結局あのあと、俺の住んでるマンションは崩れ落ちることになる。
理由は何だって?天子が暴れまくったせいで柱に段々ヒビが入ったっぽく、実は俺がここに戻ってきた時点でかなり傾いていたらしい。どうりでドアが開かないところが多かったわけだ。
闘いを止めた途端に、突然号泣しだす天子に俺は困惑していた。
どうでもいい事なのだが、実は俺は女の子とあまり関わった事がないため、こういう時にどうすればいいだのさっぱりわからんかった。
で、オチを言うと、俺たちは何事もなくマンションから脱出に成功した。
脱出中、俺はゲームや映画のクライマックスシーンにあるような爆発みたいな演出が少しはあってもよかったな……などとふざけた発想が頭をよぎる。
脱出する際、エレベーターを使うのはとても危険である。
じゃ階段はというと、一部の踊り場が跡形もなく寸断されていたので1階に降りることが出来なかった。
そのため、俺たちは非常時以外滅多に使われない階段を使って1階に戻った。ここも階段や鉄骨が曲がっていたりしてて酷かった。
さぁそして現在、俺と天子はそれぞれ要石に乗り、どこかの天空に漂流している。
その間、遠くに見えるマンションがだるま落としのように崩れているのが見えた。無数のコンクリートから吹き出る砂埃がモヤモヤと広がっていく光景に、俺はポカンとしながら見ていた。
自分の生活品を含むモノ共が呪文を唱えられたかのように、次から次へと下の方へ落とされていく。きっと、貰った武器もあの中にある。
ちなみにナイフはまだ俺のズボンに挟まっている。
数日後……
天子は精神に障害を持っていると判断され、しばらく家で安静にした方がいいと医者みたいな人に警告された。
この事に対し天子は、「この私が!?私は比那名居の一族なのよ!そんな私が、問題有りですって!?あのヤブ医者絶対に許さないんだから!」と今にも外へ出ていきそうで危なっかしい。
かと思われたが、
「まぁ仕方ないわよね……これも、親の運命よね……はははは」
と何故か開き直っている。
何故かと理由を尋ねると、天子曰く、日々のストレスが溜まってマンションを破壊させてしまったのかもしれないという。
ストレス溜めすぎだバカ野郎と返してやりたかったが、今は黙っておこう。そのうち衣玖が言ってくれるさ。
ちなみに衣玖は現在行方不明になっている。
まったく、天子に加わり、俺は衣玖まで傷つけてしまったようだ。次会った時にちゃんと謝ろう。
あと、俺はマンション…………ではなく、天子の実家に数日ぐらい泊まらせていただくことになった。
理由は簡単、ただ単に寝泊まりする場所がないと比那名居家の人に言ったら、「いいぞ」と、お父様の粋な対応に感激した。ただし天子の面倒を見るようにと交換条件付きで。
ようは赤の他人が天子の面倒を任されてしまったのだ。親のクセに娘の心配もせんのか、この家族は。
というか、天子があんなことしておいて、親はなぜ怒らないんだ?天子が帰ってきても「おかえり」の一言もない。
言うとしても親ではなく、たまたまそこを通りかかった天人だけ。
……まぁ、俺のところも「ただいま」どころか「おかえり」も言わんがな。
その日の夜。
「なんで私がアンタと寝なくちゃならないのよ」
睡眠の時間が近づき、何故か俺は天子のベッドの近くで寝なくてはならなかった。当然?俺は床に布団、ヤツは豪華にベッドなんか使ってやがる。俺だってお前の近くで寝たくねーよ。
「知らんがな。お前の親が決めた事やから、文句あるなら行ってこい」
「はぁ?アイツが?はぁー」
天子はその場から動かなかった。
「……………………暇ね。なんかやることないかしら」
「ねーよ」
この家、なんとも落ち着かない部屋が多すぎる。やはり異世界特有の文化の違いなのだろうか?
