夢だったかもしれない幻想入り   作:歌 華

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本当に親しいやつと久しく会うときって、テンション上がるよな。でも俺は例外だがな……

なんでかって?そのうちわかる時が来るさ。




#23 さようなら

 「おーい祐介ー!お望み通り会いに来てやったわよ!」

 

 

 部屋の中で突然、こう叫ぶ女性の声が響く。 あの時から数ヶ月経った頃の夜の20時すぎの出来事であった。

 

 俺はというと、その時は寝ていたのだが、かすかに会いに来てやったという声は聞こえていた。

 

 誰が来たかはわかっていた。わかっていたが、起きることが出来なかった。この声は一年くらい前まで当たり前のように聞いていた声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────天子が、現世に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子の事を無視して眠っていると、ヤツは俺のそばに近寄り、こう言う。

 

 

 「全くだらしないわねぇ……コラ起きろー、起きなさいってば」

 

 

 やがて天子は俺の体を揺さぶり、ここで俺は睡眠を諦めて目を開けた。

 

 

 「んん~~っ、久しぶりだなあ天子」

 

 「久しぶり。やっと起きたわねこのねぼすけ」

 

 「ネボスケじゃねーよーぉ」

 

 

 両手の拳を握りながら、俺は大きく座りながら伸びをした。

 

 

 「なんでもう寝てるのよ。おじいちゃんにでもなったわけ?」

 

 「ああー、俺も、もう年じゃからな」

 

 「あっ明日寝坊するパターンねそれ」

 

 「そうかもな……。起こしてくれてありがと」

 

 「どういたしまして。で、わざわざ私がこうして来てやったというのに、なんの祝福もないわけ?」

 

 「ない」

 

 「ちぇーっ!つまんないの」

 

 

 つまんなくて結構。しかし滅多に来ないヤツがそばに居るというのに、なんでなんの感情もわかないのか。

 

 衣玖の時と全く雰囲気が違う。

 

 まぁそんな事はどうでもいいんだけどね。でも実際思っていたことが実現してくれたのは嬉しい。

 

 

 「そうだ、今日親帰ってくるの遅いし、どっか飯食いに行かねえか?」

 

 

 話すことが無いので、なんとなくご飯に誘ってみた。すると天子は額に親指を当てて、何か考え始めた。

 

 

 「せっかくだから……私が作ってあげなくもないけど?」

 

 「お、ほんとか。そうしてくれるとありがたい……んだけど、まず材料を買いに行かなきゃな」

 

 

 別に冷蔵庫が空っぽというわけではないが、問題はヤツが何を作るのかを俺は知らない。

 

 

 「それ以前に、何を作ろうか考えてなかったわ」

 

 「…………マジで?」

 

 「うん」

 

 

 よし、ならば決まりだ。

 

 俺は即座に立ち上がり、玄関に向かって歩き出した。

 

 

 「ちょっと、どこ行くの?」

 

 「お前も来い。いいから」

 

 「ああもっ、わかったわよ」

 

 

 天子も慌てて俺の後ろを追って、俺らは寒い外へ出た。

 

 何をするのかだって?

 

 ああ、誰でも作れる料理の材料集めに行くんだよ

 

 

 

 

 

 今日の晩飯はカレーに決定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでカレーごときでこんなに苦労せにゃならんかったのか。

 

 天子は指を切るわ、それを笑った俺に仕返しだと天子にふざけて熱い鍋の中に手を突っ込まれ、左手がひどく茶色く火傷した。

 

 まったく、天子はいつからそんなに暴力的になっちまったんだ。手が痛え。

 

 

 「悪かったってば!!ほら!このとーりっ!!」

 

 

 天子は土下座のつもりなのか、四つん這いになって俺に見せつける。

 

 意地でも土下座はしないらしい。

 

 

 「お願い無視しないでえ!!」

 

 「無視しまーす」

 

 「うわあああ」

 

 「いいから黙って食え。俺こんなに食えねーよ」

 

 「何よその茶色いものは……気持ち悪い!」

 

 「気持ち悪くない。いいから食べてみろ」

 

 「う、うん…………」

 

 

 天子は嫌々にカレールーをスプーンで救い、匂いを嗅ごうと鼻のそばまでスプーンを上げる。

 

 そして険しい顔つきで一口お食べになった。

 

 すると険しい顔つきが和らぎ、は?と言いそうな表情になった。さて、俺の手の成分が含まれたカレーのお味はいかがなのか。

 

 

 「おいしい…………」

 

 

