夢だったかもしれない幻想入り   作:歌 華

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新幹線に乗ってる時に思うことだが、遠くから地元に帰ってくる時、降りる駅に着くまで残り一駅となった瞬間、帰って来れたという謎の安心感と共に、帰ってきてしまったと思う後悔が混ざったような気持ちになるのは何故なのだろうか?


#22 夜の公園を

 7月31日の夜のこと。ゲーセン帰りにチャリで家に向かって帰っていると、必ずといってもいいほど公園の横を通る。

 

 そこは、街灯を全部消すと綺麗な星空を眺められるんじゃないかというほど星空を眺めるには絶好のスポット……であり、それにこの公園にはほとんどアスレチックがないことから、子供たちなどは殆ど遊びに来ない。

 

 来るとすれば、天体観測する人が少数と昼間に老人がゲートボールをしに来る程度。

 

 今は夜の8時すぎ。当然、公園には誰もいない……かと思われたが、1人女性のような人が、公園のベンチにぽつんと座っていた。

 

 座っているだけで、携帯も読書もしていないから珍しいな、とか思いつつその人をずっと見ていると、俺の視線に気づいたのか、その人と目が合ってしまった。

 

 ところが、その人は俺を見てもちっとも目を逸らさない。恐らくぼーっとしているのだろう。

 

 いや、相手がぼーっとしてるんだとしても、こんなに長く目が合うものなのか?

 

 せっかくなので、俺はチャリを置いてその人に近寄ることにした。

 

 

 「こんにち……は?」

 

 「……こんばんは」

 

 

 高らかな大人っぽい女性の声が、俺の耳に届く。

 

 ああ、やっぱり夜は「こんばんは」で良かったんだよな。英語でも朝も夜も「Hello」なんて、ほとんど使わないと思うんだ?いや知らないけど。

 

 

 「────待ってましたよ、祐介さん」

 

 「…………え?」

 

 

 この女性、なんと俺を知ってるみたいだ。

 

 

 「えっと……久しぶり、ですね。貴方と会うのは。私のこと覚えていますか?」

 

 

 うーん……覚えてるかと聞かれてどちらかと言えば、俺はこの人を知らない。今の俺の記憶上、この人とは初対面のハズだからな。

 

 まぁ、この人に会ったことでのちに全て思い出すことになるのだが。

 

 

 「……ごめんなさい、わからないです」

 

 「うーん、1年も会ってなければ名前って忘れるもの?」

 

 「名前以前に、あなたが誰かもわからないっす」

 

 「えっ!?」

 

 

 女の人は驚いていた。この時は何だかよくわからないが、俺は前にこの人と面識があったようだ。

 

 

 「う、嘘ですよね?私は永江衣玖ですよ?」

 

 

 いや、名前言われても。

 

 

 「あの、本当になんなんですか?確かに俺の名前は祐介っていいますけど……なんで俺の名前を知っているんですか」

 

 

 と俺が言うと、衣玖さんとやらはろくに信じられるものではない過去話を始めた。

 

 もちろん、そんなんで記憶なんか蘇るわけでもなく、俺はただ作り話を聞いているような気分だった。

 

 ところが、これが本当の話だということを知ることになるのは、相当後の事だった。

 

 

 

 

 

  まぁその話を聞いた俺は、この人の調子を伺いつつ、食事に誘ってみることにした。

 

 ところが衣玖はそのことを断ってしまう。理由を聞くと、俺に負担をかけさせたくないのだという。

 

 無理矢理わかったふりでもしないと、俺は家に帰れないのだろうか。

 

 つか何しに来たんだ、この女は。

 

 

 

 

 

 ところ変わって、ここは俺の家。

 

 特に何事もなく家には帰れたのだが……

 

 

 「なについて来てんすか!!?」

 

 

 案の定、ヤツもついて来やがった。親が帰ってきてバレたらどうするつもりだよ?!

 

 

 「ああ……懐かしいです」

 

 おいコラ!話を逸らすんじゃない!

 

 「……懐かしいって、前住民か何かで?」

 

 「いえ?今も同じところにいますよ?」

 

 「へ?」

 

 

 意味がわからない。アンタなんか、生まれて一度も見たことがないのだが……あれ?

