ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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 鉄人兵団の終わった直後に更新したかったのですが、書き上げるに随分掛かってしまいました。
 これにて【超劇場版大戦】は完結とさせて頂きます。


おまけ
パラレル遭遇記 前編


 

 

 

 

 雲の王国の事件を解決し、もしもボックスの可能性を探るために魔界大冒険の事件に自ら関わって解決させた後の事だ。

 元の科学の世界に魔法の力を持ち帰る事に成功したハジメ達が、魔法の練習とそれを可能にしたもしもボックスの応用の研究をしていた。

 バードピアに拠点を移したハジメ達は今後は表の地球にあまり関わることなく、秘密道具を使って自分たちの楽しみを謳歌しようと思っていた。

 

 この日もコピー達による人海戦術で新しい魔法の練習をしたり、もしもボックスの作り出すパラレルワールドのタイムマシンなどによるアプローチの方法について実験を行なっていた。

 バードピアにはハジメ達以外には、バードウェイを通じて地球と行き来出来る鳥たちしか来ることが出来ない。

 鳥人たちもいないので何も起こる事はないと思っていた。

 

――…ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「ん? なんだ?」

 

「どうした?」

 

「なんか音が聞こえないか?」

 

 外で魔法の練習をしていたハジメの一人がその異変に気付く。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「やっぱり音が、いや地震か?」

 

「確かになんか揺れている気がするな」

 

 バードピアも地球に並列した世界とはいえ惑星である。

 地震が起こってもなにもおかしい事ではないとハジメ達は最初は思ったが、通常の地震とは違い長々と振動と音が響き続けている。

 

「なんかおかしくないか? 揺れも振動音もずいぶん長く続いている」

 

「まさかどこか火山の噴火でも起こるんじゃないか?」

 

「直ぐにでも全員集まった方がいいな」

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――

 

 一向に収まる様子を見せない振動はどんどん強くなるばかり。

 一度全員集まって警戒しようと思ったところで、一人のハジメが気付いた。

 

「ちょっと待て! これ、普通の地震じゃないぞ!」

 

「だからそういってるだろ」

 

「ちがう! 今、僕空飛んでるよな」

 

「ああ、箒で飛んでるな」

 

 魔法の練習の一つとして飛行の為に箒を用意していた。

 何か遠くで異変が起こっていないか確認しようとしたハジメが、箒に乗って空に浮かんだのだがその時に気づいた。

 

「揺れてるんだ!」

 

「知ってるよ」

 

「そうじゃない! 宙に浮いているのに揺れを感じるんだ!」

 

「はあ!?」

 

 浮いているものまで振動を感じるなど、地震とは言えなかった。

 

「それに周りをよく見てみろ! 振動を感じるのに置いてあるものはどれも揺れで動いてない。」

 

「…確かに揺れてない。 やっぱりおかしいぞ」

 

「直ぐに会長に合流だ! 最悪時空船で即座に逃げるぞ!」

 

 何が起こってるか分からない未知の事態に、バードピアからの脱出を考えて動き出す。

 混乱してようやく動き出した段階で、謎の振動にも新たな変化が起こり始めていた。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……――

 

「…収まった?」

 

「一体何だったんだ」

 

「明らかな異常事態だった。 何にもなかったとは思えない」

 

「情報課を再結成して調査しよう」

 

 原因を究明するために、ハジメ達は再度それぞれの役職を定めて調査を開始した。

 

 

 

 

 

「先の地震の正体がわかった。

 時空間に異常が発生した時に起こる時空震と呼ばれるものだ」

 

 事件の時と同じようにオリジナルである会長を中心に会議を行ない、調査結果の報告を情報課の課長としての役についたハジメが説明をする。

 

「時空震だって? 時空乱流でも起こっているのか?」

 

「時空間の異常って、南海大冒険を思い出すが…」

 

 その事件は映画において未来人の仕業だったために、この世界では起こらなかった事件だ。

 ドラえもんの映画は時間移動をする際に時空間の異常に遭遇する事がよくあった。

 原因はあったりなかったりするが、時空間に突然異常が起こるのは何も不思議な事ではないのだ。

 

「結論から言えば時空間の異常が原因ではない。

 過去の変更による歴史改変が地球で起こり、その影響で時空震が起こったんだ」

 

『!?』

 

 過去の改変。 それはつまり時間移動によって何者かが過去にたどり着き、歴史を変える事に成功したという事だ。

 歴史を変えるなど時間移動を行う上で最もやってはならない事だが、やれるのであれば人間は間違いを犯すだろう。

 問題は誰がそれを行なったか。 そして自分たちの脅威になるのではないかとハジメ達は危惧した。

 

「一体誰がどんな歴史改変を行ったんだ」

 