 続けてもう一口。さらにもう一口。どうやらカレーがヤミつきになったらしい。

 

 

 「意外とおいしいじゃない!はいおかわり」

 

 「俺がやるのか」

 

 「当たり前よ。私は神様なのよ?」 

 

 「天人とかいう意味わからん属性だろうが」

 

 「だ、誰のことだかわかりませんなー」

 

 

 うるせえなぁ。今機嫌悪いんだから静かにしていてくれ。

 

 

 「はい大盛り。これで最後だからな」

 

 

 ご飯をてんこ(・・・)盛りにして、その上にカレールーを盛大にかける。

 

 このやり方を「俺流、食欲旺盛雪崩掛けご飯」という、わけのわからん技名を俺が子供の頃に親が名付けた、おかわり最終手段だ。

 これを全部食べきれるのは、うちの家族だけなのだという伝説が言い伝えられている。

 

 「なんでこんなに盛ってるのよ!?」

 

 

 天子ですらこの光景を見たことがないらしい。あっちの俺はこんな事しないのか?

 

 

 「だって天子(・・)だし」

 

 「は?どういうこ……あっ、わかったわ」

 

 

 天子は無い胸を張ってこう言った。

 

 

 「私の名前の字が天の子って書くからてんこ(・・・)盛りにしたってわけね!!?」

 

 「そう。大正解」

 

 「なんでみんな私のことを、てんこてんこ言うのよ……。巫山戯(ふざけ)てるの?」

 

 「ふざけてるから言うんだろ?マジだったら、『てんし』って呼んでくれるよ」

 

 「そこが気に入らないのっ!私は比那名居っていう偉大なる天人一族なのよ?『てんこ』って呼ぶやつは問答無用で叩き潰してあげるわ」

 

 

 あっ、よかった。俺まだ一度もコイツの事を『てんこ』なんて呼んでないしね。

 

 

 「何よその満悦な顔は。まだ一度もてんこって呼んでないからホッとしてるわけ?」

 

 「そ」

 

 「何とぼけてるのよ。あんたも処刑の対象よ?」

 

 「えっなんで」

 

 「『てんし』と『てんこ』って私とコレで掛け合わせたじゃない!」

 

 

 それでも呼んだことになるのかよ。

 

 

 「いいからくっちゃべってないで、はよ食え。冷めるぞ」

 

 「あっ、そーだった」

 

 

 何をどうしたら忘れるんだよ、こんなにも貴重なモノを。

 

 

 「あちちっ!はっ、はふっ、あちっ!!」

 

 

 天子って意外と抜けてる所があるんだな。早く食べろって言ったら慌てて食べ始めて、挙句の果てには熱い!と叫ぶなんて、アホらしくて面白い。

 

 

 

 「ばーか」

 

 

 俺は天子へ笑顔でそう言った。

 

 

 「馬鹿じゃないわよ!」

 

 「馬鹿じゃん」

 

 「私完全に舐められてるわね……人間ごときが生意気なぁぁぁ」

 

 「俺は食えるぞ、コレだけ」

 

 

 と言って自分の皿を指さす。これは少し冷めてるから、そろそろ食べ頃になる頃だろう。

 

 そう、今まで俺がカレーを食べる描写が無かったのは、食べていないからだ。俺はこう見えて猫舌である。

 

 だから冷めるのを待っていた。

 

 ちなみに天子のヤツはあらかじめ少し冷ましておいたものだ。

 

 

 「ずるい!それとこれ、今すぐ交換しなさい!」

 

 「やだよ、それお前一口食ったじゃん」

 

 「私がそれを食べて、あんたがこれを食べれば問題ないわよ!」

 

 「嫌です総領娘様」

 

 「ズルすぎよ!早く食べたいのよこっちは!」

 

 「なら冷めるの待てばいいじゃん」

 

 「早く食べたいの」

 

 「……どうしても?」

 

 「どうしてもよ」

 

 「じゃあふーふー」

 

 「なにそれ?」

 

 「いいからそのカレーに向かって息を思いっきり吹き込めっ」

 

 「よし、やったげるわ!ふーっ」

 

 

 コイツモノの冷まし方も忘れたのか?ひでえ、ひどすぎるぜ。

 

 

 そうこうしてる間に、20分が経過。天子はようやく食欲旺盛雪崩掛けご飯・カレーバージョンを完食した。

 

 おめでとう、これで君も俺たちの殿堂入りを果たしたね。

 

 

 「げーっ、つらい……」

 

 「お疲れさん。で、このあとどうすんの?」

 

