夢だったかもしれない幻想入り   作:歌 華

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#16 生死の選択

  誰もいないマンションの廊下を、俺はただ1人歩いていた。

 

  あの後、衣玖によると天子は「恐らく外にいますので、中でゆっくり休んでてください」などと、さっきの時間稼ぎの意味は一体何だったのかと疑いたい。

 

  多分逃げたのかと思うが、中で休んでくれという衣玖の発言に、天子はそのうち家に戻ってくる事がわかる。

 

  そうそう言い忘れた。

 

  前回衣玖が言ってた「変な期待」というのはだな、俺があのまま避けずに俺だけ刀に刺さると思っていたらしい。そういう期待をしていたそうだ。

 

 

 ☆彡

 

 

  俺は信じられない現状を目のあたりにした。何週間ぶりに帰ってきた自宅だが、悲しい事に玄関の周りだけが床にヒビが入り、ものすごく物が散乱していてドアがガタガタしていた。

 

  一応中には入れたのだが、ドアが中々閉まらないことに苦労した。すると、家の中はまるで空き巣に入られたかのように、部屋中が服と玩具で散らかっていた。

 

  さらに床に散らばっているゴミ共を蹴散らしながら台所へ行くと、そこはとてもガス臭く、呼吸した瞬間むせそうな程である。

 

  原因を調べると、なんとコンロの元栓が開いていたのだ。これでマッチ付けた瞬間、ここはドカンでオシャカだろうな。だから、急いで換気扇を付けて換気してやったぜ。

 

 冷蔵庫を確認すると、変な料理がずらりと並んでおり、そして真ん中に俺の枕がなぜか置かれていた。何があった?

 

  自部屋に行くと、ブラウン管テレビが付けっぱなしのまま放置されていた。しかも画面には、ゲーム機のディスクエラーの表示が映っている。ためしにゲーム機からディスクを取り出すと、何故かPCのOSが入っていた。(しかも裏面傷だらけ)

 

  なんというか、もうここは俺の家じゃないと流石に思ったね。本格的に他人の家と化してきている。床には穴が空いていて、窓ガラスには所々ヒビが入っていて、なおかつ凍っている。

 

  呆然と立ち尽くしていると、いきなり固定電話から

 着信音が鳴ったので、俺は慌てて受話器を取り出した。

 

「はい……もしもし」

 

『───────』

 

 無言。誰だ?ま、大体アテはつくんだけどな。

 

「……あの?もしもし?」

 

『あんたぁ…………やっぱり、そこにいるのね』

 

 やっぱりだ。この声は天子の声だ。何か酔ってるような言い方が気になるが、今はそんな事を気にしている必要は無い。

 

「天子か?お前こそ何やってんだ?」

 

『いいわ、あたしの大事な息子だもんね。すぐに帰るから、待ってて!』

 

 と天子は言い、通話はプツリと途切れる。使い物にならなくなった受話器を元の位置に戻して、俺は鞘をソファに置いて部屋の片付けに入った。

 

 

 ☆彡

 

 

  ふぅー、大体こんなもんかな。これで80%は片付いたはずだぜ。残るは……浴槽に溜まってたゴミくらいか。

 

  さて、片付け再開と行きますか。すぐさま行動に移そうかと思ったが、やっばりやめた。なぜかと言うと、自分が散らかしてもないのに片付けるのはバカバカしいという理由も3割あるが、のこりの7割は、天子がうちに帰ってきたからである。

 

「ただいまー。そしておかえり、祐介」

 

  電話の時の喋り方からして、天子が相当酔ってると思ってたんだが、特に顔が赤くなっているような所はなく、そこにいたのは至って普通の天子であった。

 

 それは置いといて……俺は今思ってたことを天子に言ってやった。

 

「おい何だ、あの有様は。どうしてあんな散らかってたんだ」

 

「あの有様って?ここ綺麗じゃない」

 

「それは俺がやっといたからだ!!なんでこうなったって聞いてんの!」

 

 俺は激怒した。本物の俺の母親なら、部屋汚したら殴るって言うところなんだが。

 

 それなのに天子の奴と来たら、まるで無かった事のようにシラを切る……。ひどい、酷すぎるぜ。

 