「僕らへの影響は?」

 

 歴史改変が出来るという事はタイムマシンがあるという事。

 地球の地底人たちがタイムマシンを開発したので、出来ない事はないと分かっていたが、誰か分からない存在が歴史改変を行なったというのは肝を冷やす話題だ。

 ある日突然自分の過去が改変されて、歴史から気づくことなく消されてしまうなど恐ろしすぎる。

 何としても対策を取っておかなければならない。

 

「調査の結果、地球側に大きな異変が起こっているが僕らへの影響はほとんどない。

 異変もそのうち勝手に解決すると予想できる。

 明らかになっていない事はまだあるが、僕らへの脅威は全くないとみていい」

 

「なんでだ?」

 

「これを見てくれ」

 

 課長がモニターに映像を映し出す。

 そこには地球の日本の都市部が映し出されるが、ビル群に見合わない建物がある事に気づく。

 

「奇妙な木造の塔があるな。 五つ以上あるけど五重塔みたいな感じの」

 

「いや、外壁が赤くて中華風に見えるが」

 

「おい、これって…」

 

 都市部に出来た異様な中華風の赤い塔に見覚えを感じたハジメ達。

 

「察しの通り、パラレル西遊記の現代の人間が妖怪に入れ替わってしまった時に出来た建物だ。

 僕も直ぐにわかって今の地球の人間を調査したら、みんな妖怪になっていた。

 みんな一見人間の姿をしているが、感情が高ぶったりふとした拍子に本性が表に出て、妖怪らしい姿を見せる者が何人もいた。

 誰もそれを驚かないから、それが当たり前の社会になっているんだろう」

 

 モニターに記録出来た人間から妖怪に変わる地球の人たちの姿が次々に映し出される。

 ここまでくれば原因はパラレル西遊記と同じであろうことは予想が出来た。

 

「すごいことになっているな」

 

「しかし何でこんなことになったんだ? 創世日記の時みたいに後から自分達で事件を起こすからか?」

 

「それなら課長がそのうち勝手に解決するって言うのも、わからないでもないけど」

 

「あの振動が世界の歴史改変の影響だとしたら、僕らがそれに巻き込まれなかったのも気になる」

 

 一つの疑問が明らかになったら、多くの疑問が新たに生まれてくる。

 ハジメ達は口々に疑問を浮かべるが、課長のハジメが話を続けるために手を鳴らして注目させる。

 

「それ等の疑問は全て調査中だ。

 気になるなら情報課に応援に入って調査を手伝ってくれ。

 それで最後になるが、歴史の改変が起こった起点となる時間。

 実在の三蔵法師が旅を続けているところを調査したところ、こんな映像が映った」

 

 課長が新たにモニターに映した映像に、ハジメ達の視線が再び集中する。

 そこにはのび太が孫悟空の格好をして金角銀角と対峙している姿があった。

 その映像にハジメ達も流石に呆然となるしかなかった。

 

 

 

 

 

「あそこにドラえもん達がいる訳か。 実際に会うとなるとドキドキしてきた」

 

「大丈夫でござるか、殿」

 

「大丈夫だ。 しかし砂漠にあの豪勢な建物は似合わないな」

 

「彼らといえども普通の子供でござるからな。 辛い砂漠を夜くらい快適に過ごしたいのでござろう」

 

 日が暮れようとする砂漠の大地にポツンと豪華な宮殿風の建物が建っている。

 ドラえもんが出した【デラックス・キャンピングカプセル】であり、のび太達はここで一泊するようだった。

 

 ここは三蔵法師が旅をした昔の中国・唐の時代。

 会議で過去にドラえもん達がいる事を知ったハジメ達は、様々な調査の結果の末に接触を図る事にした。

 歴史改変の原因が映画同様に彼らにあるなら、何事も起こらなければそのまま事件を解決する筈だと課長は言い、会議に参加していたハジメ達も同意した。

 

 つまり事件解決の為には接触を図る必要はないのだが、邪魔にならない程度であれば会いに行っても問題ないと、タイムマシンでこの時代へやってきた。

 ハジメ達の予測では彼らが過去にいるのは歴史の改変が原因だからであり、元に戻れば会う機会はなくなる。

 それはもったいないと彼らが休んでいるタイミングに来たのだ。

 

「じゃあ行くよ」

 

 ハジメはドラ丸を連れ立ってキャンピングカプセルの前まで来る。

 

――コンコン――

 

「ごめんくださーい」

 

『はいはい、どちら様ですか』

 

「普通にノックしたのでござるな」

 

「別に問題ないだろ」

 

 

 

 ドラえもん達は金角銀角に襲われていた三蔵法師を助けて、妖怪達をヒーローマシンで回収する為に探し回っていたが、日が暮れて砂漠の中でキャンピングカプセルで休んでいた。