 

 

 こんな光景見たことないはずなのに、何故か既視感がある。

 

 それに暗くてよくわからなかったが……なんとヤツは髪が若干紫色なのだ。それでいて、服装はダボダボの黄色いコートを身につけている。

 

 

 「ちょっと……コートを脱いでもらえますか」

 

 

 下のスカートを見る限り、OLさんか何かに見えるのだが実際にそうなのか?

 

 「こ、コートですか?わかりました……」

 

 

 決してやましい事をするつもりは無い。俺はただ、この人の正体を知りたいだけだ。

 

 衣玖は素直にコートを脱ぎ、丁寧に畳んでから床にコートを置いた。

 

 「その、こんな格好ですと……注目を浴びてしまいますし」

 

 

 若干ピンクがかった服を着、下は黒い普通のロングスカート。見覚えが確かにあるような、ないような。

 

 何か引っかかる……!なんか、見たことあるような……

 

 いやでも、あいつは超長いマフラーみたいなのを……ん?

 

 

 「……何かありましたか?」

 

 

 

 

 

 ─────こいつか

 

 

 

 

 ─────天界とかいう世界にいた、でけえマフラーっぽい何かを身につけていたあの女だ!

 

 

 

 

 「お前……どこで何してたんだよ」

 

 「えっ?」

 

 「思い出したぜ……あああ」

 

 

 次から次へと夢のような記憶がフラッシュバックし、興奮のあまり声を抑えきれない。

 

 

 「衣玖かっ!久しぶりだなあ!!天子は?」

 

 「え、総領娘様ですか?あの方は今えっと……禁則事項です」

 

 

 やっぱりだ。間違いなくコイツはあの衣玖だ。こいつは時々ここにある本や漫画を読んでは、そのキャラクターのセリフを真似たり、口癖になってたりしているのだ。

 

 これは昔から変わっていない。

 

 ただ、ひとつ変わっているところがあった。

 

 

 「え、なんで?冗談じゃないよね?」

 

 「冗談ではありません。私からは言えない事ですわ」

 

 

 何か大変なことにでもなっているのだろうか?

 

 

 「そうか。で、なんでお前はあの公園にいたわけ?」

 

 「それは、その……」

 

 

 ヤツの一つ変わったところ。それは、

 

 「恥ずかしくて言えませんっ!!」

 

 

 前より丸くなっているところである。

 

 

 「ふーん……よくわからんけど、まあいいや」

 

 

 とにかく、何から何まで秘密らしい。

 

 てことは、公園にいたのは何となくで、そこでたまたま俺と目が合ったというわけだ。

 

 

 「あの、ひとつだけいいですか」

 

 「あん?」

 

 「あのときから、私は貴方にお礼がしたくてしたくて……けど、貴方は突然消えてしまった」

 

 

 あー、そういやそうだったっけな。

 

 

 「総領娘様に聞いても、わからないとしか言わなくて……。だから私、あの方にお願いをしてみたんです、あの人に会わせてくださいって頭下げて」

 

 

 あの方?って誰だ?

 

 

 「でも、こうしてやっと貴方に会えたのです。お礼をきっちりとしないと私の気持ちが治まりません」

 

 「は、はあ……俺何かしたっけか?」

 

 「はい。あなたのおかげで、暴れん坊だった総領娘様がすっかり丸くなりました。おかげで私の苦労が少し減りましたよ」

 

 

 天子のヤツ、そんなにヤンキーな事してたっけ?ああ、暴れん坊なら多分マンションぶっ壊した事かな?

 

 

 「あなたの勇敢な対応に、心より感謝します。本当にありがとうございました」

 

 

 衣玖に座ったまま、腰を座椅子のように90度近く前へ曲げながらペコリと感謝された。

 

 

 これが他人なら感謝状なり金なり要求するけどね、世の中そんな事は滅多に無いわけね。

 

 

 「……と、ここで聞きたいことがあるのですが、今すぐに答えなくても構いません」

 

 「うん?うん」

 

 「あんまりはっきり言うのもあれですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度……あの方のお世話をしていただけませんか」

 

 

 「またあそこに行かないといけないのか?」

 

 「……はい」

 

 

 こりゃまた急展開だなおい。まぁ、もう答えは決まってるがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あのな、行くわけないじゃんかよ」

 

