桜花纏う青年の物語   作:諸葛ナイト

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鎮守府へ(下)

 大淀と海斗は先ほどまでいた建物から隣にある別の建物に移動していた。

 その建物もきれいな赤煉瓦で作られていたが扉は鉄製になっている。

 

 その奥にももう一つ建物があったがそれは艦娘たちの寮だ。

 

「ここからは私たち艦娘が使用する場所です。提督には直接関係はありませんし、来ることはほとんどないとは思いますけど念のため場所は把握しておいてください」

 

「分かった」

 

 大淀と海斗はその建物の中へと入っていく。

 

「まずは––––」

 

 と大淀が説明を始めようとしたところで別の女性の覇気のある声が遮った。

 

「おや?その人が提督かい?」

 

「あら。明石さん。調子はどうですか?」

 

 大淀の問いに明石と呼ばれた女性は頭を掻きながら答えた。

 

「う~ん。まぁまぁってとこかな?おーい、夕張。一旦作業を中止しよう。我らの提督のお目見えだ」

 

「はーい!」

 

 明石の後ろから元気な声を引き連れて1人の少女が駆け寄ってきた。

 2人が揃うと海斗は口を開いた。

 

「本日付でこの鎮守府に着任した海原 海斗少佐だ。よろしく」

 

 海斗は特別何もせず軽い自己紹介をする。

 それに応えるように2人は自己紹介を始めた。

 

「ああ、よろしく。私は明石だよ」

 

「私は夕張です。よろしくお願いしますね」

 

 夕張は敬礼を海斗に向けたが明石は両手を腰に当てている。

 

「明石さん。敬礼ぐらいしてください。この方は提督ですよ」

 

 そう言う大淀を海斗は手でなだめる。

 

「別にいい。前いたところでもこんな感じだった。それにこの方が俺も気を遣わなくていい」

 

「そ、そうですか」

 

 海斗は軽く息を吐き明石と夕張に聞いた。

 

「ここでは何をしているんだ?」

 

「ここでは艦娘たちの武器、つまり艤装の開発、生産と整備を行なってますよ。さすがの私たちでも素手では深海棲艦とは戦えませんからね」

 

 工房と呼んでくださいと付け足す明石。

 海斗はしばらく考え込むように黙り込んであるとふとなにか思いついたのか問いかける。

 

「……艤装って今見られるか?」

 

「大丈夫ですよ。ついてきてください」

 

 明石は工房の奥に歩き始めた。海斗、大淀、夕張はそれに続く。

 

 少し歩いた先には彼女が言う艤装がいくつか並べられていた。

 バラバラのものもあったが形になっているものもある。ここでは要望に合わせての微調整を行う場所のようだ。

 

「今あるのは重巡と駆逐たちのですね」

 

 明石の言葉を聞きながら海斗は並べられている艤装に近づき軽く触れる。

 それと同時に小さな笑みがこぼれる。

 

(……これが、人類の新しい武器、か)

 

 だが、その笑みもすぐに消えその顔は険しいものに変わる。

 

 頭には3年前の光景がフラッシュバックしていく。

 

(……社大尉。いや、今は中佐か)

 

 艤装に触れたまま言葉を発しない海斗を不思議に思い明石は声をかける。

 

「どうかしましたか?」

 

 海斗は最後に艤装をひと撫ですると明石の方を向いた。

 

「……いや、なんでもない。少し昔を思い出しただけだ。君たちだけで艤装の全てをしているのか?」

 

「まぁ、大体は。生産自体はもう量産体制が整ってますけど開発、整備は私たちだけでしてますね」

 

 その言葉を聞いてある疑問が湧き、そのまま明石にぶつける。

 

「……足りているのか?」

 

 疑問に思ったのは人手の問題だ。

 生産自体は確かに量産体制がすでに出来上がっているが1番人手が必要になってくるのは整備、開発だ。

 

 その2つをたった2人でこなすなどあまりにも無謀なことだ。

 

「他の方たちも時々手伝いに来ますから2人だけでも案外足りるんですよ」

 

 夕張はみんなに感謝ですと笑顔で付け足した。

 その言葉に嘘やデタラメは感じられない。どうやら本当に2人だけで足りているようだ。

 

(ふむ、あらゆる面で人を超えている。これはその一端か)

 

 海斗は感心するように「そうか」とだけ呟いた。

 

 その後、海斗は艦娘たちが傷を癒す入渠施設を訪れていた。ただし、海斗は唖然としていた。

 

(……ここは本当に鎮守府、なのか?)