 晩御飯を食べて終えて後は休みだけとくつろいでいた所に玄関の扉がノックされた。

 

「はいはい、どちら様ですか」

 

「誰だろう、こんな時間に」

 

 ドラえもんが当たり前に客の応対をしようと玄関に向かう。

 のび太が誰が来たのだろうと普通に疑問が思う。

 

「待って、ドラえもん!」

 

「どうしたの、スネ夫君?」

 

「おかしいよ、ここは中国の砂漠なんだよ。

 お客さんなんか来るわけないじゃないか」

 

「言われてみれば確かに」

 

 砂漠にぽつんと立つデラックス・キャンピングカプセルは異様だ。

 普通の人間なら警戒して近づかないのではないかと察する。

 

「もしかして妖怪かしら」

 

「それならノックなんてするかな?」

 

「わからないよ。 僕らを油断させるための罠かも」

 

「よし、俺が相手になってやる」

 

「皆、落ち着いてよ」

 

 警戒し始める皆にドラえもんは落ち着くように言う。

 

「とりあえず僕が出るから、皆は念の為武器を持っていてくれ」

 

 ドラえもんに従ってのび太、スネ夫、ジャイアンはそれぞれ孫悟空、沙悟浄、猪八戒の武器を手にする。

 しずかも三人の後ろに下がって警戒する。

 

「じゃあ、開けるよ」

 

 全員が頷いて答えるのを確認して、ドラえもんは玄関の扉を開いた。

 そして外にいた人物に全員が驚く。

 

「「「ドラえもん!?」」」「ドラちゃん!?」「僕!?」

 

 ドラえもんに着物を着せて猫耳とチョンマゲを付けた姿のドラ丸に驚嘆の声を上げる。

 隣には【ヒーローマシン】でのび太と同じように孫悟空コスになったハジメもいるのだが、ドラ丸の方が彼らにはインパクトが強かった。

 

「やっぱりドラ丸の姿の方が驚くか」

 

「その様でござるな」

 

「ちょっと君たちに話があってきたんだけど、中に入れてくれるかな」

 

「は、はい、どうぞ…」

 

 ドラえもんは混乱しながらも妖怪ではないと分かり、ハジメとドラ丸を中に入れた。

 

 キャンピングカプセルの中に入りドラえもん組とハジメ達は机に座って向かい合っている。

 ドラえもんそっくりのドラ丸にのび太達はまだ呆気に取られているが、ドラえもんだけは顔を青褪させて狼狽えている。

 その尋常じゃない様子にのび太が気付く。

 

「どうしたのドラえもん。 確かにドラえもんそっくりでびっくりだけど、そこまで驚かなくても」

 

「そうじゃないよのび太君。 僕そっくりって事はね…」

 

 青褪める理由を答えようとするが、言い辛い様子で途中で口を紡いでしまう。

 その様子にのび太は首を傾げるが、とりあえず話し合いにハジメ達の方を向き直った。

 

「まずは自己紹介をしておこう。 僕はハジメ、こっちは護衛役のドラ丸だ」

 

「ドラ丸と申す。 殿の護衛を務めているでござる」

 

「護衛役?」

 

 護衛役という事に不思議そうに言葉を漏らしたのび太?

 

「何かおかしいでござるか?」

 

「だって、ドラえもんそっくりだから、あんまり強そうには見えなくって」

 

「まあ、確かに」

 

「護衛ってんなら、もっと強そうなロボットがいいよな」

 

 のび太、スネ夫、ジャイアンがドラえもんとそっくりのドラ丸があまり強そうには見えないから、そんな感想を漏らしてしまう。

 その答えにドラ丸は少しムッとするが、似た姿のドラえもんも普段であれば多少腹を立てるところだが、今はそれどころではないと言った様子でフォローする。

 

「み、皆駄目だよ、初対面の人に!

 自己紹介されたんだから、こっちもちゃんと自己紹介しなきゃ!

