海斗との通信が終わると長良は後ろに続く暁たちの方へと振り向く。
「と、いうことで。みんな、もうしばらく戦闘が続くわ。気をつけてね」
「はーい!」
「了解した。この調子でいこう」
「まっかせてよ」
「なのです」
長良の声かけに暁、響、雷、電は元気よく答える。
その声から疲れは感じられず、まだ十分に活動することが可能だということを感じることができた。
艦娘は兵器である。当然ながら彼女たちの体は形が似ているだけで通常の人のものではない。
この程度の連戦であれば問題はない。
(うん。みんなも大丈夫そうね)
長良の視線の先には楽しそうに雑談をする暁たちの姿があった。
それを見て長良が安心したところで前方に視線を戻すと深海棲艦の艦隊を見つけた。
軽巡ホ級が1、駆逐イ級、ロ級がそれぞれ2の水雷戦隊だった。
「っ!敵艦隊発見!砲雷撃戦用意!」
長良の指示に暁たちは雑談を打ち切ると砲門を前方に向け、魚雷を発射態勢へと移す。
「みんな!これを倒したら指定されたポイントに向かうわ!これまで通りに、油断はしないで!!」
「「「了解!!」」」
先頭に長良が出るとその後ろから暁、響、雷、電と続く。
そして深海棲艦艦隊の列の先頭がちょうど自分たちの列の横に来るように素早く動く。
いわゆるT字有利の状態だ。
(よし!とった!!)
長良は勝利を確信すると同時、すぐさま砲撃を始める旨を叫ぶ。
一点に集中された火力で次々と深海棲艦は海へと沈む。深海棲艦側もいくつか攻撃を放つが正面からの火力が高く、そのどれもが外れている。
その一方的な展開の中、生き残っていた2体の駆逐ロ級は放たれた魚雷により爆発四散した。
「よし、状況終了。みんな!これから指定ポイントに向かうわ」
長良の後ろからは元気な少女たちの声が変わらず聞こえる。
◇◇◇
一方、南西諸島の川内たちも敵水雷戦隊を全滅させたところだった。
深海棲艦たちが沈黙し、海に沈んでいくのを確認してから川内は問いかけを投げる。
「よし、全敵の轟沈を確認。みんな、怪我はない?」
それに全員が問題ないことを伝えた。
「それじゃあ、指定ポイントにこれから向かうわ。多分私たちが一番乗りだろうし先に行って敵がいれば殲滅、いなければ確保するわよ」
「「「了解!!」」」
川内を先頭に単縦陣で指定ポイントに向かう。
到着したそこには軽巡ヘ級とホ級が2体ずつ、駆逐イ級、ハ級が3体ずつの計10体の深海棲艦がいた。
「深海棲艦発見。全艦砲雷撃戦用意!」
川内がそれを言うと同時、深海棲艦側も気がついたのか副縦陣をとり、砲門を川内たちに向け魚雷の発射体制に移る。
「姉さん!」
神通の声に川内はわかっていると言うように頷きを返す。
「向こうは私たちより数が多い。動き続けて撹乱するよ!私から離れないようにしてね!!」
川内は言うと同時に移動速度を上げる。
そして、軌道を読まれないようにジグジグに進みながら深海棲艦に接近する。
それぞれ砲撃を行うが彼女たちは動き続きているため、狙いが定まらずどれもいまいち決定打になっていない。
動き続けているため狙われづらいがそれはこちらも同じ。
今の速度で撃ってもまともに当たる弾はないだろう。しかし、かと言って止まってしまえば砲雷撃の良い的でしかない。
川内はこのままでは無駄に燃料を消費するだけだと悟り、一度深海棲艦から後退し距離を取る。
「……どうするの?あれじゃ近付けないよ?」
那珂が眉をひそめながら川内へと言った。
敵はこちらよりも数が多いということは砲門の数も多い。そして、その砲門から放たれる弾幕は想像以上に厚い。
やはりむやみにぶつかりあえば負けるのは自分たちだ。
しかし、川内の頭には一つの案が浮かんでいた。
「いい?これから言うことを忠実に且つ正確に従って。まず––––」
川内がその全てを短く言うと周りに驚愕の表情が浮かんだ。だが、すぐに頷きそれに従うことを決めた。
川内は口を吊り上げ頷くと前を見据える。
「よし!チャンスは一度!絶対に決めるよ!!」
「「「了解!!」」」
そして、川内を先頭に単縦陣で一直線に深海棲艦に向かう。深海棲艦側は変わらず副縦陣の陣形を崩していない。
自分たちに砲門が向けられる。しかし、狙いを定めているのか弾が放たれることはない。
(まだ……)
川内はその砲門から目を逸らさない。
狙いをつけ終えたのか今度は微調整をしている。
どうやら深海棲艦側はこれで一気に沈めたいようだ。
(まだ……!)
今度は魚雷発射管と思われる部位が可動、当然それらは川内たちに向けられている。
(まだ……!!)
