が来た通路を逆走しましょう。

 まずは少し戻った大きな吹き抜けの縦穴まで行きます」

 

「わかった。 総員転進! 駆け足で来た道を戻れ!」 

 

 メカトピア兵は流石軍隊という様子で、キビキビと動いて流れるように来た道を進んでいく。

 普通の集団行動であればどこかで動きに滞りが出来てスムーズに動けないものだ。

 精鋭の軍隊らしい動きに、ハジメも流石と余裕がないのに感心してしまう。

 早くいけと言わんばかりに、再び天井の一部が崩れて落ちてくる。

 

「あまり時間はなさそうだ。 我々も急ごう」

 

「はい」

 

「ファースト、彼らに負けない隊列行動をジムに取らせろ」

 

「了解です」

 

 メカトピア兵の後にハジメ達主要メンバーが続き、その更に殿にジム部隊が隊列を組んで追いかける。

 崩壊の始まった部屋には、戦闘によって破壊されたジャックバグの兵だけが残った。

 

 

 

 

 

 


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