 「このあと?ちょっと待ってて……いててて」

 

 

 どうやら腹痛に悩まされてるようだ。まぁ、俺も最初はそうだったさ。要は慣れなんだよね、これ。

 

 俺自身かなり手加減してやったのだが、これでも腹痛に悩まされるのか。

 

 日頃何も食べていないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういや天子ってなんでここに来たの?」

 

 食器の片付けがようやく終わり、のんびりと過ごせるようになったころ、俺の横で横たわっている天子に話を聞いてみた。

 

 

 「えっ?衣玖が『祐介があなたに会いたがってましたよー』とか言ってたから……」

 

 「あっ…………そ」

 

 

 あまり深追いするとめんどくさい事になるので、次の質問へ移る。

 

 

 「で、このあとどうすんの?」

 

 「あー、今は体の調子が良くなってから……帰ろうと思う」

 

 

 と天子が言うので、ヤツが帰る頃に移ろうと思う。ちなみにヤツの腹痛が治まるまでの間、俺は1人でゲームをしていた。

 

 そして、とうとうその時間はやってきた。そろそろ帰ると言うので、俺は天子を見送りに玄関に来ていた。

 

 

 「ねぇ」

 

 「なんだ?」

 

 「もし……さ、もう二度と私達と会えないってなったら、あんたならどう思う?」

 

 「うーん、もう会えないのか、とか、そんな感じかな」

 

 「意外と冷淡……えっと、その……ほんの少しの間だったけど、ありがとうね」

 

 「え?うん」

 

 

 天子も天子だよな。よくもまぁこんなブサイクの相手をしていられるものだ。むしろこっちからお礼がしたいくらいだ。

 

 

 「あんたのそばにいて、私気付いたんだ。子供を持つって、こんなにも辛いんだなって」

 

 

 俺子供扱いか。それはそれでなんか悲しい。

 

 

 「衣玖も協力していたけど、あいつもあいつで結構大変な思いをしていたわ」

 

 

 ちょっと俺もその世界に連れてけ。その俺に会わせてくれ。会ったら即ぶん殴ってやるからよ。

 

 

 「あんたもなんか記憶が違ってる時もあってか、私たちからすれば色々と違う人のように見えたけど、それはそれでいい勉強になったような気がするよ」

 

 

 いちいち聞いているの面倒臭いから手紙かなんか書いてくれないのか?

 

 

 「あっちにいるあんたと、ここにいるあんたって性格が真反対なのよ。だからちゃんとした親に育てられたら、あんたみたいになるんだなぁって思ってね」

 

 「ふーん」

 

 「うん、あんたのおかげで色々と勉強になったわ。本当にありがとう」

 

 

 それ以前になんで俺がそこにいるのか、すごく不思議に思う。

 

 

 「愛してるわ」

 

 「それは……家族だから?」

 

 「そっ♪」

 

 

 満面の笑みで天子は答える。まぁ欲を言えば異性として……なんでもない。高嶺の花すぎるぜ。家族として見てくれてるだけでもありがたいと思わないとな。

 

 でも、こんなヤツが親とか……やっぱ似合わないなぁ。

 

 

 「そっか……その言葉、そっちの俺にも言っておけよ」

 

 「わかったわ。それじゃあね」

 

 「ああ待って。それともうひとつ────」

 

 「……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近いうちに……また会いに来いよな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのときになったら……なんか用意してやるからよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は当分お別れだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教育に飽きたなんて言ってないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諦めずにそいつを強くしてやってくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺みたいになるなと叩き込んでやれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつに友達を作ってやってくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが俺からのお願いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────また、な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は楽しかったぞ───────そこの世界が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子は何も言わずに笑顔でこちらを見て頷き、手を振りながら玄関のドアノブに手をかける。

 

 薄暗い暖色に染まった廊下が、さらに赤く燃え上がっているように見えるような……または酸素が足りてるのか青色に燃え上がっているようにも見えなくない。

 

 

 「わかった、そうするわ」

 

 

 外に出た天子はこう言うと、ドアノブから手を離した。

 

 

 「ありがとうございました……お世話になりました」

 

 

 小声で、天子がそう言っているように聞こえた。実際はよく分からなかった。

 

 やがて、ドアはガチャンと丁寧に閉まりきった。その奥から、天子らしき足音が遠ざかっていくのが聞こえる。

 

 そして俺は後ろを振り向き、誰もいなくなったはずの廊下を見回した。

 

 すると誰か2人、廊下の奥に立っていた。

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