「うべっ!」
長い眠りから無理矢理起こされたような気分……いや、本当に無理矢理起こされた。
どう目覚めたのかというと、急に背中の方からドカッと衝撃が来たのだ。それはそれは、背骨を折ってしまったのではないかとさえ思うほどで。
一体何が起きたんだと思って目を開けると、足が屋根に突き刺さっており、空が下の方にあって、地面が上にあるという、上体起こしに近い感覚に落ちる。
「あらあら、いつから幻想郷は人が降ってくる時代になったんでしょ。雨でもないのに不思議不思議」
目の前で洗濯物を干す作業をしている、銀がかった髪の毛をした、青白のメイド服っぽい女性と目が合ってしまった。
俺からすれば、ただ重力に逆らって立っている人のようにしか見えないのだが、相手から見れば、俺が地面に向かって体を反っているようにしか見えないだろう。なんせ今、俺の足が穴にハマって動かせないので、当然移動はおろか、起き上がることもできない。
「すいません助けてください……お願いです。僕をこの状態から解放させるの手伝ってくれませんか。足が穴にはまって、うまく動かせないんです……」
俺はヤツにこう声をかけてみるも、無視された。改めてもう一度言うと、聞こえてるからいいわよ、と返ってきた。
その答えに対し、俺はだったら返事くらいしてくれ、と思う。
「助けてほしいんでしょ?」
「はい……」
「じゃあ、ちょっとそこで待っててちょうだい」
彼女の言うとおりに、俺は動かずにこのまま待つことにした。つか、こうするしか無かった。
待つこと数十分、いつまで待たせるんだよ、とか思いながら待ってると、ようやくさっきの人が来た。
「まったく……よくもうちの屋根を壊してくれたわね……はぁ」
これは彼女が俺の救出作業中に呟いた言葉だ。確かに……屋根に穴を開けてしまったのは申し訳ないけど、なんでこうなったのか、俺にはわからなかった。気がつけばこうなっていたのだから。
「すいません……」
その日の夜であった。これまでにわかった事は、ここは館であることと、メイド服を着た人の名前が十六夜咲夜ということ。それと、ここの主は夜行性らしく、十六夜咲夜はその主の従者なんだそう。
「さ、この先にお嬢様がいらしてますわ。くれぐれも、失礼のないようにね」
因みに、自分が屋根に刺さっていることに気がついたのは昼過ぎのこと。じゃあ今まで何をしていたのかというと、メイドに案内された部屋で待機していた。
よくわからないが、主が俺に用があるとのこと。見知らぬ相手からそんなことを言われるのは初めてだ。そんなに有名になってしまったのか、俺は。
まあ、あんなのに乗っていれば誰もが注目の的だわな。車が一台もないような、こんなとこじゃあな……。
話を今に戻すが、俺は今からこの館の主に会う。会社でいう社長、学校なら、校長から校長室に呼ばれるのと同じだ。
まず扉の前に立ち、ノック。どうぞ、という声があったので、ゆっくりとドアを開けた。
主だから、きっと男の人で威厳のある人なんだろうなあ。そんで顔がニキビだらけで、1日中ゲームに溶け込んでそうなメガネオタクだろう。
それともなんだろう、真面目系のイケメンかな!?
そんな事を胸に思いつつ奥へと進むと、そこには羽根の生えた女児がこっちを鋭い眼差しで見ており、1人椅子に座っていた。
……まさか、主は逃げたのか?それとも……このチビが主……??
ありえなくもないが、コイツが主だとは思いたくない。
「Welcome to Red mansion!!」
え、英語!?待って、俺英語とかよくわからんのだけど!?外国人っぽい顔してるからって、まさか本当に英語で話してくるなんて……!
わけがわからずにその人をじっと見つめていると、どうやら俺が他国語を話せないことに気づいてくれたのか、自ら自己紹介をしてくれることになった。
「Me? My name is Remilia Scarlet. Are you?……はいはいわかったわよ、もう」
しっかしなんだ、コイツちゃんと日本語話せてるじゃないか。よかった……
「……で、あなたのお名前は?」
「ゆ、祐介、です……」
「えっ!?聞こえない!もう1回サンハイッ!!」
「ゆーすけ!!」
日本語が話せるけど、その代わり難聴なのかな?なんともお豆腐メンタルな俺にとっては泣きそうになる。
「イェ~ス!因みにさっきも言ったけど、私はレミリア。ここの主よ」
あ、はい。なんとなく予想がついてたけど……本当にコイツだったのか……。
「私が子供に見えるからって、あまり私を甘く見ないことね」
どこかで聞いたセリフを並べたような事を言うレミリア。お前は厨二病か。
「それで、用ってなんなの」
俺がそう聞くと、レミリアはハッとして目を閉じた。
「私には敬語を使いなさい……。それで用ってのは────」
レミリアの言ってたことが長いので省略するが、まとめるとこうなる。
・自分が運命を操れる吸血鬼であること。
・そんな中、突然俺の姿が見えたらしく、その俺はとても何かに目覚めるそう。
・昼過ぎに俺がこの館の屋根に突き刺さって不時着するものの、死にはしなかった。因みにその時、自分は寝てた。
用でもなんでもねえじゃねえか。
なんとも厨二くさく、とても信じられない。
俺がそう言ってやると、レミリアに突然「手を貸しなさい」と言われたので大人しく右手を出すと、レミリアは俺の手をめがけて強烈な右ストレートをぶっかました!
おれ に 99.7 のダメージ!▼
こうかはばつぐんだ!▼
「イッテエエエエエエエエエエエエエエエぇぇぇぇッッッ!!!!!?」
こんな痛み、今まで感じたことなかった。右手全体の血管が切れたんじゃないかって思うほどの痛みだ。だが右手に赤いのが広がっていったので、血管は切れていない模様。
しかしレミリアは言う。
「雑ッ魚。まだ3割も力出してないのに」
唖然。言葉も出なかった。
天子も実はこれぐらいの腕力があるのではないか?と思うと……とても敵わないだろう。
「アンタ、そんなんであの天人と戦ってきたの?弱い、弱すぎるわ」
「な、何でそのことを……?」
「だから言ったじゃない。私は運命を操れるのだと。正確には、見える、が正しいわね」
「っ…………」
失望、何もかも見られていた。もう元の世界には帰れないに違いないと俺は思った。だからといって、この幻想郷にいたいとは思わない。なんとしてでも現実に戻りたい。
「で、どう?ちょっとの間、私達の元で少し力をつけてみない?」
へ……?
「もしかして、俺もそのくらいの力を出せるようになるのか……?」
「それは努力次第だけど……負けられない相手がいるんだろう?」
「そ、そうだけど…………」
「なら決定ね。あなたを数日の間、紅魔館の住人として認めるわ」
「わ……」
知らないうちにここに住むことになっちゃったよ!?え、こんな薄暗い所に住むの?俺が?冗談よしてくれないか。
「何ボケっとしてんのよ!行くわよ、咲夜の作ったディナーに!!」
こうして俺は、何故だか鍛えるために、また変なところに突然住み始めた。この前と同じパターンである。
確かに天子はものすごい怪力の持ち主だ。レミリアも同様、怪力である。
妖夢は、腕がオリンピックの競技に出てもなんも違和感のないレベル。あんな大石を軽々と持ち上げたことから、やはり怪力と見える。
怪力な女子から教わったもの、それをどう生かしていくか─────それが当時の俺の課題である。