異世界に興味があるからといって調子に乗ると現世に帰れなくなるぞ。
長らくお世話になったこの家を、俺は去らなければならなかった。理由は転勤である。
今まで実家から会社へ出勤していた俺にとっては、新たな大地と生活すると同時に、念願の一人暮らしが叶った瞬間だ。
別に親を嫌っていた訳では無いが、子供の頃からずっと同じ場所で生活することに飽き飽きしていたものだから、それが何より嬉しかった。
そんな中、部屋の押し入れにある荷物共を掘り出していると、その中から結構黄ばんだ、しわくちゃなノートが3冊程出てきた。
俺自身、こんな所にノートなんて置いてたっけ、なんて思っていたが、試しにノートの内容を覗くと、一行目から二十行目くらいまで黒い文字がビッシリと並んでいたので読む気にはならなかったが、そのノートに興味が湧いた。
しかもノートの表紙にはでっかく『誰にも見られないような場所にしまっておくこと』と書かれている。
その日の夜のこと。俺は今日見つけたこの謎のノートを解読すべく、一字一句逃さず読んでみると、このノートは昔の俺が体験した不思議な出来事をより詳細に書いたものだった。
そう、思い出した。こんなもの書いたところで賞なんか貰える訳では無いし、他人に見せても嘘だと言われ、ネットに書き込んでも嘘だと思われる。
だから親にも誰にも知られないように、押し入れの奥に封印してやや十年近く経って、今の俺に発掘されたという、この黒歴史満載なノートがこれだ。
今からこのノートの内容を晒すが、嘘でも本当でも信じるのはあなた次第だから、冗談半分で見てほしい。
事は今から十年前に遡る。
まだ俺が高校生のとき、異変は突然起こった。
この日は夏のド平日だったので、俺は大会に向けて必死に部活に専念していた。
完全に疲れきってた俺は、チャリで帰宅している途中酔っぱらいのような運転をして事故りそうになったり、大変だった。
ようやく無事故で俺の住んでたマンションに到着し、ロックを解除して玄関のドアを開けて部屋の中に入ると、気分が急に悪くなった。
目を開けられず、足も動かず、考えることすらできない。立ちくらみと同じような状態である。
アカン、死ぬ!無意識でそう思ってたかもしれない。
しかしその感覚はすぐ終わった。気がつけば俺は床に倒れていた。
慌てて立ち上がり、何事も無かったかのように自分の部屋に篭ろうとしたが、なにか違和感があった。
部屋の配置が若干違うし、壁の色も違う。オマケに壁にヒビが入っている。
もしかして自分は部屋を間違えたのかと思っていたが、だとすれば、こんなにすんなりと他人の部屋に入れるはずがない。
けど部屋に置かれているものはウチのと同じものだった。
部屋のドアの前に立ち止まり、どうしようどうしようと考えているうちに、玄関のドアが開く音が鳴り、部屋が一瞬明るくなる。
逃げようかと思ってたが、何せこの廊下は長くて途中、部屋のドアすらないから隠れどころもなく、身を隠すことが出来ない。
だから諦めた。不法侵入の罪で警察のお世話になることを覚悟した。
ところが、
「あら、おかえり!早かったじゃない」
むしろ歓迎されてしまったのである。
台詞からして親だと思ってよく見ると、容姿や声のトーン、身長など何もかも違う人がそこにいた。その後ろにも、もう一人誰かいるが、暗くてよく見えない。
「えっ……あんた誰?」
自分の部屋かもわからないのに、名も知らぬ人にそう言った。もしかしたらこの人は、暗くて俺の事とかよくわからないのではないか?自分の子供だと勘違いしていないか?
「へ?誰って……私はママよ?ねぇ?イク」
「はい」
後ろのやつがひっそりと肯定する。
「とりあえず電気つけなさい、
そいつも祐介という名前なのか?奇遇だな、俺もだ。受けて付けようじゃないか。
カチッ─────────────
暗かった廊下が、まるで朝がやって来たように明るい暖色に染まる。
そこで露になった二人の姿とは……。
元1話のリメイクです。二部構成で投稿します