「ちぇっ、つまんない男」
「つまんなくて結構」
だってお前、今日もそこから一歩も動いてねえもんな。つまんねえのわからなくはないぜ。
「だったらなんか面白いこと話しなさいよ」
「面白い話ったって、こんな平和な世界に面白いも何も」
「別にここに限らなくても結構よ。とにかく私を楽しませなさい」
逆に俺を楽しませてくれ。
「ふふっ生意気ね」
人間の癖にとか頭の中で思ってんだろ。お前の考えなぞお見通しだ。
つかここ、ゴキブリとか湧いたりしないよな……?この家が雲の上にあるからって、油断はできないな。でもここ、寒いしあまり寄ってこないかもな。
「ねぇ」
俺が寝ようとした瞬間、それを見計らったように天子が俺を呼び止める。
「んだよ」
「……明日は何する?」
「明日は……お前の面倒を見ないといけない」
「それを除いて。私は色々あるわよ?今までサボった分の勉強とか、歌を歌ったり、アンタの世話をしたり」
「一部は俺がやる。お前は病気が治まるまでゆっくりしてろ」
「えー、それじゃあアタシがつまらないじゃない」
もうコイツと関わるのは面倒だから、俺は天子を無視して眠る事にした。しばらく放っとけば、コイツも寝るだろ。
「ねぇ、ねぇったらぁ」
暇なのはわかってんだよ。寝れば暇じゃなくなるぞ。まぁ寝れないってんなら昼寝した自分を恨むんだな。
「寝ちゃった…………ほんとに寝てるの?こんなに私がうるさくしてるのに?」
自覚してるなら静かにしろ。俺は眠りたいんだよ。
次の日の夜。
この日も天子は部屋で何もせず大人しくしてくれたが、やはり夜となると、ヤツはうるさくなる。
暇なら絵なり勉強なりすればいいじゃないか、と言ってやりたいが……言えない。
天子にあまりキツい事を言ってしまうと、ヤツは面倒なことに、今度は鬱状態に陥ってしまうのだ。
また、うつ状態の他に自分の頭を物に当てたり、突然キレたりする。
今日もまた、俺は布団で、天子はベッド。それもまた天子の近くで寝なくてはならなかった。
そんなら同じベッドで寝たらどうなんだと親に訴えてやりたいが、天子はその事に反対。まぁ当たり前か。
どうやら天子は俺を変態な目で見ている最低な奴だってことがよくわかった。
寝るときも昨日のように天子の尋問攻撃をスルーして眠った。
しかし、寝ても何故か目が覚める。口に唾液が溜まってる事から、寝て数十分が経ってることだろう。
謎の違和感が俺の真ん前にある。寝返りたくてもできなかった。
何故か?それは……
「起きてないわよね…………?」
目の前で天子がブツブツ囁きながらゴソゴソしているからだ。
残念、起きてます。
つかなんでコイツが下にいる!?コイツそんなに寝相悪いのかよ!
クソッ、不幸だ。
起き上がるのもアレなので、俺は細細と目を開けて天子の様子を伺うことにした。
「これね……?あんな生意気なワードを次から次へと……!」
目を開けているとはいえ、暗いからかヤツが何をしているかよくわからない。おそらく天子も俺が目を開けていることに気づいていないはずである。一体何をしてるんだ?
「これも全部生意気な物質で出来ているのね……柔らかそう…………」
生意気な物質って何だよ。
「ちょっとだけ……いやっ……起きちゃう…………か」
天子って一応精神がイカれてるんだよな。流石に突然噛みついたりナイフで刺したりして来ないよな……?
「ちょっとだけよ……えい」
……?俺の頬なんか触って何をしているんだ?くすぐったいからやめろ!
「案外ツルツルしてる……男の人ってザラザラしてると思ったのに」
お前の親父の頬でも触っとけ。その人の方が触り心地良さそうだったぞ。
今思ったんだが、これって夜這いか?
夜這いとはいえ、ヤツはブツブツ変なこと言いながら頬とか触ってくるだけで、決して性的ではないと思われる。
かっ顔が近い……
「あら、起きてるのかしら」
しまった、胸の鼓動が外にまで響いてしまったようだ。
いや、これだけならまだ夢という事で誤魔化せる。後は適当に「うーんうーん」って唸っておけば、コイツも元に戻るだろ。
「もう十分堪能できたし、戻ろ戻ろ」
ここまで独り言がひどい奴は、人生で初めてだ。普通こんな事は頭でつぶやく事だぜ。
もう何もかもが面倒だ。脅かそうかと思ったが、ダルいのでやめる。
衣玖、早く帰ってきてくれ……俺たちはここにいる。
俺はお前を待ってるんだよ。一体どこをほっつき歩いてやがる?