 皆がすいません! 僕ドラえもんです」

 

「あ、ごめんなさい。 僕、のび太って言います」

 

「私はしずかです」

 

「スネ夫」

 

「俺はジャイアンだ」

 

 ドラえもんに注意されてバツが悪かったのか、続けて素直に自己紹介をした。

 

「よろしく。 だがドラ丸はこう見えて強いよ。

 こういった平和じゃない時代や危険な場所に行くときには、安全の為に必要不可欠な存在だからね」

 

「殿は用心深いでござるからな」

 

「平和じゃない時代にってことは、あなたはやっぱり…」

 

 ドラ丸の存在からなんとなく察していたのび太が、ハジメ達が何処から来たのか確信に迫る。

 

「ああ、僕らも未来からやってきた。

 切っ掛けは僕らの時代で起こった歴史変動による大きな時空震だ。

 僕らは人里離れた場所に住んでたんだが、そこで地震のような大きな時空の揺れに見舞われた。

 調べてみたら地球の人間が全て妖怪に変わってしまっていて、原因の歴史変動を過去に遡ってタイムテレビで調べてみたら君たちがいたってわけだ」

 

 未来から来たことをハジメが告げた直後。

 

「ご、ごべんなざい~~~!!」

 

 ドラえもんがだみ声で泣きながら頭を深々と下げて謝る。

 

「ドラえもん!?」

 

「僕が悪い"んです! のび太君の頼みを聞いて道具を変な事に使おうとしたばっかりに…」

 

 ハジメはその様子に目を丸くして驚いているが、ドラえもんは責任を感じていた。

 のび太達は悪く言えば共犯者のようなものだが、歴史の変化を認識しているハジメはドラえもんから見れば迷惑をかけてしまった無関係の被害者だ。

 原因を解決すれば無かった事になると思っていたが、ハジメと言う第三者が現れた事でトンデモない事をしてしまったと改めて認識して罪悪感でいっぱいになっていた。

 

 故意ではなく取り返しが着くとはいえ、歴史を大きく変えてしまうのはドラえもんの居た未来では重罪なのだ。

 同じく未来から来たハジメに誤魔化す事は出来ないと、ドラえもんは謝るしかないと思っていた。

 

「一体どうしたのさ!?」

 

「歴史をこんなに大きく変えてしまうのは、未来では間違いなく重罪なんだ。

 直ぐに元に戻せば何とかなると思ってたけど、同じ未来人が来たんじゃもう隠しようがないんだ。

 やってしまった事の責任を取らなきゃいけない」

 

「責任!」

 

「責任は全部僕にあります! のび太君達は悪くないんです!

 だから罰を受けるのは僕だけで許してください!」

 

「そんな、ドラえもん!

 ………ドラえもんが悪いんじゃないんです!

 僕が変な我儘を言ったばっかりにこんなことになったんです。

 歴史はちゃんと僕達が元に戻しますから、怒らないでください!」

 

 必死に謝るドラえもんに、のび太も理解は及ばなくても大きな迷惑をかけてしまったのだと分かった。

 ドラえもんに罰を受けさせる訳にはいかないと同じように頭を下げた。

 

「の、のび太君…」

 

「僕がドラえもんに何とかしてって頼んだのが原因なんだもの。

 僕のせいでドラえもんに罰なんか受けさせられないよ」

 

「ねえ、ジャイアン。 僕たち悪くないよね」

 

「そ、そうだよな。 のび太が勝手にやったことだしよ」

 

「私からもお願いします!

 ご迷惑をかけてしまったことは謝りますから許してください!」

 

「「しずかちゃん! ………ごめんなさい」」

 

 スネ夫とジャイアンは自分たちは悪くないと謝る事を渋るが、しずかも謝ったことで同じように謝って頭を下げた。

 

 しかし当のハジメはまさか突然謝られるとは思っておらず困惑していた。

 確かにバードピアに時空震があったので影響を受けたと言えるが、対して迷惑を被っていないハジメは彼らを責める理由は全くないのだ。

 ちょっと様子を見に来る程度だったのだが、こんなことになってしまって逆に申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「ま、待ってくれ。 僕は別に君達を責めるためにここに来たわけじゃない。

 だから落ち着いて頭を上げてくれ」

 

 ハジメにドラえもん達を責めるつもりは一切ない事を伝えて全員を落ち着かせる。

 落ち着いたと思ったところで、改めてハジメから話を切り出した。

 

「地球の人間が妖怪になってしまった原因は、大体タイムテレビで把握している。

 確かに僕の世界の僕の時代は妖怪社会になってしまったが、この時代の原因のヒーローマシンのキャラクターを排除すれば元に戻るだろう。

 君達がその為に今動いているのも分かっているし、最悪僕が解決に力を貸せば済むことだ。

 大きな問題ではあるが取り返しが着くと分かっているから、今は君達を咎めるつもりはない。

 だから安心してくれ」

 

「よかった、一時はどうなる事かと」

 

「よかったわね、ドラちゃん」

 

「ホントだよ、僕たちは巻き込まれただけなのに

 ねえジャイアン」

 

「そうだぞ、元はと言えばお前が悪いんだぞ、のび太」

 

「皆、僕の為に一緒に謝ってくれてありがとう」

 

 何も罰を受ける事は無いと分かって安心するのび太達。

 そんな中で庇おうとしてくれたことに感動するドラえもん。

 ハジメもまた彼らの友情に本当にドラえもんの世界に入り込んだような感動を覚える。

 

