今の提督は自分が支える必要がないほどに成長しており、自分ではない秘書艦と仲良くしている。
ある日吹雪は、今の秘書艦の薬指に指輪があるのを見てしまう。
今回のお題は、【雲】【破壊】【バカな大学】
ジャンルは、【悲恋】
青い空を雲がゆっくりと流れていく様子を、吹雪はぼーっと眺めていた。
温かく優しい春の日差しは心地よく、何をするでもなく木陰で横になるには最適の午後。
芝生の柔らかさを背に感じながら、心を無にして空を眺めている。まるで隠居したおばあちゃんのようだと心の中で笑う。
吹雪は艦娘と呼ばれている人間の少女だ。
艦娘とは、深海棲艦と呼ばれる海上の敵を倒すための存在のことだ。幼いころから特別な教育をされてきた、女の子だけがなれる唯一の存在。
14歳を過ぎ、指定された過程を通過しているものだけが、全国各地にある鎮守府・泊地に配属され、深海棲艦との戦いに身を投じることになる。
その際、特に成績が良い者は「秘書艦」の役割を与えられることがある。
鎮守府に着任する、提督と呼ばれる指揮官の秘書を務める。それが秘書艦だ。
着任したての提督は何をするにも荒が目立つ。そこで、優秀な艦娘を最初に側に置くことになっている。
吹雪は、現在所属している鎮守府の『最初の』秘書艦だった。
提督自身「バカな大学を出た」というだけ、秘書艦として苦労することもあった。しかし、人当たりの良い性格の提督で、一緒にいて辛くなることはなかった。
ずっと、提督と二人三脚でやっていきたい。そう思っていた。
ある日、吹雪は別の艦娘と秘書艦を交代することになった。
提督が鎮守府運営に慣れれば、最初とは違う別の艦娘が秘書艦に任命されることが良くある。
ひとりの艦娘だけが長く務めるのではなく、他の艦娘にも秘書艦をやらせ、一人ひとりのスキルを上げて行こうというのが主な目的だ。
吹雪が秘書していた提督も成長し、吹雪以外の艦娘を秘書艦にした。ただそれだけ。
吹雪自身もそうなることは分かっていた。なぜか寂しさを覚えたが、秘書艦ではなくなるからといって、提督から遠く離れるわけではない。
そう思いながら、今日まで過ごしてきた。
だが、自分が寂しく感じるわけを、理解してしまった。理解せざるを得なかった。
提督と、その隣を歩く艦娘が仲良く談笑しているのを見てしまった。
彼女の薬指に、銀色の指輪を見てしまった。
何とかその場を離れるため、固まる脚を無理やり動かし、鎮守府のはずれにある丘に逃げ、今に至る。
二人を見たとき、何か、自分の中の弱いところを破壊されたような感覚がした。
ぽっかりと穴が開いたまま、なかなか塞がる様子がない。
気づくのが遅すぎた。
誰もいない丘の上で一人、ひっそりと涙を落とした。