出会わないのは間違っているだろうか   作:なんちって

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2話

食堂に集まったロキファミリアの団員達は目の前に出されている料理に自然と唾を飲み込んだ。

 

目の前には、きっとお得意先のデメテルファミリアから仕入れたであろう彩りまで考え抜かれ、目で楽しむことも出来るサラダの盛り合わせに、昨日の晩から煮込み旨味を抽出した鶏ガラと牛乳を混ぜ合わせたクリームスープ、メインを飾るのは見た目からしてフワフワなスクランブルエッグが湯気と悩ましい程の匂いを立ちのばらせていた。

 

もう、待ちきれないとばかりにチラチラと視線を投げかけてくる団員達に、彼ーーフィン・ディムナは苦笑いと共に朝食を食べる事を許可する。

 

団員達の己が欲求を満たす為に自然と早くなる箸を眺めながら彼は考察する。

 

自分と幹部の目の前に鎮座する、ジャガ丸くんとその作り手について。

 

作り手ーー彼の名前を『狐』とフィンを含め主神であるロキですら、そう呼称する。もちろん本名な訳もなく、彼のトレンドマークと言っても過言ではない、顔に着けている狐のお面を由来とした呼称であり、彼の本名は主神のロキとファミリア古参のフィンとガレス、リヴェリア以外には知りえていない。本人も()()()()()()()自分の名を明かそうとはせず、結果狐の呼称が定着してきていた。

 

そもそもフィンと狐の会合は唐突でロキが彼等の前に連れてきて『こいつをうちのファミリアの専属料理人にする!異論は認めへん!』と言い放ったのが最初の出会いだった。

 

ロキの奇行には慣れているつもりだったけど、あの時は流石に僕もリヴェリアもガレスも呆けたなあ。

 

と、彼は当時の記憶を蘇らせ密かに苦笑いしていた。

 

「団長?どうかしましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

そうですか、とフィンの右隣に勝手に席を作り座る、ティオネが笑顔で接してくる。本当に良く見てるな、とフィンは内心で冷や汗をかいていた。

 

彼女ーーティオネ・ヒリュテはフィンを恋い慕っている。それはそれは盛大にフィンに好意を抱いているティオネはその想いの丈から、激しくフィンにアプローチをかけていた。

 

具体的な事例は、朝食に巨黒魚(ドドバス)の丸焼きを出したり、食事時に手ずからフィンに食べさせようとするーー所謂、あーん。を強用したりと、周りが若干引くほど露骨で過激なアプローチは彼女の種族アマゾネスの特色なのだが、これに正直フィンはどう対応するべきなのか頭を悩ませていたのだが、これが思いもよらぬ所で解決とまではいかないが改善された。

 

フィンも詳細までは知らないが、狐がロキファミリアの専属料理人に赴任してきて、直ぐにティオネと一悶着あったらしく、その結果ティオネ・ヒリュテはフィン・ディムナへのアプローチの仕方を変えた。

 

一言で表すなら献身的になった、と言うべきだろう。いや、もちろんそれまでが献身的ではないのかと言われればそうではないのだが、より相手のことを考えるようになったと言い換えるのが一番しっくりくるだろう。その上で自分の好意をぶつけ、時にはグッと堪えて引くこともできるようになったのだ。

 

彼女は何故か狐とのやりとりでかなり女性らしい身のこなしと、駆け引きを覚えたのだ。

 

フィンはそれに戸惑いを隠せず、結果効果ありと感じたティオネは今では狐を師匠(せんせい)と呼ぶにまでいたっている。何がそこまで彼女を変えたのかは狐と彼女のみが知ることである。

 

ーー閑話休題(それは置いといて)

 

随分と思考が逸れてしまった、とフィンは改めて狐のことを考え始める。少なくとも思考が逸れてしまう程度にはティオネのやり方が効いてることの証なのだが、そのことに本人が気付くのは、当分先のことだろう。

 

改めてフィンは狐の歩んできた()()を思い出すと同時につい先日ロキが漏らした言葉を思い出した。

 

『ーーもったいないなぁ…。』

 