「べ、別にいいじゃない。私の勝手なん──」

 

「俺がいやなの!それともあれか?親だからって自分の家に何しても良いってんのか?いい加減に周りの目くらい気にしてくれよ!」

 

「うっさいわね!!私が何をしようと勝手でしょ!?ガキのくせに口出しすんな!!」

 

 うちの母親と真逆な奴だな。さらに天子は、とんでもない事を口にした。

 

「・・・それにここは、私が壊す予定だったからどうでもいいのよ。どんなに散らかってても」

 

「……は?まてよ!それじゃ俺はどうすりゃいいんだよ?」

 

 「それはあんたの自由になさいよ。あんたの事なんか知ったことか」

 

 それが親の言う事なのか?

 

「俺が許さん。ここは俺の住居でもあるんだ、勝手なことされては困る」

 

「そう……。なら、こうしましょうか」

 

 後ろに手を組んでいた天子が、あるものを後ろから出してきた。

 

 緋色(?)のような色をした、緋想の剣だ。天子はそれを俺の鼻の所にまで突きつけて、こう言った。

 

「さぁどうする?この場で大人しく私に殺されるか、私の言う事を聞くか」

 

 天子は一瞬黙り込んで、大きな声でまた言った。

 

「自分で選びな!!」

 

 天子は威勢よくそう言うと、緋想の剣を床に思いっきり刺しこんだ。そのとき、俺の天子に対する憎悪がまた湧いてきた。

 

 すると部屋中に突風が巻き起こり、俺は風に飛ばされないように必死で、飛んでくる障害物を避けまくった。

 

 そして風が止み、俺はゆっくり立ち上がる。

 

「あぁ馬鹿野郎!せっかく俺が心を込めて片付けてやったってのに!なんてことを」

 

「そんな事言ってる暇あるの?」

 

 ブン!

 

 ぼーっとしてると、緋想の剣が俺の真横にやってきた。運良く避けれたけど、なんとか死なずにラッキー。

 

「おまっ、いい加減に暴れるのをやめろってんだよ!!」

 

 力づくで天子の腕をおさえつけようとしたが、天子の圧倒的怪力によって、俺は玄関の方に飛ばされた。

 

「そんな事言ってないで早く決めたら?生きるか死ぬか、簡単でしょ?」

 

 天子が剣を持ちながら、ゆっくり俺の方へ歩み寄ってくる。俺のすぐ後ろには玄関のドア。前には天子が道を塞いでいる。

 

 逃げるなら後ろのドアしかない。けどここで逃げたら、俺は死ぬ確定なんじゃないか?

 

 いや、前でも死ぬ確定か。でもよ、前だったら・・・50パーないくらいで生きれる確率はあるよな。

 

 俺に近づいた天子は、再び剣を俺の目の間に突きつけた。

 

「で、どっちなのよ?」

 

「生きてえに、決まってんだろ」

 

 こう見えて本当は、口がブルブルしていて怒りで泣きたい衝動を我慢しながら話しているので、言っている事が噛みまくりだ。

 

「ふーん…………それはなぜ?何か理由でもあるわけ?」

 

「……生きるのにいちいち理由なんかいるのか?」

 

「私はちゃんとあるわよ?自由で思い通りな生活を送りたい、ていう」

 

 そんなもの、今の俺にはいらない。そんなのは後で考えりゃいい。

 

 天子は続けて話す。

 

「でもねぇ……自由になりたいんだけど、なれないのよね。何たって、私の邪魔をしている者がたった1人いるからね」

 

「……それが俺ってか」

 

「ご名答~、凄いじゃない!流石は私の子供ね」

 

 こんな時に限って都合よく母親ぶりやがって……調子に乗るのもいい加減にしろよ!てめえは俺の母親なんかじゃねえ。俺の母親は、オメエみてえに暴れん坊じゃなくて父親とラブコメごっこをやってんだよっ!

 

 もう許さねえ……ッ!

 

「黙れよ怪力女ァァ!!」

 

 俺は怒鳴りながら天子を押しのけ、急いで奥にある刀を取り出し、丁度起き上がった天子に刃先を向けた。




続きます
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