なぁ、もしもだ。
なんの連絡もなしにいきなり自分の親が変わってたら、お前らならどうする?
その人は自分の知らない人で、名前も年も人間関係も、何もかもわからないとしたら。
それが2人、目の前にいたらどうする?親とはいえ、血が繋がってないから、場合によっては惚れてしまうか?
俺なら……こうする───────
今まで暗かった廊下に明かりがついた途端、俺と2人の女は目を合わせったまま動かなかった。
「誰だよ……お前ら」
まず目に入ったのは、2人の髪の毛の色だ。何故か黒髪でもなければ金髪茶髪でもなかった。
なんと青色と紫色なのである。
本音を言ってしまえば気持ち悪かったが、これに関しては次第に慣れていくことになる。
そして次に服装。なぜ萌えアニメに出てきそうな派手な服を、2人とも着ているのか。しかも紫色の髪の色をしているやつは、でかいマフラーみたいなのを身に纏っていて実に暑苦しい。
髪型は、青色のヤツがロングヘアーで、紫色のヤツがショートボブ?といったところだ。
そして2人の共通点は、帽子を被っていることである。
そんな実に動きづらそうな格好をした見知らぬ2人が、玄関に立っている。
「いやほんと……すいませんでした。部屋を間違えてしまったみたいで」
普通ならこんな事は恐らく有り得ないのだが、俺にはこれしか言い訳が見つからなかった。
だが青いヤツは言った。
「はぁ?アンタ、ホントに頭大丈夫?どっかで頭ぶつけてきたんじゃないでしょうね?」
ぶつけたっちゃ、ぶつけたけどね、今俺が立っているところで。
よくわからないので、俺は首を左右に振った。
「いいからそこをどきなさいよ。いつまで立たせるつもり?」
「あっ!サーセン……」
2人のことを忘れていた訳では無いが、完全に客という感覚で話してたから、まさか家に上がってくるとは思ってもみなかった。
2人は俺を避けて、リビングの方に進んでいった。
ほんまに、誰だよお前ら。
「……変な祐介。衣玖、今時間あるかしら?」
「ありますよ」
「私ちょっと忙しくなるから、ちょっと祐介の相手してやってくれる?」
「承知しました」
……気のせいだ。俺は別に誰かと体が入れ替わってる訳では無いし、部屋も恐らくいつも住んでる番号のはずである。
それなのに、なぜあの2人は俺に平然と話しかけてくるのだ?この2人は、レンタルママ的な何かか?俺の親に何があった?
「祐介さん」
「っ!!?」
ぼーっとし過ぎたせいで、話しかけられているのに気づかなかった。よくもまぁ玄関でぼーっとしてられたよなぁ。
「少しお話したい事があるので、私についてきてください」
でかいマフラーのヤツにそう言われて、俺はただうなずくぐらいしか出来なかった。
俺、これから警察に行くんだろうなあ。その前にも、この人から色々と事情を聞かれるんだろうなあ。
俺の人生、お先真っ暗だ。そう思っていた。
俺の私物が置いてある部屋にて、俺とデカマフラー女との会談は始まった。
「いきなりで色々とよく分からないと思いますが、私は
永江衣玖。当時も今も、ものすごく印象に残るような名前である。
「は、はぁ……よろしく、お願いします」
「……あの、貴方は……その」
永江衣玖(以後衣玖)は何か聞きづらそうな事を聞こうとしているため、口ごもってしまった。
「きょ、今日はどうされたんですか?」
「へ?今日?」
それを聞いたところで何の意味があるのだろうか。
俺からすればこいつらは赤の他人という認識であり、あっち側は何かしら俺と関わっていると思われるのだが、俺が今考えていることなぞ、あっち側にはわかるまい。
「今日は普通に学校だけ、ですが?」
衣玖は俺がそう答えると、よく分からないことを言ってくる。
「学校……?貴方はいつから、なぜ学校へ行っているのですか?」
「は?ちょっと待てや!あのさあ、 ホントに人違いなんじゃないすか?俺は普通の学生だし、アンタらの事、俺知らないし」
俺がそう言っても、衣玖はちっとも納得してくれなかった。完全に俺を自分らの子であると認識されている。
なぁ……まさか俺、障害者とか特別警察なんかと今関わっているんじゃなかろうか。
普通に考えて、これはいくらなんでもおかしすぎる。なんの事情もなしに、親は家を出ていってしまったのだろうか?