フィンは心の中で、よしっと一つの決意を固めジャガ丸くんを口の中に放り込み咀嚼する。

 

ごちそうさま、と静かに告げて席を立ち食器を下げる。そのまま厨房へと行くと狐は下げられた膨大な食器を丹念に洗っていた。黙々と仕事に励む姿に声を掛けようとして、少し躊躇ってしまう。

 

「……どうした」

 

「いやなに、毎日おいしい朝食を準備してくれる君に偶には労いの言葉でもかけようかと思ってね」

 

相も変わらず己が仕事から手を離さず狐は問うた。それに対してフィンは爽やかな笑みで返す。狐はぴたりと手を止めてフィンに向き合い、溜息を漏らす。

 

「それだけで私の元を訪れたりはせんであろうに。相も変わらず、汝はまわりくどい。早く用件を述べよ。見ての通り余り余裕はないのだ」

 

狐は下手な腹の探り合いのような会話が嫌いなのだろう。単刀直入に訪ねた。

 

「それはすまないね。それじゃあ、手短に。この後、僕の執務室に来てくれ。用件はその時に話すよ」

 

「あいわかった。仕事が終わり次第向かうとしよう」

 

言い切るや否や、仕事に戻る狐の姿にフィンは肩を竦めておどけた。こんな態度で何故女の駆け引きの知識を保有しているのか酷く気になったが、質問しても取り合ってもらえないと知っているので、フィンは厨房を後にしたーーー。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

彼女ーーロキは自室で何時も女性団員にセクハラ行為をしている時の下衆な顔からは、想像もつかないほど真剣な顔で思い悩んでいた。

 

ロキは自分の眷族を愛しているし、信じてもいる。だからといって、間違いを正さないわけではなく、道を踏み外しそうな団員はしっかりと引き戻すし、思い悩んでいる団員には道を示してやることができる。実際ロキによって救われた人間は多い。天界から付き合いのある神は彼女のことを変わったというほど、彼女は慈悲深く、団員に愛を注いでいる。

 

つまり、彼女が思い悩んでいるときは大抵が団員やファミリアのことについてなのだ。しかし、今回は少し違った。

 

何故なら今回の悩みの種は、()()()()()()()()()()()()()

 

ーーそう、ロキは狐のことで頭を悩ませていた。

 

ロキは団員が運んでくれた、もう空になった料理に視線を投げた。

 

彼女の瞳は空の皿を通して、それを作った人物と交わした約束を思い出していた。

 

ロキがこんなにも思い悩んでいるのはこの約束に抵触する事柄だからなのだが、結局どれだけ考えても堅苦しいく誠実な性格の彼が許してくれるはずもないという結論に陥ってしまう。

 

「うがぁあああ!!こんな無理ゲーやろっ!」

 

最終的に悠久の時を生きる神は、その難しさに叫びを上げてベッドに倒れ込むのだった。ボフンッと彼女の体重でベッドが沈むと同じタイミングでコンコンっと扉がノックされる。彼女はニヤリと笑い叫んだ。

 

「もーええわっ!あとはフィンに丸投げしたる!」

 

「……ちょっとは考えてくれてもいいんじゃないかな、ロキ?」

 

ロキの叫びを入室許可と取ったフィンが扉を開けて、苦笑いしながら入ってきた。ロキはゴロゴロと転がり、最終的にフィンの方向を見上げる位置で落ち着き、口を開いた。

 

「そんないゆーても、これはいくら何でも無理やろ。()()破りよるんはウチらのほうやねんからなー。」

 

「そうだね。正直に言うと僕もこれといったものはないんだよね」

 

「絶対無理やって!あの堅物は欲望では動かんやろ」

 

うぇ、めんどくさいなぁ。と愚痴を漏らすロキの言い分にフィンは、そうだね。と肯定で返した。

 

「でも、そんな彼だからこそ情や想いで動いてくれると思うんだ」

 

「そんな簡単なもんなんかなぁ」

 

「案外乗り気になって、すんなり承諾してくれるかもしれないしね」

 

さ、そろそろ時間だ。とフィンはロキに移動を促す。ロキは、そもそもウチがそんなに乗り気やないねんよな。とぼやきながら、半ばフィンに引っ張られる形で自室を後にしたーーー。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