 「えっ……?それは、どうしてですか?」

 

 「だってよ、考えてみ?もしお前の知り合いが別の世界にいるとしてさ、その世界に当分行ってくれなんて誰かに頼まれたら、普通行くか?」

 

 確かに天子には会ってみたいけど、あの世界にはもうこりごりなんだ。

 

 やっぱりね、自分が長くいたこの場所が、俺は好きなんだと思う。

 

 衣玖は黙り込む。確かに……!と思っているのか、あるいは、そんなことないんじゃないか?とか思っているのか。

 

 「とりあえず、俺は行きたくないわ」

 

 

 俺は衣玖にこうはっきりと言った。

 

 

 「そう……ですか」

 

 「悪いな」

 

 「いえいえ、あの方のわがままに付き合わされるなんて、ただ迷惑なだけですよね。わかります」

 

 「うーん、そうじゃなくてさ……俺はただ、変な世界にはもう行きたくないだけだよ」

 

 

 本音を言ってしまうと、別に行きたくないわけではないが、ただ単に行くのが面倒くさいから行きたくないだけである。

 

 あいつが暇してるってんなら、そっちが来いとあいつに言ってやりたいね。

 

 

 「そうですよね。貴方はもともと、この世界の住人ですものね。もうあの貴方には会えないのですね」

 

 「え?何それ、どんな俺なの?」

 

 

 てか、衣玖の世界にも俺がいることに驚きだ。ますますその世界に行く気が失せたぜ。

 

 

 「ええと……一言で言えば、格好いいですっ」

 

 

 ははあ、イケメンなんだなあ……もうひとりの俺は。

 

 そいつがどんな俺なのか、この目でしっかり見ておきたいね。

 

 

 「ふーん……あ、そうだ。衣玖、時間は平気なのか?もうすぐ22時になるけど」

 

 「あっ、ダイジョブです。そのうちどこかに行くので」

 

 「ここって昔から結構事故とか多いから危ねんだよ。そのうちじゃお前は死ぬ」

 

 「大丈夫ですって。私をなんだと思ってるんですか」

 

 

 ……なんだっけ。人間じゃないんだっけ?

 

 俺がそんな事やら考えていると、衣玖は「はぁー」とため息をついた。

 

 

 「……あまりはっきり覚えてらっしゃらないのですね」

 

 「で、どうすんの?」

 

 「じゃあ私もうすぐ行きますね。クルマ?に轢かれるのは、なんだか痛そうなので」

 

 

 なんで衣玖がそんなこと知ってるんだ?こいつのいる世界って確か、車とかそういうのは無かった気がするんだが。

 

 

 「え?あ、ああ……そう」

 

 

 しかしなんとも急に即答してきやがったな。突然すぎてドキッとしたわ。

 

 

 「そうだ、祐介さん……いえ、祐介」

 

 「え?」

 

 

 よ、呼び捨てされたッ!?

 

 

 「その……今までありがとうね。あなたのおかげで、総領娘様の欲求が満たされたみたいなの」

 

 「それは……俺があいつの子供役をやったから?」

 

 「そうでもあるけど……あの人曰く、親の辛さというものを味わったからもういい、だそうです」

 

 

 へへっ、あいつめ。親の辛さというのはまだまだあるんだよなぁ。

 

 金とか旦那とか飯とかスケジュールとか、何やら何まで制限されるんだぜ。

 

 親権こそ持ってない俺だが、いかにも親が大変な思いをしているかが伺える。

 

 反抗期の子供の対応やら……俺が親だったら自殺していると思う。

 

 

 「飽きたんかよあいつ……。まぁ、あの建物が壊れた程度で済んでよかったな」

 

 「私も本当にそう思うわ。結局はあの方がやるものですから、何もかも失敗に終わるんですよ」

 

 

 そう言って衣玖は笑った。

 

 恐らく冗談交じりで言ってることだろうから、俺もノリで笑いながら適当に返した。

 

 

 「あはははっ!ホントそうよね!あははははっ!!同志がいて良かったよ!!」

 

 

 「お、落ち着けっ。らしくないぞ!」

 

 「えっ……?あ、あああ……はっ、す、すいませんでしたほんと」

 

 「……なんかあったのか?話しなら聞くよ」

 