「本当に、どうしちゃったんですか?またあの方に変なものを食わされたんですか?」
「じゃあ俺とお前、どうやって出会ったんだよ」
「案外面白かったですよ?ええとですね……」
こいつの話はくっそ長い!!なので、俺なりに3行でまとめてみると
・数十年くらい前から俺がここに住んでいる
・青髪のヤツこと比那名居天子と衣玖は、俺の住居に突入
・意外とここが広い事に感動した天人こと比那名居天子というヤツが勝手に許可なく住み始めた
と、ここで不思議なことが一つある。
だとしたら、その俺はどんな俺なのか?
元々俺はこんな2人のことなんか、これっぽちも知らない。なのにあっちは俺の事を何から何までほとんど知り尽くされていると思われる。
もしや、もう1人俺がどこかにいるのか?
「へえそうなんだ。そうだ、君の知ってる俺って、どんな俺よ」
もうひとりの俺とかいう謎の存在を暴く為、一応衣玖から情報を取り出してみる。
「ええとですね……本気で聞いてるんですか?」
「いいから早く言え」
「えっと……うっかり屋でお人好しで優しい、かな……」
ただのボケた野郎じゃねえか。
「……あぁ、で?君達は何者で、何処からやって来たのですか」
もう話さえ聞いているのがバカバカしく思えてくる。こいつから見た俺は正しく別人であった。
俺はお人好しなんかではないし、うっかりもあんましない。たとえ相手が女でも平気で悪口や暴力を振るう事さえ簡単だ。そんな女に媚びてる時間など、俺には必要無いんだ。
そのせいで、学校でも俺の周りに女子が集まる事は滅多にない。
「私は、『リュウグウノツカイ』という妖怪で……さっきのあの方が天人です。来たとこは……ん?外から帰ってきたとこです」
「外?嘘だよお、君みたいな人見たことないもん」
「……少し、外へ出てみますか?」
「へ?あぁごめん……疲れてんの俺」
「じゃあ、窓をご覧ください」
「窓……ならいいか」
俺は床から立ち上がり、窓があるところまでスタスタと歩く。ここから見える景色なんてただ家が密集してるところばかりだ。
そこから見える住宅地に関しては、もう人もそんなにいないしなぁ。
そう思いながら窓の景色を覗くと……
「なんだこれ………………!?」
奥に見える学校はおろか、手前にある住宅地すら見えない。まるで全てが霧に覆われたような景色だ。しかし空は真っ赤に染まっている。下を見ても、地面すらなく、見えるのは雲だけだ。
それも、車が通る音すら聞こえない。
「……え?おい、これなんだよ!」
「天界、ですけど」
てん、かい……?とりあえず俺がいつもいる所じゃないのはわかった。
ということは─────────
「異世界、なのか…………?」
そう思うと、急に寒気がしてくる。
前から異世界には少し興味を持ってはいたが、まさか本当に来てしまうとは。
下手すりゃ、殺される。
「何とかして帰る方法はないのか!?」
「帰るといっても……ここがあなたの家なんですよ?」
うわぁぁぁぁ…………………………
「そんな落ち込まないでください。あなたの身に何かあったら、私がお守りしますから」
「言ったな!?言ったな!?絶対だからな!!?」
「あ、あぁはい……それでは戻りますか──────あの方の元に」
もう俺は何も言わない。こんなの絶対デタラメに決まってる。
とりあえず早く寝て、明日また部活しに行けばいい。そう思いながら今日を過ごす。
今日はお疲れさんだ……。