IS ~インフィニタス・ストーム~   作:影のビツケンヌ

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長らくお待たせしました。


覚醒

 俺は明らかに劣勢に立たされていた。

 

「そらそらどうした『伝説の傭兵』、()()()で得た‘人類最強’の名が泣くぞォ?」

「くっ……!」

 

 バイオニックソルジャーの機体コンセプトの唯一にして最大の弱点が、アーノルドの駆る改良型ラファールの持つ二枚の盾――多目的電磁ユニット『ジェノサイドケージ(虐殺の檻)』によって露呈していた。

 通常バイオエナジーは、どんな強力な磁場で以っても引き付けられないが、生まれ故郷の世界でのアームキャノンの開発元である巨大軍事企業『Gアームズ』、そしてVRANEだけは、アプローチは異なれど、バイオエナジーを電磁的に操る技術を持っていた。堅牢な複合装甲で実体弾を防ぐのみならず、盾全体から発せられる電磁場を利用し、エネルギー系の攻撃を‘遮る’のではなく‘逸らす’武装であるジェノサイドケージにはその技術が流用され、エンタングラーのレーザーガトリングは勿論、アームキャノンによる攻撃も通らない。

 構造上盾で守ることのできない後背部を狙うことはすぐに思い付いたが、全身の各所に配置されたターンブースターで素早く方向転換され、背後を取ることができない。ジーニアスフォートがない今、俺はアーノルドに対し全くの無力であった。

 

「仕掛けも全て済んで、目的自体は既に達せられちゃいるが、個人的にはあんたをボコボコにしてやりたくてな! 俺はこの時を待ってた! 待ち侘びていたともさ!」

「よく言う。悪意で以って命を産み出すに飽き足らず、その命を蔑ろにするような輩がっ!! 全ては貴様の身から出た錆だ!」

「命? 俺達は使えるものは何だって使い棄ててやる。俺はあんたと同じく無神論者だが、頼まずに済もうが済むまいが神まで騙して利用してやるよッ!!」

 

 盾による打撃を脚でいなしてはいるものの、ダメージは蓄積する一方だ。そのうちに、

 

「オラアっ!!」

「がっ……?!」

 

 疲労故に捌ききれなくなった一撃が胸に入る。己の持久力の不足を悔いる間もなく、盾を持っていた腕が俺の胴に伸び、むんずと掴んだ。アーノルドはそのまま下向きに急加速、十秒と経たぬ間に俺を地面へと叩き付けていた。

 

「がふっ……」

「さあて、ここからどう料理してやろうか」

 

 スラスター、脚部アクチュエーター、共に悲鳴を上げている。百メートル左手の地面に折り取られたジーニアスフォートが突き刺さっているようだが、踏みつけられ、ジェノサイドケージでアームキャノンを押さえ付けられている今の状態では取りに行くのは簡単ではないし、そもそも拾ったとして、接合部が破損したそれは使い物にならないだろう。

 

「四島小櫃。あんたの‘正義’とやらもここまでだ」

「……俺は諦めん」

「無駄なんだよ。あんた一人の力で俺達を倒すこと――いや、()()()()()()()()ことなんぞできはせん。あの世界で人類全てが団結した時は、宣戦布告した俺達を倒そうとしたあの一回こっきりだ。ましてや()()は、ISって代物のせいで各国がそれ以上にバラバラ……どう足掻いても、あんたは無力でしかない」

「……」

 

 アーノルドの言葉を、俺は否定できなかった。

 一人の努力で、全ての悪を根絶することはできない。たとえその一人の尽力で一度悪が滅びようと、すぐに第二、第三の悪が現れて平和が乱される。全ての人類が真に正義の道を歩む努力をしなければ、この世に悪は絶えず、恒久的平和は訪れない。

 過去に海生にも同じことを言われていて、それは始めから理解していた。だが、納得はできていないのだ。

 結局俺は独りで戦い続けるワンマンアーミー。負けを認めたくないが故に、先の見えない闘争を繰り広げる、子供のような精神性。

 そして、そんな自分の専用機が、こうしてボロボロになっているバイオニックソルジャーで、そのコンセプトが単独作戦行動(ワンマンアーミー)であることなど、一体何の皮肉だろうか。