 「いえ、大丈夫よ。たまにタメ口で話すと気が楽になるの」

 

 「うん、まぁ……言いたいこともはっきり言えるからね」

 

 

 先輩と長時間そばにいると、疲れしか溜まってこないんだよな。だからと言ってタメ口で話すなんてことは、先輩という立場を貶すことになるからしたくないし。

 

 結論、あまり仲良くしたくはない。

 

 衣玖がタメ口なのは、天子と長い間そばにいたから、疲れが溜まって俺にタメ口で話したんだろう。

 

 

 「そんでさ……あの後、何してたの?」

 

 衣玖と会うのは、俺と衣玖がマンションのエントランスで戦って以来だ。

 

 マンションが壊れたというのに、その時衣玖は何をしていたのか、とても気になった。

 

 

 「どうなんだろう……気がつけば、私は総領娘様の目の前にいましたわ」

 

 

 衣玖でもわからないのか?俺ですら気づけば病院にいたしな。

 

 

 「まじかよ……え、じゃあ目が覚めた時も俺の事覚えてた?」

 

 「あの方(・・・)があなたの事を教えてくれるまで、あなたの事は知りもしませんでした」

 

 

 衣玖でも同じ事が起こってたのか。俺も最初の頃は夢での出来事だと思い込んで無かったことにしてたが……。

 

 でも頭の隅に衣玖と天子の2人の姿が思い浮かんで、結局忘れることはできなかった。

 

 あと数年もすりゃ、俺は完璧に2人のことなんか忘れてただろうさ。

 

 

 「そろそろお時間がやって来ましたので、私はこれで失礼します」

 

 

 衣玖はそう言って、コートを着始め、変装する。

 

 

 「あ?ああ、久しぶりに会えてよかったよ……また会える?」

 

 

 こんな事は普段恥ずかしくて言えないセリフだが、衣玖の前だと普通に言える。

 

 別に恋心を宿らせているとかいうわけではない。ただの親戚、あるいは友達のような気分がするのだ。

 

 しかし、現実というのは容赦がない。

 

 

 「……もう、あなたと出会うことは二度と無いと思います。私は、この世界の人ではないから─────」

 

 

 悲しい。悲しすぎて涙も出ない。俺からすればたった1ヶ月ほどしか会ったことのない人物でも、こんなにも感情を持てるなんて、今まで無かった。

 

 

 「そう、だよな……。夢とかなんかで会えたら、ね?嬉しいけどさ」

 

 「ふふっ、会えたらいいですね」

 

 

 会えないのはわかってる。最後に衣玖と会ってから1年も経てばいつかは夢に出てくると信じていたが、なかなか現れないのだ。

 

 1日中思ってみてもだ。

 

 衣玖どころか、天子すら現れない。

 

 

 「では、さようなら……」

 

 

 衣玖が玄関から出て行ってしまう。

 

 ここで俺は、何故か衣玖を呼び止めてしまう。今の俺でも、何を思って呼び止めたのか理解出来ない。

 

 

 「もう……仕方ないですね」

 

 

 すると衣玖は俺の目の前に近寄り、そっと俺を抱きしめてきた。

 

 

 「ほら、行ってきますのチューは?」

 

 「!!?」

 

 

 これは一体何事か。衣玖がそんなことを言うなんて、とても考えられなかった。だが本当にあった事だ。

 

 じ、自分から……キス?衣玖に?

 

 こんな薄い本みたいな展開、人生で初めてだ。

 

 

 「え、えぇいっ」

 

 

 羞恥心を無理矢理追い出し、勢いでヤツの頬に唇をぶつけてやった。

 

 

 「……どう?落ち着いた?」

 

 「……本当に、二度と会えないんだな」

 

 「……それはあなた次第ですよ。もしかしたら、また私に出会えるかもしれませんよ?」

 

 「わかった!信じて頑張るよ」

 

 「はい♪またね、祐介くん」

 

 

 ガチャンと、ドアという名の壁が、衣玖のお辞儀姿を覗かせながらゆっくりと閉まった。

 

 ドアの前に、俺はただ一人呆然として立ち尽くしていた。

 

 またね、祐介くん────

 

 これが衣玖との最後に聞いた言葉である。これ以来、衣玖の声を聞くことは、生涯一度も無かった。

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