彼、フィン・ディムナが立ち去ると私はまた皿洗いに従事した。手は決して緩めず頭の片隅で彼の要件を推測する。一番最初に思い浮かんだのは、チェスの相手だった。しかし、彼がチェスを好むのは知っているが、遠征が差し迫った多忙な時期に、そんな余裕があるのかと言われれば正直微妙なところだ。

 

次に思い浮かんだのは遠征への食糧の案件だった。これは私の雇い主であり、彼の主神のロキのたって願いであり、私に遠征の食糧計算を手伝ってほしいとのことだった。しかし、これはもう済ませてあるし。私が主導の案件でもないので、わざわざ私を呼び立てるまでもないのだ。

 

……私が思うに彼の悪い所は変に堅苦しい所だと思う。もちろん立場上そうなってしまうのは仕方ないし、私に対して堅苦しくなるのは、私自身が堅苦しいからだろう。だが、しかし、何かしたいのならそうと言えばいいものを……。

 

私は今ひとつ彼の真意を測りかねながらも、己の仕事をこなしていく。皿洗いは流石に私1人では効率の問題もあるので、食べ終わった数人の団員が手伝ってくれていてるが、やはり雇われの私が一番仕事をこなさない訳にはいかないという思いから、私は皿が割れない限界の力で更に最速かつ効率良く丁寧に洗う事を心掛ける。

 

一枚、また一枚と。

神経を尖らせて洗う。

 

私が皿洗いを全て終わらせたのはフィンとの会話から約2時間後だった。すっかり水分を吸ってふやけた手を軽く振り水滴を飛ばすと、私はすぐさまフィンの待つ執務室へと足を向けた。

 

尖塔の頂点に位置するその場所は食堂からはそれなりに距離があるが、執務室に近付くにつれて人が少なくなってくる。それだけ気軽に訪ねれる場所ではないのだろう。と心の中で無駄な考察をしているうちに目的地の扉の前に辿り着いていた。

 

ーーーコンコン

 

ゆっくりと二回扉にノックする。私はお決まりの言葉を発する。

 

「狐が参った。」

 

「どうぞ、入っていいよ」

 

ガチャリ。入室した私を出迎えたのは、ロキファミリアのトップであり、小さな体に収まりきらないほどの勇気と知恵を持った小人族(パルーム)のフィン・ディムナ。

 

その斜め右前に立つのはロキファミリア副団長で、エルフの王族(ハイエルフ)でその身に膨大な魔力を持ち名実ともに迷宮都市ナンバーワンの魔法使い、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

そしてリヴェリアから左に少し距離をとって佇むのは、筋骨隆々で壁のようにどっしりとした風貌で耐久と力においては迷宮都市でも三本の指に入り、更にロキファミリア創成からの古参、ドワーフのガレス・ランドロック

 

最後にフィンの斜め前で机に腰掛ける、目が覚める様な朱色の髪に神特有の人ならざる美貌に細い目が特徴のロキファミリアの主神であるロキが、何故か申し訳なさそうに眉をハの字に下げていた。

 

ロキファミリアのトップ達を前にして私はチェスなど遊戯に興じたりはしまいと、気持ちを引き締めた。

 

「やぁ、おつかれ。早かったね」

 

幼ない体躯に見合った童顔を柔らかに笑みの形に作りかえた、中身はそれなりに歳のとっている団長のフィンが私の想いとは裏腹に気軽に仕事を労ってくれる。

 

「なに、私は己の責務を全うしたまでだ。それで要件は何だ?まさかこの面子でチェスに興じたりはしまい」

 

「……相変わらずお主は堅っ苦しいの…」

 

私の物言いにがレスが苦笑いしながら、もっと肩の力を抜けと進言してくるが、私はこれが性分なのだと首を振った。

 

「……そうだね、君はせっかちだからね。手短に話そうか」

 

フィンは笑みを消し、次の言葉を模索しているのか言葉を切り数秒私を見つめーー

 

「君との()()を破棄させてほしい」

 

ーー私に事実上の解雇を言い渡した。

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