「(子供故に考えが足りない迂闊な行動の結果が今の状況だが、それ故に純粋で真っ当な友情というものが感じられるな。

 突然謝られた時は困惑したが、真剣に友を思い合う彼らの姿を見れたと思えば幸運だ。

 当たり前の事でも誰かの為に懸命になる姿はやっぱり主人公たちだな。

 こんな純粋さは僕ではやっぱり真似出来そうにない)」

 

 そんなドラえもん達の姿を見れただけで十分だとハジメは思う。

 彼らだからこそ自分の解決してきた多くの映画の事件は、人情味のある奇跡の様な結末を迎えられるのだろう。 自分の世界は自分の世界だと思うが、彼らの様にはなれないという劣等感のような憧憬を素直に受けとめていた。

 

「落ち着いたところで、話を続けようか。

 君らが歴史を元に戻そうとしているのは分かっているし、僕はその様子を見に来ただけなんだ。

 歴史変動の原因のヒーローマシンの妖怪は、親玉の牛魔王を倒せば力を失う。

 そうすれば未来の世界が妖怪の社会になる事もない」

 

「じゃあ牛魔王さえ倒せば、歴史が元に戻るんですね」

 

「そうだ。 君達がそれを出来なかった場合は僕らが何とかしようと思ってここに居る」

 

「じゃあ、貴方は手伝ってくれないんですか?」

 

 スネ夫はハジメが手伝ってくれないことを不満に思って言う。

 

「スネ夫君。 こうなってしまったのは僕たちのせいなんだ。

 僕等でどうにかしなきゃいけない。

 失敗したら何とかしてくれるだけでも感謝しなきゃ」

 

「そうだけどさ、僕らは子供なんだよ。

 大人がいるんなら任せるべきだよ」

 

「確かにそれは一理あるね」

 

 のび太達の冒険は、彼らだけが頼りだったりドラえもんの道具があればこその物語だ。

 大人がいるなら頼るのは当たり前だ。

 

「君らが自分で解決出来るならそれでいいが、僕らに任せると言うならそれでもいい。

 一切を任せたからって君らを咎めるつもりもない。

 どうするかい?」

 

 ハジメは自分達で問題を片付けてもいいとドラえもん達に言うと、彼らは少し迷った様子で話し合う。

 一番臆病なスネ夫は解決を任せたい様子だが、他の皆は迷っている様子だった。

 やがて相談を終えて、ドラえもんが代表として答える。

 

「やっぱりまずは僕等だけでなんとかしてみます。

 僕らが原因ですから僕達で出来るだけやってみたいんです」

 

「わかった。 それなら僕は様子見に徹しよう」

 

 当初の予定通り、ドラえもん達だけで解決に挑むことになった。

 本来の道筋にハジメは手を出さないつもりだが、別の見えない所で既に対処に回っていた。

 劇中で現れる妖怪は名前があるのは金角銀角、羅刹女、牛魔王くらいだが、ヒーローマシンのゲームの敵役としては数が少なすぎる。

 ゲームの中には敵はもっとたくさんいて、劇中で登場せずに各地の人間の村などを襲っていた。

 最終的に牛魔王を倒し全ての妖怪が力を失ったことで何処かで野垂れ死ぬのだろうが、犠牲者は少ない方がいいだろうとモビルソルジャーを派遣して処理させていた。

 いかに妖術があってもビーム兵器の前では瞬殺だったそうだ。

 

「ハジメさんも未来から来たんですよね。

 やっぱり僕と同じ22世紀からですか?」

 

「いや、時代的には僕はのび太君達とそんなに変わらない筈だ。

 だけど君らの世界と僕たちの世界はどうやら分岐した並行世界みたいなんだ」

 

「そんな馬鹿な」

 

「並行世界って何ですか?」

 

 驚くドラえもんの横で、のび太が素朴な質問をする。

 

「並行世界っていうのは、自分たちの世界とそっくりのいわばもしもの世界だよ。

 もしもボックスは知ってるかい?」

 

「うん。 何度か使ったことがあるよ」

 

「それを使って変わった世界も並行世界の一つだ。

 そしてヒーローマシンによって結果的に妖怪の世界になってしまった現代も、僕たち人間の本来の世界から見れば並行世界と言えるんだ」

 

「そうなんですか!」

 

「ああ、もしもボックスを使った場合に例えるなら、『もしも人間がみんな妖怪だったら』って感じにね」

 

「でももしそれが本当だとしたらおかしいですよ。

 歴史が変わってしまったのは、僕らの世界のこの時代が原因なんだ。

 ハジメさんの世界が別の世界なら影響が出るはずがない」

 