 

「さらばだ、英雄もどき」

 

 振り上げられた盾が、顔面へと振り下ろされるのが、恐ろしくゆっくりとして見えた。

 走馬灯――

 

「……む?」

 

 しかしそれは、錯覚――神経系の活発化――などではなかった。盾はみるみるうちに減速し、やがて、

 

「止まった……?」

 

 否、盾だけではない。アーノルドも、巻き上げられた土も、草木に囲まれた景色も、皆完全に止まっている。それこそまるで、時間が停止したかのように。

 海生が回収に来たのか。一度はそう考えたが、世界線への長期の滞在の際は俺が‘死を経験する’まで介入を中断しないことになっているし、それ以外の方法で中断する方法は存在しない。つまり、これは俺が何らかの要因で生存しており、且つその要因が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを意味する。

 視界の隅に、新しいウィンドウが開いていた。

 

『One-off ability is activated: ‘Light of Rights’』

『エディット中のプログラムを自動作成、緊急時につき自動展開。以後このシステムは連結され、単一仕様能力として使用されます。エミュレーターの容量確保の為、拡張領域内の全弾薬を破棄しました。専有率六十五パーセント』

 

 思い出した。

 俺は訓練の合間に、VRANEとの戦いに役立つのではないかと、生まれ故郷の世界に存在した特殊能力の一つをアームキャノンで再現しようと試みていた。が、出力の調整が難しい上に周囲への余波がどう及ぶか予測がつかず、それを開発半ばで放置していた。“エディット中のプログラム”とは、恐らくそれのことだ。

 この文面が正しければ、‘周りが止まっている’というのは正確な表現ではない。

 ‘(バイオニックソルジャー)が速くなっている’のだ。

 

「……何にせよこの勝機、逃す訳にはいかんな」

 

 土壇場での単一仕様能力の覚醒。セシリアと決闘した時の一夏は、こんな状況を味わっていたのだろうか(尤もこちらは勝敗に命が懸かっているが)。

 止まったままのアーノルドを押し退け、俺は難なく自由の身になる。何もない場所を睨む男の姿は、俺の目には酷く滑稽に映った。そのまま歩いて背後に回ると、俺は弓を引くように右腕を引き絞った。

 このプログラムを起動している間は、飛び道具の一切が使えなくなる。そしてたった今わかったことだが、周囲に意図せぬ悪影響を与えぬよう、直接的な攻撃をする際でも一度プログラムを解除する必要がある。正拳突きの要領で、限界まで引きに引き、そして――

 

「ぬうんッ!!」

 

 能力を解除、同時にコークスクリュー。後頚部への攻撃のインパクトまでの僅かな時間だけバイオバレットをチャージ、発砲する。

 

「どわあっぁ?!」

 

 ターンブースターを噴かすこともできずに、アーノルドは地面と固く抱擁した。動き出す前に足蹴にし、バイオブレードを展開、盾を持つ腕二本を両断。根元の非固定浮遊部位もズタズタに切り裂く。

 

「これで形勢逆転だな」

「こなくそっ!!」

 

 俺の足を振り払い――というより、()()()()()()()()()()()()()()――空中へ逃れるアーノルド。俺はそこから動かなかった。ジェノサイドケージのなくなったアーノルドの改良型ラファールなど、アームキャノンの使えないバイオニックソルジャーにも劣る。今や恐れるに値しない。

 ダイヤルを回し、兵装を変更。中指のトリガーを引くと、自動的にディスプレイが開き、画面は直角に回転して自分の方へ、デュアルカメラも直角に回転して前方を向いた。更に銃口が変形して大口径化、実弾が装填される無機質な音が響く。

 ディスプレイには、カメラで撮影されたアーノルドの立体映像が映し出されている。画面上に表示された五つの円形のカーソルが全てアーノルドに重なった時、

 

「逃がさんぞ」

 

