桜花纏う青年の物語   作:諸葛ナイト

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挨拶

 その翌日、海斗は自室の開け放たれたクローゼットの前にいた。

 クローゼットの扉の裏には姿鏡があり、その大きな鏡が海斗を写しだしている。

 

(やはり––––)

 

 自分の姿を鏡で足先から頭のてっぺんまで見つめてつぶやく。

 

「俺に白は合わないと思うんだがなぁ」

 

 昨日までは黒い軍服だったが今日からは真逆の純白の軍服を着ることになる。

 

 襟や肩には少佐の階級章、左胸のあたりには10を超える勲章が付けられ、光を反射している。

 

 海斗は朝の幾度目かのため息をつくとベッド横の小さな机に置かれたネックレスを取り、つけると軍服の下に隠す。

 そのネックレスにはシンプルなデザインの指輪が2つ付けられていた。

 

 海斗はその指輪がある位置に手を置き息を吐く。

 そして、目を開くと覚悟を決めるように「よし」とつぶやき部屋を出た。

 

◇◇◇

 

 鎮守府の訓練用グラウンドには現在いる全ての艦娘が集まっていた。

 その正面の壇上にはマイクを持つ白い軍服を纏う海原海斗の姿がある。

 

「私が昨日付けでこの鎮守府に配属された海原海斗少佐だ。早速で悪いが君たちに最優先の作戦事項を言い渡す」

 

 海斗のその言葉で艦娘たちが一気にざわつく。

 

 それもそうだろう。初めて会い、名前を言ったと思ったらいきなり作戦を一方的に言い渡されるのだ。戸惑うのも当然のことだろう。

 

 海斗は戸惑う艦娘たちを落ち着かせるように声色を和らげる。

 

「なに、そう難しものではない。君たちの作戦は『生きて帰ってくること』だ」

 

 ざわついていた艦娘たちが今度は静まりかえった。

 苦笑いを浮かべながら海斗は続ける。

 

「正直、こんなことを言っていては軍人失格ではあるが、私は君たちに『2度目の死』を与えるつもりは毛頭ない。怪我をしてくるのは構わん。それを申し訳なく思うのならば謝ればいい。ただし、それは必ず『直接』私に伝えろ。以上だ」

 

 海斗はそう言い締めると後ろにいた大淀にマイクを渡す。

 大淀も海斗の発言に思考が追いついていなかったらしく反応が遅れたが大急ぎでマイクを受け取った。

 

「き、昨日付けで海原海斗提督の指揮下に私たちは入りました––––」

 

◇◇◇

 

 海斗が執務室への通路を歩いている時だった。

 電話に1つの着信が入った。海斗は発信者を見ることなく電話を取る。

 

「なんだ」

 

 そのぶっきらぼうな態度に電話の主は意に介さず言葉を発する。彼のこの態度は2人の間ではいつものことのようだ。

 

「いや、本当に軍人失格なことを言うんだねぇと思ってね。それに先に連絡をよこしたのはあなたでしょ?そんなぶっきらぼうな態度はやめてもらえるかしら?」

 

 それは女性の声だった。陽気なようでそれでいてどこか掴み所がないそんな声。

 

 海斗はそれに何も答えず言葉を投げる。

 

「……それで、どうなっている?」

 

「順調よ。でも、本当にいいの?バレたら反対派が何をするか」

 

「別に、反対派は革命派が抑えてくれる。陸はもどうにもできないさ。上層部は手綱を握り直したいいんだろう。じゃなきゃただの大尉を提督にまでのし上げない」

 

 海斗はあまりにも手柄を立て過ぎた。そのおかげで上層部は手綱を放しかけている。

 

 新設された部隊ならば情報の共有という名目で海斗の行動を監視することができる。

 そのため半ば無理矢理、昇進させ提督の地位にまでつけた。

 

 それが海斗の考えであった。

 

「それに、俺は軍人だ。守るのは自身の地位ではなく国民と国のその未来だ。そのためならなんでもするさ」

 

 さっきは軍人らしくないことを言ったくせに、と女性は小さく口ずさむ。

 海斗はそれを聞かないフリをして話を続けた。

 

「いつぐらいに持ってこれる」

 

「無茶言わないで。いくら私の権限でもすぐにそっちに送ることなんてできないわよ。何度も言ってるけど上層部が許すわけないわ」

 

 海斗は少し思考するとニヤリと口を歪めた。

 

「なら、いっそのこと大胆に持ってくるか?」

 

 女性は驚かない。彼が突拍子もないことを言うのはいつものことだからだ。

 

「…………どうやって?」

 

 だからすぐに方法を聞いた。

 

「なぁに。いずれわかるさ」

 

 勿体振るように海斗は言った。

 女性は呆れるようなため息をつく。

 

「まぁ、なんでもいいけど。整備の人たち泣いてたわよ?あいつが使うといつもの整備がきついって。どんな使い方したらそうなるのよ」

 

 海斗は心当たりが幾つかあり頭を掻いた。

 

「……悪かったと伝えてくれ」

 

「了解……それと、話は変わる、けどさ」

 

 女性の声のトーンは変わっていた。

 言うなれば少し恥ずかしがっているような照れているようなそんな感じだろう。

 

「私たちよりを戻さない?」

 

 海斗はそれを聞いた瞬間、目を見開き立ち止まった。胸のあたりのネックレスについている指輪に触れる。

 

 そして、ある言葉を出そうとしたが歯を食いしばり止め、息を吐くと言った。

 

「……無理だ。もう終わった」

 

「あなたはまだ姉さんのことを?」

 

「……それも、ある。だが第一の問題は君を君として見ることができない。重なるんだよ。一つ一つの仕草が、言葉が」

 

「……そう。考えが変わったらいつでも言ってね。私は待ってるから。じゃ」

 

「ああ、あれの件くれぐれも」

 

 その言葉に女性は「わかってる」と答えると通信を切った。

 海斗は携帯をしまうと執務室に向かい歩き出す。

 

「すまない」

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