 ドラえもんの言う通り、ハジメは自身の世界の過去現在未来にドラえもん達は存在しない筈だった。

 故にパラレル西遊記の事件は起きない筈だったが、現実に起こって妖怪世界になった事でドラえもん達が存在するようになったのか調査した。

 その結果、ドラえもんの居る世界と居ないハジメの世界はある程度繋がりのある並行世界だった。

 ドラえもん達の世界が妖怪世界になったことで、ハジメの世界が巻き込まれる形で歴史が改変されて、妖怪世界という同一の世界となったのだ。

 

 並行世界というのは歴史の些細な違いで簡単に分岐して増える。

 ドラえもん達の居る世界が歴史のどこかで分岐して、ドラえもん達の居ない世界になったというのがハジメの考えだ。

 例を挙げるなら、以前ハジメ達の世界に来た昆虫人類達の世界との関係に近いと言える。

 親世界の歴史が変わったことで、子世界の歴史も影響を受けてしまったというのがハジメの考察の結論だ。

 

 元の歴史に戻れば、同じように世界が分岐して元通りの別々の世界に戻るだろう。

 以上の説明をハジメは出来るだけ簡潔に説明したが、ドラえもんくらいしかちゃんと理解する事は出来なかったらしく、のび太達は完全にちんぷんかんぷんになっている。

 

「というわけなんだけど………あまり理解は出来なかったみたいだね」

 

「つまりハジメさんは別の世界の人ってこと?」

 

「のび太君、それはハジメさんが既に言ってることだから。

 すみません、のび太君達には今の話は難しすぎたみたいです」

 

「いいよ、君らは未来のロボットと関係があっても普通の小学生みたいだからね」

 

 難しくて理解出来ない話ばかりしては意味はないと、ハジメは別の話題に変える事にした。

 ドラ丸はもともと未来のロボットではなくハジメが秘密道具を使って作ったものだと教えたら、ドラえもん達は当然のごとく驚いた。

 秘密道具はいろんなことが出来るが、ドラえもんと同じようなロボットまで作れるとは思っていなかった。

 

 なんでハジメがのび太と同じように孫悟空の姿をしているのかと問われると、この時代に散らばった妖怪に遭遇した時に、ヒーローマシンのキャラクターの力がなければ倒せないかもしれないと考えたからだった。

 事件は率先してドラえもん達が解決に動くし、遭遇しても護衛のドラ丸が強いので戦う事は無いだろうが、念のために同じようにヒーローマシンを使ったのだと答えた。

 もちろん妖怪が逃げ出さないように入り口はちゃんと閉めたとハジメが冗談交じりに言うと、それで失敗したドラえもんは申し訳なさそうになってしまうのだった。

 

「秘密道具の使い方を誤れば大変な事になってしまうのは、今回の事でわかったと思う。

 本来はただ遊ぶことが目的のヒーローマシンからゲームのキャラクターが出てきて暴れるなんて、安全面で問題のある秘密道具は数多くある。

 だけどそれは同時に、秘密道具には多くの可能性があるのだと僕は考えている」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 秘密道具はタダの道具として使っているドラえもんは、ハジメの含んだいい方に不思議そうにする。

 

「今回はヒーローマシンから出た妖怪が過去で広まったことで歴史改変なんて事態になってしまったが、その意味を見方を変えて考えてみれば非常に面白い結果だと思うんだ」

 

「面白い結果?」

 

「そんなことないよ。 僕のママなんか頭から角を生やしていつもよりずっと怖かったんだよ」

 

「私のママや先生だって怪物に変身して」

 

「僕のママだってあんな姿になって…、ママ~~!」

 

「へんっ、そんなもん大したことねえよ。

 俺の母ちゃんなんか普段から妖怪なんかよりずっと怖えのに、妖怪になって………

 オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ!!!!!」

 

「な、何があったのジャイアン…」

 

「お”、思い出させんな!!」(ガクガクブルブル)

 

 恐ろしさのあまりに思い出しただけで奇声を上げるジャイアンに、全員が引いていた。

 ここまで恐れるなんて何があったんだと聞きたくなるが、同時にとても恐ろしくて誰もそれ以上聞こうとはしなかった。

 

「ま、まあ君らにとっては身内が妖怪になってしまったんだ。 笑い事じゃないんだろう。

 だけどそれこそおかしいとは君達は思わないかい?」

 

「何がですか?」

 

「過去に妖怪を放ったことで世界を支配されてしまうのだろうが、その結果現代の人間がそのまま妖怪になってしまうのは可笑しいだろう?