そして、深海棲艦が衝撃に備えるような体勢をとった瞬間、川内は叫んだ。
「今ッ!!」
それは深海棲艦たちが攻撃を放ったのとほぼ同時だった。
放たれた砲弾と魚雷は一直線に向かい、そして、水面を強く叩き、水柱を高く上げた。
しかし、川内たちは深海棲艦が攻撃を放った瞬間に二手に分かれている。
そのため放たれた攻撃に当たることはない。
そして、深海棲艦たちの攻撃が終わる頃にはその艦隊を囲むように円を作っていた。
「全艦!砲雷撃、開始!!!」
川内の叫びと同時、川内を含めた6人の艦娘から放たれた砲弾と魚雷はその全てが深海棲艦たちに命中、沈めていった。
戦闘が終わったことを場の雰囲気から感じ息を吐く。
「みんな、お疲れ様。後はこのポイントにて待機。合流を待つよ」
「了解」の声と共に嬉しそうな、安心したように息を漏らした。
◇◇◇
鎮守府近海にいた長良たちと新たに派遣された利根たちと合流したのはそれから20分後のことだった。
『こちら利根じゃ。無事に合流、これより補給を行うのじゃ』
「ああ、頼む。損傷艦はないな?」
一応報告で損傷なしとは聞いているが虚偽の報告をしている可能性も捨てきれないため、用心して聞いた。
確認を取っているのか少しの空白ののち利根が答える。
『いや、いないようじゃ。みな無傷、問題なしじゃ』
海斗はそれを聞き安心したように笑みを浮かべ、声色を少し和らげながら指示を下す。
「上々だ。予定通り偵察を始めてくれる。わかる範囲での敵編成をこちらに教えてくれ」
『了解したのじゃ』
利根は言うと通信を切った。
(ここまで順調だと。少々怖いな。いや、これが彼女たちの実力、生まれた理由であればこれぐらいは余裕と考えるべきか……)
海斗は椅子の背もたれに体重を預けた。
彼の視線の先には海図が投影されている。
その海図はすでに沖ノ鳥島から北西の方向の海域のものへと変わっていた。
戦力として用意しているのは第一艦隊の長良、暁、響、雷、電。第二艦隊の川内、神通、那珂、陽炎、不知火、黒潮。
そして、現在偵察を行っている第三艦隊、利根、筑摩、千歳、千代田。
これだけの戦力であれば棲地化されていない、ただ集まっているだけの深海棲艦群ならばある程度は戦える。
そう思いながら待つこと1時間。利根からの通信が送られてきた。
『こちら第三艦隊旗艦、利根じゃ。偵察が完了したのじゃ』
「了解した。報告を」
利根は深海棲艦の戦力を説明し始めた。
その報告は聞き海斗は自分の予想が正しかったことを確信した。
報告された深海棲艦の総数が35。
内訳は駆逐艦が25、軽巡洋艦が8、重巡洋艦が2だった。
やはり棲地を作ろうとしているらしく敵の通常の艦隊としては少し数が多い。
だが、数自体は予測の範囲内、しかも戦艦種がいないのは幸運だ。
海斗は早速攻撃開始の指示を下そうとしたが利根から静止の言葉が入った。
『ちょっと待つのじゃ!偵察機から新しく情報が入ったのじゃ』
そして、それに続く言葉で海斗は息を飲むだ。
通信の外でも息を飲む声や驚く声が聞こえた。
『戦艦を確認。数は……5体。種類はル級じゃ!』
ル級––––
深海棲艦の中でも最近確認された種類だ。
3年前の明星作戦で出現を確認、それ以降様々なところで現れ、猛威を振るっている。
特徴なのは両前腕にある艤装だろう。
甲殻に砲塔がついたような形をしており、その防御力は高く、前面からの攻撃はほぼ無効化される。そのため後方からの攻撃が推奨されている。
『どうするのじゃ?提督』
海斗は少し待ってくれと言うと思考を編む。
ル級が5体もいるのは流石に予想外だった。
今の戦力で相手にするのは流石に分が悪い。普通なら撤退を指示しておくところではある。
しかし、戦艦種がいるということは棲地が形作られるのもそう遠い未来ではない。
もしそうなってしまえば沖ノ鳥島奪還は夢のまた夢ともなりかねない。
しばらく考え込んでいたが海斗はポツリと呟く。
「ここはひとつ、釣りでもするか」
「はい?」
大淀の疑問の声を聞き流しながら海斗は海図へと視線を向ける。
そこにはすでに利根により報告された深海棲艦が表示されている。
戦艦種、重巡洋艦種を中心に周りを軽巡、駆逐種が取り囲んでいるよくあるパターンだ。
大淀が疑問符を浮かべながら見ている中、海斗は小さく呟く。
「君たちの力の限界、見せてもらう」
◇◇◇
「なに!?りょ、了解じゃ」
通信を終えた利根は長良、川内の方を見る。
「提督はなんて?」
長良の問いに少しためらったが利根は海斗からの指示を伝える。
「……当初の予定通り行う、そうじゃ」
「え?でも、向こうには戦艦もいるって––––」
『ああ、そうだ。そのため、これより私が第一、第二艦隊の指揮をとる。第三艦隊は大淀に報告を回せ』
聞き返そうとした長良の言葉を海斗の通信が遮る。
「え?て、提督!?」
あまりにも予想外の人物が通信を入れてきたことに声を出した長良を含め、全員が驚愕を浮かべた。
海斗が伝えた作戦は以下の通り。
まず、第三艦隊がル級の射程距離外から砲撃を行い、囮とする。
続けて瑞雲による爆撃で軽巡駆逐種の陣形を分断後に各個撃破。
海斗がそれを伝えると川内が質問する。
「提督、戦艦種と重巡種は?」
『構うな。周りを崩せば自ずと奴らは下がる。数を減らすことに集中しろ』
「りょ、了解」
その後に誰かが質問することはなく、無言の時が訪れた。
それをこれ以上の質問はないと海斗は受け取り、告げる。
『では、状況開始』