 

 目の前には艦娘たちの入渠施設こと銭湯があった。

 それ以外にも様々な娯楽施設が完備されたいる。

 

 我を失い呆然としていた海斗に大淀は声をかける。

 

「どうかしましたか?」

 

 その声で現実に意識を戻した海斗は答える。

 

「あ、いや、なんでもないんだ」

 

(……俺がいるのは本当に海軍の鎮守府、なのか?疑問がたえんな)

 

 海斗は至極真っ当なことを思っていた。

 

◇◇◇

 

 鎮守府の紹介が終わり海斗と大淀は執務室に戻ってきていた。海斗は椅子に腰掛けると背もたれに体重を預け息を吐く。

 

「大丈夫ですか?」

 

 大淀はそう声をかけながら海斗にお茶を出す。

 

「ああ、少しな。だが施設の大体の場所は把握できた。ありがとう」

 

 言いながら海斗はお茶を受け取り少し飲んだ。

 

「いえ、これが私の仕事ですので。早速ですが本日より仕事があります」

 

 どこか申し訳なさそうに言う大淀に対し海斗は首を横に振る。

 

「分かってる。物資の受領書だろ?運び込んでいるのを見たからな」

 

 大淀は一瞬驚いたように目を見開くと肯定した。

 受領書に取り掛かろうとペンを取ったところで海斗は大淀に聞く。

 

「それ以外に何かあるか?」

 

「いえ、本日は何も。本格的に指揮して頂くのは明日からです」

 

「分かった。なら、さっさと片付けるとしよう」

 

 言うと同時に海斗は机に置かれていた書類を減らし始めた。

 

 元々は部隊の指揮官であった海斗にとって書類仕事はよくあることでそれが全て終わるのにそう長い時間は必要なかった。

 

 海斗は全ての書類を書き終えると軽く伸びをして少し凝った肩や腰の筋肉をほぐす。

 

「こんなもんかな」

 

 ちょうど良いタイミングで大淀は机にお茶を置く。

 

「お疲れ様です。どうぞ」

 

 海斗は礼を言いながらそれを受け取り少し飲む。

 一息ついたところで海斗は確認を取るように質問を投げかけた。

 

「これで今日は終わりでいいんだよな?」

 

 大淀はもう一度手元の資料を見る。

 

「……はい。本日の分は全て終わりました。後はご自由にしていただいて構いません」

 

「そうか。それじゃ、部屋に行って荷物でも解いてくる」

 

「わかりました」

 

 海斗は椅子から立ち上がり大淀と軽く言葉をかわすと執務室から自室に向かった。

 

◇◇◇

 

 自室についた海斗はまたも唖然としていた。

 

「…………広すぎないか?ここ」

 

 海斗に与えられた自室は本人が言うとおり広かった。

 おそらくは家族4人が普通に過ごせる程に。

 

 それを際立たせているのは海斗の持ってきた荷物の少なさだ。段ボール2つと大きなバッグ1つしかない。

 

「……家具は全て揃えているとは言っていたが。やり過ぎだろこれは」

 

 海斗は半ば呆れながら荷物を解いていく。

 とは言え持ってきている荷物が少ないのでそれもすぐに終わり海斗は暇を持て余すことになった。

 

 自室には大画面テレビなどもあったがどうにもそれを見る気にはなれない。

 海斗はソファに座り込み天井を仰ぐ。天井は白いだけで何の景色もない。

 

(……………執務室、行くか)

 

 海斗はそう決めるとそそくさと自室から出て執務室に戻った。

 

◇◇◇

 

 執務室に戻ってきたがそこに大淀の姿はなかった。

 おそらくは休憩でもしているのだろうと海斗は思い、窓からの景色を眺める。

 

「………………」

 

 日はその半分ほどが落ち少しずつ夜の帳へと移ろうとしている。物資の輸送も完了しているため港はかなり静かだ。

 

 どこからか駆逐艦たちであろう元気な少女の笑い声が聞こえてくる。

 

(ここから見ると平和にしか見えないんだけどな……)

 

 陸にいると意識することは少ないが人間は戦争をしている。人類から制海権を奪った未知の敵、深海棲艦と。

 

 制海権を奪われた人類は物資の輸送も滞ってしまっていた。

 残った輸送経路は陸と空。

 しかし、日本は島国のため陸の経路は使えず空のみで物資の供給を受けていた。

 

 だが、当然それでは限度がある。

 

 このままでは日本はそう遠くない未来に深刻な物資不足に陥るだろうとまで言われていた。

 

 しかし、それも3年前までのことだ。

 

 3年前、さらなる物資不足を懸念した日本海軍(新日本帝国海軍)はある作戦を強行した。

 その作戦のおかげで少しではあるが制海権を奪還、輸送経路も確保できた。

 

(あれからまだ3年か……)

 

 海斗はボーッと景色を眺めていたが日が完全に落ち夜の景色に変わりきると息を吐き執務室を出た。

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