 過去が妖怪の世界になってしまったら、人間の歴史は滅茶苦茶になって現代文明が築かれるとは思えない。

 なのに君達の家族の様に人間と変わらぬ姿のまま妖怪になっているのは可笑しいとは思わないかい」

 

「まあたしかに」

 

「最初はみんな妖怪になってるなんて気づかなかったもんね」

 

「なんでかしら?」

 

「どうでもいいぜ。 早く母ちゃんが怖くなくなるなら………やっぱ人間の母ちゃんでも怖え!」

 

 元に戻った母親の姿を想像しても、やっぱり怖いとジャイアンは頭を抱える。

 どれだけ怖いのかと誰もが気になってしまうが、忌避感を感じてやはり誰も聞かなかった。

 

「………人間の世界から妖怪の世界に変わっても地球の歴史そのものが大きく変わらなかったのは、おそらく歴史の修正力が働いたのではないかと思っている」

 

「そうか、歴史の修正力か」

 

「う~ん…? ドラえもん、何を言ってるのかさっぱりわからないよ」

 

 ドラえもんだけはハジメの説明を理解しており、何が何だか分からないのび太に説明する。

 

「昔僕がのび太君の所に来た時に、セワシ君が説明したことがあっただろ。

 地球の歴史は過去を少しばかり変えても100年後の未来の歴史には大きな変化がないって。

 人間が全て妖怪になってしまうのは大きすぎる変化だけど、のび太君の時代には元の世界と大きな変化はなくなってるってことだよ」

 

「皆妖怪になっちゃってるのに?」

 

「う~ん、地球の歴史から見れば人間でも妖怪でもあまり関係ないのかもしれないね」

 

「人間が妖怪になってしまう事を受け入れれば、案外これまでと変わらず生きられるかもしれないよ」

 

「いやだよそんなの。 それに僕たちは人間なんだよ」

 

「今はそうかもしれないが、歴史変動の影響で僕達も時間が経ったら妖怪になってしまうかもしれないよ」

 

「そうなの!?」

 

 ハジメの説明に声を上げたのび太だけでなく他の皆も顔を青ざめる。

 

「元の時代に妖怪になった家族はいても、妖怪になった自分たちはいなかっただろう?

 それは君達が間違いなく彼らの家族だからで、妖怪も人間も関係なく二人といない唯一の存在だからなんだ。

 人間のままなのは歴史を変えた張本人達で、歴史を元に戻せる可能性があるから影響を受けるのが遅れてるんじゃないかな。

 時間が経てば僕等の生まれという人生の歴史も歴史変動の影響を受けて、その内角が生えたりして妖怪になっちゃうんじゃないかな」

 

 自分も妖怪になると言うハジメはそれを気にした様子もなく笑っていた。

 スネ夫は慌てた様子でバッと椅子から立ち上がる。

 

「じょ、冗談じゃないよ!

 僕は嫌だよ、妖怪になるなんて!

 そうなる前に早く妖怪を何とかしなきゃ!」

 

「慌てなくても大丈夫だよ。 妖怪化するとしたらおそらく何らかの兆候がある。

 今のところ全く影響は出ていないから、変化が起こるとしたらまだ時間の余裕がある。」

 

 歴史の変化で自身の存在が消えかかるというタイムトラベル事故は良くある話だ。

 その場合消滅するまでの猶予があり、その間に歴史を元に戻せば消滅は免れるといった展開は鉄板だ。

 過去の変化させたことで自己を消滅させてしまえば、過去を変えたのは誰なのかというタイムパラドックスになる。

 歴史もそんな矛盾を望まないだろうし、何とかしようとすれば修正力も後押しして歴史を元に戻す事は難しくないだろう。

 

「それに歴史の変化の影響力を受けるとしたら、変化が既に起きている現代でだ。

 この時代なら歴史の変化が起こる前で元に戻せる可能性が残っているから、妖怪化する可能性はより低いと思う」

 

「はー、よかった。 脅かさないでよ」

 

「全くスネ夫は臆病だな」

 

「ジャイアン、さっきまで妖怪の母ちゃん怖いってビビってたくせに」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんにも」

 

 妖怪になる可能性はあるが、今のところ心配ないと安心するスネ夫達。

 

「まあ、こちらは時間移動による歴史変化の不思議な話になんだけどね。

 ヒーローマシンの可能性は、出てきた妖怪が人間に成り代われたという事だ」

 

「そりゃあ、普通の人間が妖怪に勝てる訳ないよ。

 戦っても負けてしまうのはしょうがないんじゃない?」

 

「人間が妖怪に勝てないという話じゃなくて、妖怪が人間の代わりに成れたって事が不思議なんだ。

 現代の人たちはみんな妖怪に変わってしまったけど、ヒーローマシンから出てきた妖怪とは明確に違う事があるんだ。

 わかるかい?」

 

「「「「?」」」」

 