 人差し指のトリガーを引き、マルチロックオンマイクロミサイルシステムを発動。事前にロックオンした標的の必死な逃走を嘲笑うかのように、ミサイル群は容易に追い縋り、瞬時加速で俺もそれに続く。追いついた時には、既にミサイル四発による正四面体の包囲網が形成されつつあった。

 ミサイル側面に等間隔で並んだ極小の砲塔が動き、それぞれのミサイルが互いをロックオン。一つの砲塔が一つのミサイルを狙う為、各々三つの砲塔が必然的に余った。それらは全て明後日の方向に向き、バシュバシュと青白いバイオエナジーを噴き出してミサイルを宙に静止させている。

 そして砲塔から放たれたバイオレーザーがぶつかり合い、拡散したバイオエナジーは、レーザーで構成された正四面体の『面』――モノフェイズバイオシールド(単位相生体防壁)へと姿を変え、アーノルドをその内部に封じ込めた。

 

「なあっ?!」

「終わりだ、今度こそ」

 

 学園での試合では殆ど使わないであろう禁じ手に、俺はアレンジを加えることにした。能力を発動し、振り返ったアーノルドの右手に回り込んでから能力を解除、バイオバレットを発砲。すかさず能力を発動、今度は真下に潜り込んで能力を解除、発砲。発動、上方へ移動、解除、発砲。発動、後方へ移動、解除、発砲。発動、移動、解除、発砲。発動、移動、解除、発砲。発動、移動、解除、発砲、発動、移動、解除、発砲、発動移動解除発砲発動移動解除発砲発動移動解除発砲発動移動解除発砲発動移動解除発砲発動移動解除発砲…

 

「ギャアァアアアアァアアアアアアアアアアアアアアァアアァアアアアアアアアアアアァア!?」

 

 残ったミサイル一発が一辺四メートル足らずの正四面体の空間の中で暴れ回るだけも一杯一杯のアーノルドに向けて、あらゆる方向からほぼ同時にバイオバレットを撃ち込めばどうなるか。外側からの攻撃を通し内側からの攻撃は通さないという特性、それは即ち「外から入ってきたバイオバレットがその内側で跳弾し続ける」ということ。最早蜂の巣などという生易しい言葉では形容できない。

 能力の発動と解除を繰り返していることで、アーノルドの耳障りな叫びが断続的に聞こえる中、俺はひたすらバイオバレットを撃った。

 この世界に現れたVRANEに踏み躙られ弄ばれてきた者達。

 関わらずにいられた筈の世界に踏み込むことを余儀なくされたアザード。

 家族と会社を盾に人生を破滅させられかけたシャルロット。

 彼らの痛みと怒りの全てを代弁すると同時に。

 

「うおおおおぉおオオオアアァァアアアアアァアアアアアアアアアアアアァアアアアアッ!!」

 

 VRANEという組織が迷い込んでくる可能性を考慮していなかった失念。

 VRANEの存在に五年近くも気付かずにいた不覚。

 VRANEという存在を呼び寄せてしまった自分自身。

 それらへの後悔と猛省、そして必ずやその全てを灰燼に帰してくれるという決意を乗せて。

 

「ごほっ…」

 

 そして、これでとどめだ。

 ダメージを受け続け、ISの展開状態を維持できなくなったアーノルドが重力に屈した、その瞬間。

 アームキャノンのインターフェイスを操作し、モノフェイズバイオシールドの発生領域を縮小――正四面体でアーノルドを‘包み込み’、捕縛。インターフェイスを閉じ、兵装を変更。

 

「死に晒せ」

 

 バイオロジカルボアを、横殴りに叩き付けた。

 

「のがるぉご」

 

 皮膚を貫き、筋肉を引き裂き、内臓をグチャグチャに叩き潰す。意味も為さない声を短く上げたきり、アーノルドは肉塊から肉片へと変わった。

 

「……」

 

 現在時刻、四時十一分。人質はもう解放されている頃だ。

 

「エドウィン。任務完了だ。人質の無事を確認次第、学園に帰投する」

 

 離れた位置で起爆したミサイルを尻目に、トルコに連絡を入れた。




バイオニックソルジャー、遂に単一仕様能力覚醒です。
どんなものかについての詳しい説明は次のお話で。
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