 のび太達はハジメの質問にすぐには答えが浮かばないようで疑問符を浮かべる。

 

「ヒーローマシンから出てきた妖怪たちは、あくまで妖怪という役割を与えられたゲームのキャラクターなんだ。

 本物の妖怪とは言えない、妖怪という設定をプログラミングされた作り物なんだ」

 

「言われてみれば確かに」

 

「ヒーローマシンから出てきたから、本物の妖怪じゃないんだよね」

 

「現代の妖怪になってしまった人たちのように、親から生まれて育った普通の生き物じゃない筈なんだが、その妖怪たちによって現代になる頃には妖怪社会が出来てしまう。

 つまりヒーローマシンの妖怪たちは外の世界に出た事で、人間に成り代わる事の出来る新たな種へと確立したんだ。

 ゲームの設定で出来た存在が外に出た事で本当の生き物になるんだよ。

 これって凄いとは思わないかい」

 

「それは確かにすごいかも…」

 

 話は何とかついてきているが、その凄さが理解出来ないようでのび太の返答は歯切れが悪い。

 

「うーん、どうにもヒーローマシンの凄さがうまく伝わらないみたいだ。

 今の君達は西遊記のゲームのプレイヤーとして、設定されたキャラクターの力を使うことが出来るだろう。

 同じように妖怪達も妖術という設定された力を使うことが出来る。

 ヒーローマシンのカセットは人の手によってプログラムされた物だ。

 つまり設定さえすればヒーローマシンのゲームのキャラクターはどのような力でも持つことが出来るようになる。

 君達の知っている漫画のキャラクターの設定を組み込んだカセットを自作すれば、ヒーローマシンで自分たちが使えるようになるかもしれないってことだ」

 

「それは凄いんじゃない!」

 

「確かにスゲーなそれは!」

 

「じゃあさじゃあさ、もっと強いキャラクターの力をヒーローマシンで使えるようになれば妖怪なんか簡単に倒せるんじゃないかな」

 

「それだ! あったま良いなスネ夫!」

 

 自分たちの分かりやすい説明を受けた事で、のび太達もヒーローマシンの可能性に興味を示す。

 ハジメも事件になるはずの無かった映画の秘密道具なので未調査だったが、カセットを自作出来るならどんな力も宿す事の出来る特殊性最上級の秘密道具ではないかと考えている。

 【ウソ800】や【魔法事典】、【もしもボックス】のような使い様によっては何でも出来る道具を、ハジメは最上級秘密道具として取り扱いに注意している。

 

「ドラえもん、他のカセットでもっと強くなれるものはないの?」

 

「僕が前にやってた剣と魔法のファンタジー物があったけど…」

 

「あ、それ僕やりたい!」

 

「いや俺だ!」

 

「僕だってやりたいよ」

 

「お前は孫悟空なんだからいいだろ」

 

 ヒーローマシンで別のキャラクターの力を使いたがるのび太達。

 可能性の話をしたことで興味を持ってしまったのび太達に、余計な事を言って物語の流れを変えてしまったかと、少し迂闊だったと自覚するハジメ。

 

 結局スネ夫とジャイアンは別のカセットの主人公の力を使う事になり、孫悟空ののび太と妖怪を誘き寄せるための三蔵役のしずかはそのままという事になった。

 自身の失言で、この後の大筋の流れに大きな変化がない事を祈りながら、ハジメはドラえもん達に別れを告げてキャンピングカプセルを後にする。

 失敗をしてしまった分フォローが必要であれば直ぐに手を出せるように、ハジメはタイムテレビで彼らの動きを注視する事にした。

 

 

 

 

 




 ドラえもん達を登場させましたが、彼ららしさを表現で来ていたでしょうか?

 自分の場合のアニメのドラえもんのイメージですが、大山のぶ代さんの声ですと大きなだみ声でわんわん泣くイメージが強くて、現在の水田わさびですと『アアーー!!』と言って飛び上がりながら驚くイメージなんですが、皆さんはどうでしょうか?

 書いている内にヒーローマシンの可能性にも気づいて、よく考えたらこれもすごいひみつ道具なんじゃないかとのび太達に説明する形で語りました。
 ゲームキャラの妖怪が外に出てくれば本当に妖術を使える妖怪になるなら、プログラムを設定すればどんな生き物も作り出すことが出来るってことですよね。
 のび太は如意棒と筋斗雲しか使っていませんでしたが、それだけでも使えるようになるなら、ヒーローマシンの凄さがわかるというものです。

 ヒーローマシンを使って今後のネタにしてみたいですが、今のところ思いつかないですね。
 秘密道具はいろいろなことが出来るから、逆に何をしたら面白いか考え込んでしまいますね。


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